ジェヴォーダンの獣

ページ名:ジェヴォーダンの獣

登録日:2016/07/13 (Wed) 18:04:57
更新日:2024/01/25 Thu 13:52:08NEW!
所要時間:約 8 分で読めます



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概要

ジェヴォーダンの獣とは、18世紀フランスに現れた生物である。
出現場所がジェヴォーダン地方(現ロゼール県)であったことから、「ジェヴォーダンの獣」と呼ばれている。
当時の人々には「ベート(獣)」と呼ばれていた。
獣の特徴については、


  • に似ている
  • 子牛ぐらいの大きさ
  • 体に見合わない程大きな口
  • 角の様に真っすぐ尖った耳
  • 鋭い鉤爪
  • 赤い毛
  • 尻尾は長くふさふさでよく動く
  • 歩いているときは鈍重そうで、獲物にはのように柔軟に近づき、のように足が速い
  • に向かって飛び掛かり、押し倒す程力がある
  • を恐れない
  • 背中に黒くて長い一筋の縞模様がある

という証言が残っている。



※一部凄惨な内容が記されています。閲覧には注意してください。



襲撃

1764年6月
牛飼いの女性が謎の獣に襲われる。女性は鋭い鉤爪で体中に傷を負ったものの、雄牛が守ってくれた為命は助かった。
彼女は自分を襲った獣について「狼のようだが、頭は長く、口は大きく、尾はふさふさで、背中に一筋の縞模様があった」と証言している。
数日後、この襲撃場所から離れたレウバック教区で14歳の少女ジャンヌ・ブルが行方不明になる。
翌朝発見されたジャンヌの遺体は肝臓や心臓など柔らかい内臓が食べられており、これがジェヴォーダンの獣による最初の死者とされている。



これを境にジェヴォーダンの獣は人々を襲い始る。
獣の手口は非常に残酷で、喉に牙を突き立てて血を吸ったり、頭の皮を剥がして殺すなどした。
母親から抵抗を受けても、子供たちを執拗に攻撃して連れ去ったこともある。
領主は猟師を派遣したが事態はまるで収まらず、三か月の間に二十人を超える死者が出た。
しかも犠牲者のほとんどは狙いすましたかのように、力の弱い女性と子供ばかりでまた特徴として家畜がいても人を襲い、顔を狙うことが多かったとされる。



ある日の記録では一日に二件、それも50kmも離れた場所で被害の報告がある。
山狩りをしていた猟師が銃弾を命中させたものの取り逃がし、数日後には再び被害が出始めたという話もある。
複数の個体がいるのか、はたまた不死身なのか。まさに正体不明の怪物である。



この事件はやがてパリ、そしてヨーロッパ中に伝わることとなり、フランス国王ルイ15世は1764年11月、フレンス軍精鋭部隊「竜騎兵(ドラゴン)」を送り込んだ。
派遣された竜騎兵は五十五人で馬に乗り、マスケット銃を構えていた。
が、軍人に狩りをさせるのは無茶というものでまるで成果を出せなかった。
二万人が参加するほどの山狩りも何度か行ったがそれでも獣は狩れなかった。
一度は獣を発見し追い詰めたものの、竜騎兵は馬から降りようとしなかったせいで山の奥まで入れなかったという。
加えて彼らの行いも悪く、農民に食料をたかったり、乱闘騒ぎも起こしてしまう。
打つ手が無くなった竜騎兵は女装して待ち伏せ作戦も行ったようだが、それを見抜いたのか今度は離れた地域で被害報告が挙がるという始末だった。
ゴツいおっさんじゃなくて%%ブリジッ%%




竜騎兵が手こずる中、人々は宗教にも頼った。
しかし当時のフランス国内はプロテスタントとカトリックによる内戦があったばかりで、
ジェヴォーダン地方は二つの宗派が入り乱れた複雑な地域だった。
そういう背景もあり、司教は
「獣はが人々を罰する為に送った特別な獣であり、これは天罰だ」
として取り合ってくれなかった。



こうなれば自分達の身は自分達で守るしかないのだが、
領主は「銃の所持を許可すれば反乱が起きるかもしれない」として領民に槍などの簡単な武器しか所持を許さなかった。



被害者だけが増え続けた。
襲われるのはやはり女性と子供ばかりで、命が助かった例もあるが助からなかった例がほとんどである。
何度かは獣に傷を負わせたものの、仕留めるには及ばなかった。
教会は教会で生還者かつ獣を撃退した「マリ=ジャンヌ・ヴァレ」をジャンヌ・ダルクになぞらえて称えて大規模なミサを行ったりもしたが、
その最中にも犠牲者が出た。




仕留められたオオカミ

1765年9月21日、新たに派遣されたボーテルン(ボーテルヌとも)が獣を仕留めたと発表される。
仕留められたオオカミは通称シャズの獣と呼ばれ、体長1.7m、体重65kgという記録が残っている。
平均的なオオカミは体長1.3m、体重40kgのため、これは間違いなく大物だった。
このオオカミは剥製にされてヴェルサイユへ送られ、ボーテルンは名誉と賞金を手にした。


しかし…









その剥製の背中には縞模様がなかった










襲撃再開

1765年12月2日、二人の少年が獣に襲撃を受ける。
少年の一人は死亡し、生き残ったもう一人の少年は「背中に一筋の縞模様があった」と証言した。
ジェヴォーダンの獣は生きていた。



ではボーテルンの件は何だったのかということになるが、
彼は適当なオオカミを仕留めて捏造を行ったという意見がある。
当時ボーテルンの周りで被害者が出ていたのに、そのオオカミは遠く離れた場所で、40km離れた所から来た遠征隊に仕留められた事になっている。
現場サント=マリ=デ=シャッズの街道は整備されておらず、霜が降り始める季節で、夜間の移動や狩りは考えらないと指摘される場所なのだが、
ボーテルンはそこで夜を過ごそうとして出発したと述べている。
また、彼はこの後も疑わしい行動を何度か取っている。



当然この報告はルイ15世の耳にも届くが、
「もはや事件は解決している」
として無視した。
事件を解決したものとした手前、これを認めれば権威に傷が付くという判断だったのだろう。



獣の被害者の中には、「四肢が切断される」、「頭部が川を挟んだ反対岸に置いてある」、「食い荒らされた遺体の頭部に帽子が被せられている」など、尋常ではない死体も見つかり始める。
元々の宗教的対立により不信の渦巻いていた人々の間では、
「獣ではなく人間の犯行ではないか?」「獣を操っている人間がいるのではないか?」
という声まで出始める。
1767年にはもう犠牲者があまりに多く、死者や負傷者が出ても報告すらされない事もあるという有様だった。



1767年6月19日、
地元の猟師ジャン・シャステルが巨大な獣を仕留め、これ以降獣の襲撃は無くなった。
獣の死骸は王の元に届けられたが、防腐処理が完璧ではなかったので腐敗していて、突き返されたが解剖報告書は記録されておりその特徴はハイブリッドウルフのものであった。
しかし事件解決後ルイ15世は死骸を直ちに埋めるよう命じたとされ、死骸の行方は分かっていない。



「シャステルが獣を撃つ前に祈りを捧げると、獣が現れて祈りを終えるまでじっと待ち、聖別された弾丸を受けて死んだ」という話があり、
そこから「シャステルが獣を飼いならしていた犯人ではないか?」とする説もあるが、祈りの話は後付けの捏造とされる。
「宗教家とシャステルがグルで、自分達の権威を高めるためにやったのでは?」と勘繰る人もおり、事実、シャステルの息子アントワーヌ・シャステルはプロテスタントと懇意であり、シマハイエナを飼育していたという噂もある。



負傷者の数だけでも相当だが、
ある記録では88人、別の記録では123人もの死者を記録したこの惨劇はこうして幕を下ろした。




正体

今なお不明。
オオカミ説、ハイエナ説、オオカミとイヌのハイブリッド説、フクロオオカミ説、ナマケグマ説、人間説や狼男説など様々存在するが、肝心の死骸が残ってないため検証が不可能となっている。
ここでは様々な説を紹介する。



  • オオカミ説

ヨーロッパでは戦争が起こるたびにその死体を食べてオオカミが増え、問題となっていた。
15世紀のフランスでも、オオカミの群れがパリを占拠し40人が犠牲になったという記録が残っている。(いわゆる狼王クルトーの話)
2012年には、カナダで体長2.2m、体重72kgというとんでもないサイズのオオカミも発見されている。
正体がオオカミかはさておき、オオカミの増加は「男手が減って山が荒れ、女子供が家畜の番をしなければいけなかった」という事件の背景にも繋がっている。



  • ハイエナ説

当時の富裕層が取り寄せていたハイエナが逃げ出したとする説。
背中の縞模様や人を襲う場合は顔に噛みつくなど証言と一致する部分も多い。
しかしその一方、目撃者が証言したような子牛ほどの大きさや跳躍力がないなど合わない部分もある。
パリの自然史博物館にはシャステルに撃たれたシマハイエナの剥製が展示されていた事を根拠に「あれがジェヴォーダンの獣だった」とハイエナ説を推す人もいるが、
ルイ15世は死骸を埋めるよう命令し、そもそも展示期間が1766年から1819年となっているので話が合わないことになるが、当時仕留められた獣がシマハイエナだという記録が残っていた為、それを見た博物館の職員が別のシマハイエナの剥製を獣の代わりとして展示したとも考えられる。



  • ハイブリッド説

イヌとオオカミの雑種、ハイブリッドウルフであるとする説。
親の種類に影響はされるものの、大きな体や高い跳躍力を発揮する個体も記録されている。因みに、アントワーヌ・シャステルは猟犬としてマスチフ犬を飼育していたという。
2016年には当時の解剖所見記録を元に獣の復元模型が作られており、品種改良の過程で誕生した凶暴種ではないかと推察されている。



  • フクロオオカミ説

大きさ以外は獣と身体的特徴が一致するが当時まだ未発見。



  • ナマケグマ説

鉤爪があり外見もオオカミに酷似している。



  • その他の動物説

当時の貴族達の間では、ライオンなど海外の珍しい動物をペットとするのが自慢の種となっていた。
こうした動物が逃げ出し人を襲っていたのではないかとする説が当時から報じられている。



  • 人間説

オオカミ等動物の毛皮を着た殺人鬼や変質者、強盗による犯行説。
深夜、就寝していた12歳の少女が自宅から姿を消し住民総出で捜索した所、森外れの空き地で全裸の遺体となって発見された他、首が切断されていた遺体や帽子をかけられた遺体などがあったことから変質者による犯行もあったとのこと。
当時、殺害された女性の遺体はレイプされたかどうかの検視は行われていなかった。
また、同地には山賊も跋扈していた為。



  • 絶滅動物説

戦乱で森が破壊され隠れ住んでいた絶滅動物の一団が村に現れた説。



余談

実在した(とされる)人食いの怪物としては抜群の知名度を誇るため、後世では度々創作の題材、モチーフとして扱われる。
近年の作品で事件そのものを描いたものとして有名なのは2001年に公開された同名のフランス映画だろうか。
「獣」の正体などの詳細は割愛するが、アニヲタwiki的には作品全体の雰囲気がゲーム「Bloodborne」に、
衣装などのヴィジュアル面が漫画「武装錬金」にそれぞれ大きな影響を与えているのは特筆すべきだろう。
あとガリアンソード





ある人が言った「人を恐怖させる物の条件」は三つ。
ジェヴォーダンの獣はその内の二つ、「人語を介さない」、「正体不明」の条件を満たしている。
これでもし「不死身」だったなら――――いや待て、もしジェヴォーダンの獣が、成体でなかったとしたら……?



追記修正はジェヴォーダンの獣を仕留めてからお願いします。


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  • 映画面白かった。 -- 名無しさん (2016-07-13 18:16:09)
  • 緋弾のアリアにも出てきたヤツ -- 名無しさん (2016-07-13 18:25:09)
  • 映画は獣よりめっちゃ強いインディアンの兄ちゃんがとっつかまったらあっさり殺されちゃうのがショックだった -- 名無しさん (2016-07-13 22:49:13)
  • 北海道の熊事件と違って正体が判明してないってのが不気味。 -- 名無しさん (2016-07-13 23:12:28)
  • 世の中……理屈で割り切れる物事ばかりじゃないんだなあ…… -- 名無しさん (2016-07-14 07:41:00)
  • ライオンの記事出来たときこれ思い出したわ -- 名無しさん (2016-07-14 21:03:32)
  • 夢のない考え方をすると、戦後の治安悪化で、複数の獣害、殺人があったのが、噂になったって感じかな? -- 名無しさん (2016-07-15 08:53:58)
  • アンドリューサルクス説は流石に笑った -- 名無しさん (2016-07-15 10:13:54)
  • 魔女狩りと同じかもなあ。獣騒ぎに便乗して人を殺し、これも獣の仕業だ!って主張すれば信じられそうな騒動だっただろう -- 名無しさん (2016-07-21 21:22:22)
  • 記事作った人構成うまいな、仕留められたオオカミの項でぞわっとしたわ -- 名無しさん (2016-07-25 13:16:12)
  • 毛色と尻尾以外の身体的特徴が一致するナマケグマじゃないか? -- 名無しさん (2016-11-08 20:43:13)
  • 特定の餌の味を覚えさせれば女子供のみを狙わせることは可能だが… -- 名無しさん (2016-11-08 21:25:42)
  • ↑この記事は幻解超常ファイルの使い回しだから。ハイエナは女性と子供を見分けて襲うらしいが。 -- 名無しさん (2016-11-10 20:34:46)
  • ↑ニホンザルも食べ物をひったくろうとする時は女子供を狙うし、イエイヌだって体格と動作で人間の性別を見分けるぐらいできるんだから、むしろ獣なら普通のことだよね -- 名無しさん (2016-11-24 22:54:08)
  • 同地ではオオカミに事件が起きるまで食われる人はいなかったらしいから、女子供を襲うハイエナの脱走かフクロオオカミだな -- 名無しさん (2016-11-25 01:15:56)
  • ま、⬆でコメントされてるように獣害と社会不安があわさって噂に尾ヒレが際限なく付いていったんだろう。特定の個体一頭が全部やったと考える必要もないし。 -- 名無しさん (2017-05-03 22:08:06)
  • オオカミの群れが人間の領域まで勢力を伸ばして暴れ回ったというのが妥当かと。目撃証言というのは体外、曖昧で不正確だからね。 -- 名無しさん (2017-05-03 22:19:42)
  • 着ぐるみ(人間)説が入ってなくて驚いた。元々存在してなきゃ山狩りなんかしたって見つからない。各地で被害が出たのは噂に便乗してやりたい放題やった人間が複数人いたと考えるだろ… -- 名無しさん (2017-10-12 12:38:58)
  • ↑ その可能性は全くないとは言わないが実際に動物の仕業でも山狩りで解決しなかった実例がちらほらある -- 名無しさん (2017-10-12 12:54:57)
  • 時代ゆえ仕方がないんだが、上の対応が本当にゲスいな。 -- 名無しさん (2019-05-11 23:36:10)
  • 我ら血によって人となり、人を超え また人を失う 知らぬ者よ かねて血を恐れたまえ。 -- 名無しさん (2019-07-29 16:23:14)
  • 2016年に解剖所見記録を元に獣の復元模型が作られている。2020年6月放送のダークサイドミステリーだと、出演した動物学者曰く、「(模型の獣は頭の特徴から)イヌ。」「大型の猟犬を作る品種改良の過程で生まれた凶暴すぎる個体だったのでは?」とも -- 名無しさん (2021-04-23 17:02:42)
  • 映画見てきたけどこちらは黒幕+教会や貴族の共犯説みたいだな。巻き添え食った狼たちもたまったもんじゃないよな。 -- 名無しさん (2021-06-08 20:54:02)
  • 偶に正体不明の意味合いでジェヴォーダンって名前付いてるのが居るがそれただの地名やろってもやっとする -- 名無しさん (2021-09-29 21:11:38)
  • ↑レオナルド・ダ・ヴィンチをダヴィンチっていうのにも疑問を持つタイプ? -- 名無しさん (2021-09-30 13:57:45)
  • 映画はビジュアル面での影響力は絶大だったけど、肝心のストーリーが全く面白くなかった。 主人公もヒロインも魅力がなさ過ぎて戦力担当のマニに完全に喰われてる。 ヴァンサン・カッセルはいい味出してたし、脚本担当したスタッフクビにしてカッセル主演のピカレスク映画にして欲しかった。 -- 名無しさん (2021-11-10 06:37:36)
  • ↑3 人造人間をフランケンシュタインと呼ぶようなものだ。 -- 名無しさん (2021-11-10 08:59:04)
  • 個人的にどっかの人間が気に入らないやつを殺して山野に放置→死体を獣に食われる→人間の味を覚えた獣が集団で暴れまわる→それに乗じて人間もサクサク被害者を増やして獣の所為にした。みたいな展開だと思ってる -- 名無しさん (2022-03-07 11:42:32)
  • ヴァニタスの手記にも出てきたがちゃんと元ネタにもジャンヌさんって人いたんだな、てかジャンヌさん多いなw -- 名無しさん (2023-02-15 17:10:59)
  • サーヴァントになってくれんかなぁ -- 名無しさん (2023-02-16 12:46:12)
  • ↑サーヴァントというより幻霊として来そう -- 名無しさん (2023-02-16 16:40:37)

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