「君がこれをやったんだな。」
アスファルトに横たわったそいつの胸に何度も、何度も硝子片を突き立てる。開かれた傷口から何かが流れ出ることはなくて、代わりに所々切れた自らの掌の端からは赤黒い血が滲むようにあふれ出す。ライダースーツの男には首から上がなく、代わりに炎だけが揺らめいている。
「ああ……ツイてねぇな。追手は皆殺しにしてやったけど、まさか最後の最後で目覚めたてたぁな」
「ところでだ。……お前、初めてかぁ?もっとゆっくり、落ち着いてシてくれよ。どうせもう逃げられやしないんだから」
罅割れる空、耳を劈く誰かの絶叫、どこまでも広がり辺りを覆っていく火の海。恐らくはその全ての問題の中心に居るのがこいつに違いない、という確信だけが彼にはあった。
だから彼は生まれて初めて何かを殺すという悪行に手を染める。他の全てのために。
「怪物の分際で注文が多いね。……っていうか、死ぬときくらい狼狽えてくれよ。胸糞が悪くて仕方ない」
「ハッ!残念だが俺ぁもうじゅーぶん、遊べたからさぁ……。それより、お前さんよ」
「鏡、たまには見たほうがいいんじゃ……ねえ、の?」
開かれた肉と肉の間からぬるりと鈍く黒を反射する宝石を抜き取ると、男は一瞬で灰になって砕け散った。まるで燃え尽きたマッチのように。灰は炎が巻き上げた風にすぐ持っていかれてしまったけど、ただ一つ手鏡だけが形見を置いていくようにその場に残される。
鏡に映るものは洗面台でいつも見ていた自分ではなく、全く別の、そう貌のない悪魔の姿だった。
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧