AがAたる理由とその存在証明。或いはAとAの問答。

ページ名:表裏一体の一つ側


K博士「やあやあ。私だ、K博士だ」

K博士「今日も今日とて世界のうわべを生きる幸福で平凡なフレンズ達や研究メンバー数人で、ある『施設』に来ている」

K博士「それは『VR施設』。私が極秘に試験的に開発したヘッドセットであら不思議、自宅に居ながら別世界さ」

K博士「VRというものが世に出てはや何十年、こういったダイブ型なんて珍しくも何とも無いのかな? それともなんともあるのかな?」

K博士「まぁ、どちらにせよ天才たる天才、偉人を超えた英傑たる私にとっては、そんな既出か新作かなんて些末な事だろう。さしたる問題ではない」

K博士「これで、例えば『異世界ファンタジー』も『チート主人公のハーレム生活』も『殺人鬼がのんびり人殺しスローライフ』も思いのままだ。所詮VR、所詮ゲーム」

K博士「よもやこんな遊戯に異を唱える面白みにかけた大人がいない事を祈るよ、世界はもっと自由でのんびりで何でもありなのだから。あっはー、しかしながらちょっと暴れちゃうとすーぐパークの良い子が徒党を組んで制圧しに来ちゃうからね。勤勉な彼ら彼女らが暇にならないよう常に話題提供していきたいところだけど」

K博士「今回ばかりは、邪魔されるわけにはいかない。こっちには論理武装した『大義名分』もある。あぁいい言葉だね『大義名分』、これでだれでも正義のお面を被れちゃう、魔女裁判ですらまごうことなき正義の行いさ、悪魔は、魔女は殲滅されるべき悪なのだからね」

K博士「だから今回の件も、VRも多めに見て欲しい。私の大義名分で納得してほしい。魔女裁判にあつらえるなら……そう」

K博士「『魔』が差したんだ。まったく悪魔は恐ろしいね、天才たる私も……その実、どうしようもなく人間だ。悲しいかな」

K博士「このVR機能は、いわば『なりたかった自分になれる機能』さ。フィクションの中なら誰だって自己投影し放題、望んだ景色が目の前に……例えば」


プラナリア「私に、寿命が……!? ありがとうございます! 遂に、遂に死を手に入れたのですね!」

クマムシ「おかえり。我の同志よ。今日も世界は平和か? あぁ……良かった、私も貴様といられて幸せだよ」

たにし「はーい! みんなお待たせー! 二階席のみんなもいっくよー! 一曲目! 『初故意は蜜の味』!」

Tレックス「やりました。次々と終わる事の無いタスク……え、なに。まだ仕事が、私が必要なのですねお任せください!」

筋肉仮面「これが……究極の薬……! 早速量産体制に! 投与先は金基準ではない、重度な患者から! 老いも若いも浮浪者も富豪も貧民も分け隔てなくだ!」

峰岸「きゃっはー! これもあれもどれも! 可愛い! ねぇねぇ皆見て! あはあはははっ!」

田沼千恵「お父さん! お母さん! 誕生日プレゼントありがと! すっごく嬉しいよ! えへへっ」


K博士「まぁ、なんと素敵で無意味な『夢』なのだろうね」

K博士「そう。私の大義名分とは、VR内で理想の自分となれる、或いはファンタジーをより身近に感じる事による『没入感』いわば『アトラクション』としての運用を考えているんだ」

K博士「楽しいはシェアしてこそのモノ。独り占めはしたくないからね、これで例えば『トラウマ』が解消できるだろうし、脚が無い人は走れる、視力が無い人は見えるといった『夢』を見せる事ができる」

K博士「まさに、夢のひと時を貴方に、ってね。ジャパリパークという『夢の国』には相応しい施設だろう」

K博士「……と。そんな感じでどうだろう? そんな正義でどうだろう、そんな言い分で、そんな感動する尊い動機はどうだろう?」

K博士「あぁ、いや。答えなくていい、『君』の言い分は知っている、言い当てようか? 自分で言う? なら、どうぞ。私はどんな言葉でも受け止めよう、なにせ魔女裁判は慣れっこだ」

??「それじゃ、一言」


民川はなび「――――この人殺し」


K博士「はっはー! こりゃいい! 私達気が合うね、丁度そう思っていたよ。この死にぞこない」

はなび「逢瀬の時を千秋の思いで待っていた貴女がそう言う? 博士ちゃん」

K博士「博士ちゃんは止めておくれよ。私の名前はK博士。君の文字と私の文字をとった天才だよ」

はなび「知ってる。きゃははっ」

K博士「良く笑うねぇ。まるで本物だ」

はなび「ある意味、本物よりも本物なの私は。当然至極です。だってこれはVR。貴女の夢だからよ」

K博士「……やれやれ、この私が高笑いも曲がりくねった天才性すらも放棄するとは、本当に私は救えないな」

はなび「シチュエーションも、病室のベットに成長した私と博士ちゃん。まさにうってつけじゃない。おめでとう、私昏睡状態から回復したよ」

K博士「へぇそうかい。それはとっても縁起がいい」

はなび「おやおや? どうしたのかな? 天才さんは今の気持ちを素直に述べるがいいよん」

K博士「叶うなら今すぐにでも君の首を絞めて殺したいと抜かしたら、ギリ犯罪じゃないかな」

はなび「きゃははは! 犯罪犯罪大犯罪よ博士ちゃん! いくらVRったって、いくら夢の中だって、そんな横暴は許されない」

K博士「だろうね。どうやらVRが自動解除する時間まで不快な時間を食いつぶすしかなさそうだ」

はなび「ちょっとちょっと博士ちゃん、テンションが『あの頃』に戻ってるわ。まだ天才でもない内気なあの頃に」

K博士「私としてはあの頃のほうがキレッキレだったしたまには原点回帰も良いものだろう? こんな夢に縋って理想に縋りつく哀れな私だ、自己陶酔よりもタチが悪い」

はなび「嫌味よねぇ、ほら笑顔笑顔! シリアスは要らないよ、この世は幸せと発見に満ちている!」

K博士「本当、君は憎らしいくらいに彼女にそっくりだ」

はなび「博士ちゃんの記憶だからよ。ほらほら、VRの特権だ。私に抱き着いたり泣いたりしてもいいんだよ?」

K博士「はっはー! それ以上戯言抜かすなら貴様の脳カチ割って脳漿ドリンクとセットでこじゃれたプレゼントこしらえちゃうぞ」

はなび「怖いわねぇ、そんな感情仕舞っちゃいなさい。そんなのキャラが乖離してる。K博士はそんな事言わないですよ」

K博士「K博士のもう一つの可能性、ブラックK博士を知らないな? 倫理観をミキサーにかけたサイコパス仕様さ」

はなび「確かにサイコパスか、それか頭のネジが外れたキチガイじゃないと、あんな動物園にいないだろうしねん」

K博士「おいおいなんだなんだ? そんなテーマで何を話すつもりだい?」

はなび「きゃははっ。強がらなくたって、隠したって意味なんてないです。博士ちゃん、天才の中の天才なら既に頭にある事でしょう」

K博士「倫理観なら意味を成さないけれど?」

はなび「その返しが出来るって事は、認めてるんじゃないかね? うん? 正直、あんな人間の自己満足の塊みたいな動物園に居て心地よいものなのかと問おうか」

K博士「問答ならいくらでも。でもその題材はちょっと分が悪いんじゃない? 主に私に分が」

はなび「まぁいい時間潰しにはなるであろう。うむ、して、動物園っていう表現はあながち間違ってないと思うのだけれど崇高な博士はこの言葉に何か反論は?」

K博士「私が、『人とフレンズは互いに助け合って素晴らしい関係を築いている』なんて答えを提示するとでも? 本来、こう答えるのは君だろう。希望にまみれた希望人間め」

はなび「希望人間なんて昔のあだ名を良く思い出せたわねぇ。まぁ意趣返しというかこういのもまたオツなものだ。博士ちゃんが今いる場所は『倫理』無しには語れない、それこそ魔女裁判覚悟の可能性もある危うい施設だ」

K博士「では私は普遍的な回答を提示しようか、でないと議論が、問答が成立しない。その問いに関しては、確かにあるのだろう。人間のエゴというものが。しかしそれを認めてそれでも愛があれば、エゴなんて些細な問題でしかない」

はなび「『フレンズは人か否か』。こういうテーマにはどう答えます? 博士ちゃん」

K博士「フレンズがヒトではないが人だろう。というか、人でないならそれは人より下だという見方が既にナンセンスさ、人間と同等のもう一つの存在だっているかもしれない」

はなび「綺麗になったね博士ちゃん、まるで良識を備えた人間のようだよ。フレンズみたいだ」

K博士「皮肉が過ぎないかい、私の記憶は」

はなび「こんなもんさ。まぁ元々の私なら『人かフレンズかじゃなくて生きてるか死んでるかで考えましょう!』なんて答えるんだろうけど、それじゃあまりにも面白くないでしょ?」

K博士「面白さなんてお求めしていなのだけどね。それに倫理を考えているのなら、もっと深く、深く嫌味に考えなければ」

はなび「なら、今度は博士ちゃんが問いかけてご覧なさい。私がその全てを希望でかえしてみせちゃおう!」

K博士「であればフレンズとは人間を模した人間モドキであり、人間側の潜在意識には『愛玩動物』というモノが居座って然るべきだろうけど、そこの意見を聞こうかな」

はなび「愛玩動物でもいい! 元気に笑ってる、楽しく食べてる! 暗い事は置いといて楽しい事だけ見てれば世界は美しいわ!」

K博士「では視点を変えて。このジャパリパークという場所は極限までストレスと悪意を排斥して制作し運営されているが、それは一種の『ディストピア』じゃないのかい? 言論統制、情報規制、思考統一、それが果たして健全な場所と呼べるのだろうかね」

はなび「それは恣意的な解釈がみられるわ。フレンズという未確定事項が多すぎる新たな種を保護するにあたり使用される情報は選ぶべきだし、混乱は非常に避けたい事態ではあるですね! 必要な事柄だ」

K博士「現時点でフレンズには様々な種が見つかっているけれど、果たしてすべてが全てパークの現状に満足しているだろうか。広大な敷地面積とはいえそれは誇大解釈した大きな檻に閉じ込めているのと変わらない。檻に閉じ込めておいて更には与える環境も制限し『人とフレンズはお友達だ!』なんていうつもりかい?」

はなび「そんなフィクションじゃあるまいし、最初から自由に行動させて友達友達言ってるような事絶対しちゃ駄目よ。それは無責任、友達だと、共に歩めるからこそ、そうした規制は、管理は、ある程度容認しなくちゃならない。将来人とフレンズが共に歩み寄れる未来を創るために、いまするべきは同一化をはかる事じゃない、情報を集めて安全性と将来性を立証する事だよ」

K博士「人間同士でさえ未だ差別やら何やらで共に歩めていないのに、フレンズなんて新たな種は更なる『差別』の原因になりかねない。けれどその言い分だと近い将来社会にフレンズという奇異な存在を押し上げたいと聞こえるが?」

はなび「これは変化だ。サンドスターという物質が出現した以上、私達人類はこの新たな種を受け入れなくちゃならない。その準備は必要だし、飼殺すにしたってそれはフレンズたちの権利をあまりにも侵害しすぎている。その為、その来るべき将来に向けて今全力でみんな頑張っているのよ。フレンズという種が温かく迎え入れられるように」

K博士「未来は不確定なのだから幾らでも好意的な解釈は可能だろう? これは最後の質問なんだけれどね、フレンズは人とは違い強大な力を備えた明確な『脅威』だ。自然界の頂点である人間の地位が危ぶまれ、徒党を組まれれば人間の兵器如きでは太刀打ちできない。万が一に備え『教育』は、必要ではないのかな」

はなび「洗脳って言いたげね。確かに多様性は認められるし、もしからしたら今後そういった『人間の脅威』なフレンズも登場するかもしれない。でも、それは人間も同じ、いつパークの職員が謀反を起こすか分からない、或いはパーク外の組織の武力介入も考えられる、ネガティブな事は考えたらきりがない。だから」

K博士「だから?」

はなび「だから、私達は言わなきゃ。憶測じゃなく、観測じゃなく、推測じゃなく――――『初めまして。君の事知りたいな』ってね」

K博士「――――君は本当に、憎たらしいくらいに本物のようだ」

はなび「きゃははっ。本物でも偽物でもお好きなように。多少の『ズレ』や『矛盾』も楽しめるのが人間の良い所なんだよ」

K博士「はっはー、そんな事言われずとも天才たる私のブレインは把握しているとも!」

はなび「だったらさ。そんな悪い事も良い事も分かってるんなら……これも現実だって。VRも夢もある種の現実だって受け入れていいのよ。気を張って頑張り続けなくていいんだよ」

K博士「おいおい。魔女裁判するまでもなく、悪魔のささやきをするんじゃないよ。ベットの代わりに絞首台に寝かせてあげようか」

はなび「残念、そんな暇ないよ。……お、そろそろお時間ね。ほら、景色が崩れていく」

K博士「やっとか。やれやれようやくこの悪夢から解放されるよ」

はなび「まぁ確かに悪夢かもしれないし、私の声は悪魔のささやきかもしれないけどさ」

K博士「なんだい?」

はなび「今なら、一時の過ちとして……許されるよ。おいで?」

K博士「…………いや、その誘いは現実で果たそう」

はなび「……頑固者め。博士ちゃんのがよっぽど希望人間だよ」

K博士「当たり前だ。世界は希望に満ちている! 今日も人間は愚かで無慈悲に不幸は降り注ぎどうしようもないバットエンドがそこら中だ! 愉快極まりないね!」

はなび「悪ぶるなよ善人め」

K博士「善人の面被った善人が言うんじゃないよ、はなびちゃん」

 

Tレックス「博士、お疲れ様です。体調の方は如何ですか」

K博士「あははは! この私を誰だと思っているんだい? 天才だよ天才! もーまんたい!」

Tレックス「良かった……中々起きないので心配しました」

K博士「おやおや心配なんてするだけ無駄だから、どっかでリサイクルしてくるといい。他のみんなは?」

Tレックス「既に帰宅した後です、この施設には私と博士だけですね」

K博士「一人で帰ってよかったのにー」

Tレックス「いえ、私は博士の助手ですので。……ところで、博士」

K博士「どうしたんだい?」

Tレックス「私達は、各々自分の希望が詰まった夢のVRを見ましたが、博士は一体何をなさっていたのですか」

K博士「もちろん決まっているじゃないか! 楽しい楽しい実験祭り! 笑顔が絶えなかったね!」

Tレックス「それは良かった。楽しそうでなによりです」

K博士「私の夢なのだからシリアスなんてある訳ないじゃないか! まあ、ただ」

Tレックス「ただ?」

K博士「ちょっとばかし、じゃれあいをしていたよ。いけ好かなくて憎たらしい希望人間とね」

Tレックス「…………」

K博士「どうしたんだい? 私のおっぱいは確かに大抵のフレンズより大きいと自負しているが、あげないよ?」

Tレックス「胸部の話ではなく、憎たらしいと言っている割には……その、楽しそうだなと」

K博士「ははっ。そうだね、私もあの子も結局は似た者同士。悪魔側なのさ」

Tレックス「悪魔?」

K博士「悪魔でも飽くまで世界を遊ぼうってのが最終結論だった。仲良く絞首台を破壊するような時間だったよ」

Tレックス「意味が掴みかねますね。しかし、とても元気そうです。私も嬉しい」

K博士「どうして君が嬉しがる?」

Tレックス「好きな人の笑顔は嬉しいものだと、博士が言っていましたから。それを今実体験で感じていました。なるほど、確かにといった具合に」

K博士「そりゃいいや! でもこれがみんなが楽しけりゃもっと嬉しいよ。なにせその発展形が、このジャパリパークなのだから」

Tレックス「博士、今日はこれからどちらまで?」

K博士「楽しいとこまで!」

 

 

おわり


Tale

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