今となっては遥か昔。飢えや疫病が蔓延る時代に生まれた娘の話。娘には、流行り病で死んだ妻の影を彼女に追う哀れな牧師の父がいた。酒も信仰も救いには程遠く、また未練や迫る死への恐怖は彼を狂わせるには十分だった。 そして狂気は彼から真っ当な親としての愛をみな奪い去った。理不尽への憤りや慟哭は彼の持つべき愛情を歪めさせ、彼女へ施される教育をただの虐待そのものへと変えてしまった。ゆえに、次第に彼女の祈りは救いを施さぬ我らが主ではなく、悪魔へと捧げられるようになった。 そしてそれは確かに届いたのだ。付け入る隙を見出して悪霊は彼女の夢へと訪れ、夢魔は少女の手を取り持ち掛けた。
「私はあなたの願いを叶える手助けができます。ただ一つ、私が求めるものをいただけるのならば」 「私に魂を寄越せと言うのね。」 「あなたはそれを手に入れて、どうするつもりなのかしら?」 「お答えすることはできません、魂はただ糧にされるだけなのですから」 少し彼女は思い悩み、最後に尋ねた。 「あなたは私を幸せにしてくれるのね?」 「ええ、私は金貨にも代えられぬものをあなたに授けるでしょう」
それから霊は彼女の良き友人となった。毎晩眠るごとに夢魔は訪れ、娘はその日あった喜ばしい出来事、耐えがたい苦痛の悩み、それらをみなサキュバスに話す。悪霊はただそれに耳を傾け、共感や助言したり、あるときには他の同類を引き合わせたりして魔術を彼女に教えた。 3年の年月を経て女は魔女になり、霊から与えられたすべを用いて父を苦しめるようになった。彼が彼女にした非道い行いの全てを、彼自身へと悪夢の中で返したのだ。 |
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