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曖昧さ回避 | オユンナの楽曲およびアルバムについては「オユンナII黄砂」をご覧ください。 |
黄砂が空を覆った風景。山は霞んで見える。
ファイル:Aizuwakamatsu On A Clear Day.PNGすっきりと晴れた風景。山は澄んで見える。(比較用)
黄砂(こうさ)とは、特に中国を中心とした東アジア内陸部の砂漠または乾燥地域の砂塵が、強風を伴う砂嵐(砂塵嵐[1])などによって上空に巻き上げられ、春を中心に東アジアなどの広範囲に飛来し、地上に降り注ぐ気象現象。あるいは、この現象を起こす砂自体のことである。
気象現象としての黄砂は、砂塵(砂ぼこり)の元になる土壌の状態、砂嵐とともに砂塵を運ぶ気流など、大地や大気の条件が整うと発生すると考えられている。発生の頻度には季節性があり、春はそういった条件が整いやすいことから頻繁に発生し、比較的遠くまで運ばれる傾向にある。ただ、春に頻度が極端に多いだけであり、それ以外の季節でも発生している[2][3][4]。
黄砂は国をまたぐ範囲で被害を発生させ、しかもその程度や時期に地域差がある。主に屋外の物品に砂ぼこりが付着して汚したり、周囲の見通し(視程)や日照を悪化させたり、交通に障害を与えたり、人間や家畜などが砂ぼこりを吸い込んで健康に悪影響を与えたりするなど、多数の被害が発生し、経済的損失は毎年7000億円を超えると推定されている[3][5]。
発生地に近いほど、砂塵の濃度は濃く、大きな粒が多く、飛来する頻度も高い傾向にある。モンゴル、中国、韓国などでは住民の生活や経済活動に多大な支障が出る場合があり、黄砂への対策や黄砂の防止が社会的に重要となっている。近年は東アジア各国で、黄砂による被害が顕著になってきているとされており、一部の観測データもこれを裏付けている[6][7][8][9][10]。これに加えて、環境問題への関心が高まっていることなどもあり、黄砂に対する社会的な関心も高まっている[11][12]。
一方で、黄砂による砂塵の運搬が、自然環境の中で重要な役割を果たしていることも指摘されている[13][14][15][3]ほか、黄砂のもたらす独特の景観などが文化表現にも取り入れられている。また、黄砂の飛来が単に季節の風物詩とされているところもある。
「黄砂」という語でひとくくりにされているが、この語を気象学的に定義すると複数の現象が含まれている。発生地付近では黄砂の元となる「砂嵐」(砂塵嵐)、大気中を浮遊する黄砂は「エアロゾル」であり、風の有無にかかわらず黄砂が空中に大量に浮遊・降下している状態は「風塵」や「煙霧」・「ちり煙霧」である。また、視程障害現象にも分類される。東アジア各国では、気象機関がそれぞれ「黄砂」の定義や強弱の基準を定めているが、いずれも少しずつ異なっている(後節参照)。
発生地の衛星画像。中央よりやや上によったところにある、肌色や薄い茶色の部分が主な発生地。左側からタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原の順に並ぶ。(NASA World Wind)
黄砂のもととなる、タクラマカン砂漠の砂嵐を捉えた衛星画像(PD NASA)
ファイル:China omi 2007089 lrg.jpg時間とともに東に移動する黄砂(紫・黄・黄緑色の部分)、2007年3月30日と31日に撮影(PD NASA)
ファイル:China dust 2008-03-01 aqua.jpg北京・天津付近を襲う濃い黄砂、2008年3月1日(PD NASA)
ファイル:S2001080041432.L1A HJMS.ChinaDust md.jpg中国・朝鮮半島・日本に広がる黄砂、2001年3月21日(PD NASA)
ファイル:Asia dust 2000-04-07.jpg低気圧の風に乗って移動する黄砂、2000年4月7日(PD NASA)
代表的な発生地としては、西からタクラマカン砂漠(中国西部)、ゴビ砂漠(中国北部・モンゴル南部)、黄土高原(中国中央部)の3か所が挙げられる。これ以外にも、以下のリストのように、黄砂の発生が考えられている乾燥地帯がある。
これらの地域はほとんどが東アジアだが、一部は中央アジアにも及んでいる。またこれ以外に、中国東北部(旧満州)、モンゴル北部、ロシアの一部なども発生源となっている可能性が指摘されている[22][23]。発生地の総面積は、3大発生地だけでも日本の国土面積の5倍(190万km²)以上と広い[24]。
これらの発生地は、おおむね年間降水量が500mmを下回り、所によっては100mm以下という乾燥地帯であるため、地表が砂で覆われている[25]。また、乾燥地帯が発生地ということは分かっているものの、飛来する砂塵の分析結果から、発生地は砂漠のみであるとする説、砂漠以外の乾燥した地域であるとする説、その両方であるとする説の3つが唱えられている(下の項参照)[26]。
現在、黄砂の砂塵の大部分は、発生地である乾燥地帯を襲う砂嵐(砂塵嵐)により大気中に巻き上げられると考えられている。
砂塵が舞い上がる条件として、タクラマカン・ゴビ・黄土高原において上空10mの平均風速が5m/s以上、という研究結果がある。これらに加えて、上昇気流や発生地の日差しといった短期的な気象条件も挙げられる[2][23]。周囲を山脈に囲まれたタクラマカン砂漠などの高低差が大きい発生地では、ほぼ毎日同じ時間帯に山谷風と呼ばれる強風が吹き、これが砂塵を舞い上げているとの指摘もある。
また、さらに強い風によって、中国語で沙塵暴(簡体字で「沙尘暴」、読みは「シャチェンバオ」[15])と呼ばれるような激しい砂塵嵐になる場合がある。沙塵暴の条件として、ゴビで10m/s、タクラマカン・黄土高原で6m/sという研究結果がある。沙塵暴によって砂が巻き上げられる高さは、最大で上空7 - 8kmという観測結果があるが、観測装置が故障することがあるためこれが正確な値かは不明である[2]。
ファイル:Sandstorm.jpg参考画像・イラクで発生した砂塵嵐(地域は異なるが黒風暴と同じ現象)
砂塵嵐(沙塵暴)は時に猛烈に発達することがあり、中国の気象当局は、瞬間風速25m/s以上で視程が50m以下の砂塵嵐を「黒風暴」(カラブラン, Kara Bran)または「黒風」と規定しており、俗に「黒い嵐」などと呼ばれている。黒風暴は、寒冷前線の通過時などで大気が不安定になったときに、ダウンバーストやガストフロントなどの局地的な突風をきっかけに発生する。水平方向の大きさは数百mから数百kmに及び、大きな渦を巻きながら移動し、これが押し寄せてくると、高さ数百mの「砂の壁」が迫ってくるように見える。「砂の壁」の中に入ると、急激に周りを飛ぶ砂の量が増え、(昼間であれば)次第に周囲が黄み・赤みを増しながら暗くなり、風も強まってくる。数十分ほど屋外は真っ暗となり、歩くことさえままならない状態となる一方、屋内に避難していても砂の進入によって日常生活が難しいほどになる。黒風暴の発生はごく稀ではあるが、最近では1993年5月5日に発生して甚大な被害を出した(後節で詳しく解説)。[22]
砂塵の飛散と移動のメカニズム。風(4)が吹くと、大きく分けて3つのパターンで粒子が移動する。
(1)転がるようにして進む砂。
(2)跳ねながら進む砂。
(3)空中を浮遊する砂。
単に砂塵が舞い上がると言っても、砂塵の粒の大きさによってその動きはまったく違うものになる。粒の直径が約1mm以上のものは回転運動(左図1)、1mm - 0.05mm(50μm)くらいのものは躍動運動、約0.05mm以下のものは浮遊運動をするといわれている。回転運動をする砂は発生地周辺のみに到達し、移動する砂丘を構成する。躍動運動をする砂は一時的に舞い上がって移動し、沙塵暴のほとんどを構成する。浮遊運動をする砂は風に乗って移動し、遠くまで到達する。[2][3]
浮遊運動をする砂の運動を詳しく見ると、砂嵐によって巻き上げられた後、日中暖まった空気が上昇することによって起きる上昇気流に乗って、上空500m - 2km付近に上昇して移動する。発生地付近では、砂塵の濃度や粒子の大きさがバラバラで非常に複雑な分布であるが、離れるに従って高度1 - 2km付近に濃度が高い層ができる傾向にある。この付近の上空500m - 2kmより下の大気は大気境界層といい、空気の流れが複雑な層である。これより上には自由大気という層があり、一部の粒子がこの層にまで上昇してくると、安定した速い気流に乗って遠くまで運ばれる。ただ、低気圧が発達しながら移動するなどして、激しい風によって空気がかき混ぜられた場合は、日本上空で最大6 - 7km程度と、もっと高い高度にも高濃度の層ができて遠くまで運ばれることもある。また、昼に発生して大気境界層を浮遊している砂塵は、夜になって大気境界層と自由大気の境界が下がってきてもそのまま同じ高度にとどまるため、一部は自由大気に入って遠くまで運ばれることになる。
東アジアや中央アジアなどの広い範囲には偏西風が吹いている。しかし、地上付近では偏西風の影響が少ないため、気圧配置によって砂塵は東以外の方向にも流される。しかし、高度が高くなると偏西風の影響が強くなるため、上空高くに舞い上がった黄砂は東寄りに流される。これにより砂塵は発生地の東側の地域への到達が多い傾向にある[3]。
こういった過程を経て粒の大きな砂から落下していく。北京では粒子の直径がおよそ4 - 20μm、発生後3 - 4日経って到達する日本では4μm前後という調査結果がある[3][27]。参考として、通常の黄砂の場合、舞い上げられた砂塵の3割が発生地に、2割が発生地の周辺地域に、5割が日韓や太平洋などの遠方に運ばれて落下・沈着すると言われている[28]。
ただ、やはり影響力が大きいのはより近い発生地からの黄砂である。例えば、朝鮮半島で観測される黄砂は多くが西方の黄土高原・ゴビ砂漠などで発生したもので、タクラマカン砂漠で発生した黄砂であることは稀である。朝鮮半島とタクラマカン砂漠は5,000km以上離れており、長距離運搬される条件が整った時にしか砂塵は到達しない。
また、韓国に到達する黄砂の「発生から飛来までの経過日数」と「飛来時に黄砂が分布する平均高度」を調べた韓国気象庁の資料では、タクラマカン砂漠は経過日数4 - 8日・高度4 - 8km、中国北部の乾燥地帯は3 - 5日・1 - 5km、黄土高原は2 - 4日・1 - 4km、満州(中国東北部)は1 - 3日・1 - 3kmなどとなっている。[28]
黄砂の年間発生量は年間2億 - 3億tで、降下量は日本で1年間に1km2あたり1 - 5t、北京で1ヵ月間に1km2あたり15t程度と推定されている[24]。ただしその量は、発生地の毎回の天候に左右されると考えられている。
発生地で降水量が多いとその後の黄砂の発生は減り、降水量が少ないと逆に増える傾向にある。降水量によって、土壌の乾燥状態、積雪や植物の有無といった地面の状態が変化するためである。しかし、黄砂の量は、降水量よりもむしろ嵐による強風の程度や頻度に左右されることが多い。そのため、強い低気圧が通過した前後などは砂嵐が多く発生し、黄砂の量も多くなる。また、それぞれの土地の砂粒の大きさの違いも、黄砂の量の違いに関係している。
時期としては、春に最も多く発生する。降水量が少なく地面が乾燥する冬は、シベリア高気圧の影響で風があまり強くない穏やかな天候が続く[29]うえ、ほとんどの乾燥地帯の表土は積雪に覆われてしまうため、黄砂が発生しにくい。春になると、表土を覆った積雪が融け、高気圧の勢力が弱まる代わりに偏西風が強まり、低気圧が発達しながら通過するなどして風が強い日が増えるため、黄砂の発生も増えると考えられている。春の中盤に入り暖かくなってくると植物が増え、夏になると雨も多くなるため、土壌が地面に固定されるようになって次第に黄砂の量は減り、秋に最少となる[2]。
参考として、発生地側の新疆ウイグル自治区での砂塵嵐の日数を調べた統計では、最多の4月に年間の約20%が集中し、3月 - 6月の4ヶ月間に年間の約70%が集中する。敦煌から河西回廊での砂塵嵐の日数を調べた統計では、春の3ヶ月間に年間の5割弱が集中する。ただし、秋にも約1割の発生があり、年間を通して発生していることも読み取れる[3]。一方、飛来地側の日本では、春にあたる2月 - 5月の4ヶ月間に年間の約90%が集中し、夏にあたる7月 - 9月は全くと言っていいほど観測されない。[30]ただし、これは地上での観測をもとにした統計であり、上空を通過する薄い黄砂は夏にも観測されている[4]。
また近年、地上では視程も低下しないため黄砂として観測されない時に、自由大気(自由対流圏)と呼ばれる高層で薄い砂塵が観測されることがわかってきた。これは「バックグラウンド黄砂」と呼ばれている。普段地上でほとんど黄砂が観測されない夏や秋にも発生するほか、高山では酸性霧の中和に関与していることが解明されてきている。バックグラウンド黄砂の特徴として、発生地付近で砂嵐の発生が無く、砂塵を巻き上げて運ぶ低気圧さえ無い状態にも関わらず、発生することが挙げられる。また、バックグラウンド黄砂の成分の特徴として、通常ではCa(カルシウム)が主にCaSO4(硫酸カルシウム)の形で存在しているのに対して、バックグラウンド黄砂では主にCaCO3(炭酸カルシウム)の形で存在していることが挙げられる。これは、バックグラウンド黄砂が、地上から排出される大気汚染物質に含まれているSO42-(硫酸イオン)とほとんど混ざっていないことを意味し、普通の黄砂とは異なる経路を通ってきていることを示している。[31][32][4]
黄砂の発生や程度は、視程のほかに空の色や湿度などの観測結果から、総合的に判断される。現在のところ、黄砂の観測としては目視が中心だと言える。
なお、国際的に通用する気象現象の表現方式である、WMO規定の国際式天気図記号では、以下の11種類が黄砂を表す記号に該当する[3]。
以上の記号は、SNYOPなどの形式に変換され、国際的に気象情報を交換する気象通報として各観測地点から世界中に送信される。また、黄砂の濃度などの情報は、数年前まで国際的なデータの融通が利かない状態が続いていたが、中国が情報提供を開始したことなどを受けて2008年春から、東アジアの広範囲で多くのデータを共有できるようになった。これにより、黄砂の予報の精度などが向上している。
研究や大気環境の監視(大気汚染の観測など)を目的とする精密な観測においては、目的に応じてさまざまな計測機器が使用されている。
以上は地上に設置する機器である。飛行機、ヘリコプター、気球、船舶を利用した観測、2,000m以上の高地(自由大気と呼ばれる大気の層で地面との摩擦が無いため、大気が他とは異なった流れになっている)での観測もある。黄砂粒子のサンプルを採取した分析なども行われている。このほか、広域的な観測ができる人工衛星のデータも利用されている[2][3]。
古くは、日本では少なくとも7万年前以降の最終氷期には黄砂が飛来していたと考えられている。最終氷期の初期にあたる7万年前 - 6万年前ごろの風送ダスト(風によって運ばれ、堆積した砂や塵のこと。黄砂もこれに含まれる。)の堆積量は10cm²あたり12gであった。完新世にあたる1万年前 - 現在までは同3 - 4gである。つまり、最終氷期初期は現在の3 - 4倍と、かなり多かったと推定されている。このほか、1万8千年前にも黄砂の堆積量が増えたというデータがある[3]。
気候との関連については、地球が寒冷期にあるときには乾燥化が進むため黄砂が増加し、温暖期にあるときは湿潤化が進むため黄砂が減少したと推定されている。2千年紀(過去1000年)間の中国での塵の降下頻度の記録から、塵の降下頻度の増加が気温の上昇と逆相関関係にあるという研究があり、この説を裏付けている。寒冷期に黄砂が増加した原因として、大気の流れの変化により寒気が南下する回数が増え、砂塵嵐の頻度が増えたことが挙げられている[3]。
また、現在黄砂の発生源となっている黄土高原は、250万年前から始まり200万年前から増えた、風送ダストによってできたと考えられている。これら黄砂や風送ダストの量の変化は、気候変動や地殻変動によって、風や降水、地形などのパターンが変わったことによるものと考えられている[2]。
また、日本の南西諸島にはクチャ(学術名島尻層泥岩)と呼ばれる厚さ約1,000mの泥岩層が分布しているが、この層には黄砂由来の粒子が含まれていると考えられている。島尻層泥岩は新第三紀、およそ2,500万年前から200万年前ごろの地層であり、このころにも黄砂が飛来していた可能性を示唆している。
更に堆積物の分析結果から、最も古い時代では白亜紀後期にあたる約7,000万年前から、黄砂が発生していたと考えられている[33]。
中国では、紀元前(BC)1150年頃に「塵雨」と呼ばれていたことがわかっている。史料においてはこのほか、「雨土」「雨砂」「土霾」「黄霧」などの呼称があった。また、BC300年以後の黄砂の記録が残された書物もある[2]。
朝鮮では、『三国史記』に、新羅時代の174年頃の記述として、「ウートゥ(雨土)」という表現が残っている。怒った神が雨や雪の代わりに降らせたものと信じられていた。644年頃には黄砂が混ざったと見られる赤い雪が降ったという記録も残っている[2]。
日本では江戸時代頃から、書物に「泥雨」「紅雪」「黄雪」などの黄砂に関する記述が見られるようになった[2]。また、俳句の季語としては「霾(つちふる・ばい)」、「霾曇(よなぐもり)」、「霾風(ばいふう)」なども用いられている。古くは、1477年に紅雪が降ったとの記録(『本朝年代紀』による)が残っている[3]。
近年は黄砂の発生が増加傾向にあるとの報道が多い。地球温暖化や砂漠化の進行を考える上で、黄砂の発生頻度の変化は重要な視点の1つとされているが、正確にその変化を捉えるためには長期的なデータが必要となる。主なデータを以下に挙げる。
黄砂の強さや頻度は数年~数十年単位で変動していることや、その変動は地域によって異なることが分かる。総じて、韓国では1950年代以降、中国では2000年代以降に増加傾向にあるといえる。
変動の主な原因としては、降水量の変化や積雪面積・積雪期間、黄砂の飛来経路の変化などが大きいとされている。しかし、中国での砂漠化や乾燥化も増加の原因だとされている。2007年の時点で中国の国土面積の18%、約174万km³が砂漠と化しているが[34]、過剰な放牧や耕地拡大などの農業の問題、生活や経済の問題がその原因とされており、環境問題としてとらえられる場合もある。中国政府や地方政府が土地の乾燥化に拍車をかけるような政策をとるなどして、乾燥地域の拡大につながっているとの指摘もある一方、黄砂の影響を受けている韓国や日本なども、木材や農産物の輸入などを通して間接的に関わっているとの見方がある[35]。
また、汚染された排水や廃棄物によって土壌が汚染され、植物が枯れて乾燥化を進めている例もある。カザフスタンでは、アラル海の例を見ると分かるように、農業政策の失敗により地下水や湖水をくみ上げすぎるなどして、土地の乾燥化が進んだ。また、内モンゴル自治区などでは、過放牧や工業汚染によって乾燥化が進み、黄砂の新たな発生地になりつつあるといわれている。
そのほかにも、地球温暖化により内陸部の降水量減少や気圧配置の変化が引き起こされ、それらが乾燥化や強風の増加をもたらして、黄砂の増加に関係しているとの考えもある。また、エルニーニョ現象と黄砂発生頻度の関連性も指摘されている。
ただし、黄砂や黄砂被害の変化と、その原因とされる自然環境の変化や人為的な要因については、まだ不明な点もある。また、黄砂とは別の問題である大気汚染などが、黄砂の悪影響を増大させている側面もある。[3]
世界のエアロゾル(黄砂などの砂塵も含めた大気中の微粒子)の分布。中国 - インド - アラビア半島 - ギニア湾岸と、マレー諸島で多い。
類似の現象としては、アフリカ・サハラ砂漠からの乾燥した高温風(リビア名ギブリ、イタリア名シロッコ)、ギニア湾岸からベルデ岬付近の地域で吹く乾燥した冷涼風ハルマッタン、スーダンの砂嵐ハブーブ、エジプトの乾燥した高温風ハムシンなどがあり、砂嵐を伴うことが多く、黄砂によく似ている[36]。シロッコは砂塵の混じった赤い雨を降らせたり、地中海に広く分布する赤土テラロッサの起源になっていると考えられており、黄砂との類似性がある[3]。これらは、砂に対して名称が付けられている黄砂と違って、風や砂嵐に対して付けられている名称である。
また、黄砂のような砂塵の大規模な発生地帯には、中央アジア(黄砂など)、アフリカ(ギブリ・シロッコなど)のほかに、北アメリカ、オーストラリアなどがある[37]。
日本など発生地から遠くに飛来する黄砂の粒の大きさは0.5µm(マイクロメートル) - 5µm(=0.0005mm - 0.005mm)くらいで、タバコの煙の粒子の直径 (0.2 - 0.5µm) よりやや大きく、人間の赤血球の直径 (6 - 8µm) よりやや小さいくらい。この大きさの粒は、地質学においては砂というよりも「泥」に分類される。
中国で観測されるものは粒の大きいものが多く、日本で観測されるものは粒の小さいものが多い。1934年に中国から日本にかけて行われた調査では、粒の大きさは0.001mm - 0.5mmのものが多かったという(光学顕微鏡による調査のため微小な粒子は観測できない点に注意)。1979年に名古屋で採取された黄砂の分析では、おおむね1μm - 30μmのものが多く4μmくらいの粒子が最も多かった。こういった調査により、黄砂の粒子は、粘土粒子同士が凝集したり、やや大きい鉱物の粒子に粘土粒子が付着したりしてできたのではないかと推定されている[2]。
黄砂の色は、黄土色、黄褐色、赤褐色などに近い。
組成を見ると、主に石英、長石、雲母、緑泥石、カオリナイト、方解石(炭酸カルシウム)、石膏(硫酸カルシウム)、硫酸アンモニウムなどからなる。砂漠に多く黄土には無い石膏が含まれていることから、黄砂は砂漠由来であるとする見方があるが、石灰岩などの主成分である炭酸カルシウムが硫酸アンモニウムと反応して石膏となることが知られており(次の文で詳説)、必ずしも砂漠由来であるとは限らないとする見方もある[2]。2002年4月に黄砂の発生・飛来地域で行われたエアロゾルの成分分析では、カルシウム鉱物に占める石膏の割合が、東の地域にいくほど増加したという調査結果がある[38]。
粒子の種類によって度合いは異なるものの、黄砂は空気中のさまざまな粒子を吸着する。北京など中国の主要都市では、黄砂が増加する冬季にエアロゾルの量が増加するためその多くが黄砂であると考えられているが、黄砂発生地の土壌・エアロゾルと中国主要都市のエアロゾルの成分を比較すると、後者のほうが硫酸イオンや硝酸イオン、重金属である鉛の濃度が高くなっていた。また実験により、黄砂の粒子が触媒となって、二酸化硫黄ガスが黄砂粒子の表面に吸着されて反応し硫酸イオンになることや、中国主要都市の大気に多く含まれる硫酸アンモニウムが、湿度が高いときに黄砂に吸着され、黄砂中のカルシウムがアンモニアと置換反応して硫酸カルシウム(石膏)になることも分かった[18]。
黄砂は上空を浮遊しながら次第に大気中のさまざまな粒子を吸着するため、その成分は発生する地域と通過する地域により異なると考えられている。中国・韓国・日本などの工業地帯を通過した黄砂は硫黄酸化物や窒素酸化物を吸着すると考えられているが、中国と日本の茨城県つくば市でそれぞれ採取された黄砂の成分調査によると、つくば市のものは二酸化窒素(NO2)や硫酸水素(HSO4)が増加しており、これを裏付けている[39]。
2001年にアジアの黄砂発生源を3つに区分(中国西部・中国北部・黄土高原)して行われた黄砂の成分分析では、質量が多い順にケイ素が24 - 30%、カルシウムが7 - 12%、アルミニウムが7%、鉄が4 - 6%、カリウムが2 - 3%、マグネシウムが1 - 3%ほどを占めた。このほか、微量のマンガン、チタン、リンなどが検出された[40]。
鳥取県衛生環境研究所の調査では、2005年4月に黄砂を含む大気中の成分を調べたところ、平均値に比べてヒ素が22倍、マンガンが13倍、クロムが7倍、ニッケルが3倍という高い数値を記録しており、黄砂の飛来時には大気の成分が通常とは異なることを示唆している[41]。
また、黄砂飛来時に大気中のダイオキシン類の濃度が増加するとの調査結果も出ている。台湾では、大気中の濃度が通常時よりも35%増加するとの結果が出ている[42]。釜山では、粉塵中の濃度が通常の2.5倍、という2001年の調査結果がある。また同じく釜山で、2007年に人体への摂取量を調べた調査では、通常時は約0.01pg-TEQ/kg/日なのが、黄砂の日は0.028 - 0.038pg-TEQ/kg/日と、2倍以上になるという結果が出ている[43]。
韓国で同国の農村振興庁が黄砂を採取して行った検査では、地域差があるものの、細菌の濃度が通常の大気の7 - 22倍、カビの濃度が15 - 26倍と高かった。黄砂が飛来するときに細菌やカビを吸着し、それが繁殖しやすい気温や湿度となるためではないかとされており、人間や家畜・作物への影響が懸念されている[44]。また、同じく韓国で2003年、黄砂の飛来する前後に行われた疫学調査では、尿の成分測定で多環芳香族炭化水素(PAH)に属する発ガン性物質が平均で25%増加したと発表された[45]。
黄砂の後に麦の病害である黒さび病が増加することは日本で知られていたが、研究により同じく麦の病害である黄さび病の胞子も毎年黄砂とともに日本に飛来することが分かっている。[46][47]
肺に入ると炎症を起こすシリカや、カビの菌糸体を構成するβグルカンなどが含まれているという研究結果もある[48]。
大気中を進むうちに、日光に含まれる紫外線によって、細菌の一部は死滅すると考えられているが、化学物質が分解されて有害なものになることも懸念されている。
2006年4月、北京を襲った黄砂嵐の跡。車に砂が積もっている。(ニュース)
参考画像・クウェートで発生した砂塵嵐。地域は異なるが同じ現象で、黄砂も濃度が高いとこのような光景が広がる[49]。
黄砂によって、以下に挙げるようなさまざまな被害が確認されている。確認されている被害範囲は東アジアの広範囲に及ぶ。モンゴル、中国、韓国では、黄砂による被害は大きな社会問題となっている。日本では、これらの諸国に比べて被害は軽く、環境問題として取り上げられることが多い。[3]
発生源から離れた地域に被害を及ぼす、国境を越えた環境問題の典型的な例の1つで、中国などの経済発展と密接に関連しており、政治的な対策が鍵を握るとの見方もあり、一部では"Yellow dust terrorism"(黄砂テロリズム)と呼ぶ向きもある[50]。
また、黄砂の観測やモデルによる黄砂飛散の推定結果などから、東南アジアで発生した煤や一酸化炭素が日本に飛来してきていることも分かり[51]、アジアの他の地域でも同様の越境汚染問題があることが分かってきている。
大気中の黄砂の濃度が比較的薄いならば、多少の黄味を帯びた霞が発生し、普段よりも視界が悪くなる程度で、日常生活に大きな支障が出るほどではない。しかし、濃度が高くなった場合は、屋外の景色全体が黄味や赤味を帯びた色に見えるようになって、視界が極端に悪くなるとともに、さまざまな被害が報告されるようになる。被害は黄砂が少量の場合でも発生するが、量が多いほど被害が深刻になる。
黄砂が降り注ぎ積もることにより、建物の窓、洗濯物が汚れたり、農作物の生育不良を起こしたりといった、物理的被害が最も多い。ビニールハウスや建物の天窓に積もると、遮光障害を起こすことがある。
黄砂が雨雲や雪雲に入ると、吸着された黄砂が雨や雪の粒に混じって降ることがある。黄砂には非常に小さい粒子が含まれているので、雨と混じって泥状となり、建物や車などにべったりと付着することがあり、雨に混じらない黄砂のみが付着した場合に比べて汚れが落ちにくい。黄砂が雪に混じると、積雪が黄色や赤色に変色することもある。
黄砂は、大気汚染物質などと一緒に大気中に長くとどまり、周辺の雲の色を茶色く変色させ、農作物への被害が指摘されている褐色雲をつくる事もある。大規模な黄砂が発生したときは、気象衛星などの画像に写り込むことがある。
濃度が高い場合、視界が悪くなるために航空機の飛行や車の通行、鉄道の運行、人の歩行に障害を及ぼしたり、大気を覆うことによって気象観測を妨害したりする。また、地上波放送などの電波が乱反射し、受信障害や異常伝播を引き起こすこともある。中国や韓国では、黄砂の濃度が高い時には乗用車の速度規制が行われることがある。
精密機械や半導体の工場では、黄砂の微小粒子の侵入により不良品ができるなどの被害も発生する。速度規制や交通の混乱、健康被害などの諸被害によるものや、砂や塵の処理にかかる費用も含め、大きな経済的損失も生じる。
黒風暴のような発生地付近での砂嵐の場合には、砂も多く強風を伴うため、建物の倒壊・埋没、電柱の倒壊や電線の切断による停電なども起こる。
黄砂の発生地である砂漠の一部では、砂嵐などによって砂丘が移動し、住居が砂に埋まったり、道路が通行不能になるなどして、住むことができなくなった村もあり、被害ははるかに深刻である。[3]
また、黄砂は乾いていても簡単には落ちないうえ、泥のように固まりやすく、自動車の塗装やウィンドーを汚してしまう。一方で、乾いたときにワイパーやタオルで強く拭くと小さな傷を付けやすいため、修復不可能な傷を付ける原因となる。対策としては、なるべくこまめに洗い、水を使って洗うほうがよいとされる[52][53]。
細かい砂の粒子や、粒子に付着した物質、黄砂とともに飛来する化学物質(前節での説明参照)などにより、さまざまな健康被害が生じる。
咳、痰、喘息、ただれ、鼻水、痒みといった呼吸器官への被害や、目や耳への被害が目立つ。黄砂が多い日には、花粉症、喘息、アトピーなどのアレルギー疾患の悪化が見られる。ただし同じ汚染度でも、症状には個人差がある[54][48]。
1995年 - 1998年の春に韓国で行われた疫学調査では、黄砂の飛来時に高齢者の死亡率が2.2%上昇したほか、呼吸器・循環器・眼科の入院率や通院率が上昇した。中国の新聞の報道によれば、砂塵の飛散時には肺の感染症・心臓血管の疾病・心筋梗塞・高血圧・脳卒中などの増加が見られるという(『新生網』2002年5月28日付記事による)。日本では、疫学的な調査結果がまだない[3]。
日本などに飛来する黄砂の粒子は非常に細かいため、肺の末端にまで到達するとされているが、その細かさから到達する量自体はそれほど多くないとされている。また、黄砂自体はアレルギー物質ではないものの、汚染物質が付着したときに何らかの相乗効果を及ぼし、汚染物質が人体に及ぼす悪影響を増幅させている可能性も指摘されている[48]。
中国や韓国では、黄砂の濃度が高い場合に、マスク等の着用を奨励したり、外出を控えるよう促したりする情報が、公的機関によって発表されている[3]。
砂や砂に付着した物質によって、土壌や海洋へミネラルが供給され、植物や植物プランクトンの生育を促進する作用もあり、黄砂に土壌を肥やす効果があることも指摘されている[13]。黄砂の成分であるリンや鉄などが、海洋のプランクトンや、ハワイの森林の生育に関わっているのと研究結果もある[15][14]。また、黄砂に含まれる炭酸カルシウムには中和作用があり、黄砂の飛来と雨が重なると、雨を中性・アルカリ性に変える。そのため、酸性雨の被害軽減にも寄与している。[3]
しかし、麦の病害である黒さび病や黄さび病の発生を媒介することも知られている[46][47]。また、黄砂に吸着されて運ばれるさまざまな物質のうち、有毒な物質による生物への被害や環境汚染が問題視されている。
黄砂が気候にもたらす影響は多数ある。黄砂の粒子が森林や海洋の上にあるときは太陽放射を遮蔽する日傘効果(冷却)、黄砂の粒子が氷雪や氷河の上にあるときは太陽光線を吸収して大気を暖める効果(加熱)、黄砂の粒子が雲核となって地球上の雲の分布を左右する効果(冷却・加熱)、黄砂に含まれる成分が植物やプランクトンに作用することで炭素循環に作用する効果などがあり、結果的にどう作用するかは現在はっきりと分かっていない。[55][56]
黄砂でかすんだ空。太陽は銀色に見えている。
上空を舞う黄砂によって、太陽や月などの色が変わることもある。太陽は銀色になったり、周りに青い光冠(光環)を伴って青色になったりする。また、月も青色になって青い光冠を伴うことがある[39][57]。
こういった現象は滅多に目にすることができない珍しい現象であるが、中国北部を始め日本などでも観測例がある[57]。
この変色現象は、黄砂の粒子が太陽光の一部を遮蔽して弱め、残りを散乱することで起きる。青の変色はおもにミー散乱によるものと考えられており、同様の原理で火星の夕焼けは青くなる[57]。
北京の商店の黄砂対策。入り口に黄砂よけ用のビニール製の暖簾がある
黄砂による被害への対策は各地で行われている。発生地に近い地域では、降り積もる砂を建物内に入りにくくしたり、屋根などに砂が積もって重くならないような工夫などがされている。建物の窓を閉める、建物に入る前に衣服に付着した黄砂をはらう、黄砂の発生後は掃除を行うといった対策が挙げられる[23]。
健康面での被害への対策として、黄砂が大量に降っている場合は、砂の微粒子を体内に取り込まないように、眼鏡やマスクを着用する、うがいや手洗い・洗顔を行う、外出を控えるといった処置をとることが挙げられる[23]。
黄砂は少なくとも数万年前から発生しており[2]、自然現象であって完全に防ぐことはできないという考え方もある[58]。しかし、人為的な処置によって黄砂の量を減らすことはできるのではないかと考えられており、発生地の砂漠化の防止を中心とした対策が行われている。
中国国内の砂漠化・乾燥化地域のほとんどが黄砂の発生源と考えられている。現在に至る過去数十年間、中国での砂漠化の主な原因は、過伐採、過放牧、過剰耕作、水利用の失敗などの人為的なものに加えて、自然な気候変動による乾燥化が重なったことだとされている。
砂漠化や乾燥化の多くは、干ばつなどによる軽度の水不足によって植物が枯死することから始まる。そして、この段階で防ぐことができれば少ない労力で食い止めることが可能だと考えられ、重要視されている。このためには水が必要となるが、もともと水不足であるため限界がある。
一方で、急激に増加する人口を養うため、生産力や経済力を上げる必要があった。そのため、中国北部や西部では、砂漠化しやすい土地でありながら、農耕や牧畜を従来の移動型から土地への負荷(水不足のリスク)が大きい定着型へと変えてしまった。[59][60]
また、砂漠より少し降水量が多い黄土高原などでは、もともと雨水だけに頼り、休耕地をつくって雨水を蓄えさせる(黄土や黄砂は粒子が細かく、表面張力によって粒子同士の隙間に水が蓄えられるため、実は保水性がある。)伝統的な天水農法が行われていた。しかし、他地域と同様の人口増加によって、過剰耕作や灌漑による塩類集積などが発生して、乾燥化が進んでいると考えられている。
こういった背景から、現在のところ、砂漠化防止のため、砂漠緑化と農法の改良を中心とした対策が重要視されている。具体的には、適切な植林、効率の良い薪などの燃料の確保、家畜の管理、土壌浸食の防止、灌漑、水資源の有効利用、エネルギーの再利用、適切な土地利用や農法への転換、砂の移動防止などがあり、技術開発を進め、専門家が指導を行って、砂漠化防止活動を長期間持続できるようにする必要がある[61]。
ただ、住民に負担を強いたり、生活自体を変えたりする対策が多く、砂漠化や乾燥化の防止は簡単に防ぐことができるものではない。中国の一人っ子政策などは人口抑制に大きな役割を果たしているが、それでも不十分であり、砂漠緑化をはじめとした地道な活動が、黄砂対策として必要であるとされている。また、砂漠緑化や農業指導などは、日本など発生国以外の国も協力可能であり、実際に各地で活動が行われている。一方で、乾燥化の進行よりも植林などの対策のほうがスピードが遅く、黄砂対策は実効性を現しにくいという見方もある[22]。
また、各地で気象観測の一環として黄砂が観測されているが、観測点に偏りがあることに加え、気象観測だけでは黄砂現象の解明には不十分なため、より精密で計画的な観測が必要となる。これまでは、個人や小規模なグループによる研究が行われてきた。しかし、1990年代に黄砂現象の実態が詳しく分かるようになったことで、黄砂の実態把握には、数十年という長期間の監視体制を整える必要があることが次第に明らかになってきた[2]。
現在市民向けに提供されている黄砂情報は以下のとおりである[2][62]。
このほかにも、行政機関や研究機関による大規模なプロジェクトがある[2]。
また、モンゴル・中国・韓国・日本各国の多数の大学、研究機関、行政機関が研究や観測に関わっている。複数の国家間で、観測機器や資金の援助、植林や農業指導などの協力も行われている[2]。植林や農業指導については、NGOなどの民間団体が関わったプロジェクトもある。
対策が遅れている原因として、各国で黄砂の定義や分類(下の項参照)、黄砂に関する認識に相違点があることが指摘されている。例えば、黄砂による被害は、モンゴルでは砂による害、中国では砂嵐による害、韓国では気象現象、日本では大気汚染と、かなり異なった概念であると考えられている[2]。
また、黄砂の主原因とされる砂漠化の原因、その責任の所在などが、科学的根拠をもとに明らかにされているとは言えない状況にある。
といったさまざまな主張があり、発生国である中国やモンゴル、被害国である韓国や日本など、立場ごとの主張が対立している[65][66]。
今後の課題としては、地表の水分量や植生の状態、作物の種類や分布、家畜の分布、地下水の取水状況などの継続した調査や、観測機器の整備、観測データの常時共有化、黄砂の定義や分類の統一、黄砂の予測技術の改良、対策の評価などが挙げられている[2]。
各言語での黄砂の名称は以下のとおり。
英語の名称は、学術分野では言語に差異に関わらず広く使用されている。このほか、歌や詩などに使われる霾(ばい、つちふる、bai)などの別名があるほか、「灰西」「赤霧」「山霧」「粉雨」[3]といった地域的な呼び名もいくつか存在する。
中国では、気象観測において黄砂は「砂塵天気」に含まれ、視程(水平視程)10km以内で風が弱い場合「浮塵」、風が強く視程10km - 1kmの場合「揚沙」、風が強く視程1km以下の場合「沙塵暴」とされている。沙塵暴はさらに3級(弱)、2級(中)、1級(強)、0級(特強)に分類される。特に、瞬間風速25m/s以上で視程が50m以下の0級(特強)沙塵暴は、「黒風」や「黒風暴」(カラブラン, Kara Bran)と呼ばれている[2]。
風力(風速m/s) | |||||||
0-4 (0-7.9) | 5 (8.0-10.7) | 6-7 (10.8-17.1) | 8 (17.2-20.7) | 9 (20.8-24.4) | 10- (24.5-) | ||
視程(km) | 10km-1km | 浮塵 | 揚沙 | ||||
1km-500m | 沙塵暴 3級(弱) | ||||||
500m-200m | 沙塵暴 2級(中) | ||||||
200m-50m | 沙塵暴 1級(強) | ||||||
50m以下 | 沙塵暴 0級(特強) |
黄砂でかすむ万里の長城・八達嶺長城の遠景
黄砂でかすむ岡山県高梁市の様子
ファイル:AlaskaDust S2002103 lrg.jpg2002年4月、アラスカまで到達した黄砂の衛星写真
東部でよく観測され、都市部では、最近の経済発展によるスモッグ(煙霧)との相乗効果で、視程がかなり悪くなることがある。北京や天津などは発生地とされる砂漠に近く、近年はたびたび大規模な黄砂に襲われている。
発生地から比較的離れた地域でも、黄砂による被害を度々受けている。2007年4月2日には、上海で623µg/m3(マイクログラム毎立方メートル)と過去最大の量の黄砂を観測し、大気汚染指数が500と過去最悪の数値を観測した[67]。大気汚染指数は0 - 500の数値で表され、300以上が「重度」とされており、今回は最悪の数値を記録した[68]。華北や東北地方では日常的に指数が100前後と高く、これまでに500を記録したことはあったが、上海で「重度」となったのは初めてのことだった[69]。南方の台湾でも最高500µg/m3程度の黄砂が春を中心に観測される。
ただ、発生地周辺の中国内陸部やモンゴルでは、単なる黄砂の降下よりも砂嵐による被害の方が大きい。農作物に砂が積もることによる不作のほか、住居に砂が侵入したり、視界不良による事故などで死者が出ることもある。
これまでで最も大きな被害は、1993年5月5日に中国北西部(寧夏回族自治区、内モンゴルアラシャン盟、甘粛省)で発生した黒風暴で、死者・行方不明者112人、負傷者386人、家畜・牛馬の死亡・行方不明約48万3千頭、4,600本の電柱が倒壊、被害を受けた耕地21万ha、森林被害18万ha、経済損失66億円のほか、多くの道路や鉄道が埋没するという大きな被害を出した。死者の多くは学校から帰宅途中の子供であった[2][22]。この時、甘粛省で22.9mg/m3(22,900μg/m3)という記録的な黄砂の濃度を観測している[70]。
中国の森林管理局によれば、黄砂の影響を受けている中国人は約4億人で、直接的な被害だけでも540億元(約840億円)に及ぶと言う[71]。また別の推定では、1990年代の黄砂に伴う経済損失は年間15億元(Yang および Lu, 2001年)だとされている[3]。
韓国では、黄砂はその程度により、強度0、強度1、強度2の3段階に分類されている[2]。
また韓国気象庁は、環境部所管の観測網から得られるPM10濃度の1時間当たり平均値の予報を基に、規定の濃度が2時間以上続くと予想された場合に、3段階の警報体制をとっている。気象注意報・警報などと同様に、地域ごとに発令される。
以上の基準は、黄砂被害の増加を受けて2007年2月10日に改正されたものである。[72][73][74]
2002年4月には、史上最大の2,070µg/m3の黄砂が降り注いだ。「1 - 2キロほどしか見通しもきかず、呼吸ですら困難なほどであった」と地元新聞は伝えている。2006年4月には2,015µg/m3が観測され、空の便も韓国国内便6便が欠航している。
韓国気象庁によれば、韓国に飛来する黄砂は内モンゴル、ゴビ砂漠、黄土高原などを中心に発生し、発生からおよそ1日 - 8日かけて到達し、最も近い発生源である中国東北地方のものは最短半日で到達する[23]。
韓国政府の推定によれば、黄砂の諸影響による同国での経済損失は、年間およそ3兆 - 5兆ウォンにも達するという[58]。別の推定によれば、黄砂による医療・福祉分野の被害額や黄砂への対策費用は、年間3,640億ウォン(Kang, 2004年)だとされている[3]。
北朝鮮での黄砂の実態は、同国に関する情報が対外的にほとんど発表されていないため、あまり詳細にはわかっていない。ただ、人体への影響、動植物や農作物への影響、工場などへの影響が発生したり、発生の可能性が指摘されたりしていることが、近隣諸国のメディアによって報道されている[75]。
日本では、気象庁により、黄砂とは大陸性の土壌粒子によって視程が10km以下になる現象と定義されている。黄砂の発生が予測される場合は、気象庁から都道府県単位で「黄砂に関する気象情報」が発表される。
2月から5月にかけてよく観測され、特に春先の4月に多く、夏に最小となる。西日本や日本海側で観測されることが多い。山脈を隔てて東側となる東日本や太平洋側、内陸部では観測数は少ないが、時々観測される。
日本における黄砂濃度の最高値は、黄砂以外も含む浮遊粒子状物質(SPM)の参考値ではあるが、2002年に0.79mg/m3(790µg/m3)という値が観測されている[76]。
1967年以降、日本での黄砂観測日数は平均20日程度であるが、2000年から2002年にかけては50日前後と大幅に増加した。日本で黄砂観測日数が増える年は、中国東北部で低気圧が発達しやすく、西風が強い傾向にある。日本で観測される黄砂は大気がかすみ、微量の砂が積もる程度で、大きな被害はほとんど報告されないが、軽微な物理的被害や健康被害は報告されている。気象観測における天気としては煙霧またはちり煙霧に分類される。[3]
地上からの観測による情報は無いが、衛星画像による観測の解析から、ロシアの沿海州・樺太なども黄砂の通過ルートとなっていると考えられている[16]。
遠くで観測された例では、アメリカ合衆国のハワイ州[46]、アメリカ本土、カナダなどがある。
2001年4月上旬に発生した黄砂は、同月15日にソルトレークシティ、18日にはカナダからアリゾナ州にかけてのロッキー山脈、19日には五大湖付近でそれぞれ観測され、20日にはカナダ沖大西洋上空に達した[77][78]。
また、グリーンランドやアルプス山脈でも、黄砂由来のものと見られる砂や土壌粒子が観測されたとの報告がある[26]。
日本に飛来した黄砂により春霞のかかったように見える海、明石市魚住漁港にて。2006年3月11日撮影。
黄砂は、古くより詩、句、歌などの表現に取り入れられており、いわば文化的な影響をももたらしている。
黄砂などが原因で発生する霞は、春霞と呼ばれている。「春霞」や、黄砂の古名である「霾」(つちふる)のほかに、「霾曇」(よなぐもり)、「霾晦」(よなぐもり)、「霾風」(ばいふう)、「霾天」(ばいてん)、「黄塵万丈」、「蒙古風」、「つちかぜ」、「つちぐもり」、「よなぼこり」、「胡沙」(こさ)など、黄砂に関する言葉は多数ある。しばしば情緒的に捉えられ、古くから歌や句などに表現されてきた。また、春の夜に朧月夜が多いのも、黄砂が原因である。
「巳入風磴霾雲端(すでに風磴<ふうとう>に入<い>りて雲端<うんたん>に霾<つちふ>る)」は、杜甫が七言律詩『鄭駙馬宅宴洞中』の中で、雲の端から砂塵交じりの風が吹いてくる様を表したものだとされている。この節の「霾雲端」は松尾芭蕉が『奥の細道』でも引用しており、岩手の里から最上の庄へ行く途中の山中での心細さを表現するのに用いている。加藤楸邨、中村汀女、有馬朗人、富安風生なども黄砂や霾などを扱った俳句を残している。
現代では、「黄砂」自体も歌や句に用いられる。いずれも春の季語である[79]。
「黄砂」や黄砂に関する言葉をタイトルにした作品も多数ある。
ca:Pols asiàticacs:Východoasijské prachové bouřeeo:Flava polvofi:Aasian pölyit:Tempeste di polvere asiatichesimple:Asian Dust
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