狂歌百物語（縁切榎）

縁切榎

001．縁切りに 削り呑ません 古榎 我が身の皮も 剝ぎし男を（語吉窓喜樽）
002．結納の 鰹節かつぶしも仇あだ 背合せの 額をさゝぐる 縁切り榎（豊の屋）
003．縁切りの 榎を削り 給はれと 三くだり半に 書く頼み状（松梅亭槙住）
004．縁を切る 為に煎じた 榎の葉 濃き茶に水を 差すたぐひなり（蟻賀亭皺汗）
005．板橋の くゞつに秋の 風立ちて 縁きりぎりす 榎にぞ鳴く（秋田舎稲丸）
006．琴を断つ 斧の刃さへも 当てぬ木に 縁の糸筋 切る榎かも（注連しめのや春門）
007．秋風の 立ちて夜寒の 絵馬さへも 背中合せの 縁切り榎（江戸崎 広丸）
008．悪縁の 縁切り榎 生木なまきをも 裂くは御神の 刀なりけり（和風亭国吉）
009．出雲へと 立ちぬる神は 板橋の 縁切榎 わき目してゆく（織人）
010．削られて さぞ板橋に 幾世経る 縁切榎 名を嘆くらん（有恒）
011．別れより 惜しむ別れも 立ち枯れて 縁切榎 しげる夜ぞなき（艶芳）
012．いたはしや 連理の中の 片枝を もがんと祈る 縁切り榎（江戸崎 有文）
013．中のよき 夫婦めをとは忌みて 縁切りの 夏の木偏は 通らざりけり（甘喜）
014．縁切りて 背兄せなを遣りつる 別れかな 榎の額に 影は見えねど（信濃飯田 尚友子清因）
015．縁切りと 聞けば榎の 文字は夏 木偏を去りて 廻る聟嫁（芝口や）
016．池の名は よしや負ふとも 妹いもと背せの 縁切榎 掘り捨てよかし（槙のや）
017．夫婦めをとなか 桜の後の 若葉なる 夏木榎に 願ふ縁切り（桃江園）
018．離れにて 深き仲をも 洞うろにせん 縁切榎 削り飲ませて（駿府 望月楼）
019．天狗住む 樹より梢は 低けれど 女夫めをと引き裂く 縁切り榎（星のや）
020．縁切りの 榎にかゝる 切凧きれだこは 中にしやくりし 人もあるらん（曲尺亭直成）
021．八雲たつ 出雲に結ぶ 縁えにしにも 八重垣をする 榎ありけり（草加 稲丸）
022．飯盛めしもりと 結びし縁も 切れ兼ねて 榎に願を かくる板橋（大内亭参台）
023．縁を断つ 榎と婆々が 隠し持つ 中に切れたる 女夫巾着めをときんちやく（足兼）
024．僧正が 門の榎と 裏表うらうへに 立ちし浮名の 縁は切れけり（幸亭）
025．身を売りて 夫の縁を 切る榎 そのほとりなる 板橋の駅（菱持）
026．縁切りの 榎祈れと 中々に 梢は枝の いや交はすらん（駿府 東遊亭芝人）
027．悪縁の 切れて心の 涼しさよ 未練は夏の 木の利益りやくにて（仝 小柏園）
028．雲の縁 切れて嬉しと 旅人の 榎のもとに 休む夕だち（羽衣）
029．女夫仲めをとなか 縁切るために 削らるゝ 榎も皮の 膚はだに別れつ（日年庵）
030．寐返りて 縁切榎 祈る身を 結ぶの神は さぞや憎まん（装師坐浜松）
031．指を切り 髪を切りたる 飯盛に 縁切榎 飲ます板橋（春門）
032．小指にも 誓ひを立てし 縁も今 切るを榎に 願ふはかなさ（楳星）

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