御誂次郎吉格子

ページ名:御誂次郎吉格子

「御誂次郎吉格子」(おあつらえ じろきちこうし)は1931(昭和6)年日活製作のサイレント時代劇映画。

封切1931(昭和6)年12月31日全9巻

原作吉川英治「治郎吉格子」

伊藤大輔監督唐沢弘光撮影大河内傳次郎主演という昭和初期の映画界を代表するゴールデンコンビの作品としては、唯一ほぼ完全な形で残されている。


目次

あらすじ[]

大阪に逃亡した義賊鼠小僧次郎吉だが、今はお仙という女郎と同棲中である。お仙とは京から大阪に下る三十石舟で知り合った。お仙は強欲な十手持ちの兄仁吉のために身を持ち崩していたが、凶状持ちの次郎吉に激しい恋慕を抱く。そんなお仙の積極さを次郎吉は疎ましく想うようになる。

ある日、裏長屋に病気の浪人の父と住むお喜乃に出会った次郎吉は、気持ちがお仙から清純なお喜乃に傾くのを止める事が出来なくなる。離れていく次郎吉に自棄になるお仙。兄の仁吉は全てを察し次郎吉をおびき寄せて捕縛しようと、お仙を監禁する。

お喜乃の境遇が、かつての自らの盗みが原因と知った次郎吉は衝撃を受ける。しかも、仁吉がお喜乃の美貌に目をつけ、自身の出世のため好色な同心重松の妾にすることを企んでいる事も分かり、次郎吉はお喜乃を救おうとする。

仁吉はお喜乃の父を殺害、お喜乃を誘拐する。そこへ次郎吉が現れお喜乃を救う。お喜乃とともに逃げようかと迷う次郎吉であったが、仁吉一味を倒す事が自身の義務と考え駕籠屋に命じてお喜乃を安全な場所に逃がす。

御用提灯が光る中を単身乗り込んだ次郎吉は重松を殺す。次に仁吉の家に入るとお仙が次郎吉恋しさのあまり兄を殺していた。「次郎さん。忘れさせないよ!」と叫び、お仙は身代わりとなり窓から川に飛び込む。「川に逃げたぞ!」「川だ!」叫ぶ捕り手。川に集まる御用提灯。

屋根の上では、逃げた次郎吉が「おせん。お喜乃。見ねえ。良い月だぜ。」と涙を流していた。


概説[]

河竹黙阿弥作の歌舞伎でお馴染みの「鼠小僧」の映画化作品。大河内にとっては同年6月封切の「鼠小僧旅枕」(監督伊藤大輔 撮影唐沢弘光)についで2度目の鼠小僧である。2年後には山中貞雄監督で「鼠小僧次郎吉」に主演している。

前作の「大岡政談魔像解決編」が剣戟主体の作品であるのに対し、お正月映画としてのこの作品は、一転してチャンバラを控えめにした恋愛映画で、製作者の意表をついた趣向が見え隠れする。冒頭部の三十石舟のシークエンスでも大河内二役の道中師をはじめに登場させ、そのあと本物の次郎吉を登場させる手の込んだ演出が光っている。

「忠次旅日記」や「新版大岡政談」などで見せた字幕の効果的な使用、御用提灯の描写、世話狂言を彷彿とさせる恋愛心理の表現と叙情性など見所は多く、今は見る事がかなわない幻の名作達を「忠次旅日記」とこの一作で偲ぶ事ができよう。

役人に追われる次郎吉の姿は、封切当時の特高警察の取り締まりに苦しむ社会主義活動家を表しているとの解釈がある。また「御誂」の2文字は経営陣や検閲官に合うように作りましたという伊藤の皮肉がこめられている。

なお、現存するフィルムでは次郎吉の重松殺しのシーンが欠落している。

仁吉役の高勢実乗はこの当時悪役として活躍しており、あくの強い演技で、彼が出ると観客が顔を背けたと言われている。のち、喜劇俳優に転向、珍妙な扮装と独特の台詞回しで「アノネのオッサン」の愛称を持ち人気者となった。


キャスト[]

  • 次郎吉・道中師・・・・・大河内傳次郎
  • お仙・・・・・・・・・・伏見直江
  • お喜乃・・・・・・・・・伏見信子
  • 同心重松・・・・・・・・山本礼三郎
  • やっちゃろの松・・・・・山口佐喜雄
  • 目明し仁吉・・・・・・・高勢実乗

スタッフ[]

  • 脚本・・・・・・・・・・伊藤大輔
  • 撮影・・・・・・・・・・唐沢弘光
  • 監督・・・・・・・・・・伊藤大輔

関連項目[]

  • 日本における検閲


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