登録日:2011/09/28(水) 03:03:42
更新日:2023/08/18 Fri 19:45:04NEW!
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小説 妖怪時代小説 巷説百物語シリーズ 京極夏彦 竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話 大阪 上方 天下の台所 桂男 遺言幽霊 水乞い幽霊 鍛冶が嬶 夜楽屋 溝出 豆狸 野狐 百物語
「これで終いの金比羅さんや……」
◆西巷説百物語
「にしのこうせつひゃくものがたり」は京極夏彦の小説作品。
「巷説百物語シリーズ」の第五作目。
季刊『怪』誌への掲載を経て、10年に書き下ろしを加えたハードカバー版が発売された。
次にこのシリーズが発表されるのは本作から11年後、2021年の『遠巷説百物語』まで待つことになり、本作ではこれまでの「江戸」の仲間達を中心とした物語から上方を舞台とした「大阪」の仲間達の物語へとシフトチェンジしている。
今回の主人公は前作『前巷説百物語』での活躍も記憶に新しい靄船の林蔵と上方の仲間達だが、書き下ろしとなる最終話には御行の又市と考物の百介と云う、これまでのシリーズでの主人公二人も登場しており、新展開を迎えたシリーズを飾っている。
【七つの怪異】
【物語】
怪しき巷説も、
西と東ではまた違う。
草深い田舎でも無ければ、泥溝臭い江戸とも違う、大都市大阪で囁かれる……「怪しき噂」の渦中に男が一人。
……その男、口の端に巧みに人を乗せ、嘘と真をくるりと入れ替え……やがては彼岸までへと連れて行ってしまうと云う……。
一文字狸の命を受け、その男……比叡山の幽り船、彼岸送りの靄船の林蔵が挑む「どうにもならぬ」六つの因縁話の結末や如何に。
……そして、林蔵が最後に直面する、十数年前の「苦い思い出」の真実とは?
御行 奉為……。
【概要】
これまでのシリーズとは中心となる仲間達の顔ぶれを変える事で、新機軸を取り入れて見せたシリーズ第五作。
構成の形態としては、第一作『巷説百物語』と同じく、事件によって登場人物も舞台も大きく変わるオムニバス形式を採用しており、そう云う意味では原点回帰を果たしているとも考えられる。
シリーズの時系列としては『巷説百物語』『続巷説百物語』と時期を同じくしているらしく、そうした部分でも懐かしさを感じる読者も多かったのでは?と思われる。
毎回、最終話に当たる書き下ろしでは重要な話題が触れられる事が多いのだが、本作ではシリーズの象徴である又市と、代表的な語り部である百介の二人が登場。
前作から語られていた「因縁」の決着に力を貸している。
【主要登場人物】
- 靄船の林蔵
表向きは、書き物道具一式を扱う「帳屋」商いをする男だが、その実体は上方の裏渡世の大物「一文字屋仁蔵」の命を受けて「仕掛け」に挑む実行部隊の頭役。
つるりとした面相の佳い男だか、過去の出来事から女を遠ざけているらしい。
- 横川のお竜
『巷説百物語』にもちらりと登場していた、上方での林蔵の仲間。
少し見ただけでは何処にでも居る娘に見えるが、その実は「仕掛け」に応じて凡る物に化ける名人。
- 六道の柳次
上方での林蔵の仲間で、死者を呼び覚ます業を得意とする小悪党。
林蔵の「仕掛け」を支える。
その後『遠巷説百物語』でも登場している。
- 祭文語りの文作
漂泊の民ながら「一文字屋仁蔵」の配下として、林蔵の「仕掛け」を手伝う食えない爺。
実はシリーズ中でも、特に行動範囲が広い人物である。
- 考物の百介
江戸の蝋燭問屋「生駒屋」の若隠居で、全国を巡り怪しき「巷説」を蒐集している。
- 御行の又市
嘗ては上方にて、林蔵と組んで彼方此方を荒らし回っていた小悪党。
林蔵の失敗により上方を出ざるおえなくなった事を恨んでいると云うが……?
- 御燈の小右衛門
神業と讃えられる程の、人形作りの業を持つ老人。
その実体は「天狗」と呼ばれた裏渡世の大物。
- 一文字屋仁蔵
江戸から戻って来た林蔵を再び迎え入れていた上方の裏渡世の大物で「狸」の徒名を持つ。
シリーズ中でも度々、その名を耳にする機会は多い。
- お栄
『野狐』に登場。
十数年前に林蔵の所為で命を落とした、妹お妙の仇を「全てを承知で」一文字屋狸に依頼する。
※以下、若干のネタバレ。
白装束の又市。
死んでいるお妙。
死んでいる林蔵。
「困りましたねぇ。※※さん」
低い、落ち着いた声だった。
「お、お前等ァ、何やねんな」
「嘘は困ると申し上げた筈です」
道を通せば角が立つ。
倫を外せば深みに嵌まる。
彼誰誰彼丑三刻に、そっと通るは裏の径。
所詮浮き世は夢幻と、見切る憂き世の狂言芝居。
身過ぎ世過ぎで片をばつけて、残るは巷の怪しい噂……。
これで追記の阿似御他さんや……。
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▷ コメント欄
- 「鍛冶が嬶」が一番やり切れない気がする。同じ元ネタ話が出てくる徒然の「五徳猫」が「罪棚上げで自由を」ならこっちは「幸福維持の手段を踏み外したことに気づけなかった」というか。思い自体は妻の願いと多少ズレててもありだったはずなのにな…。 -- 名無しさん (2019-06-03 15:10:22)
- 又さんの仕掛けと違い、林蔵の仕掛けはほぼ口先だけで妖怪を出現させようなんてほとんどしない。そのかわり林蔵自身の危険度が高く、そのうえ何度も「ほんまにそれでええんやな?」と彼岸渡りさせきる前に確認を取るので危なっかしいったらない。それだけ林蔵が情深い証左なわけで、遠の時点では死んでしまったって話は納得である… -- 名無しさん (2022-05-08 01:54:46)
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