さらなる暗雲
ヒエン :
……ふむ、内部に帝国兵が潜んでいる様子はなし。
飛空戦艦が、いかなる理由でドマへやって来たにせよ、単艦行動であることは間違いなさそうだな。
忍の里からの報告によれば、飛空戦艦は、まもなく目視できる距離まで接近してくるはずだ。
わしらも、基地の中で連中の到着を待ち構えるとしよう……!
ヒエン :
あの煙…… どう見る、ユウギリ。
ユウギリ :
ドマ古式の狼煙信号と見て、間違いないかと……。
自らを「停戦の使者」と示すものです。 ですが、本気でしょうか?
ヒエン :
さて……わからんなぁ。
ヒエン :
ともあれ、こちらの流儀で話そうという相手を、問答無用で叩き落とすわけにもいくまい。
ドマは礼節を知らん国ではないからな。
ユウギリ :
ならば、私が応じて様子を覗いましょう。
ヒエン :
それには及ばん。あちらの望みどおり、正々堂々、相対すとしよう。
ヒエン :
それに、わしは興味がある……わざわざ古風にも、狼煙を上げてみせた相手にな。
ユウギリ :
ハッ……出過ぎたことを申しました……。
では、受け入れる旨の狼煙を上げましょう。
東方風の帝国人 :
これはこれは、ドマの若君御自らお出迎えいただけるとは!
ヒエン :
停戦の使者となれば、相応の礼節を以て応じるのが筋というもの。
そうだろう? 帝国の…………
アサヒ :
失礼いたしました。私の名は、アサヒ・サス・ブルトゥス。
帝都より大使として派遣されてまいりました。
ユウギリ :
アサヒ……ナエウリ家の嫡男、ヨツユの義弟です。
アサヒ :
おや、私のことをご存知とは!
さすがは音に聞こえし、霧隠の忍びさん、諜報員としても一流でいらっしゃる!
確かに前代理総督のヨツユは、私の義姉です。
ですが、私は苛烈な圧政を敷いてきた彼女とは違う! 戦うためではなく、戦いを止めるために来たのです!
私は、帝国の属州政策を内側から変えるため、ここにいるマキシマら民衆派の同志たちと活動を続けてきました。
そして、その活動を認めてくださったヴァリス帝により、全権大使の任を与えられ、派遣されてきたのです!
ドマと和平交渉をするためにッ!
ヒエン :
……あいわかった。これ以上は、立ち話でする内容でもあるまい。
貴殿らを客人として、我が館に招こう。ドマ町人地まで、ご同行願いたい。
アサヒ :
もちろん、喜んで!
ヒエン :
さて、それでは彼らを町人地へ案内するとしよう。
そなたも、町人地まで来てくれんか?ユヅカ代官屋敷のそばにある「城下船場」から船が出ているのでな。
ヒエン :
「ユウギリ」、城下船場にて渡し船の準備を……くれぐれも粗相のないようにな。
ユウギリ :
船の準備は、万事すませておいた。ヒエン様と大使殿らは、私がお連れするゆえ、そなたも、次の船で町人地まで来てくれ。
知ってのことと思うが、町人地へ渡りたいときは、そこの「城下船場の船頭」に声をかければ良い。それでは向かうとしよう……。
城下船場の船頭 : ここからドマ町人地へと船を渡しているんだ。あんたも乗っていくかい?
ヒエン :
おお、待っておったぞ!改めて、よくぞ町人地へ来てくれた。
ここの町並みも、ずいぶんと復興しただろう。
復興の手始めに、ひんがしの国の「鬼師衆」に依頼し、転魂塔……そなたらの言うエーテライトも建設したのだ。
会談の前に、そなたも交感しておくといい。
大使殿らにはすでに、わしの館に入ってもらっておる。
思いがけぬことになったが、これより館にて会談を行う……。そなたにも、同席を頼めるか?
「暁」に属するそなたの列席は、我らドマとエオルゼアとの連帯を示すものとなろう。
帝国相手の交渉ごととなれば、その程度の演出はしたいのだ。
アリゼーとアルフィノも、同席を引き受けてくれておる。そなたらを利用するようですまんが、どうか頼む。
ありがたい……。そなたが同席してくれれば、頼もしいかぎりだ。
わしの館は、ここより西側にある。「帰燕館の門兵」に声をかけてくれれば入れるのでな。先に行って待っておるぞ。
帰燕館の門兵 :
会談の件、ヒエン様より伺っております……。ヒエン様の館「帰燕館」へ入られますか?
アサヒ :
此度は、お招きに預かり、恐悦至極!ドマの若君、ヒエン様におかれましては…………
ヒエン :
よい、堅苦しい挨拶は抜きとしよう。貴殿は、全権大使として和平交渉に来たそうだな。
わしの思い違いでなければ、和平交渉とは、戦をしておる国同士が、平和を取り戻すために行うもの。
貴国の皇帝は、ドマを独立国と認めておらぬと理解していたが?
アサヒ :
仰せのとおりです。ですが、ヴァリス帝にはドマの独立を認め、友邦として扱う用意があります。
ガレマール帝国は、これまで国父たるソル帝の意志のもと、領土を拡大し続けてきました。
が、その是非をここで論じても仕方がないでしょう。
ただし、ソル帝が掲げた、蛮神討滅という国是については、いかがでしょうか?
星の命を蝕む蛮神は、決して許容できない……。
その共通項を以て、手を取り合うことはできないか、現在、帝位にあるヴァリス帝は、そうお考えなのです。
蛮神召喚には決して手を染めず、またコウジン族が降ろした蛮神を押さえ込むと確約いただければ、
ドマを友邦として遇するというのが、こちらの提案です。
ヒエン :
ドマの民に、神降ろしの意志はない。コウジン族が召喚したという蛮神スサノオに関しても、
民の脅威とあらば、言われずとも対処はしてみせよう。
が、コウジン族とて、己が領域を侵される心配がなければ、蛮神を呼びはせなんだろう。
現に紅玉海が荒れるまで、彼らは神降ろしを行ってこなかった。
今なお、紅玉海に兵を送り込み騒乱を引き起こすどこかの国が、考えを改めぬかぎり、完全な封じ込めなどできようはずもない。
アサヒ :
痛いところを突かれますね……。
蛮神を否定する帝国の行いが、蛮神召喚を引き起こしている。
この皮肉な矛盾については、そちらにおられる、エオルゼアの方々も、よくご存知のはず……。
アルフィノ :
確かに……蛮神召喚とは多くの場合、外圧を受けた弱小勢力が、神に救いを求めることに起因します。
アラミゴにおける蛮神召喚も、帝国軍の行動の結果でありました。
アサヒ :
悲しいことです……。蛮神召喚を止めたいのであれば、武力と差別ではなく、融和と平等をもたらすべきなのに……。
私たち民衆派は、こうした理念に基づき、ヴァリス帝に属州政策の転換を進言し続けてきました。
そして、この言葉を皇帝陛下が聞き入れてくださったのです!
……しかし、生粋のガレアン族を主体とする選民主義者たち、閥族派が力を持っていることもまた事実です。
今回、ドマ代理総督の捜索を名目に、紅玉海に部隊を派遣したのも、彼ら閥族派でして……。
二度とこのようなことがないよう、私も尽力するつもりです。
ヒエン :
是非とも、そうしてもらいたいものだな。
だが、帝国内が対立する二派で分裂しているのであれば、和平交渉とやらの効力も疑わざるを得ん。
アサヒ :
こちらとしても、簡単には信じていただけないと理解しています。
そこで信頼関係の構築のためにも提案したいのが、捕虜交換です。
ヒエン :
ほぅ……。
アサヒ :
こちら側からは、帝国統治下で徴兵したドマ出身の徴用兵を、ドマ側からは、
先の戦いで捕らえた帝国軍将兵を、それぞれ引き渡して、交換するのです。
アサヒ :
もちろん、この捕虜交換については、代理総督であった姉も対象に含まれることになりますが……。
ヒエン :
ヨツユか……。なぜ、わしらが彼女の身柄を確保していると?
アサヒ :
この件で、化かし合いをするつもりはありませんよ。交渉はすばやく進めましょう。
武力に頼ろうとする閥族派を黙らせるためにも、対話による姉の返還を実現したいというのが、私の本音です。
もちろん、弟として姉を想う気持ちもありますが……。
ヒエン :
率直に物を言う男だ。ならばこちらも本音を言うが、一考に値する提案だとわしも思う。が、考える時間はもらいたいものだな……。
アサヒ :
もちろんです。お答えが出るまで、ドマに留まっても?
ヒエン :
認めよう。交渉の期間中、貴殿らはドマの客人だ。
ユウギリ、案内役として同行せよ。何人たりとも大使殿らに害を為さぬようにな。
アサヒ :
お心遣い感謝いたします、ヒエン様。では、よき答えがいただけるのをお待ちしていますよ。
ヒエン :
ふむ……なんとも、想定外の提案をされたものだ。
アリゼー :
捕虜交換自体は良いことだと思うけど……
ヒエンは、彼らの言葉を信じるの?
ヒエン :
帝国内部が二派に分裂していることなど、わざわざ、わしらに話す利点は何もないからな。
今のところ、特に疑うべき理由はない。
が、かといって、何から何まで信じられるわけでもない。
特に交渉の場で、ヨツユの名を出してきたことには、どうにも違和感を感じるのだ。
アルフィノ :
彼らがヨツユを取り戻そうとする理由に、何か隠された目的があると……?
ヒエン :
ああ、ヨツユは元代理総督とはいえ、ドマ出身者だ。
皇族でもなければ、ましてやガレアン族ですらない身……硬軟あれこれと策を弄してまで、取り戻そうとする理由が見えん。
こうなると、あやつの記憶喪失もますます悩みの種よ。
本人が童のような状態とあっては、尋問しても意味はなく、交渉材料としての価値も、どうなることやら……。
アルフィノ、すまんが知恵を貸してくれ。
帝国のやり口などは、そなたのほうが詳しいだろう。意見を聞きたい。
アルフィノ :
ええ、もちろんです。アサヒ大使からの提案は、帝国との関係を好転させる、契機となるかもしれませんからね。
ヒエン :
そのとおりなのだが、さりとて熟考する余裕もない。連れ去られたままの徴用兵らのことを思えば、答えを先送りにもできんからな……。
……さて、これ以上の細かな政治など、そちらのふたりには、退屈なだけであろう。外の空気でも吸ってきたらどうだ?
アリゼー :
そうね……。Hoge、お言葉に甘えましょう?この手の相談役は、アルフィノに任せておけばいいのよ。
アルフィノ :
やれやれ、サカズキ島での戦いに、参加させなかったことを、まだ根に持っているようだね。わかった、こちらは任せてくれていい。
Hoge、すまないが、アリゼーの相手をしてやってくれないかい?しばらくは危険もないだろうしね。
アリゼー :
ふぅ、ようやく人心地つけたわね……。
今回の交渉が、ドマの未来と徴用兵の命がかかった、重要なものだっていうことは、わかっているつもり。
アリゼー :
だからこそ、政治が苦手で感情が表に出やすい私としては、彼らの邪魔はしたくないのよ。
これは、言葉を使った静かだけど激しい戦いだもの。
この時間を活用して、私たちは英気を養っておきましょう?さて、どうやって過ごすことにしようかしら……。
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