県警対組織暴力

ページ名:県警対組織暴力

県警対組織暴力(けんけいたいそしきぼうりょく)は1975年に東映が製作したヤクザ映画。1975年4月26日封切。94分、カラー、ワイド。英語版タイトル"Cops vs. Thugs"。併映『華麗なる追跡』(監督鈴木則文)。

仁義なき戦い』から始まる東映実録映画路線の一本。西日本の地方都市を舞台に、悪徳警官とヤクザの友情を通して、警察権力とヤクザの癒着関係を描き出す。監督は深作欣二。脚本は笠原和夫。1975年度キネマ旬報読者選出邦画第9位。

目次

概要[]

本作品は、脚本家笠原和夫が『仁義なき戦い』の取材過程で耳にしたヤクザと警察の癒着に関する実話を参考に脚本を書き上げ、同じく『仁義なき戦い』の監督である深作欣二が映像化したものである。主演の菅原文太、音楽の津島利章なども含め、スタッフやキャストのほとんどが『仁義なき戦い』シリーズから引き続き参加している。舞台は「倉島市」という架空の都市だが、登場人物の方言などから岡山・広島地方を舞台にしている事は容易に推察できる。

仁義なき戦い』の大ヒットにより、東映は次々と実録路線のヤクザ映画を量産した。その流れを汲む一本であるが、本作での菅原文太はヤクザではなく警官である。警察の末端組織とヤクザとの癒着及び対立、警察組織内の上層部と末端の対立をテーマに、笠原の綿密な構成力と深作欣二の迫真の演出力が存分に発揮され、息をつかせぬ娯楽性と社会的なテーマ性をともに併せ持つ作品となった。タイトル内の「組織暴力」とはヤクザと、ヤクザと癒着する警察の連合を示す。

本作品のシナリオは、その完成度の高さから『博奕打ち 総長賭博』などと並ぶ笠原の最高傑作のひとつとされており、深作欣二をして「シナリオが完璧すぎて撮りようがない」と弱音を吐かせた。

あらすじ[]

昭和三十八年、西日本の地方都市倉島市では、暴力団大原組と川手組の抗争が続いていた。

倉島署の刑事、久能(菅原文太)は、ヤクザとの癒着や暴力捜査も辞さない悪徳警官であり、大原組の若衆頭である広谷(松方弘樹)とは盟友である。連続する抗争や違法捜査のさ中、二人は川手組の土地買収をかぎつけ、その計画を叩き潰す。祝杯を上げる二人であったが、川手組との抗争はさらにその激しさを増し、川手組と利害を共有する県上層部は、大原組を潰すために動き出す。倉島署に派遣された県警のエリート警部補海田(梅宮辰夫)は、ヤクザと警官の交際を禁じ、清廉潔白な捜査を久能たちに要求する。海田の強引なやり口に反発する警官は居場所をなくし、大原組は追い詰められ、久能と広谷の関係にもヒビが入っていく……。

川谷拓三への取調室での暴行シーン[]

本作品は、ヤクザ役の川谷拓三へ、警官役の菅原文太と山城新伍が取調室で暴行を加えるシーンが有名な見所になっている。最初いきがっていた川谷は、菅原と山城に、投げられ、裸に剥かれ、殴る蹴るの暴行を受けて泣き叫ぶ。滑稽さと迫真性から川谷の演技は評判となり、のちの川谷たちピラニア軍団の出世へとつながっていった。

このシーンに関して川谷は、これは正に自分の役だと感じたと語っている。公務執行妨害をしてしまい、4人くらいの警官に囲まれ、殴る蹴るの暴行を受けるというよく似た経験をしたことがあったからである。

同じく深作欣二監督、笠原和夫脚本の映画『やくざの墓場 くちなしの花』では、川谷は本作と逆に取調室でヤクザを痛めつける警官役を演じている。

1994年にバラエティ番組「ダウンタウンDX」でくしくもこの三人が揃ってゲスト出演し当時を回顧。川谷は「あれは楽しかったなぁ」と満面の笑みで感想を述べ、「痛めつけられたのに何で楽しいんですか!」とダウンタウンを驚かせた。

テンプレート:ネタバレ

本編とシナリオとの差異[]

本作品は笠原のシナリオにほぼ従って撮られているが、いくつか削除されたシーンや変更された描写がある。

削除されたシーン[]

  • 広谷が日光石油の久保所長を脅すシーンの次に、久能が過去の悪事をネタに向井市長を脅迫するシーン、および、脅迫された市長が広谷と川手に無理やり手打ちさせ、そのことを川手が怒るシーンがあった。
  • 広谷組と川手組が二台の車に分かれて射撃しあうシーンの次に、中華料理店にいる広谷を暗殺者が襲い、広谷が返り討ちにするシーンがあった。本編にある海田警部補の台詞、「中華料理店の射殺事件が臭いんだが」とはこのことを指す。また、本作のビデオ版パッケージの裏面には、松方弘樹が中華料理屋で銃を構える写真が使われており、シーン自体は撮影されたものの編集段階で削除されたものと思われる。
  • 海田警部補が初登場するシーンの一つ前に、警官の取り締まりに逆らい暴れだした広谷側の宏道会組員を、海田がハネ腰で投げ飛ばすシーンがあった。これがシナリオ段階での海田の初登場シーンである。
  • 広谷組のチンピラ庄司が裏切り者を刺殺したシーンの次に、漁師町の庄司の実家が家宅捜査され、庄司の兄が「誰がわしらの漁場奪ったんじゃい! 悟を極道にしたんは誰ない!」と叫ぶシーンがあった。配役表を見るとこのシーンにしか登場しない庄司の兄にも役者が割り振られているので、このシーンも撮影だけ行われて編集でカットされたものかと思われる。

変更、追加された描写[]

  • シナリオ冒頭での久能の描写は「ねじ鉢巻、サングラス、油の染みたジャンパー、一見仲仕風の男が、グラスの酒を煽り、ラーメンをすすり、ゆで玉子にもかぶりついている。貪欲というよりも、賎しいまでに動物的な活力に溢れた喰いっぷりである。」という荒々しいものだが、本編ではスーツにコートというスマートな衣装に変更されており、どぎつい食事ぶりの描写もない。
  • 本編では、テレビから当時のヒット曲『こんにちは赤ちゃん』が流れる中、チンピラがのたうち回りながら殺される印象的なシーンがある。『こんにちは赤ちゃん』はこの映画の舞台である昭和38年の10月に発売された曲である。時代背景を切り取りながら殴り込みの凄惨さを引き立てる名演出であるが、シナリオでは「大貫がテレビを見ている。」とあるだけでテレビに映される内容の指定はない。
  • ラストシーン、シナリオでは、近づく不審な車に対して懐中電灯を振る久能の姿がストップモーションになり、そこに「久能徳松巡査部長、昭和四十年、~暴走車にはねられ即死。加害車、不明」のテロップがかかり、エンドマークが出る。しかし本編では、久能がハネられ、ぐったりと眼を閉じ死亡するまでを克明に描いてから、テロップとエンドマークが出るようになっている。

エピソード[]

  • 松方弘樹演ずる広谷役には当初渡哲也が予定されていたが、病気のため降板し、松方に交代となった。
  • 『県警対組織暴力』の題名は、ヤクザ映画を圧迫する警察の圧力にムシャクシャしていた岡田茂東映社長が、便所の中で思いついたものである。

スタッフ[]

  • 企画 日下部五朗
  • 監督 深作欣二
  • 撮影 赤塚滋
  • 録音 溝口正義
  • 照明 中山治雄
  • 美術 井川徳道
  • 編集 堀池幸三
  • 音楽 津島利章
  • 助監督 藤原敏之
  • スチル 木村武司
  • 進行主任 真沢洋士

キャスト[]

主要人物以外の分かりづらい端役については、作中での役割を示す説明文や台詞を付した。

警察関係者[]

  • 久能徳松:菅原文太
  • 海田昭一:梅宮辰夫
  • 吉浦勇作:佐野浅夫
  • 河本靖男:山城新伍
  • 塩田忠二郎:汐路章 アカを敵視する刑事。
  • 下寺:林彰太郎 広谷の態度に怒る刑事。「この野郎、道場へ来い!」
  • 得田:有川正治
  • 丹保:森源太郎
  • 池田:藤岡重慶 刑事課課長。
  • 大坪:北村英三 倉島署長。「留置所が空じゃけんお前等が入っとれ!」
  • 佐山:笹木俊志 手切れ金を要求され困る巡査。
  • 三浦:鈴木瑞穂 県警本部刑事二課長。海田を刑事課一同に紹介する。「私が一番頼りとしている頑張り屋だ」
  • 正岡:中村錦司 県警副本部長。
  • 塚田:鈴木康弘 松井を担当するために呼ばれた弁護士。

大原組[]

  • 広谷賢次:松方弘樹
  • 大原武男:遠藤太津朗
  • 柄原進吾:室田日出男
  • 庄司悟:奈辺悟 久能にライターを取り上げられるチンピラ。
  • 大貫良平:成瀬正孝 組を裏切り庄司に刺殺される。
  • 沖本九一:曽根晴美
  • 三杉寛:藤沢徹男 沖本とともにキャバレーで暴れる。
  • 是貞充:司裕介 塚原とともにキャバレーの事務所に殴り込む。
  • 平田芳彦:片桐竜次 自転車で逃げ、首を切り落とされる。
  • 児島二郎:幸英二 美也の声に騙されてドアを開け久能に殴り倒される。
  • 小宮金八:田中邦衛
  • 住岡清治:小田真士
  • 川手勝美:成田三樹夫
  • 松井卓:川谷拓三
  • 水谷文治:高並功川手建材の責任者。久能が川手建材を訪ねるくだりで友安、川手とともに密談している。*キャストクレジットだと岩尾正隆。
  • 土屋保:白井孝司
  • 俵功二:平沢彰 自転車で追いかけ平田の首を切り落とす。
  • 竹内:秋山勝俊 川手建材運転手。大貫に刺殺される。
  • 柳井:野口貴史シナリオでは中華料理屋で広谷暗殺を狙い射殺される。

政治家など[]

  • 友安政市:金子信雄
  • 向井万太郎:志摩靖彦市長。
  • 久保直登:小松方正 日光石油倉島製油所長。
  • 菊池東馬:安部徹 警察委員長をしている県会議員。
  • 岡本秀雄:国一太郎

その他の人々[]

  • 麻里子:池玲子 久能の情婦になるホステス。
  • 美也:弓恵子 バー「珊瑚」のママ。
  • ユリ::小泉洋子 刑務所に行く沖本の相手をするホステス。庄司が大貫を殺す手引きをする。
  • カスミ::橘真紀 「珊瑚」のホステス。大貫を匿う。
  • 千代美::白川みどり 松井の妻。
  • 光代::松本政子 佐山に手切れ金を要求するホステス。
  • 玲子:中原早苗 久能の妻。
  • 真佐江::林三恵
  • 吉川:宮城幸生 光代の亭主で船員。
  • 庄司剛:岡部正純 庄司悟の兄。本編未登場。
  • 裁判所係員:世羅豊本編未登場か。
  • 佐山の同僚:鳥巣哲生 竹内と佐山の乱闘に加わる。
  • ダンプカー助手:池田謙治
  • 新聞記者A:唐沢民賢 久能に取材する。「広告は正当な商取引だよ!」
  • 宏道会組員A:木谷邦臣 大原組側の葬式に加勢に来て海田に投げられる。本編未登場か。

シナリオ[]

本作品のシナリオは次の書籍で読むことができる。

  • シナリオ作家協会編「笠原和夫 人とシナリオ」

関連する映画[]

仁義なき戦い』シリーズは、本作品と同じ監督、脚本、音楽、俳優陣による作品である。

『やくざの墓場 くちなしの花』は同じ監督、脚本で警官とヤクザの癒着をテーマに描く映画であり、本作品の姉妹的な作品である。

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