「ゆ~う~こっちみて。」
「はぁい。……おーナナのパンプキントリックのコス?」
「そだよ。よくできてるでしょ」
「発表から2週間でここまでよく仕上げたねぇ。贔屓目抜きに凄いんじゃないか」
「まぁね。で、今日は31なわけだけど。」
「ふむ」
「トリックオア……」
「おっと、いけないな運が悪いことにちょうど手持ちを切らしてしまった」
「ポケットの中見してみ?」
「ほらね、何もないだろう」
「今投げたの見たけど?」
「やむを得ない。ハロウィンのルールに則って悪戯を受けようじゃないか」
顔と顔を近づける。
「……はぁ。いいよ、しょうがないから構ってさんのお望み通りにしてあげる。目瞑って」
手元のインキの蓋を開けると、藍司の額に「My dog」とデカデカとした文字で書き記した。
「ということがこないだあったじゃないか」
「ああ、アレね。そのまんま落とさず任務に向かったのにはドン引きしたよ、かなり。」
「少なからず見られはしたけど、どうして中々悪くない気分だったよ」
「洗面台で消すときもかなり葛藤したものだ」
「そりゃよかったね。優、露出狂の気があるんじゃない?」
「そうじゃなくて。数ある悪戯の中で落書を、そしてあの言葉を選んだことがポイントなんだ」
「はいはい、一応聞いてあげる」
「なんというかこう、ゾーヤ、節々で独占欲を見せるようになったよね?」
「……きっしょ。オタクの妄想やめて。こっち近寄らないで」
「図星のやつじゃんそれ」
「はぁ。優、童貞臭さは変わらないのに一丁前の顔するようになって可愛げだけがなくなったきたよね」
「最近になってようやく自覚ができてきたからね。でまあ……」
「焼餅を焼く君はとても愛おしいが、君を傷つけるのは本意でないし。だから、ほら」
「だから何?」
「今度タトゥーでも掘ろうかなって。君の好きなとこに、君の持ち物だと消えないマークをさ」
「腕でも、胸でも、なんなら顔にでも……。どうかな。いい考えじゃない?」
「んー……どうかな」
「タトゥーなんてさ、そんなのボクが居ても居なくても彫れるでしょう?」
「ぁだっ」
「どうせ付けるならの話だけど、こんな風にボクだけが入れられるマークのがずっといい」
「……」
「あっ、血……。ごめん、いくらなんでもちょっとやりすぎたかも」
「……いや……大丈夫……揶揄い過ぎた僕が悪いし……」
琴線を知り尽くしたと思いあがっていた藍司は、この日自分はまだ彼女のことを何も知らなかったのだと、歯型の端をさすりながら痛感した。
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