熱帯低気圧

ページ名:熱帯低気圧
ファイル:HurricaneRita21Sept05a.jpg

ハリケーン・リタ

熱帯低気圧(ねったいていきあつ、英:Tropical Cyclone)とは、熱帯から亜熱帯の海洋上で発生する低気圧のことである。強い風と雨を伴うため、しばしば甚大な気象災害をもたらす。その進路や勢力は季節によって変化し、温帯にまで移動し被害をもたらすこともある。台風、ハリケーン、サイクロンなどは、強い熱帯低気圧に対してその位置する海域別に与えられている名称である。

目次

概要[]

構造[]

ファイル:Hurricane structure graphic.jpg

熱帯低気圧の中心へ吹き込む風(橙)と上空へ吹き上げられ、周囲へ拡散する風(青)

ファイル:Hurricane Isabel eye from ISS.jpg

ハリケーン・イザベル(2003年)の目

積乱雲が中心に向かって巻き込む渦巻き状に配列した構造を持っており、発達したものは中心に目と呼ばれる雲のない領域を持つ。直径は300km程度から2000km程度までとさまざまである。全体が熱帯の暖かい空気からなるため、温帯低気圧と異なり前線を持っていない。

暖められた海面から発生する水蒸気が上空で凝結する際に放出する、潜熱をエネルギー源として発達する。発生した熱帯低気圧は北半球ではまず北西(南半球では南西)へ移動し、その後転向して北東(南半球では南東)へ移動する。中緯度まで移動してきた熱帯低気圧は寒気の影響を受けて温帯低気圧に変化する。

熱帯低気圧も低気圧の一種であるため、周囲から空気が流れ込む。それがコリオリの力によって進行方向が曲げられるため、北半球では左回り(反時計回り)、南半球では右回り(時計回り)に回転する渦状の構造を持つ。この構造の大きさは、直径300km程度の小型のものから2000km近い超大型のものまでと様々である。

熱帯低気圧に流れ込む空気は中心に向かい、角運動量保存則によってその風速を増やす。風速が大きくなるにつれて遠心力も大きくなる。十分に遠心力が大きくなると、中心に空気を吸い込もうとする気圧傾度力と釣り合うため、それ以上中心に近づけなくなる。

しかし、外側から空気がさらに流れ込んできているため、それに押される形で今度は上昇気流となって上空へ押し上げられる。熱帯の海上の空気は大量の水蒸気を含んでいるが、上空に押し上げられると気温が下がるため、これが凝縮して積乱雲となる。対流圏界面まで上昇した上昇気流はそこから台風の外側に向かって、流入の際とは逆方向に吹き出している。

上昇気流が起こっている部分よりも中心に近い部分は穏やかな状態となる。これを目という。

目が明瞭に形成されるには遠心力が大きくなくてはならないので、目を持つのはかなり発達した熱帯低気圧である。

目の直径は一般的に数十km程度だが、発達するにつれてピンホールのようなごく小さな目になったり、一時的に目が消失することもある。また、熱帯低気圧が大きい場合などは直径が100kmを超えるような大きな目となることがある。

目の外側は上昇気流によって作られた積乱雲の壁になっている。これをアイ・ウォールという。アイ・ウォールの外側には熱帯低気圧に流れ込んでくる空気の流れにそって形成されたらせん状の積乱雲の雲列がならんでいる。これをスパイラル・バンドという。

熱帯低気圧の最大の特徴は前線が存在しないことである。これは、熱帯地方には寒気がなく暖気だけから低気圧が構成されているためである。中心の東西南北の空気の性質にほとんど差がないために、熱帯低気圧の構造はほとんど中心に対して対称になっている。このため、高緯度地域に移動して寒気を巻き込んでしまうと、ほぼ対称な構造が崩れ、エネルギー源である潜熱の供給量が減って衰弱し、やがて温帯低気圧になる。

熱帯低気圧に関する概念[]

熱帯低気圧の位置を示す際には、地上・海上での気象観測や気象衛星の画像などから推定した、熱帯低気圧の中心の位置を熱帯低気圧の位置とし、熱帯低気圧の移動や速度なども中心の位置をもとに表される。

熱帯の海洋上で雲がまとまって渦を巻く兆候があり、気圧の低下が見られ、今後も発達する傾向があるような場合に、「熱帯低気圧が発生した」とするが、そのタイミングは明確には規定されていない。

熱帯低気圧が陸上に達することを、上陸という。一般的に、大きな島や大陸に達したときに上陸といい、小規模な島を通った場合には、上陸ではなく通過という表現を用いる。

熱帯低気圧が勢力を弱め、温帯低気圧に変わることを、温帯低気圧化(温低化)あるいは消滅という。温帯低気圧にならずにそのまま勢力を弱め、消えた場合も消滅という。

分類・命名[]

国際的にはすべての熱帯低気圧はその区域内の最大風速によって4段階に分類されている。以下の表における最大風速は、10分間の平均値を用いる。

世界気象機関による熱帯低気圧の分類一般的な熱帯低気圧の分類
分類略号最大風速(m/s)最大風速(ノット)風力北西太平洋注1北東太平洋・大西洋インド洋・南太平洋
トロピカル・デプレッションTD~17.1~33~7熱帯低気圧-注2-注2
トロピカル・ストームTS17.2~24.434~478~9台風トロピカル・ストーム注2サイクロン
シビア・トロピカル・ストームSTS24.5~32.648~6310~11
タイフーンT32.7~64~12ハリケーン
  • 注1:北西太平洋の分類は、日本の『気象官署予報業務規則』第78条に定められた定義。
  • 注2:単に「熱帯低気圧」または「熱帯性低気圧」と呼ぶか、混乱を避けるために後述の機関別分類名で呼ぶ。
  • 注3:日本語訳で「熱帯性暴風」などと呼ぶこともある。


また熱帯低気圧が存在する海域による分類もしばしば使用される。

  • 台風 - 東経100度から東経180度までの北半球に存在する、トロピカル・ストーム以上の強度の熱帯低気圧。
  • ハリケーン - 西経180度から大西洋までの北半球に存在する、タイフーン強度の熱帯低気圧。
  • サイクロン - 東経100度以西のインド洋とその周辺の北半球および南半球全域に存在する、トロピカル・ストーム以上の強度の熱帯低気圧。

ただしこの分類は、純粋に存在海域だけで分けられたものではない。厳密には強度も基準になっているため、強度で見ると台風=サイクロン<ハリケーンとなる。また、台風=タイフーンではないが、英語訳ではどちらもTyphoonとされるので、混同されやすい。

南大西洋については、2004年に初めて熱帯低気圧が発生し「サイクロン」(サイクロン・カタリーナ)とされた。しかし、名称は今のところ確定していない上、サイクロン・カタリーナを熱帯低気圧と考えてよいのかということについても意見が分かれている。

なお、オーストラリア周辺の熱帯低気圧をウィリー・ウィリーと呼ぶという話があるが、これは正確には誤りである。ウィリー・ウィリーは砂漠などに発生する塵旋風や竜巻をアボリジニーが呼んでいる語であるが、熱帯低気圧を指す語として誤解されて研究者の間でも用いられたようである。

日本においては台風以外の熱帯低気圧はその強度に関係なく、すべて単に「熱帯低気圧」と呼称される。2000年5月まではトロピカル・デプレッション強度の熱帯低気圧は「弱い熱帯低気圧」と呼称して区別していたが、玄倉川水難事故の際に災害が起こらないかのような誤解を招くという指摘を受けたため、区別を行なわなくなった。

観測機関別の分類[]

また、上記のものとは別に、熱帯低気圧観測を行う機関ごとに分類されている。以下の表における最大風速は、北インド洋・南西インド洋・オーストラリア周辺・南西太平洋・北西太平洋(気象庁)は10分間のノット基準の平均値、北西太平洋(合同台風警報センター)・北東太平洋・北大西洋は1分間のマイル毎時基準の平均値を用いる。

観測機関別の熱帯低気圧の分類 (Tropical Cyclone Classifications)
風力最大風速(ノット)北インド洋
IMD
南西インド洋
MF
オーストラリア周辺
BOM
南西太平洋
FMS
北西太平洋
気象庁
最大風速(マイル毎時)北西太平洋
JTWC
北東太平洋 &
北大西洋
NHC & CPHC
0-6<28デプレッショントロピカル・ディスターバンストロピカル・ロートロピカル・デプレッショントロピカル・デプレッション≦38トロピカル・デプレッショントロピカル・デプレッション
728-29ディープ・デプレッショントロピカル・デプレッション
30-33
8-934-47サイクロニック・ストームモデラート・トロピカル・ストームトロピカル・サイクロン (1)トロピカル・サイクロントロピカル・ストーム39-73トロピカル・ストームトロピカル・ストーム
1048-55シビア・サイクロニック・ストームシビア・トロピカル・ストームトロピカル・サイクロン (2)シビア・トロピカル・ストーム
1156-63
1264-72ベリー・シビア・サイクロニック・ストームトロピカル・サイクロンシビア・トロピカル・サイクロン (3)タイフーン74-95タイフーンハリケーン (1)
73-85
86-89シビア・トロピカル・サイクロン (4)96-110ハリケーン (2)
90-99インテンス・トロピカル・サイクロン111-130ハリケーン(メジャー・ハリケーン) (3)
100-106
107-114シビア・トロピカル・サイクロン (5)131-149ハリケーン(メジャー・ハリケーン) (4)
115-119ベリー・インテンス・トロピカル・サイクロン150-155スーパー・タイフーン
≧120スーパー・サイクロニック・ストーム≧156ハリケーン(メジャー・ハリケーン) (5)
  • 注1)Tropical cyclone scalesおよびNOAAの資料による。
  • 注2)オーストラリア周辺の熱帯低気圧のカッコ内数字は(tropical cyclone severity categories)。
  • 注3)北東太平洋 & 北大西洋の熱帯低気圧のカッコ内数字はシンプソン・スケール(Saffir-Simpson Hurricane Scale)。

命名[]

世界気象機関が定義するトロピカル・ストーム以上の強度の熱帯低気圧には、それが存在する海域ごとの命名規則に従って、番号や人名による命名がされる。また、海域によっては、トロピカル・デプレッション以上の強度の熱帯低気圧に番号を付与するところもある。

北西太平洋の熱帯低気圧(台風)については、トロピカル・デプレッション以上の強度で、JTWCによる番号の付与(数字の後にWを付ける)が行われる。また、25N 120E、25N 135E、5N 135E、5N 115E、15N 115E、21N 120E、25N 120Eで囲まれた海域を通過する熱帯低気圧(台風)には、さらにフィリピン気象局(PAGASA)によるフィリピン名の命名が行われる。トロピカル・ストーム以上の強度では、気象庁による番号の付与(甚大な被害をもたらした台風は命名されることもある)台風委員会によるアジア名の命名が行われる。台風は最大で4つの呼称を同時に持つ。各気象機関によって分類基準となる最大風速の観測値が多少異なることがあり、ある気象機関だけがトロピカル・デプレッション以上の強度とみなす場合がある。このようなときは「気象機関の略号+Tropical Depression+番号」のような呼称が使用される。

例:2007年台風第4号:4号(気象庁台風番号), 04W(JTWC熱帯低気圧番号), Man-yi(アジア名), Bebeng(フィリピン名)例:2007年台風第9号:9号(気象庁台風番号), 10W(JTWC熱帯低気圧番号), Fitow(アジア名), フィリピン名はなし詳しくは台風の命名を参照。

北大西洋および西経140度より東の太平洋北東部の熱帯低気圧(ハリケーン)については、トロピカル・デプレッション以上の強度で、NHCによる英語数字による命名が行われ、トロピカル・ストーム以上の強度に達すると同センターによる命名が行われる。北大西洋と太平洋北東部それぞれで別々に命名が行われ、数字や名前のリストも別々である。北大西洋から太平洋北東部、またはその逆に熱帯低気圧が移った場合、それまでの名称とは別に新たにその海域の名称が命名される。

例:2007年ハリケーン・ディーン:Four(数字命名), Dean(命名)例:2007年トロピカルストーム・バーバラ:Two-E(数字命名), Barbara(命名)詳しくはハリケーンの命名を参照。

180度から西経140度までの太平洋北中部の熱帯低気圧(ハリケーン)については、トロピカル・デプレッション以上の強度で、CPHCによる英語数字による命名が行われ、トロピカル・ストーム以上の強度に達すると同センターによる命名が行われる。

例:詳しくはハリケーンの命名を参照。

北インド洋の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(ベンガル湾で発生した場合はB、そのほかの海域の場合はAを、数字の後に付ける)、IMDによる番号の付与、沿岸8カ国合同での命名が行われる。

例:2007年サイクロン・ゴヌ:02A(JTWC数字番号), Gonu(命名)

東経90度から125度までのオーストラリア西部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、BOMによる命名が行われる。

例:

東経125度から137度までのオーストラリア北部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、BOMによる命名が行われる。

例:

東経137度から160度までで南緯10度より南のオーストラリア西部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、BOMによる命名が行われる。

例:

東経90度より西の南インド洋の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSまたはRを付ける)、モーリシャス気象局による命名が行われる。

例:2003年-2004年サイクロン・ガフィロ:16S(番号), Gafilo(命名)

東経141度から160度までで南緯10度から赤道までの熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、パプアニューギニアのTCWCによる命名が行われる。

例:

南半球において、東経160度より東の太平洋の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(インド洋で発生した場合はS、太平洋で発生した場合はPまたはFを、数字の後に付ける)、FMSによる命名が行われる。

例:2002年-2003年サイクロン・ゾーイ:04F(番号), Zoe(命名)

各海域の熱帯低気圧[]

ファイル:Global tropical cyclone tracks-edit2.jpg

1985年から2005年までの全ての熱帯低気圧の経路

各海域によって年間発生数は異なる。北西太平洋以外には「シーズン」と呼ばれる熱帯低気圧の発生期があるが、北西太平洋では年中発生する。ただ、これまでの統計によれば北西太平洋でも2月上旬から2月中旬にかけてはほとんど熱帯低気圧が発生していない。

各海域の熱帯低気圧の「シーズン」と年平均発生数
海域シーズン発生のピークトロピカル・ストーム以上タイフーン以上カテゴリ3以上
北西太平洋一年中(3月前半 - 翌年1月)7月 - 11月26.716.98.5
南インド洋10月下旬・11月上旬 - 翌年5月1月中旬 - 2月20.610.34.3
北東太平洋5月下旬・6月上旬 - 10月下旬・11月上旬8月後半 - 9月前半?16.39.04.1
北大西洋6月 - 11月8月 - 10月10.65.92.0
南西太平洋10月下旬・11月上旬 - 翌年5月2月下旬 - 3月上旬10.64.81.9
北インド洋4月 - 12月5月と11月5.42.20.4
[1][2]による。

発生から消滅まで[]

ファイル:TD 01C 2004.jpg

1.発達した積乱雲がまとまり始める

ファイル:TS Estelle 2004.jpg

2.積乱雲がまとまりながら渦を巻き、周囲の積乱雲を巻き込み始める

ファイル:Hurricane Ileana 2006BW.jpg

3.目が現れ、スパイラル・バンドが発達する

ファイル:Typhoon 22W (Cimaron) 2006-10-29 06-00.jpg

4.目が明瞭になり、最盛期を迎える

ファイル:Typhoon 14W (Shanshan) 2006-09-18 05-30.jpg

5.温帯低気圧化して衰弱し、消滅する

発生[]

まず、熱帯低気圧は海上でしか発生せず、温帯低気圧とは異なり陸上では発生しない。これは、熱帯低気圧のエネルギー源が海水が蒸発する際の潜熱であることが理由であり、海上で発生した熱帯低気圧が上陸すると急速に勢力が弱くなる。ただし、熱帯低気圧の位置は渦の中心の位置であり、熱帯低気圧が陸上にあっても周辺部は海上にある場合があり、ごく稀に海に近い陸上で熱帯低気圧が発生することがある。

熱帯地方の海上では北半球の亜熱帯高圧帯からの北東貿易風と南半球の中緯度高圧帯からの南東貿易風が収束することによって上昇気流が発生し、常に積乱雲の発生、消滅が繰り返されている。これらの積乱雲の集まりの中から熱帯低気圧が発生する。しかし、どのようにして積乱雲の集まりが1つの熱帯低気圧にまとまっていくのか、その機構の詳細は未だ研究途上である。赤道上空を流れる偏東風が高緯度側に蛇行した偏東風のトラフの先端部分に渦が形成され、これと熱帯収束帯の積乱雲が相互作用して熱帯低気圧となっていくと考えられている。

熱帯低気圧の大部分は緯度10~15度の海域で発生し、緯度が5度以下の海域ではほとんど発生していない。これは渦の形成にコリオリの力が必要なためと考えられている。また、熱帯低気圧の発生には海面からの持続的な水蒸気の供給が必要であると考えられている。そのため熱帯低気圧の発生海域は海面水温が26度以上の海域とほぼ一致している。このため熱帯低気圧の発生は緯度25度以下の海域にだいたい限られている。また寒流が流れていて海面水温が低い南太平洋東部、南大西洋では熱帯低気圧がほとんど発生しない。また夏から秋にかけて海面水温が高い状態になるので熱帯低気圧の発生が多くなり、冬から春にはほとんど発生しない。

また上層と下層の風向・風速の違い(鉛直シア)が少ないこと、上空に寒気があることなどが、上昇気流を起こしやすくし熱帯低気圧の発生の要因として重要と考えられている。

発達[]

熱帯低気圧は熱帯の海洋上の湿った空気が持つ水蒸気の潜熱をエネルギー源としている。熱帯低気圧に吹き込んできた空気は中心付近で上昇気流となって上空に運ばれる。上空に運ばれた空気は冷やされるため、含んでいる水蒸気が飽和して凝縮し水滴となる。このとき水滴1gあたり2.4kJ程度の熱が放出されて周囲の空気を暖める。暖められた空気は密度が低くなるため中心気圧が低下し、その結果熱帯低気圧に吹き込んでくる空気の量が増加する。そうするとより多くの潜熱が放出されるためさらに中心気圧は低下していく。この連鎖によって熱帯低気圧は急速に発達する。このように積乱雲の発達→低気圧の発達→積乱雲の発達→低気圧の発達というような繰り返しが可能となる大気の状態を第2種条件付不安定(CISK:Conditional Instability of the Second Kind)という。

トロピカル・ストーム以上の強度に発達する熱帯低気圧は世界で年間90個程度である。そのうち60個程度が北半球、30個程度が南半球で発生している。特に北西太平洋での台風の発生が顕著であり年間30個程度がこの海域で発生し、かつ最も発達する。これまでに観測された熱帯低気圧の最低気圧は、1979年10月の台風第20号(台風197920号)における870hPaである。

衰弱[]

熱帯低気圧のエネルギー源は水蒸気の潜熱であるため、水蒸気の供給が減少すると勢力が衰える。海面水温が26度未満の海域に入った場合、または陸地に上陸した場合には水蒸気の供給が無くなるだけでなく、地表との摩擦が大きくなってエネルギーを奪われるため急激に勢力が衰える。

また熱帯低気圧が中緯度まで北上すると寒気の影響を受ける。寒気は含んでいる水蒸気の量が少ないため、寒気が流入することによって熱帯低気圧の勢力は衰える。それだけでなく性質が暖気と寒気の境界に発生する温帯低気圧に近くなってくる。これを温帯低気圧化(温低化)という。温帯低気圧化は熱帯低気圧の外側から徐々に進行し、熱帯低気圧の北東側に温暖前線が、南西側に寒冷前線が形成され、これが徐々に熱帯低気圧の中心に向かって侵入していく。中心まで前線が侵入すると、この熱帯低気圧は温帯低気圧との違いはまったくなくなり、温帯低気圧に分類されるようになる。温帯低気圧のエネルギー源は暖気と寒気の温度差による位置エネルギーであるため、熱帯低気圧が持っていた暖気と寒気の温度差が大きい場合などは、温帯低気圧化により再発達することがある。

移動[]

高緯度ほどコリオリの力が大きくなるため、熱帯低気圧は高緯度に向かって移動する。また熱帯低気圧は中緯度高圧帯からの風、すなわち低緯度では貿易風、中緯度では偏西風に流されて移動する。これらの効果が合わさる結果、熱帯低気圧は発生後、北半球では北西(南半球では南西)へ移動しながら発達し、進行方向を北半球では北東(南半球では南東)に変える。この進行方向を変えることを転向(てんこう)といい、転向する位置を転向点(てんこうてん)という。

観測[]

熱帯低気圧は激しい風雨を伴うため甚大な被害をもたらすことが多い。そのため熱帯低気圧を接近前に観測して対策をとることは極めて重要である。古くは船舶や航空機によって熱帯低気圧内に突入して直接観測することも行なわれていた。特にアメリカ軍による飛行機観測(U-2を用いた)は台風やハリケーンの構造や勢力を直接観測できるため、大きな危険を伴うにもかかわらず第2次世界大戦後から続行されてきたが、経費削減等の影響を受けて北西太平洋海域では1987年以降中止され、現在では気象レーダーや気象衛星による遠隔観測が主となっている。北大西洋では現在も飛行機観測が継続中である。

ドヴォラック法[]

アメリカのNOAAの気象学者ヴァーン・ドヴォラックによって1975年に提唱された気象衛星によって観測した熱帯低気圧の雲パターンから中心気圧と最大風速を推定する手法である。雲パターンは、主に赤外線波長帯の画像と、可視画像から決定する方法があり、衛星視野の昼間は、併用される。赤外画像は、ドヴォラーク温度スケール(カラー化または、グレースケール)の温度変化パターンを使って、DT数(Data T-Number)、PT数(Pattern T-Number)、MET数(Model Expected T-Number)を割り出していく。可視画像は、スパイラルバンドの状態は中心付近の動きなどを含めた判断が行われる。以上の解析から、T数を計算し、それを選択・補正してT数(T-Number)を決定する。そしてこのT数に台風が発達段階か衰弱段階かで補正したCI数(Current Intensity Number)を計算し、これを対応表に当てはめて中心気圧と最大風速を推定する。この解析法は、年代によって解析法も改良されている。近年では、極軌道衛星の画像を用いたものや、サウンディング観測による方法で決定する方法などもある。問題点は、衛星の分解能や波長帯、画像のサンプル量・時間間隔によって、この解析値自体にぶれが生じることがある。北西太平洋地域では、解析する機関によって最大でCI=1.5程度の違いが生じる。

熱帯低気圧がもたらす影響と被害[]

災害[]

熱帯低気圧の多くはまとまった積乱雲を有し、多くの雨を降らせ、強い風を吹かせる。風については、勢力が強い(≒気圧が低い=周囲との気圧差が大きい)ほど強くなり、強い風の範囲も広くなる。

一般的に、熱帯低気圧固有の風速に熱帯低気圧の移動速度を足した分風速が増すため、熱帯低気圧の東側では風が強くなる。ただし、これはまっすぐに北上・南下する場合のことであり、厳密には進行方向と風向が一致する地域で風が強くなるため、東側以外でも風が強くなることがある。

この節は執筆の途中です この節は執筆中です。加筆、訂正して下さる協力者を求めています

気象への影響[]

熱帯低気圧は、地球表面の大気の循環の中でも一定の役割を担っている。最大の役割が熱の運搬である。熱帯低気圧は地球上で最も暖かい赤道気団から構成され、大量の熱を持っている。熱帯低気圧が移動することにより、低緯度から高緯度へ暖かい空気が運搬されることになる。また、水蒸気が豊富な海上から、陸上へと水を運搬したり、上層と下層で温度が大きく異なる海水をかき混ぜて対流を抑える効果もある。

出典[]

脚注[]

  1. "Global Overview - Chapter 1", Neumann, C.J., "Global Guide to Tropical Cyclone Forecasting", WMO/TC-No. 560, Report No. TCP-31, 1993.(NOAA)
  2. [1] NOAA

関連項目[]

ウィクショナリーに熱帯低気圧の項目があります。
ウィキメディア・コモンズ
ウィキメディア・コモンズには、熱帯低気圧に関連するマルチメディアがあります。
  • 低気圧
  • 熱帯気象学
  • 台風情報
  • ハリケーン・ハンター

テンプレート:熱帯低気圧

この項目「熱帯低気圧」は、気象学気候学に関連した書きかけの項目です。加筆、訂正などをして下さる協力者を求めていますポータル 気象と気候)。

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黒松内温泉

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黒川温泉_(兵庫県)

♨黒川温泉ファイル:黒川温泉1.JPG温泉情報所在地兵庫県朝来市生野町黒川交通アクセス車 : 播但連絡道路生野ランプより車で約30分鉄道 : 播但線生野駅から神姫グリーンバス生野駅裏より「黒川」行き終...

黒島_(鹿児島県)

日本 > 鹿児島県 > 鹿児島郡 > 三島村 > 黒島黒島 (鹿児島県)ファイル:Kuroshima of Kagoshima.jpg東方上空より撮影座標北緯30度50分5.6秒東経129度57分20...

黒岳_(大分県)

黒岳標高1,587m所在地大分県由布市位置北緯33度06分20秒東経131度17分34秒山系九重山系ウィキプロジェクト 山ウィキプロジェクト 山黒岳(くろだけ)は、大分県由布市庄内町及び竹田市久住町に...

黒姫山_(長野県)

曖昧さ回避この項目では、長野県信濃町の黒姫山について記述しています。新潟県糸魚川市の黒姫山については「黒姫山 (糸魚川市)」を、その他の黒姫山については「黒姫山」をご覧ください。黒姫山ファイル:Mt-...

黄金崎不老不死温泉

♨黄金崎不老不死温泉ファイル:Furofushi-spa.jpg混浴露天風呂温泉情報所在地青森県西津軽郡深浦町大字舮作字下清滝15交通アクセス鉄道:五能線艫作駅より徒歩約15分。リゾートしらかみ利用の...

黄砂

この記事は秀逸な記事に選ばれました。詳細はリンク先を参照してください。曖昧さ回避オユンナの楽曲およびアルバムについては「オユンナII黄砂」をご覧ください。ファイル:Asian Dust in Aizu...

鹿部温泉

♨鹿部温泉ファイル:Sikabe kanketusen 2005.jpgしかべ間歇泉公園内の間欠泉温泉情報所在地北海道茅部郡鹿部町交通アクセス鹿部駅よりバスで20分。函館市内より車で約1時間。泉質食塩...

鹿塩温泉

♨鹿塩温泉温泉情報所在地長野県下伊那郡大鹿村交通アクセス鉄道 : 飯田線伊那大島駅より伊那バス大鹿線で約50分で最寄バス停鹿塩へ。バス停より徒歩約15分泉質塩化物泉泉温14 セルシウス度|テンプレート...

鷹巣温泉

♨鷹巣温泉温泉情報所在地福井県福井市蓑町22字17番1交通アクセス鉄道 : 福井駅から路線バスで50分車:北陸自動車道福井北ICより45分泉質アルカリ性単純温泉アルカリ性低張性高温泉泉温49 セルシウ...

鷹の子温泉

♨鷹の子温泉温泉情報所在地愛媛県松山市交通アクセス伊予鉄道横河原線久米駅下車徒歩7分泉質単純硫黄温泉泉温38.4 セルシウス度|テンプレート:℃湧出量毎分800リットルpH9.3液性の分類アルカリ性 ...