まどろむ私は夢を見ていた。
私はどこか広い屋形の小さな黒猫で、栗毛の女性に優しく抱き寄せられている。
暖かい温もりと、鼻腔をくすぐって逃げていく、甘い香り。とても心地よくて、これが明晰夢だとわかってても、いや、わかってるからこそ目が覚めたくないものだと思った。
それでも、いつまでも夢の中で意識を保つことはできずに、ゆっくりと眠るように目は覚めていく。
ああ、どうか終わらないで。
残念なことに夢からは覚めた。瞼を開き、目を凝らし、視線だけを上下する。
あるのはベッドと見知らぬ天井、それと十字架なんかを模したインテリアたち。
とりあえず、自分が今居るのは教会か何かなのだけを理解した。そしてそれが夢の中の景色とも、自分の家ともつかないどこかであることも……。いや、厳密には「違う」と確信しているだけで、そこがどうだったか、いや、実在するのかすらわからない。
「おはよう、ヘ-ゼル。目覚めの気分はどうかしら?」
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