狂歌百物語（蜃気楼）

蜃気楼

001．蒙求もうぎうを 囀る雀 化しにけん 翰学院を 吹けるはまぐり（桃本）
002．はまぐりの 吹く絵と澪に 棚引きし 霞の網を こす蜃気楼（語吉窓喜樽）
003．蛤も こゝに群れつゝ 蜃気楼 建つる支度や 柱並べて（駿府 望月楼）
004．うち渡す 龍たつの都も うらゝかな 春日は海の 市や立つらん（梅屋）
005．春霞 龍の都を 蛤の 汐干しほひの潟に 吹く朧かげ（宝遊子升友）
006．月の貝 有磯ありその海の 蛤は 吹く高楼たかどのも 不老門めく（綾のや）
007．蛤の 貝からくりの 蜃気楼 けしき色どる ところてん草（陽月舎網成）
008．高楼たかどのを 吹いてぞ見する 蛤は 太しき柱 持てばなるべし（草加 四角園）
009．日の本の 造りと見えぬ 蜃気楼 から蛤の 柱建てかも（甘艸庵甘記）
010．蛤が 息を吹きしか 床の海 心づくしを 見る蜃気楼（団子）
011．五百重浪いほへなみ 龍たつの宮姫 おはすらん 海中わだなか遠く 見る蜃気楼（南向堂）
012．蛤が 吹きぬる蜃気 楼閣の 鯱しやちほこのみぞ 生のものなる（槙住）
013．末終つひに 時雨にや似る 蛤の 雲めくる如ごと 吹く蜃気楼（駿府 東遊亭芝人）
014．拾ひなば 雛にさゝげん 蛤の 内裏の御所を 吹く汐干潟（秋田舎稲守）
015．汐干潟 霞の棚の はまぐりも 雛の内裏を 吹く蜃気楼（弥彦庵冨幹）
016．開あいた口 塞ふさがぬまでに 蛤は たのしき夢や 見る蜃気楼（朝霞亭）
017．気を吹いて 高楼たかどのつくる 蛤は 貝の柱や 多さはに持ちけん（京 獅々丸）
018．蛤の 口あく時や 蜃気楼 世に知られけん 龍の宮姫（槙の屋）
019．沖の石 土産になしつ 蛤の 柱組して 立つ蜃気楼（弓の屋）
020．ほのぼのと 霞む朝日に 蛤の 龍の都を 浜上の浜（駒綱）
021．人の目に 佃つくだの沖の 狼烟のろしほど 五色の旗も 見る蜃気楼（浜松）
022．蜃気楼 なつの都の 雛形を 汐干の沖に 見する蛤（湯嶋山人）
023．蜃気楼 吹きたる貝の 柱立て □□と見ゆる 海の中道（冨幹）
024．粘のりなめし 雀をしのぶ 蛤も 舌を出だして 吹く蜃気楼（山住）
025．海神の 内はかくぞと 蛤は 龍の都を 吹きて見すらん（長年）
026．蛤の 吹く楼たかどのの 家根にまで 瓦の浪を 見る越の海（菱持）
027．蛤も 柱をよせて 蜃気楼 青海原に 立てはじめけむ（慈照有）

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