夜空に瞬く青い星は今や真昼の太陽のように煌めいていて、手を伸ばせば届きそうなほど近い。それでいてその星は月だった。魔力を以て人を狂わせる。僕が入信した新興カルティズムはいわゆる集団自決を旨としていた。
僕、儀礼用ダガーなんて初めて実物見た。
「お前、本当に正当防衛だったのか?」
ほんの少しでも僕の獣を飼い慣らしたかった。
「死体は起き上がらないよ」
せめて誰も不用意な言葉で傷付けないように、賢く、優しくなりたかった。
それだけだったんだけどな。即物的な救いを神に求めるのは僕には許されていない行為だったのかもしれない。
早く切られた傷口を塞がないと。余計な身動ぎでに震えが止まらない、出血性ショックの痙攣だろうか。四肢が繋がってるかも曖昧な癖に、身体から熱が零れてくのだけはこれ以上ないくらいリアルに感じる。
「寒い。誰か……今……僕どうなって……」
半分死体同然の身体をなんとか縮こまらせて捩り、歯を食いしばって意識を繋ぐ。
「……またあの夢か。」
心理的評価は異常なしとはいえ、まだ繰り返すようならカウンセリングの予約くらいは入れないといけないかもしれない。見慣れた天井をしばらく眺めて一呼吸したのち、ゆっくりと仮眠室のベッドから起き上がって洗面所へと向かう。眠気覚ましに適当に顔を洗って、タオルでガシガシ拭きながら鏡をみやる。今日の鏡の向こうにはちゃんと僕が居た。
服はどうしようか。せめて隣に歩くゾーヤが恥をかかないようなのがいいけれど、今の無難所なんててんでわからない。
「お客様、大変お似合いですよ~~!」
「ありがとうございます。それじゃあこのまま着ていくので、支払はカードで」
餅は餅屋に限る。こういうことは特に、行き当たりばったりで調べたところで付け焼刃は大抵碌なことにならない。僕の数少ない実用的な学びの一つだ。ものの良し悪しがわからない分多少額面は嵩むけれど、どうせ多忙で塩漬け同然で使わないんだし構わないだろう。構わないよな。構わないと思うことにする。
変なところで起きた分少し……あー、30分くらい。早く着きすぎてしまった。まあ今日はもう用事と言ったらこれくらないものだし気にすることもない、適当に暇潰して待っておけばいいだろう。
15分くらいののち、クリーム色の髪を揺らして彼女がやってきた
「えっ、キッショ」
「ゾーヤ。よりにもよってというか、言うに事欠いてそれかい?」
「いや、だって僕だって15分前で早すぎちゃったかなーとか思ってたのに……何分前からいたの」
「半くらいかな。出発がちょっと早かったからズレた、それだけのことなんだって」
「まあいいけど……。」
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