これはジャパリパークが迎えた終焉の一つの後日談。
もしくは守銭奴で寂しがりの女と、無趣味で酒の飲めない男の些細な小噺。
テーブルの上で半紙が、筆が踊る。ブラッドのダイナミックな筆遣いで躍動感のある大きな文字で書き記される。
「意思」と「相談」。2枚の紙を掲げてブラッドは諭すようにこう言った。
「なんて言ったらいいのかな、夏晒。つくづくお前はこればかり強くて、これが欠けている。だからな、口論みたいな小さな衝突が何度も……」
卓の向こう側で不機嫌そうにそれを聞く根桐は、話を遮るように突如机をバンと叩きながら立ち上がった。
そして手を大きく伸ばし、半紙を奪い去ると怒りのままにそれを真っ二つへと破り捨てる。
「どうせ相談しても『ハッ。お前の好きにしろ』しか言わへんやんか、いっつも!!揉めるんも自分にこれがないからやろ!」
吼えるまま、ムキになって対抗するように近くのチラシを掴むと、油性ペンで「愛想」と書きなぐり、突きつけた。
もちろんブラッドも黙ってはいられるか、とチラシを引き裂いてはそこらに破片を撒く。
一歩間違えれば掴みかからんとするような。緊張が張り詰め、沈黙が支配する。
「ただいまー!」
それを破ったのは、帰宅してきた息子の心夏だった。
きっと一触即発の気配を理解したのか、静かにちょこんと床に座ると何やらそ知らぬフリして手遊びを始めた。
流石に子供の前でまで喧嘩するわけにもいくまい。
根桐は洗い物を、ブラッドはモデルガン弄りを始めることにした。
(いつ、どこからこうなってしまったんだろう。昔はあんなにもうまくいっていたのに。まるで大切な歯車を一つ失ったような……)
そんな思いが心をざわつかせている。
「友達と遊んでくるー」
しばらくするとそんな空気に耐えかねたのだろうか、ついには手遊びを止めて心夏は飛び出していった。
「怪しい人には近寄っちゃだめやからな」「夕方には帰ってこいよ」
軽くだけ声をかけて見送ると、ふと、さっきまで息子の居た床に整然と並べられた紙切れが二人の目に入る。
それをじっと見つめたあと、顔を見合わせる。10秒か、20秒だろうか。それが続いたところで照れくさい、と根桐が顔を赤らめ背けた。
並んでいたのは継ぎはぎな「相思相愛」の4文字。
「ハッ。なるほどな……」「うん、せやな」
逡巡するように噛み締めると、クスッと笑いあって二人はまた自分の持ち場へと帰っていった。
休日の午後2時、少し和やかさを取り戻したとある日の話である。
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