登録日:2011/08/04 Thu 11:06:13
更新日:2023/08/10 Thu 16:31:18NEW!
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小説 巷説百物語シリーズ 京極夏彦 指ぬきグローブ 妖怪時代小説 竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話 赤えいの魚 天火 手負蛇 山男 五位の光 風の神 直木賞受賞作 後巷説百物語
「丁度、これが百話目で御座います」
◆後巷説百物語
京極夏彦の小説作品。
「巷説百物語シリーズ」の第三作目。
季刊『怪』誌への掲載を経た後に、書き下ろしを加えた単行本が03年に角川書店から発売。
現在は同社から文庫版が、中央公論社から新書版も刊行されている。
第百三十回直木賞受賞作でもあり、デビュー以来「妖怪」を小説の枠を越えて様々なメディアに膾炙させて来た作者にとっての節目ともなった作品である。
……シリーズ作品としては最後期に当たり、文明開化を迎えた明治の時代を舞台に、
老境に至った一白翁こと山岡百介が「事件」の相談事に併せて又市ら「化け物遣い」の昔語りを語り、その解決のヒントを与えると云うスタイルを執られている。
【六つの怪異】
【物語】
……時に、明治年間の事。
古き時代の妖物が文明開化の名の許に、悉くが消え去ったかと思われた時代に未だ「怪」有りとか……。
友人の一等巡査、矢作剣之進が持ち込む奇妙奇天烈な妖物騒ぎに、
笹村与次郎以下、若者達は今日も薬研堀は「九十九庵」に住む老人……一白翁を訪ね、意見を求める。
老人が語るのは半世紀も昔、目を向ければ其処かしらに暗闇が存在し、怪しき者共が跋扈していた古き良き時代の最後に存在した「化け物遣い」達の物語……。
……そして、時代を越えて一白翁こと山岡百介が仕掛ける、最後の「妖怪狂言」の顛末や如何に……?
御行 奉為……。
【概要】
物語が前後し、テーマ毎の色分け……と云う形を採っていた『巷説百物語』と『続巷説百物語』に対して、
時代設定その物を変化させて紡がれた、シリーズ最後期に当たる「妖怪狂言」最後の物語。
主人公は老境に入った山岡百介。
作者曰わく、又市らとの出会いに「怪異」の正体を悟り乍らも「世すべて不思議なり」の境地に至った百介の憂いを描いた物語なのだと云う。
……それを支えるのが本作の語り部で百介を慕う4人の若者の1人であり、嘗ては北林藩の藩士であった笹村与次郎。
与次郎ら4人が懸想する、百介の許で彼の身の回りの世話をして暮らすヒロイン小夜の正体にも注目である。
また、本作が明治の物語と設定された事に併せてか、特に時代が明確にはされていなかった前作、前々作が江戸末期の物語であると定められ、
それに伴い年表も制作されている。
……そして、本作で作者のもう一つの代表シリーズであり、更に時代が下った後の物語である「妖怪シリーズ」と同一の世界観にある事が正式に明かされており、
『陰摩羅鬼の瑕』『鉄鼠の檻』『狂骨の夢』へと連なる話題が登場している。
同シリーズと『巷説百物語』の関連はTVドラマ版に「憑物落とし」の中禅寺州斎なる人物を登場させ、又市と敵対させる展開が描かれていたが、
作者自身により正式に言及、本編に取り入れられたのはこれが初めてである。
【主要登場人物】
- 一白翁(山岡百介)
薬研堀に閑居「九十九庵」を構える老人。
古の「化け物遣い」の物語を語る。
- 小夜
百介の身の回りの世話をして暮らす遠縁の娘。
年端の行かぬ少女の様にも艶っぽい齢増にも見える美貌を持つ。
【若者達】
- 笹村与次郎
本作の語り部。
嘗ては北林藩の藩士……つまりは侍であったが、維新後は貿易会社の社員として暮らす。
一白翁こと百介とは藩士時代の御役目を通して知り合う。
古くからの妖物、怪異奇譚を好み、引いては百介自身にも情景を抱いている。
- 矢作剣之進
東京警視庁一等巡査。
嘗ては南町奉行所の見習同心だった。
奇っ怪な「事件」に行き当たっては、口の悪い友人達に相談を持ちかけている。
後に「不思議巡査」の渾名を付けられる事に……。
- 倉田正馬
洋行帰りの高等遊民。
合理主義者で怪異には否定的。
元幕府重臣の息子。
- 渋谷惣兵衛
侍の必要とされなくなった時代でも、侍として生きようとする時代錯誤な男。
正馬とは水と油の筈だが、怪異の否定に際しては相棒的な間柄になる。
北林藩の元藩士。
【化け物遣い】
百介の昔語りに出て来る、怪しき者共。
- 御行の又市
札撒き御行の白装束の乞食坊主。
陀羅尼の札をばら撒きつつ諸国を巡り、怪しき噂の発生現場に立ち会っている……?
またの名を天行坊。
或いは、黒き衣の八咫烏……。
- 算盤の徳次郎
呑馬術を初めとした、幻術を得意とする見世物小屋の主。
算盤を鳴らすだけで蔵を開けさせるとも語られる名人の中の名人。
……幻の島の出身者。
- 御燈しの小右衛門
長身で目つきの鋭い、名人と謳われた人形作りの名人。
……天狗とも呼ばれた、人ならざる業の遣い手でもある。
- 一文字屋仁蔵
大阪で戯作の版元を務める大店の主。
狸の渾名を持つ。
後の百介が戯作者として世に出る契機を与えた人物にして、西の裏渡世を仕切っていた傑物。
- りん
小夜の母親。
十三年前に山科の山で奇禍に遭い命を落とし、当時八歳であった小夜との別れを迎える。
和田智弁禅師に保護された小夜の守り袋には、百介の名と住所が記されていた。
由良公房卿が二十年前に「再会」した青鷺の女と思われる。
【余談】
作者曰わく、前二作は題材となる「妖怪」を決めてから物語を描いていたとの事だが、本作は逆に物語を描いてから当てはめる事の出来そうな妖怪を決めたとの事。
その所為か「妖怪」とは言い難いラインナップになってしまったとコメントしている。
※以下、かなりのネタバレ。
「も、百介さん……」
老人は動かなかった。
山岡百介は。
事切れていた。
与次郎は。与次郎は開け放たれた障子の外に、ちらりと白い人影を見た。
でも、突然風が吹き込んだので……。
その幻もすぐに消えた。
道を通せば角が立つ。
倫を外せば深みに嵌まる。
彼誰誰彼丑三刻に、そっと通るは裏の径。
所詮浮き世は夢幻と、見切る憂き世の狂言芝居。
身過ぎ世過ぎで片をばつけて、残るは巷の怪しい噂……。
追記修正 奉為……。
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