登録日:2021/02/05 Fri 00:19:00
更新日:2024/05/24 Fri 13:40:26NEW!
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この項目は、マンガワンで連載中のweb漫画『裏バイト:逃亡禁止』に登場する怪異たちの解説を行う。
なお『怪異』と銘打っているが、これは項目での便宜上の括りとしている。劇中でも怪異の他に『怪奇』と呼ばれる場合もある。
●目次
概要
本作の「裏バイト」とは「表沙汰にできない闇のアルバイト」であるが、
その理由は借金や裏稼業などの反社会的なものではなく、どれも妖怪・悪霊・得体の知れない謎の存在・人知を超えた生態を持つ生物などが関わってくるオカルト案件で構成されている。
そして何よりもこの漫画で紹介される裏バイトはどれも致死率が極めて高く、殺意の塊と言っても過言ではない「怪異」が平然と現れ続けるのが特徴的。
モブが怪異の猛威に晒された結果、怪異によっては大多数の死者が出る事もザラだったりとモブに対して地味に厳しい漫画でもある。
そして主人公2人がその土地にうっかり立ち寄ったり関わってしまったせいで大惨事になるパターンも多い。
本項ではそんな「裏バイト:逃亡禁止」に登場する怪異を紹介している。
ちなみにどの怪異も楽に死ねるだけで有情な部類に入り、犠牲になると「死にたくても死ねない」or「人間を辞めさせられ生き地獄を味わう羽目になる」が大概のパターンなので注意が必要。
そしてこの漫画の方針として、劇中で怪異の詳細な説明がなされる事なくエピソードが完結する場合も往々にあるため、「人類を脅かしてくる危険な存在の癖に細かいルーツや詳細がよく分からない」パターンが発生するという、怪物が出てくるタイプのホラー漫画では珍しい部分もある。
なお、この世界ではデビルハンターや、死神、呪術師、陰陽師、その他化物退治に長けた者たち、寺生まれ、対魔用アイテムといった人々を救ってくれる様な都合の良いモノは存在しない。
同じマンガワンだが、カムイさんも存在しない。*1
主人公たちはあくまでも危険地帯からギリギリのタイミングで逃げ帰っているだけで、これらの怪異はエピソード終了後も人類を餌食にし続けている。
誰が言ったか「財団の存在しないSCP世界」。
一応公的な対策部署もあるようだが、そんな部署ですら調査のため裏バイトを募集しなければならないのが実情らしい。
この世界の人類はただ、恐るべき怪異や超常存在の悪意に襲われないようひたすら祈るか、遭遇しても避けて逃げ惑うしかないのである。
紹介
人面樹の森
「はじめまして」「はじめまして」「はじめまして」
「はじめまして」「はじめまして」「はじめまして」
記念すべき第1話であるホールスタッフのエピソードで登場した、某県の山中に位置するリゾートレストラン「緑心庵」の奥にある森へ巣食う怪異。
眠った人間の夢を介して人間を憑り殺し樹木が飲み込んでいくようで、仮に眠りから目覚めたとしても今度は実体化した森の精霊(と思わしき人型の怪物)がその人間を飲み込もうと襲い掛かってくる。
取り込まれた犠牲者は森と融合して人面樹にされ、精神すらも変質させられ森の一部として生き続ける事となる。
黒黒ビルの悪霊たち
助けてよォォォ! 人手が足りないの!
ビル警備員のエピソードで登場した怪異。
その昔、とある街中のオフィスビル・「黒黒ビル」7階に居を構えていたブラック企業の自殺した社員たちが悪霊兼地縛霊と化し、ビルの7階へ取り憑いた怪異。
黒黒ビルで自殺者を多数発生させ、ビルを最悪の事故物件に変貌させた元凶。
常に生きた人間を妬み、「何故死ぬ前に助けてくれなかったのか」「人手が足りない」と嘆いて仲間(道連れ)を求めている。
特徴としてあの手この手で深夜のビル警備員を7階の空き部屋に招き入れて殺害し、仲間にしようとする。
おまけに、
- 7階へ足を踏み入れた警備員に幻覚を見せてテリトリーの空き部屋に入ってくるよう仕向ける
- 少しでも多く「社員」を増やすために後任が来るまでは取り込んだ警備員を生かしておき、仕事を交代させた後で自殺させる
など狡猾で悪辣な手も使う。
更に深夜帯となると1階から7階までビル内の部屋全てがテリトリーとなり、7階の空き部屋に入らずともビル内にいるだけで呪われ死ぬ危険が発生する。
劇中の様子を見る限り、当時の黒黒ビルにあったブラック企業と同じく激しい暴行・罵倒といったパワハラが常態化しているようだが、本来彼らが既に社会から物理的に外れている存在であるのを考慮すると実際にはまともな会社組織としての形態を保てているかすら怪しく、あくまでも「生前の活動を再現しているだけ」に過ぎない。
なのでパワハラ被害者の霊も被害者を装って敢えて同情を買い、積極的に生者を欺き呪い殺そうと狙ってくる。
しかし屋上だけはフルタイムで安全地帯となっている。理由は不明だが、おそらくここに囚われている霊たちにとっては非常に近寄り難い場所であろうことが予想できる。
そもそも日中にビル周辺を慌ただしく歩いている会社員たちの多くはビルの犠牲となって取り込まれた、或いはビルに取り憑いている地縛霊たち。
そのためビルのみならずビル周辺の土地一帯が地縛霊たちの住処に等しく、実体化した地縛霊の「社員」たちが日々生きた人間たちに紛れてビル周辺で蠢いている。
昼間に実体化している地縛霊たちは霊感の有無に拘らず知覚できるため、地縛霊と生者との区別は困難を極める。
総じて社員たちは地縛霊と化した末に退職も休みも救いも存在しない終わりなきブラック労働を行い続ける袋小路に陥っており、和美からは「究極のブラック企業」とまで評された。
鞄
「遅れるな」
個人向け配送業のエピソードで、主人公2人が配送する事になった正体不明の物品。
中には「明確な意志をもった何か」が存在しており、自身の入った鞄が期日通りに目的地へ運ばれる事を望む。
期日に遅れそうになる度、警告と言わんばかりにガタガタと鞄を揺らして間に合わせるよう催促するなど一部の読者からは「ちょっと可愛い」と評判。
一方、運び手以外の者には「鞄を手に入れて中身を見たい」という非常に強烈な誘惑の力を働かせ、誘惑を受けた者は鞄をどんな手段を使ってでも奪い取り中身を見ようと襲い掛かってくる。
更には本来知らないはずの運び屋の名前まで把握でき、それを利用して騙しにかかるような描写まである。
しかし仮に奪い取っても中身を目の当たりにした瞬間、その者は絶望と恐怖、更には中身を見た後悔で即座に発狂。
狂い果てた末に顔面を削り取るように壁や地面に擦り付け自殺してしまう。
おまけにこれは人通りが少ない場所である場合で、人の多い場所ではさらにこの鞄の中身を「皆に見せてあげよう」という誘惑も発揮される。
中身の目撃者が複数人であれば泣き叫んだり馬鹿笑いしたりなど、全員が例外なく発狂する阿鼻叫喚の大惨事と化す。
複数人の場合は顔面を削り取るように壁や地面に擦り付ける事はないようだが、どちらにせよ大惨事を招くのは確か。
中身を見た者が死ねば死ぬほど鞄は少しずつ大きくなる上に奪われた後であっても、奪って中を見た人間を例外なく狂死させ再び運び役の前へ戻ってくる。
これ自体に遅刻時以外は害意がなく、鞄に惹き寄せられた人々もあくまで鞄を奪おうとするだけで対応能力を超えた厄介事とは言えないため、ユメの異能が全く役立たなくなる。
作中の描写を見ると運び屋にも多少なりとも「鞄の中を見たい」という誘惑が働くらしく(ユメが危うく引っかかりかけた)、中を見てしまうと作中の犠牲者と同様の末路を辿る模様*2。
主人公2人がバイトを完遂した後日、「鞄」によって中東や西アジアの国々がほぼ壊滅させられ複数の国が事実上の消滅状態になったらしい。
異世界
治験のエピソードで主人公2人と崎村ゆうが迷い込まされた、現実とは異なる世界。
サルバドール・ダリの絵画「記憶の固執」*3を彷彿とさせるような奇怪極まる風景及びオブジェクト、異形の住民たちがのさばる謎の空間。
次元の狭間にある特異な空間のようで、『扉』の向こう側は「想像もつかない位に素晴らしい事が待っている」という極めて強力な誘惑が発生している。
もし誘惑に負ける或いは金欲しさ*4に『扉』を開けた場合、世界の真理を知った代償として存在そのものが消滅し人々から忘れ去られてしまう。
扉の先を見た人物曰く「住んでいた世界は全くの嘘っぱち」とのこと。
ただし、扉の誘惑を振り切って「何の魅力もなく見ただけでクソと分かる、見覚えのあるドア」を潜れば現実へ帰還できる。
そしてこの世界にいた記憶は滞在者の脳から忘れ去られる。
今回の裏バイトは主人公2人と崎村ゆう・石見絵里の4名が参加し、途中で『扉』を開けた事で石見絵里の存在が消されたかのように思われていた。
しかし実際の参加者は18名もいて、既に『扉』を開けた14名による参加者の存在と記憶が4人から消えていた状態だった*5。
『扉』を開けた者は「開通者」と称され、彼らを通して現実とは異なる次元のデータを観測するのが雇用主たちの目的である。
異世界との接点を持つこの裏バイトは雇用主たちから「Q治験」と称され、その後も「Q」の文字が見られる異世界が関与した裏バイトは現れるが、相互に関係あるかも含めて詳細は不明。
生き人形
きゃははははははははは!
人形供養のエピソードで葬儀会社「博愛ノココロ」に預けられ、主人公2人とシャーロット天ノ崎が供養する事となった曰く付きの人形。
預けられた人形は例外なく生き物のように動き回る性質を持つ、所謂生き人形の類。
活動を始めると次第に特定の人間へ纏わり付くようになりターゲットにされた者は酷く衰弱、やがて人形の中に宿る存在から身体を奪い取られてしまう。
人形の中に宿るモノに身体を奪われた人間は、生きた人間が近づかない限り一切身動きしない「人ならざる何か」に成り果てる。
そして人形の「中身」が多いほど身体を奪われる犠牲者の数は増えていく模様。
ただ少なくとも作中で登場した人形は身体を奪う事以外に害意はなく、奪った後ではユメの異能が反応しなくなっていた。
一方で身体を奪われた犠牲者は精神が人形の方に入れ替わられる。
そのため身動きや他者との一切の意思疎通が不能となり、最終的に会社が行う「お焚き上げ」によって生きたまま焼かれ死ぬ。
「博愛ノココロ」全体が把握しているかは不明だが、「2階の部屋に入らない」ように念押ししてその上で人形が肉体に入り込むことを把握しており「え…もしかして…供えてない!? 肉体を!?」「まだ君達は君達!?」と動揺していた事から、少なくとも黒柳はどうなるか分かっていたようだ。
なお、今回の「人形」は何故か入れ替わった後も人間と変わらない振舞いを見せていた。人形が特別だったのか、入れ替わられた天ノ崎が「人形になりたい」という願望を持っていた事が関連しているのかは不明。
しらかみ様
神を崇める者。神を否定する者。神とはなんの関わりもない者。神はどれを見逃すと思う?
答えは全て殺す、だ。
自然保護監視員のエピソードで登場した、白銀神山をテリトリーとする山の神。
外見的には長い白髪を生やした全裸の女性といった感じだが、顔は布で作られ目はマジックで書かれた落書きのような無機質で不気味な風貌。
吹雪と共に現れる存在だが、最大の特徴として夥しい数のしらかみ様が山に生息している。
しらかみ様に喰われた者は生きながらにして喰われる激痛に悶え苦しむも、次第に痛覚を失い視界が白く霞んで何も見えなくなり最終的には恐れる以外の感情を捨て去るを得ず、恐怖に苛まれながら死んでいく。
明確な理性と知恵を持ち、当初はテリトリーである白銀神山にホテルを建設しようとする業者を攻撃していたが、ふとした偶然か人を喰った事で人間の血肉の味を覚えた結果態度を急変。
敢えてホテル建設を妨害せず大量の餌を山へ呼び込む事を画策し、ホテルで行われる大規模なクリスマスパーティに狙いを定めていた。
やがて当日の夜、遠目からは雪崩にしか見えない数のしらかみ様の群れが大挙してホテルへ殺到。
ホテルの従業員や宿泊客、クリスマスパーティを取材に来ていたテレビクルーと信奉者だった地元住民たちも含めた全員を等しく「餌」として貪り食った。
神にとっては人間の種類などどうでもよかったのだ。
福ノ神
カラァンッ
助勤巫女のエピソードで登場した、福音島に出現する怪異。
見た目は髪を真ん中分けにしたサラリーマンを思わせる中年男性のような、巨大な顔を持つ怪人。
元々は島にあった井戸の水を盗み飲みに来る「よく分からないもの」でしかなく、福ノ神という名前は人間が付けた便宜上の名前に過ぎない。
とはいってもこれまでに出てきた怪異たちとは違って、福ノ神自体は自ら人を害するような悪意ある怪異ではない。
正体は井戸の中に供物を捧げると、捧げた者の運を自在にコントロールする力を持つ超常的な存在。
供物次第では非常識的で不可解な事象すら引き起こして「捧げた者の願い」を叶えようと力を行使する。
一方、供物を捧げなかったとしても何かしらのデメリットがあるわけでもないらしく、人間が欲をかかなければ、基本的には無害な存在と言える。
なお、好みは清純な女性(処女)とされる。
また、供物が自主的に身を捧げた場合は供物自身に願う権利が与えられる。
その昔、神懸かり的な力を求めた人間たちの間で諍いが絶えなくなり、先人が井戸を中心に神社を建設して容易く福ノ神が近づけないようにしたという。
その時以降「それ」は年に一度、正月となる度に歳神へ扮して姿を見せるようになった。
この性質を欲望と己の利益のため利用したのが、現代の福音島の住民である上級国民たちだった。
しかしながら島民と福ノ神との関係性はあくまでも「店員」と「客」程度の繋がりしかなく、運を制御できるほどの存在にとって人間など食えるか食えないか程度の違いがあるのみ。
更に言うなら後述するように、200人弱と1人の違いすらもない。恐らく尺度はそれが願った人間にとって幸運か否か程度だろう。
最終的に今回の巫女を生涯の友としていた女性が、自身を生贄に差し出して願いを訴え死亡。
その対価として島民の上級国民を含めた「福ノ神に贄を捧げる儀式」に関わった人間184名を惨たらしく苦しむ形*6で皆殺しにして、願いを成就させた。
マザー・フィッシュ
母親の心音は子供に安らぎを与えるよね。
マザー・フィッシュにとって、人間なんて子供みたいなものなのさ。
水族館スタッフのエピソードで登場した、水族館MAOを根城とする怪獣サイズの超巨大な魚の怪物。
曰く「この世ならざるもの」「全生物の母なる存在」。
いつからいるのかすら不明な怪物であり、明らかにサイズ的には水族館に収まりきらないような巨体の持ち主。
心音の様な音を放ち餌になる人間を招き寄せる性質を持ち、自身が悠々と生活できるようなサイズの水槽をバックヤードに形成する能力まである。
ちなみに、この水槽はガラスで仕切られている訳でなく空間を区切るようにして存在しているため、続く道を真っ直ぐ歩くだけで入ってしまえる。また通路の片側にあった水槽を両側に発生させ、心音による誘引力や範囲を広げる事も可能。
おまけにはっきりと好みの餌を識別しており、
- 己の存在を知る水族館スタッフに自身の意向を伝える
- 「水槽へ入る事」を条件に魅いられた水族館スタッフを下僕のように恣にして動かし操る
- そしていざその者が水槽に入れば躊躇いなく魚たちの餌にしようとする
など人間と変わらない悪賢さと明確な意思、狡猾な悪意を備えている。
ただ内外で脱出が図られてもそれを阻むような行動には出ていないなど、誘き寄せて喰おうとする以外の脅威はなかったりする。
尤もそれは水槽があくまで水族館内に収まっていて継続的に餌が運び込まれているからで、暴走して水槽を広げたりしなければの話であるが。
マザー・フィッシュの放つ音に魅了された場合、被害者は社会生活への執着を失っていき自ら水槽の中へ入りたがるようになる。
そうしてバックヤードツアーへ来た人間や誘惑に乗った裏バイターを水槽の中に引きずり込み、獲物は母親の胎内にいるかのような安心感を味わいながら水族館の魚たちから生餌として食い尽くされる。
ただしマザー・フィッシュがこの水族館を支配している訳ではなく、マザー・フィッシュの存在は水族館内でも殆ど知られていない。
…というよりも水族館側とある種の共存共栄関係を築いている節があり、
水族館側は不定期ながら確実に最低300万という莫大な収入を得つつ、マザー・フィッシュと魚たちは楽々餌を確保できるという双方にとって旨味のある関係が構築されている。
初登場のため、キャラが固まりきっていなかったとはいえ『あの』橙を引き込みかけた事から、後々評価が上がりつつある。
魚たち
マザー・フィッシュと共に水族館MAOの水槽全体を根城とする人喰い魚たち。
水槽から獲物にできそうな人間を品定めするとスイミーさながら人間の形になるよう集合。この群れが獲物を誘う疑似餌となる。
標的にされた人間は疑似餌が「水族館の水槽で楽しそうに全裸で泳ぐ人間」にしか見えずあたかも水族館の水槽内が楽園であるかのように錯覚し、バックヤードツアーを利用してマザー・フィッシュや彼らの巣食う水槽へ自ら入り込んでしまう。
水槽に入った人間は初めこそ水槽内を天国と言わんばかりの恍惚に満ちた表情で泳ぐが、その後彼らから生きたまま貪り食われて死ぬ。
ただし子供のような重いストレスを抱えていない者は擬似餌の効果がなく、いくら人型に集まっても人間の姿に見えたりはしない。
不気味極まりない生態だが、やってる事は概ねチョウチンアンコウと同じ。
いちょうさん
意味や意義なんて無い…、ましてや意思なんて。そういったものは超越している。
なんの話って? 名前の由来を聞いたろ?
だから、意超さんって言うのさ。
学校用務員のエピソードで登場した、花角中学校に巣食う怪異。
外見は黒いコートを着込み山高帽を被った異様な長身の巨体と、何も考えてないようなボーッとした目、鋭い牙が見える口を持つ正体不明の怪人。
死んだ生徒や先生、或いは戦時中に死んだ軍人の霊と噂されていたが実際の起源は不明。
意味や意義はこれといってなく、意思があるかも定かではない。
最初の犠牲者が誰なのかもいちょうさんが猛威を奮い出した始まりが何だったのかも分からなければ、目的も分からない。
…というよりもそういった意味や理解の概念を超越した存在。
特徴として「髪の毛を捧げて1週間何かしら誓った約束を守る」 というルールを破った者を殺害する法則を持ち、もしルールを破ってしまった場合いちょうさんはルールを破った者をどこまでも追いかけ惨殺する。
「1週間以上続けられたら何が起こるのか教えてほしい」と、主人公2人へ伝えていた前任の用務員も翌週金曜日には殺されている*7。
ルールを破った者が唯一生き残る術は「自分と同じように他人に約束を破らせる」。然すればいちょうさんの被害を他人へ押し付けられる。
というよりも、正確には別の誰かが約束を結ぶと他の人間への死刑執行も延期されると思われる(そうでないと先に約束を破った教師たちが先に殺される)。
しかしこの行為はあくまでその場凌ぎにしかならず、生き残りたければ他人を陥れて生贄にし続けなければならない無間地獄が待ち受ける。
花角中学校の現職教師たちもこうして全員罠に嵌められ、いちょうさんに呪われていた。
また普段は姿が見えないようで、次にいちょうさんから襲われる犠牲者にだけ知覚できる存在の様子。
一方でルールを破らなければ人畜無害のため、怪異の中では危険度が中レベルの部類に入る。
そしていちょうさんのルールをクリアした者が出た場合、今度は「ルールを破りながらも生き残っていた者」をいちょうさんは順番に殺そうとしてくる。
なお、ルールをクリアしたところでこれといって恩恵はない。
連載時は最初から最後までひたすら呆けた表情を見せていたが、単行本の加筆修正により悍ましい満面の笑みを浮かべながら被害者を襲撃する怪異に変更された。
虚像
吾妻史郎に関わろうとする人間は、皆例外なく…即死するんです
探偵助手のエピソードで登場した、華栄地区・九番街に出現する怪異。
九番街を、毎日死亡事故が発生し続ける「魔の九番街」へと変えてしまった元凶。そしてマルチタレント・吾妻史郎が生前目撃していた「もう1人の自分」。
所謂ドッペルゲンガーの一種で、探偵の八木の掲げた仮説を信じるならば「あまりにも数多くの人々の視点により画一化された『スターとしての吾妻史郎』のイメージ」が勝手に現実世界にて実体化を果たしたモノ。
八木は世界各地で伝わる「有名人*8の死後に発生する死者の目撃例」も、この虚像と同種の現象によるものだと考えていた。
存在自体が本体を象徴する概念に近いためか、例え後ろ姿しか見えていなくても他人は虚像を吾妻だと認識してしまう。
「実在する人物の実体のない虚像」に過ぎないため、誰かに認識されて観測されると消滅しかねない。そのため虚像は自身の存在を守ろうとする性質を持つ。
具体的には「他生物が己を認識した」と虚像が気が付き、双方の相互認識が成立した瞬間*9、例外なく「不幸な事故」という形で自身と相互認識を行った生物を人間動物問わず即死させる。
これは悪意でやっている訳でなく一種の防衛反応とされ、八木はメッチャ早口な考察の中で「虚像そのものが意図的に行なっているのではなく『自然現象や世界の摂理』みたいなものだろう」と位置付けている。
…とはいえその力は絶大。
虚像と観測者の相互認識が成立した瞬間、観測した生物に向けてありとあらゆるアクシデント*10を強制的に引き起こし観測者を即座に殺害。
不特定多数の人間に観測された場合は無人の旅客機*11を具現化し飛行機の墜落事故を招くなど、物理法則を冒涜するかのような不可思議な現象を巻き起こし観測者を1人として残らず大量殺戮する。
何よりも恐ろしいのは、虚像は素知らぬ顔で九番街周辺をふらふらと散歩するように歩き回っており、真正面から近づいてきた虚像とバッタリ出会い相互認識してしまった場合も例外なく殺害対象となる点。
一応、裏バイターたちが実施していた尾行のように遠くから後ろ姿だけ見て追う行為はセーフ。
もし虚像と道で正面からすれ違ったとしても、すれ違った人間が虚像を『吾妻史郎』だと気付いていない時や虚像から気付かれる前に遠くへ逃げてしまえば、難を逃れられる。
あくまでも
- 虚像の近くで観測者との相互認識が成立する
- 虚像に「自分が見られた」と気付かれる事
が殺害のトリガーとなっている模様。
大体気付かれてから死ぬまでは数秒程度かかるので、その間に観測者が虚像の吾妻の存在を言いふらすなどして存在を広めた場合は被害が加速度的に広まってしまう。
人々から忘れ去られない限り存在を続けるため、虚像がいる限りその虚像を生み出した者の生存説が囁かれ続け、そして虚像が発生した地域において死亡事故が収まる事は永遠に無い。
対抗策としては、別作品の話であるが「噂屋」や「虚構推理」で行われたような噂を相殺するなどがあるものの、ほぼ凡人の主人公2人ではどうしようもない。
「夢ノ湯」のお湯
温泉宿スタッフのエピソードで登場した怪異…というか謎の異生物。
その正体は『自身に一定時間直接触れた生物の外見・記憶・特徴の全てをコピーし、その生物の全盛期の姿を得て現れる生態を持つ液体生物』。
温泉街で一番ポピュラーな温泉宿『乳海』の人気の秘訣である若返りの温泉「夢ノ湯」の効能の正体で、その実態は「若返りの温泉」などではなく「謎の異生物と存在が入れ替わられる恐怖の温泉」。
ただし入れ替わった液体生物自体に悪意は見受けられず、その目的も一切不明。
入れ替わった液体生物は犠牲者の全てを丸々受け継ぎ、傍から見るとただ人間が若返って人生を謳歌しているようにしか見えないため八木が正体を明らかにするまで、誰1人として実体を掴めなかった。
また湯を流して入れ替えると、何処からともなく夢ノ湯が湧いて勝手に元通りになるという。
一方で液体生物に存在を奪われて入れ替わられた被害者は逆に『夢ノ湯のお湯』へ成り果て、湯や排水管からは液体生物に入れ替わられた人間が助けを求めて踠き苦しむ声が小さく響き渡る。
そして入れ替わられ液体化した犠牲者は自身が死なないよう風呂の栓を必死に固定、そしてやってきた清掃人の肉体を奪おうとするも上手くいかずに多くの裏バイターを溺死させてきた。
ユメの異能が反応したのは、この生への足掻きに伴う害意が発端。
そして乳海では「一度浸かった夢ノ湯の湯は必ず流せ」と代々女将から申し継がれ、これまでこの事実は旅館が利益を得るため黙認されていた。
存続させるつもりなら、申し継ぎの中に「家族や知人を浸からせるな」ということも入れておくべきだったろう。
そして真相を知りこれまで旅館が引き起こした所業に責任を取るべく、女将が旅館へ火を放ち夢ノ湯のお湯を道連れにして心中、夢ノ湯は炎の中に消えた。
「これだけあればひと商売できる」
「どこでやる?」
「どこでもいいさ。皆、不老の誘惑には抗えないんだ」
だが、人間の中には夢ノ湯のお湯の存在を理解して利益を稼ぐため「商売」として悪用するグループも存在。
一定量の液体生物を回収すると、乳海の負の歴史に終止符を打とうと火を点けて炎上する旅館を尻目に新たな場所で乳海と同じ行為によって荒稼ぎを企て、車に乗って彼方へと姿を消した。
がまずみ
何でですか? 何で?
無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな無視するな
ラジオ局ADのエピソードで登場した怪異。
某県の放送局「Mika Mikaラジオ」内の番組『水曜日のお悩みボックスアワー』に、文字化けを含んだ意味不明な電波メールを頻繁に送り続け番組を無理やり継続させており、パーソナリティが自分の投稿への返答を無視したりメールに答えられない場合は強烈なノイズを走らせて警告、時には自分以外の投稿メールを文字化けさせ進行を妨害。
そして悪化するとキレて関係者に呪殺めいた危害を加えてくる強い悪意を持つ、傍迷惑極まりないモンスタークレーマー。厄介な事に自分が怒られてもキレる上に、怒りの沸点に達するポイントが常人には理解できないほど非常に分かりにくい。
更にはラジオ関係者だけでなく、自分以外のラジオのリスナー個人の独り言にも突然割り込んでくる迷惑行為まで働いている。
がまずみさんの逆鱗に触れた者は目・口・鼻・耳と顔の各所から大量出血して病院行きとなり退場、最悪の場合は高所から飛び降り自殺を図って即死する。
これまでにも何人ものADやパーソナリティが犠牲となっているためMika Mikaラジオ関係者の誰もが「巻き込まれたくない」と認識しており、番組開始前には局中の人々が逃げるかのように一斉退勤する。
一応最初の内はまだ電波寄りだが意味は理解できる投稿内容であるものの、返答を幾度か繰り返していくと意味不明な電波メールと化す。
その正体は、昔ラジオのパーソナリティーだった三上に付き纏い最後は電波塔から飛び降り自殺を図ったリスナー「寺井しのぶ」の怨念。
悪霊化した後は電脳生命体よろしくラジオの電波に乗ってスタッフやリスナーの元に飛んできていると思われ、それ故異様に返信速度が早い。
前編冒頭の描写からすると『水曜日のお悩みボックスアワー』以外でもラジオの電波に混じり、リスナーへ嫌がらせをしている。まさに構ってちゃん。
がまずみの花言葉は「私を無視しないで」であり、名は体を表す状態にあった。
最後は感情を掻き乱してくるノイズに激怒した和美から怒鳴られ、番組の進行が止まる事態に。
その隙にMika Mikaラジオが入っているビルのブレーカーを落としたユメによって騒動は止まった。
じゃ、これ知ってるか? あの番組が終わらせられない理由。
以前、打ち切りにしようとしたときも、「来た」んだ。
がまずみです。 前の放送、話があります。
なお、沸点が頂点に達すると「苦情の申し立て」という形で実体化してラジオ局へ襲来する。
そして何より、劇中ではその時の霊障が一時的に止まっただけでがまずみさんに取り憑かれてしまった『Mika Mikaラジオ』が抱える問題自体は何も解決していない。
実体化したその姿は生前「飛び降り自殺を遂げた」という最期のためか、首が不自然に曲がり這いずるような低い体勢となって動き回るという禍々しい外見であった。
番組を打ち切りにしようとする度、実体化して「やって来る」らしく放送局側が一向に番組を打ち切れなかったのはこれが原因。
冥界の住人
「ジューンブライドなんて最高っ。」「死が二人を?」「分かつまで~?」「ノンノン!」
「死が二人を永遠に結びつける!」「オ~イエッス!」「生者の結婚は最低!」
「現実は最低!」「九割が汚物で構成されているなり!」「綺麗なものしかみたくないっ!」「死すれば綺麗なまま固定っ。」
ブライダルスタッフのエピソードで登場した怪異。
〇〇県の結婚式場『オールスターウエディング』の地下に造られた「冥界の門」*12から、冥婚式のゲストとして召喚され参列していた。
全員が名状しがたい影の怪物のような奇怪な姿を取るが、現世では素質のある生者の死体を依代にして肉体を得る様子。
現世での人間の結婚観を醜い物と評して嘲笑い見下し、「冥婚は永遠の美」と称して冥婚こそが至上と高らかに掲げており、器となる人間に取り憑いて冥婚を満喫していた。
なお、生きた人間が取り憑かれた場合は皆異様な精神状態となり、冥界の住人たちへと取り込まれてしまう。
言動は中々に悪辣で素養がある者に怪奇現象こそ見せるとはいえ、住人自身は積極的に人を襲う存在ではない。
素養さえなければそもそも関わる機会すらないため、歴代怪異の中では際立って穏当な部類に入る。
福ノ神と同様、人間の欲望と狂気のせいで危険な存在と化してしまったパターンと言える。
そもそもこの回は冥界の住人をも超える脅威が存在するので…。
単行本の加筆修正により、オールスターウエディングに出没していた理由が遊びと明言された。
式場の人間を狂わせ残酷な冥婚を楽しんでいたのも、彼らにとっては暇潰しのための娯楽以外の意味を持たなかった。
ファミリーレストラン・マスト
死霊は死の直前の行動を繰り返すと言いますが、これほど大規模なものも珍しい。
本来あったはずの輝かしい未来が来ると信じて「その場」を維持しているが、
未来に向かうことは永遠に無い。
言ってみれば、彼女達がいる「場」は地獄のファミリーレストランですな。
ファミレス店員のエピソードで登場した怪異。
本編の15年前に殺人鬼・爆龍真拳がマスト店内で起こした無差別殺人により、
- 犠牲者42人の未来を断たれた無念
- 最初から未来の無かった
山田二郎(38)爆龍真拳の怨念
から呪われ、ファミレスの店舗と敷地そのものが怪異と化してしまった最悪の事故物件パート2。
そもそも呪われたマスト店舗自体は更地となって既にこの世には存在しておらず*13、本編の数年前から6月23日になると突如具現化。
店内に構築された「場」を維持しようと別店舗の新人店員を出向という形で強制的に呼び寄せ、忽然と世界から消えて店員も攫う行為を繰り返していた。
マスト内部では爆龍真拳が店を訪れ始めてから殺戮を行うまでの6月23〜29日の時間が無限ループしており、内部では15年前の死者たちが皆死霊と化して生前と同じ流れを繰り返し続けている。
即ちマストという「場」に取り込まれれば最後、死霊に変えられた挙句マストへ閉じ込められ、永遠に苦しみながら殺され続ける。
ラクガキのようにぐちゃぐちゃでとても読みづらいが、注目して見ると変貌した際に出るセリフの中には助けを求める声や悲鳴などが書かれている。
加えて死霊化した者は
- 店員或いは客として普段と変わらず行動し続ける姿
- 「無限に死に続ける現象から解放されたい」と抗う本音の姿
という2つの顔を得るようになり、極限まで魂が摩耗すると人としての姿すら保てず出鱈目でラクガキのような姿へ変貌し、ひたすら救いを求めて絶望しながら泣き叫ぶようになる。
やがては消滅する可能性も示唆されているもののそもそも消滅が起こるのか、もし起こるとすればどれくらい死に続けなければならないのかは不明。
マストが人を呼び寄せていた理由は、「場」が消えないよう他店舗の店員を身代わりとするため。
そして死霊がこれほど大規模な活動を行うのは、八木の知る限りでも珍しいケースらしい。
取り込まれないためには爆龍真拳を撃退するなど、「マスト店内で起きた過去再現の場を乱したり運命を大きく変えるような、普通ではあり得ない非常識な行動を取る事」のみ。「場」を乱した場合はそこから排斥される形で脱出が可能となる。
マスト内は死と生が曖昧な状況となっており、仮に致命傷を負っても気をしっかり持っていれば痛みは覚えず死ぬ事もない。爆龍真拳の貧弱さもあり、制圧は決して不可能ではない。
逆に「場」を乱せなかったり常識的な行動*14を取ってしまうとその時点でマストの「場」に取り込まれ死霊化、無限ループに晒される。普通ではあり得ない非常識な行動となると橙が適任なのだが、生憎この回では不在だったのが惜しまれる。
劇中では初めて対処法が確立された怪異で、本編から数年後も単身で「場」へ送り込まれた裏バイターの姿が描かれている。
八木曰く「裏」の業界でこういった事は滅多にないらしく、生還した主人公2人を「お手柄だぞ!」と褒め称えている。
ムッキー
「マーマ、マーマ」
「んー? どうしたのー?」
「見てみて、あそこ。変なのいる」
空き地探しのエピソードで登場した怪異。
劇中では最後まで名称が明かされず、明かされたのは『ちょい足し』の小話から。
全長約4mほどの毛むくじゃらな人型を模したぬいぐるみのような外見で、笑みを浮かべる大きな口とガラス玉のように円らな目が特徴。劇中に登場する子供がムッキーの似顔絵を壁へ飾っており、元々は怪異ではない普通のキャラクターだった可能性もある。
〇〇県小坂井町に出没し町を出歩く人間を手当たり次第追いかけては、大きな手で握り潰しながら捕まえてくるフィジカル系怪異。
しかも特定条件でワープして追いついているかのように見えたり、速く動くものであればあるほど危険度が増していくらしき描写もある*15。
作中では「家に閉じ込められたまま老夫婦によって虐待死した子供の霊魂が、死後自由となって怪異と化しケイドロもどきを楽しんでいる」と考えられていたが、実際は発生理由も行動理念も何もかも謎に包まれた正体不明の存在。
唯一確かなのは町を舞台にケイドロもどきで遊んでいる事のみで、方向性としてはいちょうさんに近い怪物。
遊ぶのが目的であるためか、捕まえた人間を甚振るといった悪意ある行為は見られない。
小坂井町を常に俯瞰視点で監視できるらしく、出歩いている人間を見つければ追跡を開始。そのため屋根などの上を覆い隠す遮蔽物の下に隠れれば認識されなくなり、難を逃れられる。
見つかり追いつかれた人間は握り潰され、肉体が原型を留めなくなる。しかし犠牲者は出血や死亡はせず暫くは意識を保ち、やがて無傷の状態で町内の家の中へ幽閉されてしまう。なぜ握り潰されても血が出ないのかは劇中で和美が気付いていたようだが、詳細は不明。
そうして犠牲者は永遠に家の外には出られず、他人もその家への進入は不可能となる。
なお小坂井町は衛星写真で観測しようとした場合、町全体を覆い被さるように子供の影らしきものが映るため衛星写真で安全地帯を探す手段は封じられており、ヘリやドローンは真っ先に墜とされ活用もできない。
また、上記の対処法はあくまでムッキーから見つからないようにするためで、ムッキー自身は遮蔽物の下へ入れないという訳ではない*16。
当初から怪しい子供が描写され、霊能力者っぽい人曰く空き地に埋められた子供の死体を発見して供養すれば解決すると思われていたが、実際に埋まっていたのは喜色満面とした笑みを浮かべた老夫婦の死体だったため解決の見通しは消滅。
ちなみに霊能力者っぽい人は単なる詐欺師か何か。
「衛星写真に影が映る子供が遊びとしてムッキーを操っており、ドローンなどに対して優先的に反応するのはそのため。小坂井町に吹き荒れる台風のような風はその息なのではないか」という考察もあったが真偽は不明。
作者が『ちょい足し』で述べている通り「理解し難く、恐ろしい。本当に理解した時、正気でいられるか分からない」怪異としか言いようがない。
未だにムッキーは小坂井町の中にて巣食っている。しかもラストではまだ住人が家の中に幽閉されていない別の町にも別個体が出没しているような描写がある。
おおいなるもの
母なる海とか、雄大な大自然って表現に疑問を持つ人って一人もいないでしょ。
きっと、何かおおいなるものが存在して、私たちの思考や総数を「調整」してるの。
そうして秩序を保ってるんだわ。
海の家スタッフのエピソードで登場した怪異(?)。
正確な外見は不明だが、一度だけ砂浜に巨大な人型の影が映っている。
某県にある海岸の近辺を支配する強大な神の如き存在。
海岸を訪れる客や周辺の住人の思考を一定のルールへ従うよう「調整」し、海岸を管理している。
その能力は圧倒的で、
- 認識改変
- 人間そのもののデコイ作成
- 自分の領域への引き込み
- 深海魚めいた奇妙な生物を海岸へ流れ着かせる
など多様な怪現象を発生させており、種類も幅広い。
あまりにも力が強大すぎて怪現象が幾度発生しようがユメの異能では匂いが一切感知できない異次元の怪異であり、単純な力と格では歴代怪異の中でも恐らく最大級。
特徴として己の存在に少しでも感づいた者、ルールに違反した者、己のテリトリーへ近付きながらも影響を受けなかった者を積極的に屈服させにかかる点が挙げられる。
屈服させられた人間は全身をフジツボに覆われた、生きているか死んでいるかも不明な状態で発見される事になるがこれもあくまでルールの一環であるため、支配下にある人間たちはそれが異常ではなくその人物が「かえった」のだと認識する。
それは主人公2人も例外ではなく、何が起きてもそれが正常だと認識されるため匂いも一切しない。
作中では海の家の店長・江口を屈服させるためだけに継続的に怪奇現象を起こして警告し続ける、既に屈服させた江口の娘・真弓を生きたデコイとして作り直す、本当に屈服したのかを確かめるため敢えて自由に行動させるといった、大がかりで悪辣かつ徹底的な手段を取っている。
バトル漫画ではないので然程適切な表現でないが、
- 人間をも平然と作り変える能力
- 「己に屈しなかった」という一点のみで、1人の人間を執拗に狙い続ける執着心
- 肉親への情を利用した手口*17の悪辣さ
と能力・知性・悪辣性など各ジャンルにおいて各種ランキングを更新する、歴代でもトップクラスのこの上なく凶悪な怪異。
まさに神話における荒ぶる神、人間を何とも思わない理不尽の塊としての神と表現できる。
江口は一度おおいなるものに捕らわれても心から屈服はしなかったが最終的には他の犠牲者よりも無残な姿で発見され、危険を探知できる異能持ちのユメでも取り込まれるため対抗策は限りなく0に近い。仮の話になるが橙や怪奇撲滅外道光線などのギャグ補正も恐らく効かないと思われる。本気でどうしようもない…と思われていたが(後述)。
幸いにも、全世界をカバーしているようではないのでテリトリーである某県の海岸付近から離れて、気付かれないよう祈る程度か。
しかし安全圏に入る方法自体は非常に容易く、ルールを守るよう調整されるという事は逆に言えば「調整」を受けてしまえば自ずとルールを守る形になる。
作中で描写されている限りでは守る事によってデメリットが生じる類のルールは無く、おおいなるものが起こす現象の異常性を認識できなくなる以外の副作用もこれといって無いようなので、
実は下手な抵抗さえしなければおおいなるもの自身が身の安全を保障してくれるという、本作に登場する怪異の中でも比較的珍しい性質を持っている。この辺りも神話における神に近い。
劇中では主人公2人も例外なく支配下に置かれ、屈服させられた江口の姿を見て…
「江口さん、かえったのね」
「うん、良かった」
「ええ、ホント」
「良かった、良かった」
といったリアクションを取ってエピソードは終わってしまった。後のエピソードで干渉を受けていた事について気付いていた描写は存在する。
なお作中で具体的に触れられたルールは「夜の海岸に近寄らない」だけだが、日のあるうちに屈服させられた人間がいる事から他にもルールは存在する模様。
…実は絶対的なルールなど無く、本編では自分なりの縛りを設けて遊んでいただけ、全てはおおいなるものの気分次第という恐ろしい可能性も残されているが。
夢の対決の果て
単行本5巻カバー下にてバディ・ユメちゃんとの対決が実現(?)。
ギャグ補正には流石に敵わなかったようで、バディ・ユメちゃん自らが「おおいなるもの」となる事で本家「おおいなるもの」に勝利した。ギャグだからってやりたい放題だなコイツ…。
神にも匹敵するモノが、別の神が新たなる信仰を得た事によって駆逐されたのだろうか…?
先述したもう一例である橙も、ギャグ時空で自らのフィールドに引き込んでしまえば勝てるのかもしれない(?)。
バディ・ユメちゃんは前巻で騙されて食べた「とんぶり」を結局気に入ったようで、自由を得たパーティーピーポーたちに定期的な献上を要求した。
真黒石
ホホホホホホホホ!
葬儀屋スタッフのエピソードで登場した怪異。
某県鉢巻石村で崇められている御神体の黒い石で、時には小さい漆黒の恵比寿様のようにも変化する。
元々は遥か前に初代村長が河原で拾った一切の光を反射しない謎の黒い石であり、いつの間にかモノリス状に変化すると「死後の世界」の知識を村人へ与え、彼らの価値観を「死後の世界こそが素晴らしく、現実世界に価値は無い」という歪んだものに捻じ曲げた。
村人が先祖代々「来るべき年の盆の日に約束の人数を連れて約束の地に旅立つ(=自殺)する事」を目的としていたのも、この石の齎した知識が原因。
真黒石自体の素性は「一定人数の自殺者をエネルギーとして集め、元の場所に戻ろうとしている宇宙人もしくは異世界人的な存在」ではないか、という考察もあるが未確定。
石の与える知識は「死後の世界には死んでいなくなってしまった人たちが幸福に暮らしている」という極楽のようなものだが、積極的に死を勧めてくるのが特徴。
加えて縁者を夢に差し向け、自殺へ賛同させようと狡猾に仕掛けてくる。
死後の知識に汚染されると、死ぬ事を何よりも好む人格へと変質する。葬儀を楽しいものとして捉え始め一様に笑顔を浮かべつつ萬歳を繰り返しながら祝福し、逆に出産は不幸な現世に生まれた惨憺な事だと嘆き悲しむ。最終的に葬儀ができなくなった際には積極的に自殺したがるよう成り果てる。
我先にと競うように自殺すると名乗り出て、「手間も省けて一石二鳥」と生きたまま火葬場で自ら焼かれようとする者たちの姿は主人公たちと読者を戦慄させた。
こうして真黒石の神託を受け、村人は全員笑顔で惨たらしい自殺に踏み切り幸福なあの世へと旅立っていった。
…と記したが、実態として真黒石の齎す「幸福な死後の世界の知識」は真っ赤な嘘。
幸福な死の世界を夢見て自殺した者たちは、皆等しく死後の世界で地獄の拷問を受け続ける末路を辿る事になる。
思考を汚染された鉢巻石村の村民・葬儀屋のスタッフ一同が幸福な死後を夢見て全員自殺する中、真黒石に乗った黒い恵比寿は満足気で愉しそうな哄笑をしながら地獄絵図と化した村の上空を悠々と飛んでいた。
…ただし、「来るべき年の盆の日に約束の人数を連れて約束の地に旅立つ」のが目的だとするならば、主人公2人と村の少年・颯太の分が足りていないため少なくとも今回の目的達成には失敗している。
事態を打開する発端となったのは、死後の世界で地獄の拷問を受け続けながらも颯太へ真実を伝え、自身と同じ苦しみには巻き込むまいとした颯太の母親による愛情であり「母性愛に敗れた怪異」と言える。
怪異からの脅威や人の悪意、狂気に満ち溢れるこの作品にしては珍しく良い話であった。
生き残れた颯太には健やかに育ってほしいものだ。
なお、作者によれば「今回の話で一番怖いのは地獄の死後の世界に行くのは『真黒石に関わった人間なのか』、それとも『死んだら誰でも行くところなのか』は不明」という点らしい。ゾンビィ! せっかく良い話で終わったのに余計な事言うんじゃねぇ!!
…ブライダルスタッフのエピソードで登場した冥界なども存在するので、一択ではないと思いたいところ*18。冥界がマシなのかはともかく。
13番ホーム
「聞いて聞いて お話しして 聞いてるぅ? あのね私わたしここでワタシ死…」
駅員バイトのエピソードで登場した怪異。
〇〇県阿迦羽駅構内から進入可能な謎のホーム。
9番線と10番線の間の柵を通り抜けるだけで良い「9と3/4番線」と違い、進入にも脱出にも複雑怪奇この上ない手順を踏む必要がある。
その手順は、和美ですら橙のようなショート寸前になってしまうレベルで複雑(橙には絶対に辿り着けないと思われる)*19。
常に深い霧が立ち籠め、運行表看板も人類のものとは思えない異様な文字で書かれている。
特徴としては怪異の乗客らしきものが出没する点。
落書きのように不気味な顔で、只管駅員へ話しかけようとして一切反応してもらえないとブチギレる重度のかまってちゃん。
ただし電車が到着すると、怒りを露わにしつつも素直に電車へ乗り込んでいく(余談であるが電車内に崎村らしき人物が乗っている描写がある。次女か四女か、それとも長女or三女なのかそもそも本当に崎村なのかは不明)。
なお、この客に僅かでも反応する事は禁じられ、何をされても存在しないものとして認識しなければならない。
反応した場合は電車に引き込まれて自身も同じ乗客へと変えられ、生前の記憶を次第に喪失。最終的に全ての記憶を失い、電車へ乗って世界からも消滅してしまう。
客が生者へ積極的に話しかける理由は、1人で消えるのは寂しいから寂しくならないよう仲間を求める習性にあるという。
電車が終着駅へ辿り着く前に無理やり飛び降りれば消滅は免れるが、そうして助かったとしても行き着く先はこれまで自分が暮らしていた世界と似て非なるパラレルワールドである。
パラレルワールドに迷い込んでしまった後、元の世界でその人間がどう扱われるかは不明*20。
富岡Qランドのマスコットたち
夢も希望も与えちゃう~ヘイッッ!
不可能なんて無い、なんでもできちゃう、なんでもござれ~
君たち人間とは違うのさ♪
遊園地スタッフのエピソードで登場した、並行世界の日本にある遊園地「富岡Qランド」を根城とする怪異。
マスコットの着ぐるみを着ているが、その下はウサきゅうを含めた全員が人身獣面の人ならざる存在。
名前は判明しているだけでも「ウサきゅう」「クマきゅう」「ネズきゅう」の3体。
他者の時間を餌としており、時間を自在に操る強大な力を持つが故に総じて人間を餌と見做して露骨に扱き下ろす傲慢な性分。
動物を模した被り物を着用して遊園地のマスコットに扮しながら園内を監視しており、ターゲットとなる「現実が辛いと感じる人間の大人」へナイトパレードの光を浴びせ子供まで退行させて魅了。
「退行」した大人や裏切り者をテリトリーである「慈愛の塔」へ送らせ、そして胎児まで退行させ、そのまま喰らう。
なお、無理やり時間を退行させて大人を子供へ変えた場合、味が劣化するという理由から強行策を取るのは消極的。
生態や人間を陥れる手段などから本質的にはマザー・フィッシュに近いものがある。
当初は自分たちの存在を探ろうとした主人公2人や並行世界の八木を捕らえ、制裁ついでに捕食しようと企んでいたが2人は前回のエピソードによって並行世界からやってきていたため、10日前まで逆行させた段階で2人が元の世界へ帰還*21。
まんまと見下していた2人から出し抜かれる形となった。八木さんは死にました。
不可能なんて無い~♪
しかしその後、主人公2人が帰還した元の世界にあった遊園地でウサきゅうと同じ姿の着ぐるみがしれっと登場する形で物語は終了。
2人に逃げられた並行世界のウサきゅうがキレてわざわざ追いかけて来たのか、それともそれぞれの世界にウサきゅうたちと同種の怪異がいるのか、元の世界のウサきゅうは並行世界と違って善玉なのでは、実は単なる着ぐるみでは、幼少期のユメへ声をかけたマスコットとの関係は…などと読者を混乱させたが、とどのつまり確実な事は何も分からないままという相変わらずのビターなオチであった。
オヨツ
苦しみ抜いた松は獄中で自害した。
「オヨツがやった」「オヨツが自分にやらせた」
松が死の間際に書いた遺言である。
遺言には続きがあった。
「しかし真に恐ろしいのは…」
「オヨツの仕業ではなく、あれが私の本心ではないか、という疑念である」
キャンプ場バイトのエピソードで登場した怪異。〇〇県ひかりキャンプ場の森の奥にて棲んでいた。
ひかりキャンプ場のある地方では「殺苦松」という名前で伝承が残され、四国にもオヨツと同じ怪異の伝承が存在するという。
真っ黒く煤けた肌をした中年男性のような風貌をしている。
人へ取り憑く性質があり、憑かれた人間が心の奥底に秘めた小さな悪意や負の感情を増大させ殺人を引き起こさせる邪悪な怪異。
ほんの些細な不平不満であっても、オヨツに憑かれるとその不平不満を動機として躊躇いなく他人を惨殺できるほどの強い悪意へと昇華される*22。
オヨツによって憑かれている間は本人の意識がほとんど失われ、結果凶行を終えた後は正気へ戻って茫然自失と化す。
憑かれた人間は表情が異質なものへと変容するが、逆を言えばそれ以外に区別は不可能。
しかし最大の問題は、オヨツに憑依された人間の近くに誰かが近寄るとその近寄った人間へオヨツが憑依してしまう事。このため昔の人間は大いにオヨツを畏れたという。
劇中ではキャンプ場に訪れた泉豊へ憑依し、深層心理に眠る他者への不平不満を殺意に変えて連続殺人を実行させていたが、妻である加奈子が夫の罪を高田へ被せるためキャンプ場にいた人間を全員殺そうと決心*23、オヨツの次の憑き先であった蟻村を殺したところでオヨツが今度は加奈子へと転移し、加奈子は助けようとしていたはずの夫を殺害してそのままキャンプ場の外へと進出。
その後加奈子を逮捕・聴取していた警官に転移して加奈子を射殺させ、オヨツは人間社会へ伝播していった。
結果として裏バイト世界では、オヨツの影響なのか「何者か」によって老若男女が犠牲にされる凶悪殺人事件が多発する羽目となる。
覗き魔
映像編集のエピソードで登場した、映像業界で有名とされる怪異。
外見は惚け顔で額の禿げ上がった小太りの中年男性と、おどろおどろしさはまるで皆無。
映像記録媒体に写り込む事で怪談扱いされており、業界内では「編集で覗き魔を消すと実体化して殺される」と噂され恐れられている。
だがその実態は寧ろ真逆で、覗き魔が写り込んだ映像媒体を基点に、覗き魔の視界から対象が離れると実体化して対象を襲うというのが覗き魔の真実。
そのため、覗き魔に見られている状態でパソコンの画面から離れてしまえばアウトとなる。
実体化した覗き魔は外見こそ中年男性だが、身の丈は2m近い巨漢。
実体化を果たした覗き魔から襲われた人間は映像媒体へ永遠に取り込まれ、コマ送りにすると悍ましい苦悶の表情を浮かべた姿を一瞬だけ見せるようになる。
対処方法は覗き魔から映像越しで見られている間に編集作業で覗き魔の姿を削除する事。ただし、この手段も別のパソコンから多角的に覗き魔から見られていればアウト。
マストに次いで数少ない明確な対処方法が確立された怪異であるが、その事実は主人公2人以外に伝わる事はなかった。
その後は編集作業による削除を逃れたのか、完成したCMに一瞬映り込んでいる「誰も知らないオッサン」として覗き魔と犠牲者の姿の目撃談が都市伝説と化して語られるようになってしまった…。
エヴァルス
「クスクス」「フフッ」「クスクス」
農業手伝いのエピソードで登場した、〇〇県織田ファームで栽培されている新種の果物。
…という名目だが実際は別次元の世界にあると思わしき果実。
外観はハニカム状の紋様が浮かび、ルビーレッドに輝く宝石のような果皮が特徴的。
果実自体に知性が備わっているようで、絶えず畑へ迷い込んだ生物を嘲笑うかのような笑い方をしている。
その正体は知恵の実の逆バージョン。
食した者の自我を侵食して肉体を乗っ取り、食べた者へ成り代わる性質を持つ。
エヴァルスに乗っ取られた人間の表皮にはうっすらエヴァルスと同種の紋様が浮かぶので、そこで一応区別できるが普通に見ただけで判別は限りなく不可能に近い。
逆に食べた者は退化し、目から虹が溢れ出すかのような演出の末に自我は後述の「猿」となって体外に排出されてしまう。
食べた量に比例して侵食度が上がっていくため、一応1〜2口程度齧っただけなら猿に堕ちる事はない…が、調子に乗れば自我を侵食され猿化する。
こうして人間の肉体と知識を得たエヴァルスは、仲間を増やすため人間の文明技術をフル活用してエヴァルスの被食を推し進めていく。
劇中では動画サイトやSNSを活用する事で「織田ファームだけで食べられる極上の絶品フルーツ」として情報を拡散させていた。
裏バイターを利用しての収穫も、全てエヴァルスが自身の被食者を広めるために仕組んだ工作の一環である。
ただし、あくまでもそういった「生態」の植物故、エヴァルス自体に人間を脅かすような悪意はない。
そもそも果実は「繁殖戦略として動物の食料になる部分を種子の周りに発達させ、食べられる事で動物の体内を通じて種子の散布を行う目的のために進化したもの」だと考えられており、エヴァルスの進化もその矛先が人類などの知的生命体に特化したものなのかもしれない。
よってユメの異能が効かないタイプの怪異である。
なお、エヴァルスが群生する畑は炎天下の真夏日を彷彿とさせる猛暑が絶えない異界で、暑さに負けて果実を食べやすくなるよう仕向けられ環境からしてエヴァルスには好都合となっている。
作者曰く「エヴァ畑視点では人間界も次元の一つに過ぎない」。
名前の由来は奴隷を意味する英語・slaveの逆読み。
猿
俺が果実を食べたんじゃない! 果実が俺の中に入り込んだんだ!
なんだ!? 無くなった俺はどこに行こうと…!? 嫌だ、人間じゃなくなる!!
退化する! 退化しちゃうぅぅ! 嫌だ嫌だサルになりたくないサルになりたくないあああああああぁぁぁぁぁ
あああっ、あっ、あっ、あっ…
エヴァルスを食べてしまった愚かな人間の末路。
エヴァルスを食べ、自我が体外に「排出」されてしまった犠牲者の成れの果て。
見た目は黒くて醜い毛むくじゃらな猿であり、個体間の外見的違いはほぼない。
ただしサイズ差はあり、中には巨人サイズの猿もいる。
猿となった時点で知性や記憶が著しく退化している上に肉体も貧弱化、自分自身の事や人間だった頃の記憶すらまともに思い出せなくなり寿命の概念すら失ってしまう。
「逆知恵の実を食べた愚かな人類は憐れにも猿に逆戻りしてしまいました」とは作者の談。
ただし、エヴァルスの存在を脅威に感じるというのは意識に残っており、「この果実を畑から出すな!!」という使命感のような欲求に突き動かされエヴァルスを収穫しようとした裏バイターたちからエヴァルスの実を奪い、作業を妨害していた。
よって彼らも悪意で動くタイプの怪異ではなかった…が、猿たちの奮闘も虚しく裏バイターの労力を借りて収穫されたエヴァルスは無事現代社会へと出荷。
Instagramなどを経由して話題となり、更にはテレビを介して新たなブームの火種となる形で流通してしまった。
エヴァルスたちが収穫に向かわないのは、微かながら自我のある猿たちとその身体を奪い去った自分たちが遭遇すれば、妨害でなく殺意を持った襲撃を喰らいかねないからと思われる。
なお作者によれば「存在が摂理に反している」らしく、猿となった時点で人間界には存在できなくなり世界から追放された挙句エヴァルスの畑に事実上幽閉され、数千年以上の時を猿のままエヴァルスの実を守るためだけに生き永らえる羽目となる。
作者曰く「奴隷の如く、農作物を人間共の悪しき手から守るのだ!」「もしかしたらエヴァルスの犠牲になったのは人間だけではないのかも知れませんね」。
前者の言及は猿たちの行動理由と相反するように見えるが、実はそうでもない。
エヴァルスにとって最も不都合な事態は、世界中に蔓延らず一部の人間だけで食い尽くされてしまう事。
その為に繁殖のペースと合わせて果実を持ち出す必要があり、盗人から好き勝手に持ち出されないよう番人が必要なのだ。
つまり猿たちが必死になって人間世界を守ろうとする行動は、皮肉にもエヴァルスにとって都合が良いという話になってしまう。下手をしたらそこまで計算してわざと自我を残している可能性もある。
マダライツヅ
おお、おお、マダライツヅ様、ご転生おめでとうございます。
世に蔓延る人間共諸君を、何卒終末へとお導きください。
探偵助手2のエピソードで登場した、とある古民家で生み出された「何か」。
仲の悪い双子を民家の密室で蠱毒の要領に則って殺し合わせ続ける事で顕現したモノ。
転生後の外見は死んだように虚ろな目をした全身血塗れの子供で、転生前と思わしき姿は髪が真ん中分けされた中年女性。
その性質上殺意の塊だったようで、久々にユメの異能をダイレクトに刺激させた怪異。
作者の談によれば時間の流れが狂っていたらしく、閉じ込められていた密室の中では数十年の時間が経っていた様子。
マダライツヅのいた2階の最深部は4つの扉と3つの和室で囲まれており、原理的には蠱毒の壺と蓋を民家で再現したもの。各部屋の壁は真っ白なお札で埋め尽くされている。
今回の依頼人は、探偵を雇ってわざと和室の扉を開かせる事で封印を解除させていた。
なお扉を開けると有無を言わせず開けた人間の全身が木っ端微塵に砕かれ、壁に人型の染みと化してこびり付く。当然即死である。
依頼人の言動から察するに、何の変哲もない民家自体が儀式の場であり兄弟もマダライツヅの依代となる跡目争いのため、熾烈を極めた仁義なき殺し合いを実行していた模様*24。
なお依頼主は、ノコノコと依頼を引き受ける探偵たちを「この家がどんなに恐ろしいか何も知らん」と冷たく評していたとはいえ、犠牲になった探偵たちを侮辱する気はなかったようで彼らの遺影を英霊として部屋に飾っていた。
作者曰く「苦労の甲斐あって、無事マダライツヅ様がご降臨なされたので人類は滅亡します。その粛清は慈愛なのです」。
今回のエピソードの結果、いつの日か人類がマダライツヅによって皆殺しにされる事が決まったようだ。
幸い、具体的にいつその日になるのかは不明。ファミレスや気象観測、ベビーシッターのエピソードを踏まえると現状約100年先ほど粛清は起こっていない模様。
たった数人の生贄で人類を滅ぼしてくれるとはえらく気前のいい神だが、その執行自体は気まぐれなのかもしれない。
榊原平原
外を見てみろ! 凄いぞ! 今すグ見ろ!
早ク見ロ! みろ見ロミロ
見ロロロロロロロロロロロロ路路ロロロ炉六炉
見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ見ロ
気象観測のエピソードで登場した、何の因果か別次元の異世界と繋がってしまった平原。
曰く「死後の世界」。
UFO・フライングヒューマノイド・空飛ぶ馬といったメジャーな空にまつわるオカルト話は、この平原と繋がってしまった世界の一端が漏れ出して垣間見えただけだとか。
何故か過去に死んだはずの人間が落下死してくるが、その平原自体に危険度はない。
ただし、空を飛んだりうっかり長時間空を観測してしまったりといった場合は話が別であり、虚空のような空間では何か大いなる存在が逆にこの世界を観測している。
その観測者から逆に観測されてしまった場合、空へと連れ去られ何処かに消えてしまう。
気球などの飛行物へ乗ろうものなら一定高度まで達した際に外を見ただけでアウトとなるため、うっかり気球で空に昇った場合ひたすら空を見ず目隠ししたまま、降下するまでやり過ごさなければならない。
一応人類が観測しなければ、あちらからも全く干渉されないのは唯一の救いであろうか。
それよりも問題は「死体が空から落ちてきた」という一点で、後日談では観測日数×××日目*25に平原の空から多くの異世界人(或いは死後の世界の住民)が移住のため舞い降りる事になる。鞄とか虚像とかエヴァルスとかマダライツヅ様とか危険な怪異で溢れる世界に移住…? 正気か…!?
なお、今回の給料袋の隅に「Q」の文字があったため治験や遊園地バイトの異世界と何らかの関係があると思われたものの、結局詳細は分からないいつものパターンでバイトは幕を閉じた。
観測ノ結果…移住ハ可能デあると思われまス。
カエろう。かエロう。かエろウ。カエろう。かエロう。かエろウ。
タダイマ。
解脱猫
納期も迫ってきてるし、バカ共を売りに出そう。
「人生レンタル」の始まりだ!
人材レンタルのエピソードで登場した、〇〇都静川区の人材レンタル会社「宮崎レンタル」で用いられていた呪具。
形状は非常に小さいサイズの不気味な招き猫で、ポーズも通常の物と異なり両腕を互い違いに突き出している。
「自分(の意志)を殺して役になり切る」人間に影響を及ぼす波動を発しており、これに曝されたまま役を演じ続ける事で自己の存在が次第に希薄となっていく。
そのまま1か月ほど断続的に曝露と演技を続けていると、最終的に肉体そのものが消滅する。
肉体が消滅する予兆は「自己の分裂*26」「肉体の歪み」。
そして肉体消滅を促す最終段階として、依頼人の求める故人へ完璧になりきった演技をさせる「人生レンタル」が行われる。
これによって肉体が消滅しても戸籍や資産などの生きた証はそのままなので、犠牲者の残ったモノを裏で顧客に売り捌く行為こそが宮崎レンタルの本業となる*27。
作業を円滑にするため支給品の社用端末へ解脱猫を仕込んで波動を浴びせ続けており、からくりを見破れなかった場合は当然死が確定する。
…のだが、逆に言えば解脱猫自体は単なる波動発生装置に過ぎず、端末本体と手で外せるケースの間に隠されているだけなので簡単に無効化できる。
本編においても初日にあっさりと存在を看破され、会社による謀略は失敗。納期へ間に合わなかった埋め合わせとして社長たちが戸籍と資産を奪われる羽目になった*28。
歴代でもトップクラスに対処しやすい部類の怪異と言える*29。
尤も、本エピソードは怪異関係とは別ベクトルで戦慄の結末を迎えたのだが…。
小滝
殺してやる…呪ってやる、外道共。
琉馬の一族は根絶やしじゃ、覚悟しておれ。この怨み晴らさでおくべきか…
晴らさでおくべきか、晴らさでおくべきか、晴らさでおくべきか、晴らさでおくべきか、晴らさでおくべきか、晴らさでおくべきか、晴らさでおくべきか…
料亭スタッフのエピソードで登場した怪異。
琉馬一族が経営する、江戸時代から続く料亭・琉馬に巣食う怨霊。元は江戸時代の奉公人だったが、当時の一族の2人が後継者争いをしていた中で一方が相手を絞殺した瞬間を不意に目撃してしまった。
小滝は口封じのため座敷牢へ閉じ込められた挙句罪を擦り付けられ、逆さ吊りに遭い惨殺された末に怨霊と化した。
小滝がいる部屋は「開かずの間」と呼ばれ、その部屋に入った者に自身の受けた仕打ちと同じ苦しみを与えて殺害する「逆さ吊りの呪い」をかけてしまう。
呪われた者には「死相」と呼ばれる血痕のような痣が顔に発生。
「死相」が発生した段階で熱病に侵されたかのような体調不良を患った後、暫くしてから生きたまま逆さ吊りにされ苦悶の中で死んでいく。
おまけに小滝は40以上ある料亭の各部屋をランダムで移動するため「開かずの間」は一日の間でも次々に変化する。
なので小滝のいる部屋の有無は、扉へ触れた時にのみ聴かれる「開けて」という小滝の声で判断するしかない。
しかし、既に人がいる部屋でも小滝が移動してきて「開かずの間」となる場合もあるため、声がしなかった部屋なら安全と言い切れる訳ではない。
仮に呪われた場合は呪いが発動して死亡するまでの短い時間の中で「開かずの間」を探し出し、もう一度入る事で「逆さ吊りの逆さ=正常な状態」とする以外に回避の手段は無い。
とはいえ解決方法が明確に発見されるなど、怪異の中では割と攻略難易度は低いと考えられる。
生き馬の目を抜く外道連中が跳梁跋扈する世界だ。
なにしろ件の小滝などは、怨みを晴らすどころか…
死してなお、後継争いに利用されているくらいだからな。
ギャハハハハ!
その実態は今作初の人間を脅かすどころか、人間からやりたい放題に利用されまくっている被害者枠の怪異。
琉馬一族の後継者候補である三兄妹にとって小滝は鉄砲玉扱いに近く、裏バイターを利用して小滝や呪いの習性・法則を調査しつつ、小滝の呪いを使って互いに殺し合う骨肉の争いを仕掛け続けている。
そのため三兄妹は
- 小滝の声を聴いた側:従業員を利用して「お客様からの呼び出しの伝言」という形で邪魔な兄妹を「開かずの間」に向かわせるよう仕向ける。
- 伝言を聴いた側:自分の命を保証するため、裏バイターや他の従業員を疑惑の部屋に向かわせて安全確認(および呪いの身代わり)。
という流れで日々騙し合い及び殺し合いを繰り広げている。作者によれば一応お客様の安全確認も兼ねているとか。
そのため小滝の法則が新たに判明した事が他の家族に漏れるのは都合が悪く、小滝の呪いから生き延びてしまった場合は早急にクビ扱いで料亭から追い出される。
裏バイターを生贄にして調べた内容は移動パターン、移動頻度、呪いや死相の個人差、コミュニケーション能力の有無、好きな食べ物、異性の好みなど多彩。
現在では長年の研究の末、声を聴く前から「開かずの間」か否かを判別できるようになっているなど目覚ましい進歩を遂げたという。
三兄妹に監禁されている父親は「(長男が当主になっても)当主を引き摺り落とす殺し合いが続くのだ。延々と。最後の1人になるまで」と脅えながら述懐している。
ちなみに、現当主である三兄妹の父親もこの呪いを利用した蹴落とし合いを勝ち残って当主になっているあたり、この小滝の呪いを利用した殺し合いは遥か昔から続いている模様。
特異車両
それを見た者は、恐怖のあまり、発狂してしまう者もいるという。
交通量調査のエピソードで登場した、赤刃トンネルに出没する怪異。
便宜上「車両」と呼ばれてはいるものの、実際は「車両」どころか特定の形すら取っておらず、走る変態人型、車に取り憑くアクセサリー老婆、行列を成す干し柿生首といった様々なタイプが存在する。
具体的な性質については不明だが、「対処に手間取ると調査員もただでは済まない」らしく少なくとも安全な怪異という訳ではないらしい*30。
中でも通称「超・異質特異車両」と呼ばれるぶどう集合霊は見ただけで発狂の可能性がある極めて危険な存在となっている。
その正体は、ネット上の噂として広まっている「最恐の心霊スポット」という赤刃トンネルへの「畏れ」が集まって形成された存在。
毎年特定の時期になると赤刃トンネルから溢れ出し、周囲へと流出していくという。
既に対処法が確立されている怪異でもあり、遭遇したとしてもすぐに「これは心霊現象ではない」という別の概念を定義づけてしまう事で無害化が可能。
定義づける概念は何でも良く、その場で「これは〇〇である」と恐れる事なく確信を持って認定されてしまうと「畏れ」が無くなって存在を保てなくなり、断末魔を上げながら消滅する。どう見ても巨大な生首以外の何物でもない奴を「みかん」認定しても有効だったりと、何なら実態に即している必要すらない。
逆を言えば、特異車両を少しでも恐れて定義づけできない場合はアウト。数多の特異車両を恐れず観測し続けられる強靭な胆力と精神力が求められる、「逃げ出したら逆にアウト」なタイプの怪異である。
その一方で定義づけを「対処法」だと知っている=「心霊現象である」と既に定義づけて認識している人間では、逆に対処する事ができないという矛盾めいた性質も持つ。
そのため、対処法は何も知らない人間へ危険性を伝えずに行わせなければならない。
赤刃トンネルの周辺では特異車両の流出を防ぐため、交通量調査の名目で毎年裏バイターを派遣して明らかに無駄に様々な種類が用意された大量のカウンターによって定義づけを行わせている。
作中では応募してきた唯一の派遣された裏バイターがよりにもよって通常の車両の定義の時点で怪しい橙だったため、怪異だと気付かれる事すらなくあっさり全滅した。
主人公2人もしくは橙より知能が高い大多数の人間では遭遇した際に怪異だと定義づけてしまった可能性が高いため、これに関しては橙のお手柄。それと同時に橙と和美が密造酒を作っていたこともユメにバレてしまい、後で和美からユメに叱られた八つ当たりをされるのはほぼ確定。
余談ながら走行する車両の中には、車体にて織田ファームによるエヴァルスの宣伝広告が描かれたノリが軽いから軽車両が存在した。エヴァルスの生息域拡大は着々と進んでいるようだ。
特異車両の幾つかが果物に定義づけられていた事は多分関係ない。
デザイナー(異形人類)
何かが変わっている気がする。そんな気がする。
でも、少し考えて気のせいだろうと思う。誰にでもある。
何かが変わっている。でも誰もそれを知らない。
遺跡発掘調査補助員のエピソードで登場した怪異…を超えたモノ。『裏バイト:逃亡禁止』の世界の神の如き上位存在。
作中では白骨で出現したが、眼窟部分が雪の結晶みたいな異形の形状になっている以外は骨格含め人間そのもの。「もしかしたら元々白骨の姿だったのかもしれない」とも考えられている。
デザイナーは自分たちにとって不都合な歴史や事象が生じると、全てを消し去りもう一度「ある地点」からやり直す形で歴史をリセットしている。
よってこの世界の歴史とは「何度も修正され続け、デザイナーの意図でデザインされた予定調和の歴史」でしかない。
ざっくり言えば裏バイト版歴史の道標。やっている事は「歴史のリセマラ」と考えるとそれなりに飲み込みやすいかもしれない。
この「ある地点」からやり直される際、その引き金を引いてしまった(今回のエピソードで言えば、異形人類やその所業を掘り当てた、或いは見た)人間は全員例外なく死亡し、デザイナーによって書き換えられた新たな人物が配置される。
作者が本エピソードを「致死率100%」と謳っていたのはこの現象が理由。
…とはいえこの歴史操作は何の証拠も残らない訳ではないようで、地中にはリセットされる前の残滓として引き金を引いた者(今回の場合は異形人類の化石を発掘した者)の石像らしきものが残される。
そしてこの石像を掘り起こせばそれが消される前の自分自身である事、デザイナーとそれが行なってきた歴史改変の存在を知覚できる。
だがそれをしたが最後、デザイナーは「歴史のリセット」を行い、それまでの全ての歴史が消え新たな世界が生み出される。(言うなれば歴史のアンインストール→再インストール)
発掘調査に携わっていた平川他研究員は全員これによって死亡し新たな存在が割り当てられていたが、平川は掘り起こした石像(=前の世界の自分自身)により上記の現象を察知する。
それによって平川は「我々が歴史と呼んでいたものは茶番だったんだ。予定調和しか起きない」とSAN値が激減してしまった。
他の研究員は真実に耐えられず完全に発狂したと思われる。
今回の裏バイトでは何の因果かうっかり異形人類の白骨が掘り起こされてしまい、主人公2人と平川たちはそれに伴って発生する怪奇現象に巻き込まれてしまった。
そんな異形人類の白骨が引き起こす怪奇現象の解決法とは、掘り起こされた白骨を破壊する事。
完全に絶望していた平川も和美の発破で立ち直り、上位人類への決別も込めてデザイナーの白骨を破壊した事で事件は解決した。
…とまあここまでなら漫画の王道パターンだが、そんな人類にとって虫の良い感動の解決など起こらないのが裏バイト世界。
平川による必死の足掻きも上位人類たるデザイナーには何の意味も為さず、『遺跡発掘調査補助員』という裏バイトは存在そのものが歴史から抹消。
『どこかのホテルでの裏バイト』という内容に世界は呆気なく書き換えられ、デザイナーを破壊しようとした平川は主人公2人の記憶だけでなく世界からも消し去られた。
この際、どうやら日本(或いは地球?)の創生からやり直したらしくついでに何か気に食わないところがあったのか、
- 北海道の地形が上下逆さまに変更。
- 千葉県の銚子付近の地形が消滅。
といった形に世界そのものが変更。世界と歴史は「そういったもの」と定められ、穏やかに今回の裏バイトは終わった。
デザイナーにはアシスタントと呼ばれる存在が複数おり、いずれも顔が雪の結晶のような異形となっている。
彼ら?には様々な役割が設けられているらしく、上記の「存在そのものを抹消する」破壊者だけでなく近づいても特に害を齎さない報告担当((これまでの歴史が)終わるよ。と警告してくれる)も居る。
どのみち彼らが目撃された時点で「終わって」しまうのだが、ユメの反応からするに破壊者の方へ近寄ってしまうとよろしくない様子。
ちなみに今回のデザイナーの対応を省みると、
- 研究員たちは
SAN値が勝手に削れただけで放置 - 調査を主導した平川も1回目は放置
- 居合わせた主人公2人は記憶を書き換えただけで無罪放免
と案外寛容なところがある。ひょっとしたら彼らが歴史を操作しているのも、ただ理不尽なだけの行動ではないのかもしれない。というか、あれだけヤバい怪異が溢れてるこの世界が滅びていないのは、もしかして…あと、主人公2人がとっくに相当稼いでいるはずなのに借金完済できず連載が続いているのも、もしかして…
よって「怪異の暴威で世界が滅びないよう奔走している存在」と見るべきか、「怪異を放置して世界に蔓延る地獄絵図を看過している邪悪な存在」と見るべきかは読者次第。鞄やマダライヅツ様が人類を滅亡させないのはデザイナーのおかげかもしれない。
作者コメントによると、主人公2人と依頼を持ってきた藍川時子も「致死率100%」の例外ではなく、死亡して次の存在に書き換えられてしまっているとの事。
直接現場に行っていない時子さんまでやられてしまったのは、異形人類(デザイナー)が彼女の手へ渡ることは極めて都合が悪かったのだろうと推察されている。
また主人公2人に至っては前編(最初に「何か」を掘り当てた時点)で一度、その後デザイナーと対峙した事で二度死亡して上記の「無難な裏バイトをこなす役回り」に書き換えられてしまっている。
主人公コンビを実質二度も(本人たちには一切気付かれず)殺害するという暴挙をやってのけた、まさに本作史上最強の怪異と言えるかもしれない。
また、研究員たちは皆発狂して…とはあくまで二度目の平川の推測であり、実際はデザイナーによって破壊されている可能性もある(その場合、何故二度目の平川は発狂していなかったのかという疑問も浮上するが)。
なお、今回の元ネタは「世界五分前仮説」ではないかという説が濃厚。
哲学者バートランド・ラッセルによって提唱された「世界は実は5分前に始まったのかもしれない」という哲学における思考実験の1つである。
誘引者
工場作業員のエピソードで登場した怪異。
作業現場に現れ、この裏バイトの危険性を跳ね上げている要因。
長い手足を持ち影のように真っ黒だが、よく見ると人間のような顔を持っており目は真っ黒で十字線が入っている。
班長の児島曰く「生命に興味がある」らしく、開発された人工知能に引き寄せられて集まってくる。
サイズには個体差があり、小さいものは工場の上を走り回ったり窓から中を覗いているだけで害は無い。
だが大きいものは作業現場に入り込んでくる上、残虐な気質なのか
目があった相手を嬉々として殺す攻撃的な性質を持つ。
このため、作業中はひたすら集中しなければならない。
主人公2人が参加したバイトの最終日には特大の個体が出現、姿を見ていないにも拘らず自分から覗き込んで目を合わせ、数名を殺害した*31。
和美の指示で裏バイターたちが逃げ出した途端なぜか消えてしまい、業務は終了。
他の裏バイターたちへ逃げるように煽動した和美はクビ、ユメも自ら辞める事にして「長く勤めない方がいい」と警告を残して去って行った。
主人公2人が参加した裏バイトによって完成したキューブがお披露目会にてアンドロイド「ルーシー」へと搭載され、人間並みの知性を持ったアンドロイドが起動した。
だがその目は誘引者と同じく真っ黒であり、不気味な笑みを浮かべていた…。
悪魔(仮称)
アーッ アーッ
アーッ アァーッ
ホッ ホッ ホッ
アーッ アーッ
アーッ アーッ アーッ
ぼく赤ちゃん!
ベビーシッターのエピソードで登場した怪異。
悪魔・バフォメットを彷彿とさせる黒い羊か山羊のような頭部を持ち、真っ黒な肉体を持つ存在。
エピソード内で悪魔と呼ばれた訳ではないのだが、黒魔術によって呼び出されたためそう仮定していいと思われる。
ベビーシッターのエピソードにおける元凶で、生贄と引き換えに契約者の望みを叶えてくれる。
尤もこの悪魔は例えるなら『エルム街の悪夢』における夢魔のようなもので、暗闇の中で不気味な鳴き声を上げてこそいたものの直接人間に手を下したりはしない。対応を間違えさえしなければ、それ自体が何かをする訳ではないという点では福ノ神と近いものがある。
本エピソードで主人公2人を脅かすのは、契約者の男・『五木曽 猛*32』の方である。
彼は「親ガチャで失敗したから人生上手くいかない」と自らの境遇を周囲のせいにしている典型的なダメ人間で、黒魔術によって悪魔と契約し悪魔の力で雇用主の家の赤ん坊「りんごちゃん」の魂を追い出して肉体を乗っ取り、生まれ変わろうとする。
ただしタイムリミット*33までに生贄を捧げなければならず、もし間に合わなければ契約者の魂が悪魔に取られ、地獄*34にて終わりなき責め苦を受け続ける羽目になる。
直接人間に手を下さないのは、契約した時点で少なくとも1人分の魂が確約されるというのもあるかもしれない。
五木曽は赤ん坊のフリをして、事故へ見せかける形で2人を殺そうとするが悉く失敗。タイムリミットが迫る中ついに実力行使へと出るが、ユメの異能によって危険と対策を熟知していた2人には通じず、更に外へと追い出していたりんごの魂が2人によって家の中に招き入れられてしまう。
これによってりんごに肉体を奪い返され、ついにタイムリミットを迎えて悪魔に魂を奪われる。
そしてりんごが波乱万丈ながらも幸せな一生を終えたハッピーエンドの裏で、地獄において永遠に苦しみ続けるのだった。計算すると物凄いペースで五木曽を拷問している辺り、生贄の玩具としての五木曽をタイムリミットを前倒しするレベルで気に入っていたという考察もある。
後白村の神
それでは、
無事、忌成成が成就する事を願って。
神々にこの宴を捧げましょう。
雪まつりスタッフのエピソードで登場した怪異で、○○県後白村の神社に祀られている存在。
全編通して登場したのが1ページかつ、描写されたのもごく一部だけのため外見の情報はほとんど分かっていない。上記したように「神々」と称されているが、実際に複数の神が祀られているのかも不明。
後白村において長きに亘り金と引き換えで行われてきた呪術的な暗殺「忌成成」の実行犯であり、「仮忌体」と呼ばれる雪像へ象られた人間を像の制作者の命と引き換えに凍死させる。
標的は居場所やそこの温度に関係なく氷漬けとなるようで、作中ではとある国会議員が自室にいた間で凍死してしまった事が判明している。
一方で制作者は、神に暗殺の成就を願う「あとしろ火伏祭り」の「夜の部」に参加する事で雪像が人に化けている幻の世界の中へと意識が取り込まれてしまい、いずれ凍死する。…が、その取り込みが発生する前に祭りの現場から離れれば無事でいられる。
この「制作者」の判定は制作に関与した部分の割合で決まるようで、村人たちは顔面部以外の全てを裏バイターに作らせて身の安全を確保しつつ、依頼を遂行していた。
なお、人間を凍死させる力の持ち主だからか村での火の発生を極端なまでに忌避する性質を持つ。
その嫌い様はライターや煙草程度でも明確な嫌悪感*35を抱くほどで、村人たちは
- 調理や暖房器具はオール電化
- 夜祭では篝火を使わず、照明は(恐らく電池式の)提灯のみ
- 裏バイターに火気厳禁と伝えた上、村に入れるにあたり所持品検査も行う
など、徹底して火を起こさないようにしていた。
また、祭りの名前の「火伏」とは「火災の害を押さえ込む事」を意味する。
人々が自分たちの金銭的利益のため共謀し、外から来た人間を生贄として捧げているという点は福ノ神と福音島島民との関係を連想させる。
こちらは先述の通り神社に祀られ、忌成成の成就を願う宴や舞も行われているなどちゃんとした(?)信仰の対象として扱われているようである。
燃やせ~~~~~燃やせ~~~~~火は燃やす為にあるんじゃ~~~~~何を燃やすって? そりゃ決まってる。
祭りの会場で黒い匂いを感じたユメは和美と同僚の睦美を連れて逃げるも、和美は幻の世界に囚われることとなった。
幸いにも、村の在り方を嫌って裏バイターに味方する女性・飛田 直美に匿われるも、和美の凍死は時間の問題だった。
どうしても和美を助けたかったユメは村の様子から火こそが神の弱点だと推理し、睦美を問い詰め隠し持っていたライターを拝借。
飛田と睦美が村人たちとの会話を長引かせ時間稼ぎしている間、自身は心の中の和美の言葉に従って黒い匂いの根源である神社へ向かい放火。ユメの心の中の和美のイメージがヒドすぎる気もするが、実際言いそうなので仕方ない。
燃え盛る神社を見た村人たちが「神様がいなぐなる…」とパニックに陥る中、ユメは極めて巨大な人の手が本殿から伸びるのを目撃。直後に和美は「アッツ!」という叫びと共に目を覚まし、生還するのだった。
そのまま神社から離れようとした主人公2人の視界に入ったのは、雪像の残骸・雪解け水と化した村人だったもの。
神様の力を利用して対等だと思い上がっていた村人たちは、実はとっくに神様なしでは存在すら保てない雪像に1人残らず取って代わられていたのだ。
時を同じくして、村人たちと同様に支配下へ置かれていた国会にて答弁中だった現職の総理大臣を含む暗殺依頼者たちも一斉に溶解。
唯一協力的だった飛田も例外でなく、村の全てが幻だった事を理解し身体が溶け崩れ始めたところで本エピソードは幕を閉じた。
そして各エピソードの最後に書かれる恒例の(裏)帳簿において、そもそも後白村という村は日本の何処にも存在していなかったという不可解な事実が明らかとなった。
村人だけでなく村自体も、神が生贄を呼び寄せるため作った偽物、幻だったとする考察もあるが、詳細は明言されていない。あるいは公の場で盛大にやらかしたせいでデザイナーに村ごと抹消されたか。
なかたりさん
幸せが、死に打ち勝つ事はないと知ってしまった。死に勝るものなんか何も無い。
ああ僕も死にたいよ今すぐ死にたい。
死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい…
なかたりさん。
黒岩案件・特殊清掃員のエピソードで登場した怪異。
黒金木ビルと呼ばれるアパートのクローゼットに巣食っていた「死の王」と形容される正体不明の存在であり、イエス・キリストの如く茨の冠を被った禿頭の痩せた青年のような風貌をしている。
ルーツや由来など何もかも謎のままだが、「なかたりさん」という言葉を発した場合は「自殺」という形で必ず死ぬ点は明らかになっている。
作者曰く「その名を口にしてはいけませんよ。死に撫でられるのです」との事らしい。
また、なかたりさんが居座っているクローゼットを他人が開けた場合も死に繋がる様子。
これまでの怪異とは異なり、存在・習性・法則が最後までほぼ謎のまま詳しい説明もされず終わってしまったので、分類的には空き地探しでのムッキーに近いよく分からない怪異の1つ。
だが、今回の肝はなかたりさんの対処と裏バイトの業務は全くの別問題という点。
なかたりさんによる怪奇現象を乗り越えて、初めて裏バイトの業務が開始されるというかなり変則的なシチュエーションとなった。
元ネタはおそらく1989年に公開されたユルグ・ブットゲライト監督製作であるドイツのホラー映画『死の王』。アニヲタwikiだと『ネクロマンティック』シリーズが有名。
月曜日から日曜日まで、「死の王」により一日毎に様々な「死」を迎えていく人々の姿を一週間に亘り淡々と流すという独特な映画。
「とにかく気の滅入る作品」「自殺のススメ的映画」と形容された問題作である。
成功体
うちゅう。せかい、かみ、こうぞう。
探偵助手3のエピソードで登場した怪異。
生きた人間の脳に直接手を加え、進化した人間を生み出そうとしていた研究所「木谷脳研」の廃墟に潜む被験者たちの成れの果て。
全員が普通の人間から逸脱した存在となっているが、人の姿を保ってはいる。
「精神」「肉体」「超常」「完全」の4種に分類されており、1~4階を各々のテリトリーとしているが上階に続く階段には近づきたがらない。
各成功体の概要
- 精神成功体
1階の部屋にいる成功体。外見だけなら通常の人間と同じで、他と違い複数体描写されている。
常に不気味な笑顔のままで立っており、刺激にはほとんど反応しないが声をかけると「はい、こんにちは」と返す。それも一斉に。
かなり気味の悪い存在だが、数々の裏バイトを潜り続けた主人公2人からは「あれしか言えないのか」とあっさり流された。
生きていると言えるのかも怪しいが、下記の肉体成功体によって首を無理やり引きちぎられて殺された個体もいる。
まともな意思疎通もままならなくなった彼らがなぜ成功例と見なされたのかは、作者も認める考察の余地である。
- 肉体成功体
上の4語を呟きながら、2階を徘徊する成功体。体毛のない巨体と大きな黒い目が特徴の怪物*36。
侵入者を発見すると猛ダッシュで襲い掛かる。追いつかれれば、上記の精神成功体のように残虐な目へ遭わされると思われる。
他の成功体と比較して表情豊かであり、侵入者を襲う際は笑みを浮かべ3階への階段の前では怯えたような顔をして踵を返す。「ちょっと可愛い」と読者間では人気が高い。
- 超常成功体
3階をゆっくり徘徊する成功体。厳重に縫い付けられた顔面の各パーツ*37、肉体成功体と同じ無毛の肌、とても大きな頭部が特徴。
外見の通り感知能力が低く、特に身体の左右は至近距離まで近付かれたり小声で話したりしていても全く認識できないという盲点になっている。
ただし気付かれるが最後、超能力によってその場に浮かされ瞬時に破壊されてしまう。
- 完全成功体
4階の一室に鎮座している成功体。非常にがっしりとした身体や白と黒が反転したような目、そしてワイシャツと蝶ネクタイが特徴。
椅子に腰かけて指を組み、真直ぐ前を向いたまま微動だにしない。主人公2人がレポートを持ち出しても一切無反応。そのため、ユメも4階だけは匂いを全く感じていなかった。
時子はその理由について、完璧な存在になったが故に「この世の全てが下らなくて動く気にもならなかったんじゃないか」と推測している。読者たちからは「つまり全てがくだらなくて動かない俺みたいなニートは完全成功体ってことか」「俺も働く気にならない」とニート扱いされた。完全成功体は「やれる」けど「やらない」だけなので、残念ながら別物です。どちらかと言うとニートは完全しっぱ(ry
怪異としては、攻略法があり見つかっても普通の死を迎えられそうなだけかなり有情な方と言えるか(精神と完全は無害に等しいし…)。
なお上階への階段を避けるのは、階層がそのまま成功体たちの格の差を示しており、上にいる自身より完璧な存在に恐怖しているからという考察がある。
そう考えると、「彼ら」が地下に潜んでいるというのは、どこか皮肉めいたものが感じられる。
手
わからない。今生きている人間でわかっている人間は1人もいない。
ただ、脈々と受け継がれているんだ。軍手落としをしないと、
人類は3秒で滅びる…と。
黒岩案件・軍手落としのエピソードで登場した怪異。
その姿は空から降り注ぐ巨大な手、そして空から俯瞰する異様な単眼。それ以上の事は全く以て分かっていない正体不明の怪異。
特徴としては、『軍手落とし』での違反行為を行なった人間を問答無用で抹殺する。
具体的には「落とした軍手を動かしてはならない」「軍手落としの目的を探ってはならない」という条項の違反者がターゲット。
もし違反してしまえば屋内外問わず、空から肉眼ではほぼ知覚不可能なほどの超高速で降り下ろされる手によって一瞬で潰殺される。
加えて死に方も突き立てた人差し指、拳骨、平手で叩き潰す、指で摘まむ、チョップで圧殺など無駄にバリエーション豊富。
ちなみに振り下ろされる手によって死ぬのは違反者のみ。違反者が肉片すらまともに残らないレベルで潰される以外は周囲に破壊は起こらないので、例え屋内であってもその建物自体には全く被害が及ばない。
なお、この判定は極めてシビア。
不安と恐怖に駆られて軍手落としがどのように行われたのかを地図アプリ等で探ろうとすればその時点で死が確定、無事軍手を落とせたとしてもその後他人にゴミとして拾われてしまえばその時点で軍手を落とした人間の死が確定する。
端的にまとめれば「バイト内容を少しでも考察しようとした奴絶対殺す怪異」とも言い換えられる。
よって当然、人類側はこれがどんな怪異なのか一切把握できていない。そして読者側もどんな怪異なのか、何故人類が滅ぶのかも全然分からないままである。黒岩案件こんなのばっかりか
見方を変えれば怪異によって殺される条件が初めから明言されていたため、怪異の中ではまだ優しい部類に入る…のかもしれない。
作者によれば「お手付きという事でしょうか*38。それはまるで盤上遊戯のようですね。つまり何者かが遥か高みから愚かな人類の命運を賭けたゲームをしていた」と仮説を立てている。
今回は作者も軍手落としの意義をいつも以上に明確にしてはおらず、「軍手落としというものは、色々な仮説があるのです。皆さんも色々考えてみると面白いかもしれません。もれなく空から手が降ってきますよ」と曖昧なままにしていた。ちなみに作者にも空から手が降ってきたが、ゾンビなので頭に絆創膏だけでセーフ。
そしてこの項目も、「軍手落としの目的を探ってはならない」に違反したためアウトだと思われr…
👇
「あっ」
とことこちゃん
きっとあの子が引き寄せてたんスよ。
マジでこの世の終わりみたいなの。
負のオーラヤバかったっすもん。
あの子のファンみたいなものかな。
コンビニスタッフのエピソードで登場した怪異。
ナインマートと呼ばれるコンビニにかつて常連客として通っており、車に轢かれ亡くなった少女の霊が怪異化したもの。
その顔は、中央部に無数の顔のパーツが無理やりねじ込まれたかのように混沌としている。
深夜の勤務時間帯に実体化して店内を徘徊し、スタッフに対して何かを訴えかけ続けるがその内容は日に日に鮮明になっていき、1か月ほど経てばはっきりと聞き取れるようになる。
また、店内にはとことこちゃんが持つ強烈な怨みの念に惹かれ、無数の怪異が集まっており彼女と同じく徘徊を繰り返す。
しかし彼女も彼女に惹かれてきた怪異も、明確に怨みの矛先を向けている相手以外には一切害を為さない存在であり、主人公2人より前に深夜帯勤務を経験した人物もしっかり生還している。
このため裏バイトとしての難易度は格段に低いものの、彼女に関する事件が作中で初めて明らかになったところを見ると、その異様な環境に耐えられず辞めていった人の方が多かったのだろう。
最終的に主人公2人が1か月間勤務を続けた事により、とことこちゃんの訴えが鮮明化。ある意味怪異などよりも余程痛ましい事件の全貌が明らかになった。
その後のナインマートは間もなく休業、事件の関係者やとことこちゃんがどうなったのかは不明のままとなっている。
ムダイ
その本の内容は一定ではない。
即ち、「読むものが最も欲している情報」が書かれているらしい。
図書館スタッフのエピソードで登場した怪異…が生み出した副産物。
表紙も中身も全てが真っ黒な本でタイトルは無く、噂では誰も知らなかった真実が載っていたり、歴史的価値のある古書であったり、希少価値が極めて高い本として知られている。
その実態は、「裏」の図書館を徘徊している後述の怪異が、今なお吸収し続けている無尽蔵の知識の中から産み落としたウ〇チ副産物。このため本の内容は「読み手が最も欲しがっている知識」が写し出される性質を持っており、読み手が違うと内容も異なってくる。
ただしそれ自体はあくまで収集された知識の塊に過ぎないため、「この世に存在しない事象」を求めても「無い」の2文字で済まされるなど、得られる知識には限界がある。
怪異が「裏」の図書館にしか居ない以上、ムダイもまた「裏」の世界にしか存在しない。
「裏」の世界に迷い込んだ人間がムダイを手に取って読んだとしても、「裏」から「表」の世界に戻るとその内容は忘れてしまう。
ただし、このムダイを「表」の世界に持ち出せれば話は別なのだが、持ち出そうとした場合は怪異がそれを妨害してくるため非常に困難。
このためムダイを「表」に持ち出すには、「裏」の入り口付近にムダイが現れたタイミングを計って「表」の世界から「裏」の本棚に手を伸ばして取る以外に方法はない。
ウライブラリィ
お、おぼっおぼっおぼぼぼぼぼ…
宇宙宇宙宇宙宇宙宇宙!
上述のウ〇チムダイを生み出している怪異。
屈強な大男の風貌をしているが、その身体は無数の線のような管によって構成されており顔のようなものは存在しない。
名前は絶妙にダサいので本編には登場せずちょい足しからで、「裏」と「ライブラリィ」を合体させたもの。
「完全情報体」という存在になるため無限に本が並ぶ「裏」の図書館を徘徊し、身体を構成する管を触手のように伸ばして対象から情報を吸い上げる。
その情報を実物化させたものがムダイであり、有象無象の知識の集合体という事になる。
基本的に自ら進んで人間に害は及ぼさないが、ムダイを「表」世界に持ち帰ろうとする者には容赦なく襲い掛かり、その管を相手の脳に突き刺し大量の知識を一気に流し込む。
知識を流し込まれた人間は、脳のキャパシティが限界を超えても入り続けてくる「暴力的情報」に宇宙宇宙されて正気を保てなくなり、風貌は一気に老け込みやがて廃人と化す。別に「ハロウィン!」としか言えなくなる訳ではない。
途中でムダイを手放すなり、持ち帰るという意思を無くせば見逃してもらえるよう。
ただし、図書館司書の花巻によれば「裏」から帰ってこなかった図書館スタッフも居たようで、最後までムダイを手放さなかった場合どうなるのかは不明。
たつ子
「たつ子」連作は本物の芸術です。
見る者に「恐怖」を伝える。
伝える事ができるのが本物のアートの条件なのですから。
美術館スタッフのエピソードで登場した怪異。
上坂象太郎という芸術家が作成した人形・絵画・彫刻等の作品全般を示し、基本的には瞳が縦に並んだ不気味な表情をした和人形のような姿をしている。
この作品群は2人以上に見られていないと動き出すという特徴を持ち、雇われた裏バイターの役割は閉館後この作品が逃げ出すのを防ぐための見張り。
だが、事情を知らない裏バイターがすぐ戻るから大丈夫だろうとトイレに立ったことで、多くの作品が脱走してしまった。
その特性は自身を見た者をショック死させるほどの恐怖を与え、さらにその恐怖を伝播させる強力なミーム汚染。
たつ子に関心を抱く人間の精神を汚染し、自身の幻覚を見せて恐怖心を増大させ、やがては精神をも蝕み死に至らしめる。
更に言えば見られている間も動かないだけであって、ミーム汚染の性質はそのまま。
そのため前回開催された作品展では、大勢の観客が発狂あるいは死亡する惨事が引き起こされた。
作品に興味を持たない人間には効果が薄いものの、恐怖を抱けばそれを増幅され最悪の場合は死亡してしまう。
逆に言えば何らかの方法で感情を押さえる、もしくは無にすれば被害を受けずに済む*39。
ちなみに逃げ出した作品はどうなるのかというと、各地に散らばって感受性が高い人間にだけ見え、恐怖を植え付ける幻覚のような怪異となる。
こうしてたつ子を見た人間の何人かが恐怖と共にたつ子の存在を媒体に記録し、その媒体がまたミーム汚染を引き起こす動く作品となる*40。
こうやってたつ子は際限なく増えていくのだ。
あのね、真っ暗なね、部屋の奥にね…
「立つ子」がいるの。
高井津村の住民
贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。
贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。
贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。贖え。
黒岩案件・墓参り代行サービスのエピソードで登場した怪異。
物語の舞台となった藤吉町に、かつて存在していた高井津という集落で暮らしていた人々。作者曰く「高井津ゾンビ」。
しかしある飢饉の際に「口減らし」の名目で、藤吉町の前身である藤吉村の住人によって皆殺しにされた。
霊園内には「高井津之墓」と書かれた墓石があるが、これは人名ではなく集落の名前。
村人の目的は自分たちを抹殺した藤吉村の人間を生贄にし、彼らに代わって現世に復活する事。
藤吉村は高井津村を下層民と見做して奴隷のような扱いを繰り返しており、挙句の果てに村民虐殺へ踏み切ったという。
藤吉町に存在する心の歪な人にはアレに見えると評判の「おんぶ地蔵」は、かつての高井津と藤吉の関係を表しているとされる。
霊園の周囲に鳴り響いていた「コーン」という音は、高井津村の人々の魂を呼び寄せる「召還の儀」で使われた柄杓によるもの。
これにより今生きている人間の魂を生贄とする事で、高井津村の人々が現世へ復活する足掛かりとなる。
彼らは藤吉村の子孫たちの罪悪感を煽り自罰意識を植え付けた上で復活の生贄にしたようで、物語開始時藤吉町には既に人っ子1人いない状態だった事から、既にほぼ全ての町民がこの「召還の儀」の犠牲になっていたと思われる。
なお、怪異としては他人の人間に憑依して肉体を乗っ取るというシンプルなもの。
自分たちを滅ぼした藤吉村の子孫には恨み骨髄に徹す反面、藤吉村の人間以外に対しては基本友好的な存在である。
ただし、話を信じやすい善良な人間はターゲットにされてしまう。
逆を言えば疑り深い人間ほど生存の確率は増していくが、生贄にするかの最終判断は高井津村の村民による独断と匙加減次第なので相変わらず生存率は運ゲー。
本編では主人公2人を含む裏バイター4人と、藤吉町出身である雇い主の日高主任を襲って復活を遂げるもその過程で裏バイター4人が藤吉村とは縁もゆかりもない人間だと分かり、殺しはせず手厚く迎えている。ただしユメと和美以外は高井津村の村民として取り込まれてしまっているので、厳密には生存できていない。
逆に裏バイターを身代わりにして高井津村の「召還の儀」から逃れようとした主任は、その卑劣な所業を咎められ然るべき処置を施された。
かくして高井津村を虐げていた藤吉村の人間は全滅、正義の復活はここに成ったのである。
めでたしめでたし。
善良な人ほど、騙されやすいのです。
…しかし日高主任が事前に役所へ確認した際には、村民を虐げていたのは寧ろ高井津村の方であったという記録が残っていた。
飢饉の際にも、口減らしのため高井津村によって藤吉村民の虐殺が計画されていたが、藤吉村から反乱に遭って逆に全滅させられたという。
だが既にその真実を知る人間は死に絶え、更に藤吉村と通じる者も根絶やしにされた今、最早確認する術は存在しない。
そもそも肝心の役所での記録も「真実」か否かは分からない。
本当に悪かったのは高井津村だったのか、はたまた藤吉村だったのか。真実を知るのは過去の当事者であった村民のみ。
善悪二元論で当て嵌め区別する事自体が、今回の怪異に取り込まれてしまうトリガーなのかもしれない。
善良な人ほど、騙されやすいのです。
ご愁傷様です。
しーマン
人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙
人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙
人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙
人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙 人生乙
動画配信ゲストのエピソードで登場した怪異。
グレイタイプのエイリアンのような姿をした異形の存在。沈黙を促す、唇の前で人差し指を立てるポーズも特徴。
裏バイトが世の中に広まるのを防ぐ抑止力的な存在で、裏バイトの内容を広めようとしている人間の元へ現れては存在そのものを消してしまう。(作者曰く「しー」される)
本エピソードでは他に、配信を見ている視聴者のフリをした怪異が登場しており、彼らによって消されるか否かの判断が下される模様。簡単に言えば怪異による垢BANならぬ人生BAN。作者曰く「読者が怪異になった気分を味わえる話にしてみた」との事で、やたらと現代臭いコメントをしまくる怪異が登場している。
「ふざけたノリで他人の人生を勝手に終わらせようとしてくるあたりも現代っぽい」といった意見も。
自主的に裏バイトの内容を語るなど話を広めようという意志がなければ見逃されるようだが、厳密な判定基準は不明。
しーマンが出現するような事態は、怪異たちから「しーマン案件」と呼ばれている。
荒木源一郎
もう少しで、私の頭脳は神の領域に達する。
馬鹿が障害になどなるものか。
実験助手のエピソードで登場した怪異。
正確には「荒木源一郎」を名乗る存在であり、真の名称は不明。
某有名映画のドクにそっくりな老年男性で、何度もノーベル賞の受賞経験がある超優秀な研究者。
その正体は他者の肉体に自分の自我を移送し、乗っ取る事で生き永らえてきた存在。
自身の知能・知識・知性に絶対の自信を抱くと同時に強く執着しており、約1000年もの間に9人もの若くて健康な肉体を乗っ取っている。己の乗っ取ってきた人間を「低脳」「バカ共」と侮蔑するなど性格は傲慢そのもので、犠牲者の成れの果てである干し首をネックレスにして身につける悪趣味な面もある。
図抜けて知性が高い上に人間社会へ溶け込んでいる点も含め、悪辣かつ危険な怪異と言える。
そして現在の肉体の加齢から、10人目の肉体を選定すべく裏バイターを募集した。
若さや健康面に加え、乗っ取りに感づかれなさそうな頭脳面も重視していたのか主人公2人は不採用となる。
そして誰が採用されたのかというと、あの橙。「自分で考える知能すら持ち合わせていない」点が採用ポイントになったようだ。
荒木の乗っ取りの手段は、「電脳イス」という2台の椅子型装置を用いたもの。受信用の椅子に座らせた被験者の脳が「受け皿」として使えるよう調整を重ね、それが済んだら送信用の椅子に座った荒木の人格のコピーを被験者に移送して肉体を乗っ取る。
荒木は乗っ取りが問題なく終わるよう、数日かけて橙の脳に調整を加えていく。
橙は過去の犠牲者からの警告を発見するも上手く理解できず、命じられたラボの掃除に終止してしまった。
順調に進んでいるように思えて、大笑いする己の背後でつられ笑いするなど奇行を見せる橙(※いつも通り悪意は無い)にどこか落ち着かないソワソワした感覚を覚えながらも調整を進めた荒木は、遂に乗っ取りを実行する。
「電脳イス」での人格乗っ取りには流石の橙も「ああ…あああああッ」「ああああああっ」と叫び声を上げ、「フハハハハ…! どうした!? どうした篠月君!?」と荒木が声高らかに喜びを顕にする中で無情にも装置は進行していく…
サーセン! この椅子逆でした!
実は乗っ取りを実行する前日、橙は勝手に機材を動かしてラボを大掃除しており、片付ける際に送信用と受信用の椅子の位置を間違えて入れ替えてしまっていた。(※いつも通り悪意は無い)
それが意味するのは、荒木の目論見とは反対に、橙の自我が荒木へ移送されるということ。
急いで脱出しようにも、他ならぬ荒木自身が付けた「電気信号が脳に干渉して、首から下は動かなくなる」機能と手枷に阻まれる。そして荒木が放心している間に無情にも装置は進行していく…
この大ポカが明らかになると同時に、荒木は橙が来てから感じていた謎の感覚の正体にたどり着く。
それは、自身の超頭脳を以てしても理解不可能な超・超・超弩級の低脳である橙への恐怖。
荒木は何とか意識を保ちつつ橙の自我をブロックしようとするも、迫りつつある知性の喪失に怯え情けなく命乞いまでする始末。
勿論、橙がこの状況を回避できる妙案を教えてくれるはずも、そもそも思いつけるはずもなく「今晩は舞茸が食べたいッスねえ…(クッキングパパみたいなアゴになりつつ)」だの、装置のシュピシュピした感覚がサイダーに似ている→「…サイダー…飲みたくないスか?」など橙による脈絡のない思考回路に振り回されるばかり。
自我を侵される感覚に悲鳴を上げたものの、最終的には見開きを埋め尽くすほどの橙の自我へ完全に侵食され「ま、いっか!」と笑顔に落ち着いた。
こうして約1000年もの間、無辜の人々を犠牲にしながら生き続けた怪人は己が他者に与えてきたものと同じ恐怖を覚えながら自慢の知性・自我を橙のそれに上書きされるという、因果応報の惨すぎる末路を迎えたのだった。
ノーベル賞級による千年の叡智も同時に消失するも、荒木本人は既に頭が橙レベルなのである意味幸せそうなのが救いといえば救いである。
荒木の脳は受け皿としての調整を受けていないため、完全に自我が複製された訳ではないと思われるが細部は違えど橙が2人に増えた形になるため、作中世界に負担がかからないか心配。やっぱり橙主役回はギャグ。
なお、よりにもよって橙を採用した点については読者たちから「橙を採用した時点で賢くないな」「こいつの頭の悪さはあんたがコントロールできるレベルじゃねーんだ」とボロクソにこき下ろされている。
そして、初登場時の橙を乗っ取りかけたマザー・フィッシュはまたもや株を上げる形になった。
このエピソード内と『ちょい足し』にて荒木視点から見た橙も描かれたが、一部の怪異からすれば橙は理解不能な言動をする怪異そのものに見えるようだ。あながち間違いとは言い切れない。
干し首
「荒木の言う事を信じるな」
ニゲテ
「このノートが荒木の雇う助手の目に触れることを祈る」
荒木による乗っ取りの犠牲者たちの成れの果て。
見た目は皺くちゃになった、手とほぼ同じサイズによる人間の頭部。肉体を乗っ取られただけでなく荒木により数珠繋ぎにされ、ネックレスにされるという尊厳も何もあったもんじゃない扱いを受けている。干し柿
荒木の首の真後ろにいる個体だけは未だ意識を保っているようで、声を出したり血涙を流したりといった反応を見せる。
真後ろの個体は荒木による乗っ取りの犠牲者が増えるのを望まず、こっそり声をあげて橙に逃亡を促すも、荒木から聞かれてしまい眼球を指で潰された。
結局、橙には生きた人間と認識される事は無かったものの、紆余曲折あって荒木の野望が潰えた際はこれ以上犠牲者が増えない事に安堵しつつ、橙に「アリガトウ」と感謝を述べた。
スーパーマーケット
「怪人」とは一体なんなんだろうね。まあ、あれの敵には違いない。
「怪人」に関わりすぎると、あれに敵視される。
そう、「あれ」…「あれ」に皆、
スーパーマーケットに、支配されている。
スーパーマーケット店員のエピソードで登場した怪異。
分類としてはおおいなるものと同様に「強大すぎて全体像がはっきり見えない怪異」に該当し、本編でも得られる情報が限定的だった。
この怪異自体、通常なら人間に何か危害を加えるような存在ではない。
では何をしているのかというと、人間の支配である。
人間は生活するため役割を果たさなければならない。
自分あるいは家族の為に日用品や食材をスーパーなどで買い、食事を作り、掃除洗濯をする。
当たり前すぎて自覚がないものの、生きていく限りこの日常のルーティーンからは逃れられない。
この絶対に逃れる事のない「日常という名の檻」へ人間を閉じ込め、飼育する存在がスーパーマーケットなのだ。
…つまり、『スーパーマーケット』という施設そのものが怪異の正体といえる。
作者によれば、スーパーへ通う客は奴隷でありどれほど怪人が殺人を犯しても客足が途絶える事はなく、警察であろうが抑止するのは不可能のようだ。
繰り返すが、閉じ込められている人間にこの怪異が何かをする事はない。
だがこの支配に気付いて「無限に繰り返され続ける日常の牢獄からの開放」を願った、言わば反逆者には容赦しない。
凄まじい力で引き裂かれ、望み通り日常から(物理的に)開放される事になる。
また怪人に接しすぎた場合や、日常の檻の存在を自覚してしまった者も攻撃の標的にされるため、一度トリガーが引かれれば極端に危険度が上昇。
こうなると一刻も早くスーパーから逃げ出さなければ、スーパーの手で殺害されてしまう。
怪人
やっべ!! わかっちゃった!
解放されたんだね。
「怪人」は皆のヒーローだったんだ。「怪人」は沢山いる。
奇妙な仮面とマントを身に着けた怪異。
スーパーの店内にてあの手この手で人間を惨殺している犯人だが、この怪異自体にユメの嗅覚は反応しなかった。
つまりこれは、人間の意に反して命を奪うような怪異ではないのだ。
では何が目的なのかというと、人間の開放である。
作中のセリフによると前述のようにスーパーマーケットの支配に気付き、日常から開放された者が怪人へ変化する。
真実を教えてあげたいと怪人が願う者の前へ付き纏うように現れ、詳細は不明なのだが何らかの方法でスーパーマーケットの支配に気付かせ、解放された者が新たな怪人へと変貌。
客を猟奇的に惨殺して休業へ追い込むような嫌がらせへ励むようになる。
もしも支配されたままであっても日常の中で暮らす事を望むなら、怪人には一切関わらずスーパーマーケットから敵視されないようにするしかない。
その仔細はスーパーマーケットの店員にすら理解されておらず、スーパーマーケットの敵という認識しかされていない。
ちょい足しによれば、客を小間切れに解体するなどして惨殺していた理由は「(ヒーローとして)スーパーマーケットへの嫌がらせのため」とのこと。
「青鬼さんみたいなものなのでしょうか」「解放希望者のみ解放してくれますよ。こう書くと公務員みたいですね」とは作者の談。
グリュムフリート
郷愁に誘われてここまで来たクチかの? 若者よ、そんなものは幻想、
偽物なのじゃよ。
ノスタルジーとはそこに引き込むための甘い餌に過ぎんのじゃ…
公園管理員のエピソードで登場した怪異。
〇〇県の南黄公園に巣食っており、成人男性をゆうに超えるサイズの頭部と枝分かれする触手状の無数の口吻を備えた怪獣のように巨大な蚊の化け物。
作者曰く「お馴染み蚊の王」。
普段は公園内にある異界(作者曰く「キングゾーン」)に潜み、18時になると公園内にいた人間をキングゾーン内に攫い神隠しに遭わせる。
こうして攫った人間たちの頭に口吻を刺し、人生を狂わせる麻薬成分*41を脳へ分泌しながら「血どころじゃない何か」をチューチュー吸い続けるという。
麻薬成分を分泌されトリップ状態になった人間の夢は、キングゾーン内の全員が共有可能。
夢の中では己の思い描く理想の未来や姿を体感でき、こうして犠牲者たちは理想の夢に溺れながら現実では蚊の生き餌となり続ける。
存在が一切知覚できないわけではないらしく、現実世界でもチラチラ黒い枝のような触手状の口吻が顕現し、公園の人間を狙っているかのような演出がなされている。
また、キングゾーン内は「黄金に輝く場所」と形容される強烈なノスタルジーを体験させる作用があり、ノスタルジーに囚われて同じ体験を求めた者は例え生還したとしても郷愁を求め、再度キングゾーンに向かってしまうケースもある。
キングゾーンから逃れるためには新しく餌になりうる人間が18時に公園へ足を運ぶしかなく、いくらノスタルジーに吞まれなくても条件を満たさない限りキングゾーンからは永遠に出られなくなる模様。
「ずっといると帰れなくなる」らしいが、厳密には「ずっといると(蚊の王の餌食になり)帰れなくなる」と表現するのが正しい。
ちなみに名前も含めた生態は一切本編では解説されておらず、そういった詳しい生態が明らかになったのはちょい足しによる解説から。
人魚
「この動物の被り物してりゃさ、人間がやったってバレないんだよ。
だから人魚の呪いを受けない」
「でも、なんかそれって卑劣じゃね?」
「卑劣? そんなん人間の価値観の話じゃん。
人間じゃねえし、コレ」
仲買人のエピソードで登場した怪異。
外見的にはフィクションの「人魚」にほど近く、女性的な表現が成されている。
「人魚の肉を食うと不老不死になれる」として富裕層に大変人気があるらしく、地下の専用の卸売市場にて取引されている。
買い取られた人魚は様々な方法で調理され、金持ちに振舞われているらしい(劇中では活け造りの様子が描かれていた)。
ただし人魚に関わった人間には「人魚の呪い」が掛かり、変死を遂げるとされている。
呪いを受けないようにするには「人間が人魚を殺した」のがバレなければいいと言われており、そのため地下の仲買人は全員動物の被り物を着用している。
でも、ありゃ嘘だ。
だが、実は人魚の呪いが掛かるという情報からしてガセであった。
ついでに言うと肉には不老不死の効果もありはせず、扱いとしては超高額で売れるレアな魚でしかない。
死んだ裏バイターは、染み付いた人魚の臭いを目印にして追ってきた人魚に復讐として殺されたのである。
なので動物の被り物にも意味はなく、裏バイターを安心させるための口実に過ぎない。
ちなみに女性の方はオーソドックスな人魚の姿だが、男性側の方は人間らしい四肢を備えた屈強な半魚人のビジュアル。
尋常ならざる嗅覚を持ち、同族の匂いをした人間を標的にストーキングして奇襲を仕掛けられるのが特徴。
業者は「染みついた匂い」に反応して襲ってくる事を予め知っていたため裏バイターを雇って取り引きを行い、地下には行かない自分たちは絶対に安全だと考えていた*42。
対処方法としても風呂に入り徹底的に匂いを落とすだけでいいが、長く続ければ続けるほど匂いが染みつくようになり危険度が跳ね上がると思われる。
しかし業者は一つ、重大な思い違いをしていた。
それは人魚が他の魚と同様、いつまでも狩られる立場に甘んじているということ。
人魚が人間自体に復讐を始めるなど想像もしていなかった。
その思い違いとは裏腹に、夥しい数のメスを殺され怒りに燃えるオスの人魚たちが大群を率いて上陸を始めたのだった…。
彼らは「裏バイターたちに染みついた仲間の匂い」でなく、「人間の匂いそのもの」を覚えてしまった可能性が示唆されている。
…とはいえ、マダライツヅやりんごちゃんのエピソードの描写・設定や脅威ではあるが「物理的」な範囲を出ないこと、メスとはいえ狩り方が確立されていることから相応の死傷者は出ただろうが、撃退されたものと思われる。
麗賓倶楽部
テーラー(販売スタッフ)のエピソードで登場。
最初に断っておくが、これを怪異と称していいのかどうかは少々判断に迷うところ。
というのも超自然的な存在や力は一切関わっておらず、ただのセレブが集う会員制の倶楽部でしかない。入会には会員の推薦が必要。
女性専用という訳ではないようだが、作中に登場する会員は女性ばかりだった。
この倶楽部は一見するとアパレル業界の人間が集う集会なのだが、外部からは「変態倶楽部」とも呼ばれている。
その理由は麗賓倶楽部が扱っている製品にある。
ここでは人間の皮を使った製品が数多くお披露目されている。
入り口にある虎の皮の敷物ならぬ人間の皮の敷物に始まり、人間の顔を丸ごと使った椅子なんてのもある。つまりこれに座ると顔面騎乗状態になる。
その中でも最も重要な商品は「スーツ」。
スーツと言ってもサラリーマンが着ているようなスーツではない。
前述したように麗賓倶楽部の製品は全て人間の皮が使われている。つまり麗賓倶楽部のスーツとは、人間の皮を丸ごと剥ぎ取ったもの。
倶楽部は一見すると若い女性ばかりだが、実際の会員は大多数が老人。
老人は若い女性の皮でできたスーツを身につけることにより、若々しく美しい姿となっているのだ。
ちなみにどうやって皮を剥いでいるのかというと、とある会社が開発した「肉皮剥離薬」が使われている。
これを服用すると、僅か数十秒で全身の皮がまるでバナナの皮を剥くようにベロンと剥がれるという意味の分からない代物。
この薬が開発され、スーツを作れる職人が確保されたことによってスーツは「人皮スーツ」として売り出され一気に広まった模様。
...つまりスーツ生産のために相当数の犠牲者がいる事になるのだが、劇中ではそちらに関する言及はない。
加えて犠牲者の存在も倶楽部の権力によって揉み消されているためか、犠牲となった人々の存在は表沙汰にはなっていない。
…服は、ヒトという動物を人間たらしめる第二の皮…だから動物は服を着ないし、それ以下の畜生には第一の皮も脱いでもらうの。
殺されたオーナーの妻は服とは何かを述べていた。
仇のみならず復讐者となった自らをもヒトではないと…殺されたのはオーナーの方で、作中に登場していたオーナーの中身はその妻。
成功を求め剥離薬を開発したベンチャー企業は、同じように職人として認められたいオーナーの渥美清を下請けとし秘密を共有する一蓮托生の間柄となっていた。
その秘密とは、今を煌めく女優・高木悦子が手引きする形で高木のライバルモデルであった女性の皮を剥ぎ取りスーツとして製品化。
老人だらけの倶楽部へ売り込んで以降、様々な若い美女を犠牲にし商品販売を手掛けていた。こうして倶楽部から気に入られたテーラー渥美は成功。
業界の有名人からノウハウを評価されたことで世間からの認知も高まり、商品を手に入れるのも困難なほどの人気を博す。
例の企業も会員入りを果たし、倶楽部をバックにつけ会主催の麗金賞を受賞することでアパレル業界で天下を取る計画は成功へ近づいていた。
革新的な商品スーツは決して表沙汰にはなってはいないものの、ある会員が有名女優の皮を手に入れたことに別の会員の関心を引くなど倶楽部では公然の文化となっている。
この文化のきっかけとなった、初代スーツにされた女性の姉こそがオーナーの妻。
オーナーは妻の妹であっても躊躇いなくスーツに仕立て上げていたのだった。妻はオーナーの皮を剥ぎ取って成りすまし、殺害計画を形作った高木を誘き出し同じように皮を剥ぎ取り痛みと恐怖に苛まれる形で殺害。
また裏バイターを雇って行方不明の妹の情報を集めており、主人公2人の情報を基に妹がいるという場所、麗金賞を運営する重鎮を訪ねたところ妹と再会する。
しかしその言葉遣いから、妹が既にこの世にはいないことを察し号泣。倶楽部に革命を齎した初代スーツは会員誰もが知る大御所そのものとなっていた。妹の皮は言う「なぜ泣いてるの? アナタが作ったものでしょう?」。
妻は仇であるベンチャー企業の3人を拘束、オーナーの皮を脱ぎ捨て剥離液も使わず彼らを脱がせることで晴れて復讐を遂げるのだった。
まさに全員怪異のようなもの、オーナーの妻は己をヒトではないと自虐していたが、主人公2人に対しては優しくあり続けたのだった。
オサダ
これが…お前の作りたかったホテルか? 長田…
ホテル従業員のエピソードで登場した怪異。漢字表記だと「長田」になる。
ホテル黎明の3階を根城にしている死霊で、特性としては黒黒ビルの悪霊たちと限りなく近いものがある。
生前は別のホテル経営者の一家で、ちょび髭で七三分けの夫が「ホテルは従業員も客も一つの家族となるのが理想だ」としてアットホームなホテルの経営を目標としてきた。
だが理想だけではどうにもならなかったらしく経営が立ち行かなくなり、当てつけのようにライバルだったホテル黎明の309号室で一家心中を図った。
以降は部屋に居座る地縛霊と化し、309号室に入った人間を首吊り自殺させる悪霊へと変貌した。
このせいで309号室では宿泊客の自殺が相次ぎ、宿泊客がいなくなると今度はフロントにコールを掛けて従業員を部屋に呼び寄せ自殺させていく傍迷惑な行為を繰り返すようになった*43。
一応309号室に入りさえしなければ呪い殺される事はないものの、3階に足を踏み込めば最後、思考と認識が操られ自発的に309号室へ入ってくるよう仕向けてくるため、ユメのように視覚以外で危険を察知する術を身に着けていないと難を逃がれるのは難しい*44。
もし309号室に立ち入ってしまえば即座に首吊り自殺させられ、死後はホテルの宿泊客として3階へと縛られ続けるたまに変なポーズを取らされる羽目になる。
このせいでホテル黎明の3階は長田によって不法占拠されたといっても過言ではない。
ちなみに自殺者が出た直後は一時的に無害になるため立ち入りは可能。自殺者の死体の掃除目的ならば呪いの対象から外れるらしい。
俺の負けだ。長田。もう、終わりにしよう。
愛してるんだ津村。
もう自分の気持ちに嘘はつけない。
僕を受け入れてくれよ。
実は全ての元凶である長田は同性愛者で、ライバル経営者の津村を深く愛していた。
だが津村はその片想いに応える事はなかった。
津村とは正反対のホテルを目指したのも、子連れのシングルマザーと結婚したのも(津村は独身)、津村のホテルで一家心中したのも全て当てつけだった。
309号室に入った者を自殺させていったのも、己の理想とするホテルを実現させるため。
実のところ、長田の呪いが作用するのは3階各部屋に定められた定員が埋まり満室になるまで。
主人公2人の裏バイトが終盤に差し掛かったあたりで3階はほぼ定員に達しており、その時点で第三者に対しては無害になっていた(そのためユメの異能も反応しなくなった)。
だがユメは気付いていた。
309号室だけ、定員には1人足りない事を。
…実は最後の1人は予め決まっていたのだ。長田は、廃墟となったホテルでその最後の1人を待ち続け…
手長逆首様
ギリギリギリギリギリ
引っ越しスタッフのエピソードで登場した怪異。名前はちょい足しで判明。
その名の通り異様なほどに長い腕を持つ女の霊のような姿を持ち、常に首が180度逆を向いているのが特徴。
当人(?)は後ろ向きのままでも何ら行動に支障はないようだが、ユメ曰く万が一顔を見てしまうと「良くない事になっていた」という。上記の「ギリギリ」というのは首を捻る時の音。
アンバランスな体格に反し身体能力は高く、引っ越しトラックを飛び跳ねて追いかけたりと身体を張っていたのだが、格闘能力の高い金には概ね押されっぱなしで一度反撃を食らわせた以外は基本ボコボコにされていた若干可哀想な怪異。というか怪異に真っ向から互角以上に立ち向かえる金って本当に人間なの?
元々は心霊スポットとして有名な海岸沿いの洞窟「血泉洞」へ祀られていた神か何からしく、その御神体と思しき人形の汚れを落としてあげた大江かなえ(28)に取り憑き、毎晩ストーカーの如く執拗に付き纏っていた。
やがてノイローゼを起こした彼女が金銀兄弟に夜逃げの手伝いを依頼し、さらにその引っ越し作業のため主人公2人が雇われたのが本エピソードの始まりとなる。
いくら怪異とはいえ自らへ親切にしてくれたはずの人間を何処までも付け狙うという行動から、和美たち4人は悪意を持った「ストーカー」として対応していたが…?
キャハハハハハハハ! イエイイイエイイエイイイエイイエーイ!!
よう! ボケナス共元気!?
今日は血泉洞っつーとこに来てるよ──ん!
かなえが和美たちに話した「人形を綺麗にしてあげた」というのは真っ赤な嘘。
彼女の実態は炎上系動画配信者であり、今回の一件も「オーイエー! 大江、激ヤバ心霊スポットで霊を侮辱するナリwww」という如何にも頭と品性の悪さが滲み出たタイトルの配信で血泉洞を荒らしまくったのが原因。
例の御神体の人形も綺麗にするどころか散々殴りつけた上に放屁し、挙句の果てに脱糞までして穢していた。そりゃ祟られて至極当然と言えよう(なお劇中、かなえはやたら放屁していたが祟りやストレスではなく元からだったようだ)。
お供物もあった事からすると、割と真っ当に祀られていた神のようなのだが…。
アップされていた動画で一部始終を見た主人公2人は愕然とし、金銀も「その場しのぎだけで生きてる」「逃げるだけで何も解決しない」と呆れながら見放した。
果たしてその言葉通り、別の街に引っ越した後もかなえの周囲でまたもあの首を捻る音が鳴るようになり、結局再び引っ越しを繰り返す事に。
そして日本国内だけでなく、台湾・ヨーロッパ・アメリカと海外を点々とし続け配信で荒稼ぎした1900万円以上の貯金を全て使い果たしてもなお、彼女の周りを手長逆首様が取り囲み、延々と首を鳴らし続けるのだった。
貴様は何処にも逃げられんと、まるでそう告げるかのように。しかも何故か2体に増えている。手長逆首様は元からセットの怪異だったのか、それとも引っ越し中に更にやらかしたのかは不明だが、後者の可能性も否定しきれないのが怖いところ。
さらにゾンビ曰く「その後は読者の想像の10倍は酷い目に遭っている」とのこと。まさしく因果応報である。よくよく考えたら、何処の国でも暮らしていけるほどの語学力があるなら炎上系に手を出さなくても真っ当に生きていけた気がする。
引っ越さなきゃ。ここじゃないどこか…
で、でもどこへ? ここが楽園なんでしょ? ここが一番なんでしょ?
ギリギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
これ以上、どこに行けばいいの!?
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ちなみに手長逆首様の狙いはあくまで自らを冒涜したかなえのみであり、直接妨害した金やユメに対しては反撃こそすれどそれ以上祟ったり呪ったりなどはしていない様子。
「姿を見るだけでもアウト」「存在を知っただけでもアウト」な手合いの怪異も珍しくない中、とてつもなく有情な部類である。
…顔を見なかったから襲われなかっただけであり、逆にかなえが狙われているのもその蛮行とは一切関係無く、ただ自分ルールで行動しているという可能性も否定できないが。
悪魔?
我は臓物を喰らふ悪魔也。
絶望せよ。貴様らは混沌に包まれる。
同じくマンガワン掲載作品『翼くんはあかぬけたいのに』とのコラボであるカフェ店員のエピソードで登場した怪異。
片方が欠けた二本角と鋭い牙を持つ。
実を言うと本編を読んだだけでは「怪異らしい」という事が何となく分かる程度で、特性も危険性も謎のまま。
作中では終盤まで、元サタン系ヴィジュアルバンドのボーカル兼リーダーであった店長・赤木健二のコスプレ姿だと認識されており、ユメも匂いを感じておらず店長に当たりの強い従業員*45からは何度も蹴られていた。
「黒キ儀式」「10年の時」という台詞から、正体は恐らく健二本人の組んでいたバンドが10年前の初ライブにてパフォーマンスとして実行していた「ガチの悪魔召喚の儀式」で顕現した存在。
上記の通り最初は健二が悪ノリしているだけだと思われていたのだが、悪魔崇拝者を思わせるローブを纏った客が続々と来店して彼を取り囲み、黒ミサのような祈りを続け段々と顔が異形と化していった。
また悪魔を囲んでいたローブの客たちも、実際は幾つもの目らしき器官を持つ異形の存在であった。
信者(?)たちに向けて「この日を以て、人類は滅亡する」と宣言するも、100年近く経ってもまだ人類を滅亡できていない前例があるのでぶっちゃけそれだけの力があるのかどうか未知数。
終盤に「子供(シェアハウスで同居している女子高生であり実娘ではない)が腹を下した」と本物の健二が遅刻してきたため別人である事が判明し、その後は不審者として警察に連行された。
なお、ちょい足しで作者が明かしたところによるとユメの異能が反応しなかった理由は「ユメちゃんサーチにも引っかからない雑魚っちゅ悪魔」であったため。そのザマではやはり人類滅亡は無理だろう。
益荒鬼
花火大会は、「反転式」だという。
忌まわしきモノを封印する儀式の真逆の手順らしい。
何か、封じられていた恐ろしいものを、
解き放つための儀式だと。
花火大会準備スタッフのエピソードで登場した怪異。
江戸時代に益荒村で流行し頭部が崩壊し死に至る病とされており、数百人の死者が出た。
そのため疫病退散と慰霊として200年前から始まった益荒川花火大会によって病はピタリと止まっており、花火の効果があった模様。そのため200年間欠かさずに花火大会は続いている。
だが益荒川へ花火を運ぼうとすると、その途中で事故に遭ったり運転手が道を間違えて異なる方向に行ったりなど何らかの妨害を受けてしまう。
しかし今回は主人公2人と茶々のサポートによって、益荒川へ花火の運搬に成功し無事に花火大会は開催される運びとなった。
アレを見るなァ!
ニヒッ ギャハハハハハハハハ!
ギャハハハハハ!!
ギャ~ッハッハッハッハッ!!!
実際は200年間もの間は一度も花火大会など催されておらず、そもそも益荒鬼とは疫病の類でなく見たものの頭部を破裂させ殺害する怪異であった。
その正体は空に浮かぶ巨大な鬼の生首。
200年前に花火へ封印されたものの、花火大会を開催しなければならないと人間を錯覚させることで、封印から解き放たれる日を待ち望んでいたのである。
花火大会の観客の中に解き放たれた益荒鬼により、その場にいた全員の頭部が花火の如く爆散。屍の山が積み重なる花火会場にて大勢の人々を無差別虐殺した益荒鬼は満足げにゲラゲラ嗤いながら、本エピソードは幕を閉じた。
なお、このせいで多くの犠牲者が出たものの作者は「我らがQ様が揉み消すかもしれません」と答えている。
百葉箱
設置した場所の気温を測るためのものでね、
温度計や湿度計などが入っている。
普通はね。
百葉箱記録員のエピソードで登場した怪異。
辺鄙な山の中に3つ存在し、普通の百葉箱とは違い異なる時間や空間を観察するものである。そのため中には温度計や湿度計は入っておらず、それぞれ「手」「12人の男女の写真」「自分」が入っている。
この百葉箱の影響で周りの時空は歪んでおり、ユメが空を飛んだり和美が分裂するなどバグる不可解な現象が起こる。
エピソードでは24時間百葉箱を1時間ごとに観察し、「手」「12人の男女の写真」「自分」に変化がないかを調べた。
コレ、写真じゃないな。
12人による男女の写真の正体は、写真のように平面へ圧縮された百葉箱の観察者たちであった。百葉箱の周りは空間の歪みだけでなく、時間という概念すらもなく写真に圧縮された観測者たちは、一切身動きもできず永遠にそのままである。
なお、百葉箱自体は見たものを写真のように平面に圧縮させる怪異ではない。ただ周りの時空を歪めるだけの箱である。
百葉箱を観測した者たちは皆、自分から異次元へ我先にと逃げ出そうとして失敗し、結果的に写真のように圧縮されたまで。
百葉箱を観察した者は皆平等に、百葉箱の中に入っていた「未来の自分」により今すぐ逃げ出したくなるような恐ろしい未来が待ち受けていることを知り、すぐさま異次元に逃げ出し写真のように圧縮されたのである。
観察者は誰かが選んだ訳でもないのに皆平等に恐ろしい未来を見た、それはつまり世界規模と言っていいような恐ろしい事態が後に起こるのだろう。りんごちゃんは幸せに数十年の人生を送ることになるが…
樹海の怪異(仮称)
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
黒岩案件・樹海捜索員のエピソードで登場した怪異。
仁田四村樹海に巣食う蓑虫のような赤ん坊というビジュアル以外、詳細は全くの不明である黒岩案件恒例の怪異。
樹海で遭難してしまった青年の「滝沢純太」を苗床に成長していたようで、彼を捜索しにきた隊員を悉く自殺させてその死体を栄養源に成長していた様子。ちなみに苗床になった彼の腹部は妊婦のように肥大化し、腹部からは無数の臍の緒のような触手が伸びていた。
この怪異の干渉を受けると「ジュンくんを助けに行かなきゃ」という思想の下、森から垂れ下がる蔓のような臍の緒によって自ら率先して首吊り自殺を図ってしまう。
今回に限っては回避・攻略方法が一切分かっていない。いつもの補足説明をしてくれるちょい足しでも「樹海生誕」としか語っていない。
純太を苗床にしていたモノが産まれればその時点で影響下から逃れられ生存できるが、産まれない限りは確実に死ぬしかない。
おまけに、いつものユメの異能が全然反応しないまま完璧に術中へ陥っていた。つまり生存できるか否かは過去の怪異含めてもダントツの運ゲー。
ただ、鞄やおおいなるものの性質から見るに「結果的に人間が不幸になる」タイプはユメの能力では感知できないようであるため、この怪異も悪意で人間を死へ追いやっているわけではないと思われる。
そして、滝沢純太の姿となって生まれた「何か」は無事彼の家族と感動の再会を果たし、やがて人間社会から失踪。
彼の家族を全員同じ苗床へ変貌させ、彼と同じように大多数の人間を養分にしている事を仄めかしつつ本エピソードは幕を閉じた。
余談だが、ユメはバイト先の仁田四村樹海に行く道中の記憶を完全に忘却してしまったらしく、そもそも樹海捜索員の裏バイトへの参加自体が怪異の術中によるものなのかもしれない。
スマイリー・ガウチョくん
ガ~ウチョガ~ウチョガウチョく~ん
みんなだいすきガウチョくん もっとわらってスマイル、スマイル
わらわないコは たべちゃうぞ~
おもちゃ屋スタッフのエピソードで登場した怪異。
「おもちゃの長嶋屋」のオリジナルキャラクターによる等身大着ぐるみで、真っ黒な体に巨大な目玉、耳まで裂けて巨大な歯が並んでいる口と妙に質感のいいプリケツを持っている。
正直言ってあまり可愛くはなく寧ろ不気味ですらあるのだが、子供たちには絶大な人気を誇る。
その人気はまさに社会現象といっても過言でなく、ぬいぐるみやフィギュア化は勿論のこと、ゲーム化、アニメ化、ドラマ化までされているという。
また、ガウチョくんのぬいぐるみを近づけるとどんなにグズった子供もたちまち笑顔になるという。
真顔で「アレ」の前に立とうとすると、凄くクサくなる。
その実態は後述の店長が何らかの方法で生み出した怪異。
ガウチョくんは人を笑顔にするのを目的としており、笑顔以外の表情を見せることは許さない。
もしもガウチョくんの前で笑顔を失うと*46その巨大な歯で噛み砕かれて飲み込まれ、排便のようにぬいぐるみとして排出される。
またガウチョくんのぬいぐるみも異常性を持っており、このぬいぐるみを持っていると笑う以外の感情表現ができなくなる。
ただし逆に言えば笑顔でいればいいということなので、常に笑顔でいられる相手には何もできないのが弱点。
店長
もう、笑わなくてもいいよ。
もう、楽しい事は何一つ起こらないから。
「おもちゃの長嶋屋」の店長で、ガウチョくんを生み出した張本人。
実は本物の店長はおもちゃ屋が潰れた後で失意の果てに自殺しており、今いるのは誕生の経緯は不明だが長嶋屋のマスコットが自我を得て怪異化したもの。
生前の店長の意志を継いでいるのかあるいは意志が乗り移っているのか、人を笑顔にすることを生き甲斐としている。
ただ人間でないという以外は中年のおっさんと何ら変わらず、凶器を持った女性2人にあっさりボコられるほど弱い。
主人公2人が逃亡後は行方を晦まし、同時にガウチョくんブームも瞬く間に収束した。
その後、別のおもちゃ屋で今度は「ファンキー・ポンキーくん」なる怪異を生み出して活動を再開。
このファンキー・ポンキーくんのぬいぐるみはガウチョくんのぬいぐるみよりアップデートされており、これを持っていると笑う以外の感情そのものがなくなってしまう。
おそらくガウチョくんのぬいぐるみと同様、不特定多数の子供たちの下へ届けられることになるのだろう。
スター・マン
今のきみはなんにだってなれるし、どこにでも行ける。
だって、今のきみは、
肉体という枷から解き放たれた、誰よりも自由な存在だから。
さあ、行こう。
ぼく達の使命を果たしに…
天体観測のエピソードで登場した怪異。
十津能平原の上空でのみ観測でき、人間のような形状を模っているがその実態は無数の小惑星らしき物質で構成された異形の存在。
人型ではあるが物理法則を軽く無視した動きが可能で、天体望遠鏡に映った木星の背後で木星と同じサイズの顔を覗かせたり、数多の観測者たちの視線をくぐり抜けて一瞬で地表へ降り立ったりと、その行動はもはや人間という枠組みを超えている。
さらにこのスター・マンを長時間観測し続けた場合、スター・マン側は観測者が自分たちの同志になりたがっていると認識し、その人間を自分たちと同じスター・マンに変えてしまう。
スター・マンと化した人間は元の肉体が溶けるように消滅し、小惑星の集合体のような肉体へ生まれ変わり、他のスター・マンと同じように宇宙へと旅立っていく。
なお、観測し続けた人間にはスター・マンが「返事」をしてくる事があるも、常人がその声を聴くと発狂して宇宙ジャンボ餃子理論を唱えるようになってしまう。
ただし、スター・マン側からすればこれら一連の行動は自身らと同じ目的を持った同志を募っているに過ぎず、悪意を持った怪異ではない。
後述する行動原理を踏まえれば、本作では非常に珍しい一貫して人類に友好的な怪異だと言える。
コレは警告だ。
スター・マンの真の目的は、生身の人間では決して辿り着けない「宇宙の外側」に到達すること。人間が天体望遠鏡を使って観測=思いを馳せられる、その先へ到達するのを自らの使命としていた。
そして●●年後、「宇宙の外側」に辿り着いたスター・マンはそこで垣間見た光景と共に人類へ「宇宙の外側へ思いを馳せてはいけない」という警告を発する。
ただし、「アッチ」からこちらへはやって来ないという保証はどこにも無い、としながら…。
即売会の客
売り子のエピソードで登場した怪異。
アンダーグラウンドで行われているこの即売会は一見すると同人誌即売会と同じで、個人でブースを出店し品物を売買している。
だがそこで取り扱われている品物は当然同人誌などではなく、作中では「ヴァヴェボバ」なる商品が売られており、また客の1人は「ウィソジン」という品物を要求していた。
この即売会では客も売り子も被り物を着用しており、仲買人のエピソードと似通っているもあちらとは異なり全ての客が人外の存在。
人間の売り子は被り物を被り続けて人間である事はひた隠しにしなければならず、もし人間だとバレたらただでは済まない模様。
だが、本エピソードでよりにもよって雇われたのが言われた事を3秒で忘れてしまう橙だったため、暑かったのも相まって何度も被り物を脱ぐのを繰り返し人間だと疑いを持たれる。
挙げ句とうとう素顔を晒したのだが、常人を超越した思考回路を持つ橙は怪異と意気投合、皆が素顔になり打ち上げで記念撮影するに至った。
そして橙を雇った雇用主は怪異よりも橙に恐怖を抱いた。
薬品庫の幽霊
薬局スタッフのエピソードで登場した怪異。
大縄薬局の薬品庫に出没する女性の幽霊で、体つきや頭部の輪郭は普通だが顔のパーツが普通の人間とは逆さまに付いている。
特別霊感が強いわけでもない和美にも、まるで生きた人間であるかのようにちゃんと見える。
この幽霊を恐れているために主人公2人の雇い主である大縄明美は薬品庫へ入りたがらないが、どうやら明美には見えていない模様。
そして薬品庫に立ち入る2人には目もくれず、時折薬品庫を訪れる明美を恐ろしい形相で睨みつけている。
そして、薬品庫で寝ると幽霊に身体を乗っ取られるという噂がある。
まるで明美に恨みでもあるかのようなのだが…?
その正体は明美の姉・愛華。
とは言っても明美は養子であるため、血の繋がりはない。
明美にとって義姉である愛華は何かしらの病を患っていたようで、父親(愛華の実父)は「Q」が開発した薬を使おうとしていたのだが安全を確かめるべく、血の繋がっていない明美で人体実験を行おうとした。
だが異変に気付いた明美は、自分が飲むはずだったコーヒーを愛華に飲ませた結果、愛華は幽霊へと変わってしまった*47。
幽霊=愛華が明美に執着するのはその恨みであろう。
薬品庫にしょっちゅう溜まる埃の正体は幽霊となった愛華の身体の破片であり、これを他人が服用すると姉の存在・記憶が希薄になっていき、やがて消失するという。
実子を幽霊にしてしまった父親は重圧に耐えきれず、客に出す薬へ破片を混入させて愛華のことを忘れようとしているが、明美はそれを許さず時折雇う裏バイターを薬品庫で眠らせ、愛華に肉体を与えることで父親の記憶を保っている。
つまり、幽霊が見えないように振る舞っていたのは演技だったのだろう。
もっともこの実体化はおそらく一時的なもので、父親への執着がある限り明美は裏バイターを犠牲にし、愛華を実体化させ続けるのだろう。
大倉さん
警備保障会社スタッフのエピソードで登場した怪異。
とあるアパートを根城にしており、外見的には禿げ上がった全裸の中年男性といった感じ。
住民たちの間では昔自殺した住民である「大倉」の死霊と噂されている*48。
この怪異の影響か、アパートでは自殺者が絶えない。
荷物を荒らす、窓から入ろうとする、天井に張り付くなどの嫌がらせじみた行為を繰り返すかと思えば、突如として金銀兄弟をまとめてワンパンするなど、その行動には謎が多いが…?
「いっつもそう。弱い人は、いっつも餌にされちゃうの」
本来の呼び方は「大喰らいさん」であり、大倉さんというのは間違って伝わった呼び方が定着したもの。
その本質は「恐怖を煽り、食らう」怪異。
この恐怖心とは何も大喰らいさんに向けられたものである必要はなく、ほんのわずかな不安や恐怖を抱いただけでも獲物にされてしまう。
大喰らいさんの行動はそれだけであり、直接危害を加えることは基本的にせず、自殺者も全て恐怖に耐えかねて自ら死を選んだに過ぎない。
しかし裏を返せば「恐怖を煽る」という目的のためには瞬間移動、ポルターガイスト、ドアを閉ざす、影から語りかける、金銀兄弟をも上回る暴力を見せつけるなど万能とすら呼べる能力を発揮する。
餌場を惜しむ気持ちがあるのか、新たな住民が入ると最初のうちは加減した嫌がらせを行うが、次第に我慢できなくなり相手を自殺にまで追い込んでしまうらしい。
ただし、大喰らいさんに一切恐怖を抱かない相手には興味を失い、姿を消してしまう。
「ブラボー! ブラボー!」
神の御国へ赴く会
探偵助手4のエピソードで登場した怪異。
喜多区にある、とある廃ビルを根城にしている死霊の集団で、生前は神の国、つまり天国へ行くことを最終目的としたカルト教団だった。
「儀式がうるさくて近所から苦情が殺到した」「勧誘が強烈だった」とのことだが、この辺のことは本編では詳しくは語られていない。
ある日突然信者と関係者全てが失踪してしまい、ビルには人型の黒いシミだけが残された。
それ以来このビルに立ち入った者、それが男性ならば女性信者によるハニートラップで、女性ならば記憶から作り出した幻覚によって惑わし、仲間に引き入れようとする。
魅入られた男性にはこの廃ビルが美しい女性が待つ豪勢なマンションに見えるのだが、第三者から見たら何も無い廃ビルで誰もいない空間に向かって一人話しかけているようにしか見えず、女性との通話も地獄の底から響いてくるような苦しみの声に混じった「死ね死ね死ね死ね死ね」「お前もこっちに来いいい」というおぞましい叫び声にしか聞こえない。
八木の友人の大山は「信者たちは間違って地獄に行ってしまったのではないか」と予測しておりまた地獄か、本当にいくつ地獄があるんだ、作中の描写を見るに神様として崇めていたものが本当は悪魔で、まとめて地獄へ連れ去られたと推測することも出来る。
魅入られた犠牲者も最終的に地獄へ連れ去られるようだが、幻覚を打ち破る、あるいは誘惑が届かないほど遠くへ逃げることで難を逃れることが出来る。
作中の依頼主の女性の旦那も、遠くへ引っ越すことで逃げ切ることが出来た。
確かに逃げることができた、怪異からは。とは言え、恐ろしいのは怪異だけではなかったのだが。顛末を見た男性読者は股間がキュッとなったことだろう。
置物(仮称)
フム…では、やはり父の死因はこの置物にあるのかも…
遺品整理のエピソードで登場した人形。元々は八木さんや赤川さんの実父であり、牛の腹の中からその遺体が発見された赤川貴明氏が生前蒐集していた呪具の1つ。
「笑みを浮かべながらマッスルポーズを取っている擬人化された齧歯類」というマスコットじみた外見とは裏腹に危険度の高い代物であるらしく、かなり早い段階からユメの異能が反応していた。
マスコット系の見た目で危険度が高いという点からガウチョくんを連想した読者も多かった模様。
……しかし、今回のエピソードは八木さんの競馬との出会い過去に焦点が置かれていたせいか詳しい性質は判明しておらず、上述した赤川貴明の不審死も「関連があるだろうと思う。しかし、それ以上の事はわからない」と、この呪具によるものだと明言されてはいない。
作中では早々に発見された直後こそ普通の置物のように振る舞っていたものの、ユメハマコンビが見ている前で徐々に口角を吊り上げ、やがて大口を開けてガタガタと激しく震え出した………時点で危険を察知した2人はその場から逃走。
後日戻って来た時にはこの置物だけが何故か忽然と姿を消しており、結局正体不明の呪具が野に放たれて謎は解明されないままエピソードは幕を閉じた。
補足すると、同エピソードでは「裏」は誰にも理解もコントロールも征服もできない「無敵の存在」であり、八木はそこに惹かれているということが強調されている。
それを踏まえると、謎だらけのまま消えたこの置物は、謎だらけであることにこそ意味があるのだろう。
番外編
アパートの怪異
こう見えても何と家賃たった一万円なんス!
大家さんも毎日「何か異常は無い?」って心配してくれるし、マジ掘り出し物ッスわ!
おまけエピソード「橙ちゃんのお部屋」で登場した怪異。
アパートの一室に住み着いている得体の知れない何か。
なかなか強力な怪異らしく、ビデオ通話越しにユメはおろか和美にさえ視認できてしまうほど。
…だがその部屋の住民がよりにもよって橙であったため全く存在には気付かれておらず、現時点での詳細は不明。
橙のヤバさが明らかになるにつれ、読者の間では「橙が
す普通に生活できているのはこいつが陰から支えているからでは?」「むしろ守護霊なのでは?」疑惑まで浮上する有様。
おまけエピソード「橙ちゃんのダイダイエット」においても、ダイエットに励む橙を穏やかに(?)見守っているだけだった。むしろ怪異は橙の方なんじゃないかな…。
下半身だけの怪異
4巻での描き下ろしおまけエピソード「断裂」で登場した怪異。
八木が調査したが、裏バイターを雇っていないので当然主人公2人は関与していない。
依頼人の女性・俵屋が新居のアパートに帰宅すると現れる、ジーンズを履いた下半身の怪異。その場でダンダンと音を立てて激しく足踏みしている。
その足踏みの音を聞いていた内に俵屋の左足は動かなくなり、右足も徐々に麻痺してきている。
「嫌だ、実家は…」
俵屋の母の出産の日、俵屋の方は無事に生まれてこれたが双子の片割れは上半身と下半身が断裂した状態で出産してきた。
本来なら悲しむべきなのだが、どうも片割れは断裂していた状況を抜きにしても普通の赤子ではなかったらしく出産に立ち会った医者や看護師も恐れ慄き、実母ですら「産まれなくてよかったんじゃないかなぁって」と考え、寺の住職が「アンタら一体何産んだんだ!?」「これを家中に貼って! 金は要らん…さあ早く…」と大慌てで札を差し出す始末であった。
生きる事こそ叶わなかったがその後も怪異として成長を続け、俵屋を悩ませてきた模様。
八木曰く「ご実家へお帰りなさい、それで解決します」「珍しいんですよ。裏の関係で、解決策が見いだされるのは。悪い事は言わないから、お帰りなさい」とのこと。
「嫌だ、実家は…」と口にはしたものの、アドバイスに従わざるを得なかった俵屋は実家へと帰る。
その晩、布団の中で俵屋はある「仮説」を立てていた。
「それ」から逃げるために実家を出て、アパートを借りた。「それ」には足が無いから追ってこれないだろうと。
しかし、「足が無い」訳ではなく「分かれていただけ」だとしたら…?
天井を見つめる俵屋の目の前には、不気味に笑う「上半身」の姿があった。
この怪異の正体は上下に分断された俵屋の片割れであり、アパートに潜んでいた怪異ではなかった。
とても解決したようには見えないのだが、一体どのようにして解決されたかは作中では語られていない。
深淵の者
コラボ回の廃神社探索のエピソードで登場した、その名を知る事すら許されない、この世の摂理そのものと言える存在。
今回は得体の知れない霊能力者も同行した。
でも退治しました
なにこの匂い…? いつもの嫌な予兆とは違う…なんかイカっぽいというか…
クッサ…!
実はこの回(?)はエピソードではなくイラストであり、実質2ページで終わった。
何せコラボ相手が怪異・ずぶ濡れ金髪フルチン男だったため、エッチアッチの作品の方法で“超”除霊され、名前・容姿・能力の何もかも分からずじまいで退治されてしまった。ずぶ濡れ金髪フルチン男は怪異の性別には頓着しないタイプのため性別すら不明。話からすると、おおいなるものレベルの格がありそうなんだけどなぁ…。
除霊光景を目撃したユメは久々にフリーズして「Now Loading…」状態になった。料亭スタッフのエピソード合間に公開されたため、「小滝にぶつけてハッピーエンドにしようぜ!」という声が読者間から続出。「カムイさん」側が顔合わせを描いて健全、「裏バイト」側が除霊を描いて不健全という逆転現象も発生している。
モンキーの怪異
単行本6巻に収録されたボーナスエピソードにて登場。
とある案件の調査を依頼された茶々が遭遇した(この案件には八木も関わっている)。
エヴァルスの畑にいる猿とはまた別物。
茶々と話ができるレベルには日本語が理解できるらしく会話が可能だが、思考パターンが常人のそれとは大きく逸脱しているため意思の疎通は困難。
ただ怪異そのものには積極的に人間へ危害を加える気がないのは不幸中の幸いか。
その実態は怪異でも何でもなく、篠月橙その人。
あまりにもぶっ飛んだ橙の頭を垣間見て思わずこう称した。言動・行動の数々を見るに間違いとは言い切れない。
祠の神様
マンガワンの美男美女同居コメディの皮を被ったオール変人ギャグ漫画『翼くんはあかぬけたいのに』とのコラボエピソードで登場した怪異。
厳密に言うと、この話は『翼くんはあかぬけたいのに』の一エピソードという扱いであって『裏バイト:逃亡禁止』とは別作品。夏のホラー回での恐ろしさには定評のある作品の作者が『裏バイト:逃亡禁止』サイドと互いの原案を交換し、ノリノリで描いただけあって凄まじいクオリティとなった。
長野県の山奥に佇むとある村へ祀られている神様で、毎日午前2時に小皿へ入った塩、水、米、酒×2をお供えしなければならない。
この時はお供物を並べる順番を決して間違えないようにしなければならず、渡されたメモに「必ず間違えないように」と書かれており翼より先にバイトへ来ていたユメも去り際、「『向き』だけは絶対に間違えないで」と忠告していた。
だが何故か『裏バイト:逃亡禁止』での主人公2人が置いていったお供物は、メモに書かれた順番と逆に置かれていた。
実はメモの順番は「祠の内側」から見た順番であり、わざと間違えるよう書いてあった。
もし置く順番を間違えるとその人間は祠の中へ取り込まれ、「御神体」となってしまう。
おそらく前任の主人公2人はユメの異能によって引っ掛けが通用しなかったため、急遽新たな裏バイターを募集したと思われる。
異能など持ち合わせていない翼は引っ掛けを見抜けず祠へ取り込まれ、新たな御神体となってしまったのだった*50。
裏バイトワールドの怪異は他作品の主人公であろうと全く容赦しなかった*51。
その頃、とある病院の産婦人科では…
ある病院の産婦人科では赤ちゃん4人の生誕が案内されていた。
4人のうち3人は父親・母親の名前と共に赤ちゃんの写真が貼られていたのだが、最後の1枚は『不明』の文言と一緒に黒塗りの写真が掲載された。
翼と入れ替わりになった御神体は一体どのような形で現れたのだろうか…?
余談
本作には単行本でも修正されなかった奇妙な点がいくつか存在する。怪異との関連は不明であるが、それらを以下に記す。
- 最初の仕事であるホールスタッフで2人が出会った(再会した)のが『9月』なのに、コンビを組んで次の仕事*52のビル警備員の勤務期間が『6/25~7/25』になっている*53
- 日付通りなら10ヶ月近く裏バイトをしていない事になりそうな一方で、勤務期間が8/1~8/10の葬儀屋スタッフのエピソードでは、2人が『一年近く裏バイトを続けている』から異常事態に馴れているのだと同僚の宮に納得されている。
- 温泉宿スタッフの勤務期間が4月『31日』までとなっている*54。
- キャンプ場スタッフのラストで『未明に』帰宅中の児童が刺される*55
家政婦の日給が790.000円と書かれている。橙の存在。
これらがゾンビこと作者のミスなのか、先述のある怪異による影響なのかは不明である。橙は多分関係ない
追記・修正は怪異から楽に殺して貰えた人がお願いします。
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*2 1巻カバー裏「裏バイト:逃亡禁止if 失敗!個人向け配送業編」より。
*3 やわらかくなって溶けてしまったような時計が描かれた作品。
*4 『扉』を開けた者には謝礼として追加で300万円支払われるとされているが、『扉』を開けた者の末路からすると積極的に開けるよう仕向けられている可能性がある。
*5 この世界で和美が見た馬とハイエナはそれぞれユメとゆうだったようだが、他の治験参加者と異世界の住民との関連は不明。
*6 唐突に発生した末期癌や末期脳腫瘍による病死、隕石の直撃による理不尽な事故死など。
*7 前任の用務員は土曜まで勤務していたが、死までの猶予が連動するのかについては不明。
*8 エルヴィス・プレスリーやマイケル・ジャクソンが例に挙げられていた。
*9 具体的には虚像を「吾妻史郎」と認識した上で、虚像の顔を近くで見る・声をかける・虚像とすれ違った後に振り向くetc…という感じ。
*10 例:鉄骨の落下による圧死、車に轢かれての事故死。
*11 この機体はどこにも登録されていない物であったため、恐らくパラレルワールドや別次元から呼び込まれたのだろうと推測される。
*12 壁を黒く塗って冥界へ見立て、そこに扉を取り付けた物。
*13 そのため店内の設備は店員を呼び出すボタンが設置されておらず、オーダーの受付け方法も15年前当時の旧式によるものとなっている。
*14 例:殺される恐怖に怯えて店の敷地から逃げ出す。
*15 空き地探しにも自転車ではなく、徒歩が推奨されている。役所の人曰く「目立つから」。
*16 ラストシーンで民家の屋根の下へ潜んでいる姿が確認できる。
*17 実は江口の妻および真弓の実母の存在も示唆されておらず、最初から最後までおおいなるものの手の内だった可能性すら存在する。
*18 後のエピソードで登場した榊原平原の上空から帰ってきた死者たちは贔屓目に見ても拷問を受けていたようには見えないため、「真黒石に関わった人間のみが堕とされる地獄」と考えた方が自然と思われる。
*19 辿り着く人間を増やさないようにするためか、漏洩してはいけないのは前提として文書へ残すのも許されない。ただしこれ以外で13番線に行くルートも存在するため、普通に迷い込んだ一般人や迷信を真に受けてやってくるオカルト掲示板の住人などもいるので誰も立ち入れないよう完全にルートを潰す事はほぼ不可能に近く、ルート次第では橙すら入ってしまう可能性も有り得る。
*20 帰還したユメに対する望・ミライの反応から、存在自体が抹消された訳ではなく「帰れない事態が発生した」という認識はされていたようだ。
*21 その際の発言からマスコットたちは平行世界の存在を把握している模様。
*22 例:年下の他人に話しかけたら無視されたので殺した、相手に信仰心が感じられないので殺した。
*23 この時、加奈子はまだ素面である。
*24 子供部屋の壁には相手を罵倒する言葉が書き込まれており、「おまえはえらばれないよ」と跡目争いを思わせるものもある。また、兄弟のどちらかの名前は「アキラ」である模様。
*25 連載時は数百日後となっていたが、単行本化の際に変更された。
*26 精神的な意味ではなく、ドッペルゲンガーのように同じ人物が2人以上同時に現れる。
*27 人材レンタルの利益についても、波動をモロに受け続けると給料日前に肉体が消滅するため、裏バイターは実質タダ働きとなり会社は丸儲けできる仕組みになっている。
*28 なお、後の「ホテル従業員」でのオチにて戸籍を奪った件は役所にバレたことが明かされている。
*29 ただし、この「対処しやすい」というのはユメの能力あっての評価であり、何ら力を持たない普通の裏バイターはたまたま端末を落とすなどしない限りは発見すら不可能。現に和美と大熊は気付けておらず、後者に至っては端末の匂いを嗅いでいた。
*30 前述の通り見た目が千差万別である事を考えると、そもそも性質からして異なっている可能性もある。
*31 わざわざ児島が報告していたところを見ると、特大サイズの出現は初めてだったと思われる。
*32 名前はちょい足しから。
*33 作中では満月が沈むまでらしいのだが、明らかにそれより前でタイムリミットを迎えたためイマイチはっきりしない。
*34 「地獄」と本編で表現された訳ではないが便宜上このように呼ぶ。にしても冥界やら真黒石の地獄やら榊原平原上空の死後の世界やら、裏バイトワールドにおける死後の世界は幾つあるのだろう?
*35 前編で描写された雪像の表情がにこやかな顔から苛立ったようなものに変わるシーンは、同時刻に隠れて一服していた睦美に反応してのものと思われる。
*36 第97回のちょい足しにおいて、ビジュアルに結構迷ったという事が明かされている。完成形は「五感全てが強化されて全部デッカくなっちゃった!というマギー審司的なイメージで描きました」という。
*37 肉体成功体は「五感全てが強化された」ものであるが、反対に超常成功体は五感を制限する事で生まれたと思われる。
*38 軍手は配置場所に何か意味があったのか、何故一度置いた場所から動かしてはいけないのかという疑問に対して。
*39 作中でたつ子に遭遇しかけたヤムちゃんはその姿を目の当たりにする直前で失神したため、たつ子の姿を見なかった事により生還を果たしている。
*40 美術館の館長は、上坂象太郎が出会ったたつ子も元々はどこからか逃げ出してきたものの一部に過ぎないと推測している。
*41 作者によると、蚊が血を吸う際に分泌する麻酔作用のある唾液のグレート版らしい。
*42 前述した活け造りの職人も、血を絶対に付着させないよう捌いており匂いの件は熟知していた模様。
*43 結果ホテルは3階自体を閉鎖し、裏バイターを雇って形だけの供養を行う事で犠牲者が出るのを防ぐ対処を余儀なくされた。
*44 一応主人公2人以外にも生存者はいた
*45 小早川さゆり。原作でも主人公2人と劣らないレベルの美人で、ドSな言動・行動とは裏腹に健二には密かに想いを寄せている。
*46 少しの間なら笑顔でなくてもセーフ。
*47 その薬は人間を幽霊に変える薬らしいが、病気を治そうと幽霊になっては無意味なためおそらく薬自体が欠陥品だったと思われる。
*48 アパートのオーナー・久利正志曰く「今まで『大倉』という名の住人は1人もいない」。
*49 前編で金が隠しカメラに気付く描写がある。
*50 翼が御神体として取り込まれてからは、お供え物の配置が主人公2人の置いた配置になっている。機が熟すまでの封印も兼ねているのだろうか…
*51 「ちょい足し」にて3日後、強キャラである翼の両親によって無事解放された模様。『翼くんはあかぬけたいのに』の作者が描き下ろした橙も見られる。
*52 エピソードとしてではなく、2人でコンビを組んで2番目の仕事である事が治験エピソードで記憶の摺り合わせをした際に語られている。
*53 加えて6/23~6/29はマストの敷地から出られず両立ができないので、各エピソードと時系列がバラバラでないのなら、裏バイトを1年近く続けた葬儀屋スタッフの前に2年目に突入している事になってしまう。これが9/25~10/25であったならば、次の個人向け配送業の日程とも辻褄が合うのだが…
*54 4月は30日まで。
*55 未明は夜の0時から3時ごろであり、そんな時間に帰宅する児童はまず居ない。
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