倫理保安局監査部の一幕

ページ名:AGのリンクは貼ってるからセフセフ

やあ、ようこそ。そしておめでとう、████。今の気分はいかがかな?

これは皮肉じゃないさ。だから怯えることはない、安心して。この呼び出しは君を処罰するためのものじゃないんだ。

君を迎え入れるための面接だよ。そうさ、君は数ある職員の内からその優秀さで倫理保安局監査部へと選ばれたんだ。

祝福する時間もいくらでも……うん?ああ、それも問題ないよ。君の予定表は既に白で塗り潰されている。

そしてこれからは君が望むがままにそれは書き換えられることだろう。どうしてかって?

もちろん詳しくは後でしっかりと説明するとも。だから少々長くはなるが、最後まで付き合っておくれ。

 

 


入室して早々に君は、僕の顔を見てひどく狼狽していたね。だがね、気にしないでおくれ。

君が僕を「ピペット・ドクター」と揶揄したことだって、怒っても恨んでもないし、それがむしろ好都合だった。

むむ、ここまで言ったというにまだピンと来てない顔をしているね。そこまで察すのが難しいとも思わないんだが。

つまりはだね、僕たちは仕事の一つとして冴えない科学者である必要があったんだ。

そいつが何をしようとも誰も気をかけやしない、そんな空気同然であるほど業務は効率的になることだろう。

 


それじゃあ次だ。これから僕ら冴えないピペット・ドクターが為すべきことは何か?

一つは道徳の天秤の測り手であり反倫理の雑草を抜く園芸家であることだ。

前提として、ここが一つの巨大な企業であり、利潤を追求する組織であることは、まあ流石に今更言うまでもないことだろう。そして、組織が利潤を追求する過程の中で、幾度となく倫理は衝突する。必ずね。

例を取るなら開発局が顕著だろう、彼らは膨大な利益を生む技術のなる果樹でありながらも、最も反倫理に隣り合わせることが多い部署の一つだ。当然と言えば当然で、倫理に縛られない研究ほど時に魅力的なものはないからね。

僕らは彼らの中に反倫理の種を見出し、それが芽吹く前に摘まれるように手回しをする必要がある。

やることは簡単だ。君は何が起きているかを眺め、それが何故かを皆に、君に問う。そして『誤っている』と気付いたとき、僕らに知らせる。僕らは誰の記憶にも留まらないような手段を経て真偽を掌握し、それは理事会に報告される。

その後、謹慎か、左遷か、降格か……とにかく適切な施策が行われ、全てはより良くなるだろう。

 

しかし、どうやってもそれが叶うことのない部署も存在する。隠蔽屋、CDC。手元の資料を見て概ね理解できるだろう?

パークにはいまだあの怪物どもが闊歩しており、倫理的なあるいは様々な意味での流血を伴い辛うじて封じ込めている。

これらはその‘‘雑草抜き‘‘だけではどうすることもできない。血も、道徳も、支払われる対価は少ないほどに尊ばれる。

誰かが最小限の悪でこれが維持されるように思考し、試行し、施行され続けるように書類へ判を押さねばならないんだ。

そしてこの誰かは僕らだ。

おいビビるな、腹括れ。

 


為すべきことはもう一つある。

それは「事実を知る」ことだ。君はこれからは殆どの管理権限に縛られることなく、望まずとも全てを知らされ続ける。

黒塗りや[削除済み]で満たされた報告書を見たことがあるだろう、それも一度や二度ではないはずだ。君がその管理権限に見合わない情報まで飢えた蝗のように求めていたことだって僕たちはこの業務がために知っている。

だからそうだね、君のその知的な欲望を満たす意味では、これも数あるの恩恵のうちの一つとも取れるかもしれないな。

だがこれは君が思う程素晴らしいものではないだろうね。何か一つ例を取ったほうがいい?なら君を啓蒙してあげよう。

██████████、████████████。██████?██████。████████████、██████……

 

おっと、今度こそ気分が悪そうだ。……おおっと、僕らが君をディナーの後に招いたのは失敗だったな。

トイレに行ってきたらどうだい?と声をかけてあげたいところだが、残念ながらこれが終わるまで君が退室することは認められていない。だからそうだなあ、今はこのエチケット袋で満足してもらう他ないかな。ああ、本当に胸が痛むよ。

せめて背中をさすろうかい?

…………………………

…………………………

…………………………

落ち着いたようだし再開かな。ああ大丈夫、今のは正常だ。むしろよく耐えた、だから君が選ばれたに違いない位に。

とまあ、こうして今君が身をもって知ったように、僕たちが抱える事実の中には、便所紙以下の三流紙が喜ぶスキャンダル以外に時に刺激的なものが含まれている。隠蔽屋はそれをまるっと忘れ去るのが許されるが、僕たちはそうじゃない。

彼らに代わってこの責め苦を受ける義務がある。華やかさの陰の、目も当てられないような汚物を注視し続けるんだ。

 


殆ど脅しのような紹介ばかりですまなかったね。だがいざ始めてから失望に沈むくらいなら、と僕にも思うところがあったんだ。現に当時の僕はそうだった。……詳しくはまあ、望むなら今の君は知ることも容易い、好きにするといいよ。

だがここから先話すことは君にとって喜ばしいものだ、僕はそう確信している。

 

君はこの面接を終えて部屋を後にしたその瞬間から、自由を得る。どんなプロジェクトであれ、君は気の赴くままに渡り歩くことができるんだ。開発局から企画局へ、医務局から放送局に。最初に言ったね?それはこれのことだ。

実のところ、君の予定表は既に白で塗り潰されている。

そしてこれからは君が望むがままにそれは書き換えられることだろう。

どれだけの功績を生み出したのか、どれだけ誠実な職員だとか。これで君もそういった下らない呪縛から解放される。

これからは望むことを知り、望む部署を渡り、望まざるを知り、望まざる業を飲み干すんだ。

お疲れ様、話はこれで終わりだよ。……いい返事だ、中々よいジョークだね。

 

だが残念なことに、君にその選択肢はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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