空を見上げる。夕立が降った夏夜はじっとりと暑くて、星どころか月さえ曇りで見えやしない。
息苦しいこの暗闇が、なんとなく自分の気持ちと重なった。
「死にてぇ。……」
ぼつりと声に出た呟きにハッ、できもしないくせに?と自嘲した。こんなことを一人考えたところで、我が身の臆病さと怠惰に辟易するだけなのに。虚しい一人相撲、無意味な自己嫌悪だ。ワァとなって飽きるまで頭を掻きむしって、それからーンズのポケットに手を突っ込む。これももう三日は履き替えてない気がする、けどいいや、どうでもいい。今はとにかくこの気持ちを拭い去りたい。
緑青がこびり付いたギザ十が数枚に、100円玉が2枚。マルメラを買うには全然足りないしそもそもライターが手元にない。ストロングゼロも一缶じゃ気持ちよく酔えない。どうにかして足しを見つけなければ。自販機の釣銭口と床をひたすら見て回っていく。みっともないけど、案外バカにならない額が残ってたりするものだ、ほら、そうこうしてる間に100円見っけ。
「何、兄ちゃん金困ってんの?」
あんまりにも不意打ちすぎて、のけぞったまんま盛大に転んだ。コンクリがやすりみたいに肘とかを抉る。いってえ。
「ちょっ……ごめんごめん、そんなビックリされるとは思ってなくてさー」
「いっいや……いいです、気にしないでください、それじゃ」
踵を返して立ち去ろうとしたら肩をがしりと掴まれた。怖い。因縁付けられてる。
「待った待った。……いやホント。骨折れた~!とかそういうの言いたいんじゃないから、安心してよ」
「さっきから……っていうか服装からしてわかるよ、金なくてひもじいんだろ。イイ話があんだよ」
男が袋詰めにされた白い粉末を指先でつまんでヒラヒラと振って見せる。……これは、ああ、そういうのか。
「これ、すっげぇキくよぉ。嫌なことも全部忘れてずっとトんでられんだ。最高だよこいつ」
「……」
「金のなさげな兄ちゃんから搾り取るつもりはねえから安心しな、俺が欲しいのは金じゃなくてレポートだ」
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