霊幻道士(映画)

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登録日:2019/12/26 Thu 22:47:22
更新日:2024/05/16 Thu 10:39:49NEW!
所要時間:約 24 分で読めます



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映画 香港 キョンシー 道士 ホラー コメディ ゴールデンハーベスト 鬼新娘 当時の子供達の憧れ 霊幻道士



天际朗月也不愿看
天际朗月也不愿看
天际朗月也不愿看


明月吐光,阴风吹柳巷
是女鬼觅爱郎
谁人愿爱,凄厉鬼新娘
倍伴女鬼,深宵偷拜月光





『霊幻道士(原題:殭屍先生/英題:Mr Vampire)』は、1985年に公開された香港のホラー&コメディ&アクション映画。
日本でも1986年に公開されて大ヒットとなった。


本作によって、中国版ゾンビとも呼べるキョンシー(殭屍)が国外にも広く認知されることとなり、続編やフォロワー作品が数多く制作されることになった。


一応、本作自体も2013年にリビジットされているが、内容的には本作以降のキョンシーブームをメタ的に扱いつつも方向性の全く違う作品となった。(リメイクでもリブートでもない。ロメロの『ゾンビ』に対する『バタリアン』または『ドーン・オブ・ザ・デッド』の様な関係の作品である。)
本項目では後半で2013年版の項目も取り扱う。



【制作経緯】

実は、制作と配給はジャッキー・チェン等のカンフー映画で知られるゴールデンハーベスト(嘉禾電影有限公司)である。
本作の制作を担当しているのも“香港映画三銃士”の一人であるサモ・ハン・キンポーであり、実は本作の数年前まで日本でも大ブームとなっていたジャッキーやサモ・ハンの活躍していたカンフー映画シリーズの系譜に属する作品である。


そもそも、本作は実際にはシリーズ第一作ではなく、サモ・ハン・キンポー主演のカンフー&コメディにオカルト要素を加えたシリーズ(ぶっちゃけると世界中で大ヒットして数々の亜流作品を生んだジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』から着想を得た作品であった。)である『妖術秘伝・鬼打鬼』(日本では、サモ・ハン主演の『デブゴン』*1シリーズの一つとして放映。)の続編(シリーズ第四作)であった。


とは言え、本作からサモ・ハンが主演から制作に退いたことによりリニューアルされた作品であるということも間違いなく、本作以降は道士vsキョンシーを主軸に据えた新シリーズとして展開されていった。*2


カンフー映画の系譜にあるということからからも解るように、本作に出演しているのはジャッキーやサモ・ハン主演のカンフー映画やアクション映画にて端役や脇役で登場していた同輩、後輩世代の役者達で、それらの作品にて武術指導を行っていた実力者までもが顔を揃えていた。
そうした事実からアクションや殺陣にも非常に力が入れられている作品であり、キョンシーのキャラクター性のみに留まらない、高い娯楽性を誇る作品である。


因みに、日本でもシリーズがTV放映されたりと知名度が高い『幽幻道士』(テンテンちゃんの出てくる方)は、本作のヒットを受けて台湾で制作された亜流作品であり本シリーズとは関係が無い



【物語】

高名な道士のチェン(原語版:カオ)は、街の名士ヤンからの依頼を受けて、予てより進言されていた20年前に逝去した先代の墓を改める場に立ち会うが、何と先代であるヤンの父親の遺体はわざと・・・風水的に誤った方法で墓に収められており、棺の中の遺体は全く腐敗していなかった。


チェンは、先代が悪辣な方法で強引に土地を奪ったことを恨んでいた件の占い師により“呪い”を受け続けていたのだと云うことを見抜くと、キョンシーになりかけていた遺体を自分の義荘に引き取り浄化に挑む。


……が、処置を任せていた弟子達のミスにより、完全にキョンシーと化した先代の遺体はまんまと霊廟から逃げ出しヤンが殺害されてしまう。


現場に駆け付けたチェンは、ヤンの甥っ子でバカな保安隊隊長のウェイによりヤン殺害の容疑をかけられて勾留されてしまうのだが、その夜にヤンの遺体がチェンの懸念通りにキョンシーとして復活。
言い付け通りに脱獄の手助けに来た弟子のチュウサム(原語版:サンコー)と共に立ち向かい、これを撃退する。
……この時、散々に恐ろしい目に合わされたウェイも協力するようになり、愈々、元凶たる先代 キョンシーの討伐に挑むチェンだったのだが、一応は頼るべきはずの弟子達と云えば、チュウサムは死霊の恋患いに囚われ、モンチョイはキョンシーの毒にやられてしまい生きながらキョンシーと化していき……とトラブル続き。


果たして、弟子達のトラブルの面倒もまとめて見る羽目になったチェンだったが、無事に先代キョンシーの暴虐を止めることが出来るのか──?



【登場人物】

■カオ/ガウ(九叔)道士
※日本語では“チェン道士”と訳されている。
演:ラム・チェンイン/吹替:青野武
腕利きで知られる高名な道士。
老齢ではあるが方術と武術の腕の冴えは凄まじく、人々から広く信頼を勝ち得ている一方で、弟子達からはスパルタで恐れられている。
……とはいえ、失敗続きの弟子達を放り出すようなことは考えもしない人情家で、どんどん悪化していく事態についても冷静に対処していく。ぶっちゃけ、この人が弟子任せにしなければ事件が起こらなかった可能性も。
武術のワザマエと共に、様々な呪具を使用する際のキレのいいアクションは子供達の憧れの的となった。
因みに、サモ・ハン主演の頃からシリーズに登場していて本作から主演に抜擢されたラム・チェンイン(林正英)は当時はまだ30代前半の若さであり、本作では白髪に染める等、老けメイクをしてチェン道士を演じている。
中の人は10代の頃にブルース・リーの目に留まったのを機に、武術指導やスタントマンとして活躍した程の人物であり、本作が役者としての当たり役となって、道士=ラム・チェンインのイメージを定着させた程で95年から開始された『霊幻道士』TVシリーズも好評だったが、1997年にガンにより早世。
遺作となったTVシリーズも未完で打ち切りとなっている。



■サンコー/サン(生哥/秋生)
※日本語ではチュウサムと訳されている。
演:チン・シュウホウ/吹替:塩屋翼
チェンの弟子の一人。
通い弟子で、チェンの義荘に居ない時には“おば”の化粧品店を手伝ったりもしている。
長身で、何となく豊原功輔似。
軽い性格で、序盤にはキョンシーの扮装をして見回りをしているモンチョイをからかったり、店に来たティンティンを娼婦と間違えて侮辱したりといったトラブルも。
一方で、師匠であるチェンには及ばないものの武術の腕前はかなりの物で、キョンシーとの戦いでは師弟のコンビネーションで立ち向かった。
ヤンの父親の墓を改めた場にて、若くして死んだ娘の墓を見つけて哀れんでしまったことから“娘の幽霊”に取り憑かれてしまうが……。
二階からの見事な着地等、アクションでの見せ場が多い。
後述の2013年版『キョンシー』では、かつてのキョンシー映画ブームので活躍しながらも現在は落ちぶれてしまったアクションスターという、メタ的な役柄で主演を務めている。



■モンチョイ/モン(文才)
演:リッキー・ホイ/吹替:古川登志夫
チェンの弟子の一人。
チュウサムとは違い、チェンの義荘には住み込みで働いているが、それ故に師の不在時には留守番や、霊廟でキョンシーが休まされている時には世話役を任されたりしており、本編ではその度に悪戯にしろ本物にしろ怖い目にばかり遭っていた。
一応は方術や武術も仕込まれているが、方術はそこそこで、武術の腕前の方はチュウサムには遠く及ばない模様。
しかし、愛しのティンティンが襲われた際には機転を利かせ、自らは傷付いてもティンティンを守りきる等、コメディリリーフながらやる時はやる好漢。
そうした態度もあってか、後半にかけてティンティンもモンチョイに好意を向けてくれるようになっていた。
尚、演じる名バイプレイヤーにして歌手のリッキー・ホイはラム・チェンインよりも年上である。



■ティンティン/ティン(任婷婷)
演:ムーン・リー/吹替:佐々木るん
街の名士ヤンの一人娘で、先代(ヤンの父=祖父)の埋葬を巡ってチェンとその弟子達と知り合い、ヤンが殺されてしまった後はチェンの保護を受けることになる。
父親とは全く似てない美人の18歳。
当初は如何にもなお嬢様風で、カフェでの作法を知らないチェンとモンチョイに対して、砂糖とミルクの使う順番をあべこべにしてわざと不味いカフィー(コーヒー)の飲み方をさせる等、無知な者をからかうような所もあったが、根はいい娘さん。
従兄弟のウェイから想いを寄せられていたが、保護を受ける中で世話役で自分を守ってくれたモンチョイと親しくなっていく。
演じたムーン・リーは当時はアイドル女優という扱いだったが、数年後には香港を代表するアクション女優として有名になった人である。



■ウェイ(阿威)
演:ビリー・ラウ/吹替:屋良有作
ヤンの甥で保安隊の隊長。
家柄で地位を得たのか本人は有能とは言い難く、ヤンが殺害された際にはチェンを誤認逮捕で勾留してしまったことで事態の悪化に一役買ってしまうことに。
従姉妹のティンティンに惚れているが全く相手にされていない。
当初は高慢で、容疑も定かではないチェンに布越しとはいえ焼き印を押し当てる等、残酷な一面も見せたが、ヤンのキョンシーに襲われた際に散々な目に遭いながらもチェンに助けられたことで目が覚めたのか、一転して協力的になり先代キョンシー討伐にも積極的になる。
しかし、それまでに散々に嫌な奴というイメージが付いていた為か、チュウサムは幻を見せられた際には恋人に迫る好色なウェイの姿(実際には幽霊退治に来たチェン)を思い浮かべていた。



■ヨッ(董小玉)
※日本語ではシャンシーと訳されている。
演:ポーリン・ウォン/吹替:小山菜美
20歳の若さで死んだ娘で、現世に強い未練を残していたのか霊魂が留まってしまっており、ヤンの父親の墓を改めた際にチェンの言いつけで近くの墓にも線香を挙げた際に哀れんで貰ったことをきっかけに縁が生じ、幽霊となって飛び出した。
チュウサムを虜にするためには手段を選ばない所があり、自分の境遇への恨みも強かったのか妖術めいた力も使いこなし、他人を犠牲にすることも躊躇わない。軽犯罪程度だが。
弟子を助けにやってきたチェンも苦労させるが、チュウサムへの想いは一途で本物であり、チェンによって消滅させられかけた所を真実を知っても尚、助けることを望んだチュウサムに懇願されて見逃されることになる。
普段は生前と同じ若い娘の姿だが、本当は顔面の半分が崩れており、その様はチェンすら呻かせた程。
本作を代表する挿入歌、EDテーマである『鬼新娘』は彼女を歌った物。



■ヤン(任老爺)
演:ウォン・ハー/吹替:嶋俊介
街の富豪で名士だが、20年前に亡くなった先代である父の死後から不思議と家の運は悪くなっており、チェンに立ち会いを依頼した父の墓を改める場にて、父の埋葬の段階で掛けられていた呪いが原因であったことが判明する。
その後の対処をチェンに任せていたものの、キョンシーとなった父に襲撃されて命を落としてしまう。
更に、キョンシーに襲われて死んだことでヤン自身の遺体もキョンシーとなり大暴れするが、チェンとチュウサムの師弟により火葬にされた。
ヤン自身は娘思いの父親というだけで家に掛けられた呪いの原因では無かったのに、その元凶である父親のキョンシーに殺された挙げ句、遺体もこの世に残らない……と、劇中でもかなりの不幸。



■先代のキョンシー(任老太爺)
演:ユン・ワー/吹替:不明
ヤンの父で、名士だったが悪辣さで知られた人物であり、埋葬された見晴らしのいい土地も持ち主であった占い師から先代が強引に奪った物である。
尚、そのすぐ後に逝去したようだが、埋葬を担当したのが件の占い師であり、埋葬に際してヤン達に悟らせもせずに縦に埋めることになった棺を上下逆さに収め、更に上からセメントで蓋をして魂が天に登らないようにされる等、風水的に誤った“呪い”を掛けられていた。
よって、現在のヤン達に降りかかっている不幸の原因であったが、チェンの言うとおり良心が咎めたのか、最初から20年を期限として赦すつもりだったのか、占い師は20年後に墓を改めるようにと言い残して姿を消していた。
墓を改めた際には“呪い”により穢れが凝り固まった結果、遺体も腐敗せずにキョンシーになりかけていることを見てとったチェンにより荼毘に伏されることを進言されるも、ヤンが「父は生前は火が嫌いだった」と譲らなかったために浄化に挑むも、それに失敗したことが上記の数々の悪化の連鎖の始まりとなった。
20年も穢れと怨念を残していた為か驚異的な強さを誇り、全編に渡ってチェン達も対処に苦労させられることになった。
最終的には偶然からやって来た弟弟子の加勢もあり、自らが嫌っていた火で滅ばされた。
演じたユン・ワーは、当時はまだ20代の若さであったが、既に武術指導で非常に名の知られていた人物。
映画では端役や悪役が多かったが、00年代以降では『カンフー・ハッスル』の大家役で、国外でも改めて注目された達人である。



■道長(四目道長)
演:アンソニー・チェン/吹替:仲木隆司
チェンの実の弟か弟弟子で、キョンシーを生まれ故郷に返す“道長”を専門にしている道士。
その為か、チェンに比べるとやや退治は不得意で慣れていない様子が窺える。
物語の冒頭では道行きの途中で顧客達(キョンシー)をチェンの義荘で休ませており、終盤には正に先代キョンシーとの最終決戦にて同じく義荘に立ち寄った所でキョンシー達を先代キョンシーに立ち向かわせた他、機転を利かして最初に先代キョンシーに火を点けることに成功したものの、大事な顧客達にまで火を回してしまった。
演じたアンソニー・チェンは『完結編』では、メインの道士役として隣の寺の糞坊主と共にキョンシー退治に挑む。




【キョンシー(殭屍)】

キョンシーとは、中国大陸に伝承を持つ、死後も腐らないでいた人間の死体が動き出す怪異のこと。
「明」「清」時代の頃に設定が固まり、かの西遊記等の創作説話にも登場するようになった。


本来の表記では『僵尸(屍)』または『殭屍』となる。
日本語読みでは、何れも“きょうし”である。


古代中国の道教感に基づいた妖怪であり、「三魂七魄」という人の魂を構成する十の要素の内、死後に何らかの事情により陰の気を司る「七魄」が抜け切らず肉体に留まってしまった死体がキョンシーに変異してしまうとされ、主に以下の三つがキョンシーを作る要素となり得る事が多い。


  • 生前、或いは死後にキョンシー化する様に細工されるか術を施される。

上述の様に故意、または偶然にせよ風水的に誤った埋葬をされたり、コントロール用のお札等で一時的に七魄を留められる事で人為的に死体をキョンシー化させる。道士が対キョンシー用のキョンシーとして使役するのも大半がこれ。
特異な例としては永久不滅の存在になろうと邪心を抱いた道士崩れが死後に自らをキョンシー化させるように術を施す場合もあるが、かなり高位の実力者でもなければ大抵はそこらのキョンシー同様、理性を失った怪物になるだけである。
また抜けた三魂の代わりになるものが無い、言わば中空状態にある為、うっかりしてそこに悪霊等の不浄な霊魂が入り込んでしまうと手の付けられない化物と化してしまう危険性も抱えているので、通常は霊廟や義荘といった所で道士やその弟子の手で慎重に管理されている。


  • この世にあまりに強い念を残して亡くなった。

殺人の被害者になってしまう等の理不尽な死への恨みや、死後に遺してしまう妻子や肉親、親友ら等大切な人々への後悔が大き過ぎると七魄を引き留めてしまい、更にその念が抜けた三魄の代わりとして入り込んでしまう事でキョンシー化してしまう。
最もありがちなパターンにして最も危険なタイプのキョンシー。大抵は恨み辛みの念に突き動かされた暴走状態とも言えるキョンシーで、高位の道士でも真っ向勝負は基本的に避けて遠距離からの術による一撃や罠を使って対処する。
一風変わった点としては見開かれた目を肉親や妻子等、繋がりの深い人の手で閉じさせてあげる事で七魄が安らぎ、肉体から抜けて死体に戻ると言うのがあるが、まずそこまで持っていくのが極めて困難な上に抱いている念が強すぎると閉じてもまた開いてしまうので、特効とは言えない。


  • 行き倒れた、または埋葬された土地その物が強力な霊力を宿していた。

極めてレアなケース。抜けた三魂をその土地の霊力が代行する事でキョンシー化する。
上記二ケースとの違いは生前の記憶や人格を完全に保っていると言う点であり、西洋妖怪のリッチやワイトに近い存在になる。
その性質上妖怪と言うよりは仙人に近い形になるが、魂の半分を土地の霊力が代行している関係上その土地を離れれば離れる程力が弱まり、最終的には只の死体に逆戻りしてしまうのでほぼ土地に縛られる事になる。
おまけに下手に記憶や人格を保っている以上、当然ながらそんな暮らしに耐えられない者も出てくるのでその恨み辛みから土地を通り掛かる人々に意図的に災いを為すという、上の二ケースよりタチの悪い存在になったりする。
この手のキョンシーで有名なのとしては原典版西遊記に登場する「白骨夫人」。
霊峰深山を根城にしていたキョンシーで、ある時深山を三蔵法師の一行が通ると聞き、予てよりその血肉を喰らえば真に永久不滅の存在になれると聞いていた白骨夫人は得意とする変化術「解屍法」を用いて三度挑み掛かり、一度目と二度目は身代わりの死体を置いて逃げるも三度目にして逃げられない様に山の神と土地の神を呼び出し見張りに付けていた孫悟空によって遂に打ち倒され、正体である背骨に己の名を刻んだ白骨死体に戻ったという。


因みに“キョンシー”とは広東語読みで、普通語(北京語)読みでは“チャンスー”となるのだが、本項目の主題であり、現代のブームの火付け役となった『霊幻道士』の日本での公開に際して、配給元となった東宝東和が“キョンシー”と採用して広めた。


尚、劇場用パンフレットでは他にも“バンバンシー”や“シャンシー”や“コンシー”等と表記されているものがあるが、此れ等は“殭屍”とは関係がない言葉遊びであり意味が無い。
一応“コンシー”は“殭屍”の下位に属する、干からびた木乃伊の様な死体が甦った妖怪“乾屍(コンシー)”の読みと同じなのだが、映画に出てくるのは“殭屍”なので適当な使い方では無い。


殭(僵)とは“硬直した様”のことで、要は死後硬直により強張った、動きの不自由な死体が起き出した様を云う。
映画でもキョンシーが手足が真っ直ぐ伸びた状態でピョンピョン跳ねてるのは、その伝承に倣ったものである。


後には、前述の様に死後も腐らない死体が変化した妖怪とされる。





……此れ等は、恐らくは東欧地域で発生した“吸血鬼”の伝承と同じ理由で、当時の人々の死体の変化への無学や、そうした時代に“早すぎた埋葬”による悲劇の例を多く生んだ“死んだように眠る(麻痺する)疾病”についての無学から生じた伝承であろうと推察される。
実際に、東欧地域での民間伝承に於ける“吸血鬼”(ゾンビの項目も参照。)と“殭屍”の伝承には多くの共通点が見出だせる。


尚、元々は死体が甦ることがあるが自由に動けないので“即バレする”という程度の伝承だったのだが、後には血に飢えて人を襲う妖怪であるとされるようになった。


また、人の多い土地(湖南省西部)まで出稼ぎに来ていた人々の遺体を道士が死体を自らに歩かせて故郷に返した”とする伝承も生まれ、これは『趕屍(かんし)』と称される。
中国では生まれた土地に埋葬しないと不幸が起きると言われていたからで、遺体は加持符咒した水を満たした椀を持った者が先導して家々に返したという。
この様子も『霊幻道士』と、その派生、亜流作品にて繰り返し登場してきた描写であり、キョンシーを符咒(お札)や方術を用いて操ったり撃退出来るというイメージを定着させた。


また、殭屍となって時を経ると神通力まで発揮するようになると言われており、飛行する力を得た“飛殭(フェイキョン)”や、全体的にパワーアップした“屍尢(シオウ)”になるとも云うが、映画の方ではそんな段階に至ったキョンシーも変わらず“キョンシー”で通されている。


キョンシーのしている特徴的な扮装は、満州族の正装である暖帽(mahala)と補掛(sabirgi kurume)である。
これは、満州族が支配民族となった清朝末期の官僚服でもあり、支配される側である漢民族は着るのを許されていなかったが、死後の世界での栄達を祈って死装束とする習慣はあった為に、キョンシーは大体が“あの格好”をしているのである。
正式には、この格好では辮髪(べんぱつ)をするのだが、清朝末期の頃には既に習慣が廃れてきていたそうで、映画のキョンシーにも辮髪をしていないものが多い。
また、時代設定が降った作品では暖帽、補掛姿で無いキョンシーも登場している。


一方、映画でのキョンシーの特徴や、それに対抗するための術の描写については演出の為に追加したものが多く、キョンシーを題材とした創作説話の影響も受けつつ、映画ならではの奇抜な描写も多い。
元祖である『霊幻道士』自体がコメディ調の作風であったこともあり、以降の派生作品や亜流作品では滅茶苦茶な設定が登場している場合もある。


以下に、元祖となる『霊幻道士』での基本的な特徴。


  • 手足が硬直しており、ピョンピョン跳ねる。

所謂「キョンシー跳び」とか言われるあの動き。
上記の通り、元が“死後硬直した死体が動き出した”怪異の為に、身体が不自由である。
ただし、死後硬直が解けた場合には普通に動けるようになり、更に危険性が増してしまうのでなるべく解けない内に処理をするのが基本とされる。
加えてキョンシー化した死者が生前に何かしらの武術を会得していた場合、下記の怪力を以て繰り出してくる事もある。


  • 目が見えない

手足と同じ理由なのか視覚が利かず、故に唯一使える嗅覚を使い、人間が発する息を嗅ぎ付けて獲物を探す。
息を止めると見つからなくなるのはこのためだが、死後硬直が解けるのと同時期に視覚も戻り、こうなると息を止めても無意味である。
一方、目が見える場合には“鏡に映った自分の姿を怖れる”という別の弱点が生まれるので、鏡が有効な対処法となる。


  • 身体が硬い

死後硬直をしている為に、結果的に凄まじい防御力を誇り、刃物すら受け付けない場合すらある。
流石に銃撃等では傷ついているが、それでダメージを受けている訳ではない。


  • 爪と牙が鋭い

既に死んでいるが、爪や牙がおぞましく伸び、人を襲う武器となる。
如何にも吸血鬼的な描写だが、元々の伝承には無く、元々は“首を捻って血を飲む”とされており、映画の様に直接に噛みついていたとはされていない。


  • 怪力

人間程度なら易々と引きちぎり、大岩や丸太のような重い物も軽々と持ち上げ放り投げたりする。
この為キョンシーに正面から格闘戦を挑むのは余程の修練を積んだ道士でもなければ自殺行為に等しい。


  • 仲間が増える

キョンシーの牙や爪で傷つけられると、死んでしまわない場合であっても徐々にキョンシーの毒が回ってキョンシーになってしまう。
一応、生きている状態から変化する場合には“かなり進行”したように見える場合でも回復していた。
尚、こうした特徴は伝承や昔の創作説話には見られないため、西洋の吸血鬼を参考に映画から加えられた設定であろう。



この他、夜行性であったり、作品によっては日光に当たると溶けてしまう場合もあるが、死体なので夜行性と想像するのはともかく、日の光に極端に弱いとするのは矢張り吸血鬼を参考にアレンジされた要素である。


尚、尤もらしく風水的に誤った埋葬方法により埋葬した死体が変化するとか、魂魄の内の魄(人間としての感情と欲望)のみが現世に留まり死体を動かすと言われているものの、此れ等も民間伝承にも残るものの“根拠の無い俗説から生じた後付け”であろうと推察されている。


また、大陸由来の魔除けとして、此方は『霊幻道士』以前より日本でも知られていた咒いである、邪気を吸い出す効果を持つもち米や、魔除けの力を持つ桃の木から作り出した木剣等も映画を通して、シリーズお馴染みのアイテムとなっていった。
尚、もち米や桃の木剣は現実にもその筋の人達が使用するマジックアイテムであるが、シリーズが進んだり、亜流作品の方ではとんでもないスーパーウェポンが登場している。


後のシリーズでは子供(童貞)の小便も魔除けに使われていた。助かったなオマイラ。




【2013年版】

『キョンシー(原題:殭屍/英題:Rigor Mortis)』は、2013年に公開された香港のダークファンタジー、ホラー映画。
英題は直訳すると“死後硬直”となる。
日本でも初公開となった2013年の第26回東京国際映画祭では『リゴル・モルティス/死後硬直』と直訳されていたが、翌2014年のシッチェス映画祭ファンタスティック・セレクションでは『キョンシー』に改められた。


オリジナルシリーズをこよなく愛する、香港のアーティストのジュノ・マックが監督と脚本を担当した……が、オリジナルへのリスペクトが深すぎるが故に下手糞なリメイクやリブートではなくリビジット(再訪)を目指した(意訳)……結果、過去のキョンシー映画からは考えられないガチホラーへと生まれ変わった


また、監修として世界的に有名になった『呪怨』シリーズの清水崇を迎えており、全編に渡ってダークで残酷で救いのない場面が連続する鬱映画として仕上がっている。


……こうした経緯から、過去の『霊幻道士』シリーズから始まるキョンシー映画の雰囲気を期待していた層をガッカリさせることになったが、映画その物の出来は悪くなく、美麗なVFXも注目である。
そうした意味では全くの別物として見れば優れたアジアンホラーと言える……のだが。……一方、結末が盛大な夢オチだったことについては、擁護してくれている層からもガッカリとの声も。


オリジナルとは全くテイストが違う作品となったものの、監督によるリスペクトから、オリジナルシリーズから可能な限りのキャストが集められているのも特徴で、そうした意味でもオリジナルシリーズが好きだったファンも注目である。


『鬼新娘』も流れるが、本作では涙目物のアレンジがされている。……怖い。



【物語】

貧民街出身ながら、10代にして映画の世界に飛び込み、その後『霊幻道士』での活躍で一躍トップスターとなったチン・シュウホウ(本人役)であったが、ブームが去ると共に仕事を失い、妻子とも不幸な別れかた(死別)をしていた。


結局、自分の生まれ出たのと似た貧民窟(巨大な団地)へと行き着いたシュウホウはそのまま死ぬつもりであったが、首を吊ろうとした瞬間に双子の姉妹の悪霊に取り憑かれ、前後不覚に陥ってしまう。


そこで、騒ぎを聞き付けてやってきた安飯屋の主人で、実は本物の道士の家系の末裔であるヤウに救われ、死に損ねたシュウホウ。
そんな中、シュウホウは2442号室のお供え物を食べ漁っていたフォンを目撃する。


恩人であるヤウや、繕い物が得意な親切な老婆のムイといった住民達と知り合う中で死ぬ気こそ失くしたなれど、新たな生きる目標までは持てなかったシュウホウだったが、失った自分の息子を思い出させるフォンの息子のパクと出会い、興味を引かれたシュウホウはフォン母子の姿を探すのだった。


……遂に母子を見つけるも、それを見咎めた管理人のインより、実は以前の2442号室の住人で元看護師であったというフォンの身の上話を聞かされるシュウホウ……。
フォンの夫は家庭教師を生業としていたのだが、パクが生まれた頃にフォンを相手に出来なかったことで溜まっていたのか、生徒であった件の双子の妹に欲情し、妹をレイプしている途中でやって来た姉に刺されて殺されたのだった。
そして、姉も気付かぬ内に刺されていて相討ちとなり倒れ、妹もレイプされた屈辱と姉を失った哀しみから自殺し……そうして、双子の姉妹が悪霊と化してしまったことを知る。
これ以来、フォンは夫と双子の姉妹の死んだ自分の部屋に帰ることが出来なくなり、近所の住民から追い出されながらも他に行く場所も見つけられずに何時しか貧民窟を彷徨うようになり、インの厚意で礼拝堂で辛うじて生かされていることを知る。


双子の姉妹の悪霊が2442号室に取り憑いていた事実を知ったシュウホウはヤウに協力を依頼するのだが、ヤウは自分の身の上話を明かすと共に断る。


……そんな中、未だに咒いを捨てずに何事かを行っている貧民窟のもう一人の道士ガウが、シュウホウを利用して双子の悪霊を捉えようとする事件が起き、騒ぎを聞き付けてやって来たヤウも巻き込まれる。
ヤウの協力もあって、何とか双子の悪霊を箪笥の中に封じるも、ヤウはガウを悪し様に罵るのだった。


何れにせよ、自分と同じように罪と傷みを抱えるフォン母子の境遇を知ったシュウホウは、双子の悪霊が消えたこともあり、インを通じて親子を2442号室へと迎え入れて懐かしい思いに浸るのだった。


……一方、ある事をガウに依頼していたムイの部屋では、双子の悪霊を利用したガウの咒術と、もはや人としての心を失ったムイにより作り上げられていたが失敗に終わった結果、危険な存在と化した“ある物”が動き出そうとしていた……。



【登場人物】

■チン・シュウホウ(錢小豪)
演:チン・シュウホウ/吹替:池田秀一
元俳優。
『霊幻道士』でスターとなりながらも落ちぶれてしまったという設定。
困窮の中で家族を失くし、死んだ息子の声が録音された電話を大事にしており、死に場所を求めて貧民窟にやって来た。
腕には息子が“描いてくれた”時計の跡が辛うじて消さずに残されている。
演じるのは初代『霊幻道士』でチュウサム(サンコー)を演じたチン・シュウホウ自身で、役名も本名そのまま。
なお実際のシュウホウ氏は今なお香港映画を代表する俳優として活躍しているのでご安心を。
昔を懐かしむ場面では『霊幻道士』の撮影現場が写された本物の写真が登場しており、ラム・チェンインやユン・ワー等、当時のメインキャストの姿が見られる。



■ヤウ(阿友)
演:アンソニー・チェン/吹替:ジャッキー・チェン
由緒正しい道士の家系に生まれながらも父親の代には既に没落していた、役目を失くした現代の道士だが実力は確か。
子供の時分に、悪霊退治に向かった父親が貧民窟の知り合いの元に自分を預けたまま戻れず、その後は数十年に渡り貧民窟で暮らして、今は孤独な安飯屋の主人として腕を振るっている。
演じるのは初代『霊幻道士』に出演し、4作目の『完結編』では主役のスーパーレイゲンマンゴクウ道士役だったアンソニー・チェン。
オリジナルシリーズでは何れもコメディリリーフであったが、本作では常にシリアス。



■ムイ(梅姨)
演:パウ・ヘイチン/吹替:巽準子
貧民窟の住人で、夫のトンと二人だけで暮らしているが、繕い物が得意で住民達から広く愛され信頼されている。
鼻摘み者のフォンの息子であるパクを快く家に上げて遊ばせる等、優しいおばあちゃんであったが……。



■トン(冬叔)
演:リチャード・ン/吹替:樋浦勉
ムイの夫で、人々に愛されている妻とは対照的に偏屈と口の悪さから嫌われているが妻には優しく、ムイが引き受けた繕い物が女性物であってもマネキン替わりに着てあげて繕う部分を確かめさせたり等の手伝いをしていた。
……ある時から姿が見えなくなるが……?
演じるのは『霊幻道士3』で兄弟キョンシーを使ったインチキ商売をしていたマオ(ミン)道士役のリチャード・ン。



■フォン(楊鳳)
演:クララ・ワイ/吹替:小林さやか
夜な夜な貧民窟を徘徊しては、かつての自分の家である2442号室付近に出没していた狂女。
実は、当初に予定されていたキャスティングでは初代『霊幻道士』の女幽霊(ヨッ)役であったポーリン・ウォンに依頼するつもりであったが、彼女が撮影の直前に手術をすることになった為に変更された。



■パク(小白)
演:モリス・ホウ
フォンの息子。
不幸な身の上ではあるが、事件の核心が赤子の時の話であるためか、当人には暗い陰がなく快活な性格をしており、鼻摘み者の母親とは違って住民からも愛されている。
シュウホウにも懐いていたが……。



■コック
演:ビリー・ラウ
ヤウの店の店員。
演じるビリー・ラウは初代『霊幻道士』のウェイ役等、名バイプレイヤーとして笑いを提供していたビリー・ラウ。



■イン(燕叔)
演:ロー・ホイパン
貧民窟の管理人で、老齢だが現在でも住民達の状況の確認を怠らず、夫の罪から鼻摘み者となったフォン母子を気にかける等、優しい人物。



■ガウ(九叔)
演:チョン・ファ/吹替:羽佐間道夫
貧民窟に古くから住んでいる道士で、道士として生きることをとっくの昔に諦めているヤウとは対照的に、どんなに小さいことでも住民達の願いを聞き届けて咒いを行ってきた。
……そして、余りにも危険なムイの願いも……。
…末期の肺癌に侵されている。
演じるチョン・ファは過去の『完結編』で、ラウ役のアンソニー・チェンの弟弟子のツル道長(千鶴道長)を演じていた人物。



この他、企画段階では初代『霊幻道士』のモンチョイ役であったリッキー・ホイのキャスティングも考えられていたが、ホイが2011年に急逝した為に実現しなかった。







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  • 2013年版の鬼新娘のアレンジが荘厳でおどろおどろしくもどこか悲哀と美しさを感じさせるメロディーがたまらなく好き -- 名無しさん (2019-12-27 14:16:32)
  • 今見ると陳腐な所もあるけどアクションシーンは普通にかっこいい -- 名無しさん (2019-12-27 14:28:37)
  • 2013年verはアクションもストーリーも見応えあるけどエンディングで全てがなぁ…全体を通して今はもうあの頃のようなコメディホラーなキョンシー映画を作る事が出来なくなってしまった昨今の香港映画界を小気味良く皮肉ってるのも面白いけど -- 名無しさん (2019-12-27 15:51:12)
  • ↑ホラー映画として、本当に良く出来てるだけに余計にね。 -- 名無しさん (2019-12-27 21:40:35)

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*1 『燃えよデブゴン(原題:肥龍過江)』はサモ・ハン主演の78年の『燃えよドラゴン』のパロディ映画。当初は日本では話題にならなかったが、数年後にサモ・ハンやジャッキーのカンフー映画が大人気になっまことにより遡って輸入され、更にはサモ・ハン主演の映画は凡て『デブゴン』シリーズとして勝手に纏められていた。
*2 正確にはサモ・ハン主演の頃からキョンシーも登場していたが、敵キャラとなる幽鬼の一つでしかなった。

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