「おや、どうしたんだいメアリー。そんな今にも泣き出しそうな顔をして」
パークにも梅雨が訪れた頃の日。朝の面会で扉を開いてみれば、そこにはうなだれ膝を抱える様子が伺える。声をかけるとようやくゆっくりと顔をあげた。心なしか彼女の海のように透き通った髪も、その心境を映してか灰いてくすんでしまっているように思える。
「……藍司先生、おはようなのだわ。大したことではないから、気にしないで」
「ふむ。どんなに些細なことでも僕はお話を聞くよ?ああ、言いたくないことなら詮索するつもりもないけれど……」
少しの間、静寂に包まれる。そうした沈黙の後、意を決し声を振り絞って彼女は事情を打ち明けた。
「あのね先生、私、朝起きて何をしようかなって考えてたの。」
「なるほど、それで?」
「それで、今日は女王様にクッキーを焼こうか、それとも鵺に声をかけて遊びに行くかしら……って」
「いいじゃない。ケーキ作ったら、一口分けておくれ」
「でも前失敗したときみたいに今回も酷いことになるかもしれないし、鵺は鵺で誰かと先に出かけてるかもしれないわ…」
「そうかなあ?」
なるほど、そういうことか。まあ失敗を引きずるというのはままあることだ。僕もその例に漏れないわけだし。
つまりはこれはアンニュイってやつなわけだ。何か重大なことになっているわけでないのは安心だが……。
「……そうだなあ、メアリーくんはお話が好きだったよねえ」
「?うん」
「じゃあお話を一つしてあげようね。今の君にもってこいの、「運命の選択の話」さ」
「つまりはね、選択なんてないんだよ。」
「でもね、運命が一つだったとしてもメアリー、君はどうする?」
「一つだけでも……そうだったとしても、よくありたい、ベストでいたいわ!」
「そうさ。運命を良くするのは【選択】することじゃない、善くあろうと【準備】(努力)することだ。」
手をひらひらと振る、は彼女の中ではもうやることは決定しただろう。
へびあしエピローグ
「ところであの男は独りよがりから自滅したわけだがね。君はそこでは間違いなく異なるわけだ、僕に話してくれたからね」
「それがどういうことかっていうと僕に便宜を図る余地があるってことだよ。つまりはね」
扉がノックされる
「用ってなあに?今日は暇だから別にいいけれど。」
「やあ、ほんとはちょっと食事会をと思ってたんだけどね。ちょうど別の用件ができた。」
「この子にお菓子の作り方を教えてくれないか?」
サムズアップで九洲梨は答えた。
……
……
「こらそこいたずらしようとしない!!」
「ヒョッ!?」
「牛乳は先に混ぜるのだったかしら?」
「そうよ、だまにならないようにきちんとね」
……
……
「できた!」
「おや、いい匂いだ。言った通り一口もらえないかな?」
「あんたに与えるのはそこの鵺のだけよ」
「そんなあ。」
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