包帯男の過去
ページ名:包帯男の過去
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- 【作品名】包帯男の過去
【元スレ名】ここだけ平行世界、ここだけ世界の境界線
【注意事項】現在の境界線の設定と異なる部分があると思います。
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とある世界があった。文明はあまり発達しておらず、大部分が砂漠、現代の基準からみたら古代文明と同等といったところか。この世界にも能力者は存在するが、数が少なく一つの一族に一人の能力者しか存在できない程であった。また、能力は代々受け継がれていくものであった。
この世界にある一族の一つ、紫の一族。能力を使った怪物退治を生業としている一族だ。この一族に伝わる能力は【光の右目】(ライトアイ)と呼ばれるもので、右目に宿り、右半身に光を纏いそれを変化させて戦うというものだった。この能力は、一族の男児が16歳になったら父親から継承されることになっている。それは強力な能力で、カノッサ機関や様々な組織に狙われることも多々あった。だが彼らは強く、能力を取られることは無かった。そんな一族に、一人の男児が生まれる。
男児の名は紫狼。紫狼は生まれた時から元気が有り余っているといった雰囲気で、父親の紫越(しえつ)、母親の紫桜(しおう)も手を焼くやんちゃな子へと成長した。
紫越「紫狼っ!何をやっておる!」
紫狼「うっせぇ!ハゲ!」
紫狼のイタズラに怒声を飛ばすこともしばしばあった紫越。そんな紫越を紫狼はあまり好きでは無かった。だが、【光の右目】には興味を示しており、早く使いたいと思っていた。
ーー時は過ぎ、紫狼の16歳の誕生日。この日に能力継承の儀といったものを行う決まりだった。
紫狼「めんどくせぇーさっさと能力使わせろよ。こんな形だけの儀式に何の意味があんだよ?」
紫越「ぶつぶつ言うな。始めるぞ。」
祭壇で儀を行う二人。だが、紫狼は心底退屈そうだ。紫越は、そんな紫狼に能力を継承するのを少し不安に思うが、自分の息子を信じれないなど父親失格だ。そう考え直し、紫狼に能力を継承する。
紫狼「へへっ!ついに念願の能力を手に入れたぜ!」
紫越「……調子に乗るでないぞ。その能力は傷つけるための物でない、一族を守る物だ。いいか、能力者としての誇りを忘れるな。」
紫越はいつも、口癖のように言っている。一族を守るための誇り高い能力だと。紫狼はこれにうんざりしており
紫狼「分かってるって。親父は心配性だな。俺にかかりゃ、パニック股間とかいう奴等も敵じゃないっての!」
紫越「カノッサ機関のことか?奴等には手を出すな。奴等はそもそも……」
紫狼「はいはい、わかったって。んじゃ、俺ちょっくら能力を試してくるぜ!」
話を聞かずに祭壇から出ていく紫狼。完全に調子に乗っていた。
紫狼「来やがったな!カニミソ機関!」
祭壇を出て、砂漠の方へ向かった紫狼の目の前に現れたのは、以前から【光の右目】を狙っていたカノッサ機関員達だった。彼らは、紫越を倒すのは難しいと判断し、能力を継承するこの日を調べ、能力の扱いに慣れていない紫狼を狙う計画を練っていたのだ。
機関員「光の右目!今日こそ貰うぞ!」
紫狼「やってみやがれ!発動、光の右目!!」
光を纏った右手で殴りかかる紫狼。だが、機関員はそれをヒラリと避ける。
紫狼「ちっ!避けてんじゃねえっ!」
再び右手で殴りかかるが、それもあっさり避けられる。それもそのはず、紫狼の攻撃は、紫越に比べて大振り過ぎるのだ。
紫狼「ちくしょう!なんで当たんねぇんだよ!?」
機関員「やはりこの程度か。予想通りの弱さだ。いや、予想よりも弱いな。終わりだ!」
侮辱の言葉と共に、機関員の攻撃が放たれる。それは、対能力者用のネットだ。
紫狼「くそっ!離しやがれっ!!」
紫越「紫狼っ!」
騒ぎを聞き、父親の紫越が駆けつけたが、時すでに遅し。機関員は紫狼に催眠ガスを浴びせ、静かにすると異世界への扉を開き、何処かへと去って行ってしまった。
紫狼「親……父……」
紫越「紫狼っ!!紫狼ーーーっ!!」
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- 目が覚めた紫狼は、何処かの世界のカノッサ機関の研究所にて拘束されていた。
紫狼「う……ここは……?」
機関員「これから死ぬ奴に知る必要は無い。」
紫狼「てめぇは!おい!俺をどうするつもりだ!?」
機関員「さっきも言った筈だ、これから死ぬ奴に知る必要は無い。」
壁に繋がれた紫狼の前には、細長い透明な筒のついた妙な機具を持った機関員の姿があった。機関員は、それを紫狼の右目に近づけると……
紫狼「ぐああああっ!?」
なんと右の眼に入り込み、能力の宿った右目を抉り取ってしまった。そして、紫狼はあまりの痛みに再び気を失う。
気がつくと、今度は牢獄のような場所。辺りには横たわる人の姿が。紫狼は声をかけようと、それに近づく。
紫狼「おい!あんた、大丈夫かよ!?おい!?……こいつ、死んでる……」
だが、既に息絶えていた。どうやらここは、必要の無くなった生物の処分場のようだ。
紫狼「マジかよ……俺、死ぬのか……?」
自分もこうなるのかと、今までの行いを後悔する紫狼。
紫狼「親父の言うことを聞いて、機関員からすぐに逃げればよかったんだ……俺が、調子に乗ったせいで……」
絶望する紫狼。そんな時、新たに処分場へ運ばれて来た能力者が居た。いや、能力猫と言った方が正しいだろうか。その猫は、開かれた扉から処分場へ向け投げ込まれた。
全身に包帯を巻き、その包帯が蠢いているという奇妙な猫だ。だが、今にも息絶えそうだった。恐らく、生物兵器として連れてこられたが、コントロールが難しく廃棄処分となったのだろう。
紫狼「こいつ……能力が使えるのか……」
一目でわかった。こいつの能力で助けて貰えば、そう考えたがこの猫は動ける状態ではない。
紫狼「おい、猫!動けないのか、おい!……駄目か……くそっ!能力さえ、能力さえ使えたら!」
こんな時なのに、昔近所の悪ガキと喧嘩し負けた時に、同じような台詞を言った事を思い出してしまった。
紫狼「なんでこんな時に……走馬灯って奴か……?あの頃は早く継承の日来いって思ってたな……いざ来てみたら……こんなことになったなんてな……」
最早諦めかけた紫狼だったが……
紫狼「待てよ……継承……そうか、その手があったか……」
この猫の能力を自分が継承し、使用すれば……そうすれば、この絶望から脱け出せる。継承可能な能力なのか分からないが、最早それに賭けるしかない。そう考え、猫に話しかける。
紫狼「おい!猫、聞いてくれ!このままじゃお互いくたばっちまう!でも、俺があんたの能力を使えば逃げ出せるかも知れねぇんだ!頼む、協力してくれ!」
だが、猫は答えない。先程までの紫狼と同じで、最早諦めているようだ。
紫狼「……どうしても駄目なのかよ。俺は能力を取り戻したいんだ。そして、元の世界へ帰りたい。あんたには、帰りたい世界はないのか?飼い主がいるんじゃないのか?
諦めんなよ!能力者としての誇りを忘れんなよ!家族を守る為の能力だろ!?」
いつも紫越が自分に言っていたように、紫狼は猫に向かって言った。
猫「……」
その思いが通じたのか、猫はそっと紫狼に触れる。すると、紫狼の腕に猫に巻かれている包帯と同様の物が現れた。
紫狼「サンキュー……猫。これなら……」
能力【ストレンジ・バンテージ】を手にした紫狼。その狙いは、時々見回りに来る機関員。そいつが鍵を持っていることは、猫が投げ込まれた時に確認済みだ。その機関員を倒せば……
やがて、見回りの機関員がやってくる。紫狼と猫は、死んだフリをし、その機関員を油断させようとする。尤も猫の方は実際に死にかけているが……
紫狼「……」
見回り「くたばったか……?」
本当に死んだか確認しようと牢獄へ近づく機関員。今がチャンスだ。
紫狼「今だ!バンテージ・ウィップ!」
包帯は牢獄の隙間から飛び出し、鞭のように機関員を打つ。たまらずその場に倒れた。ここからは簡単だ。包帯で持っている鍵を奪い取るだけ。
紫狼「あった!鍵だぞ!」
鍵を奪い取り、直ぐ様処分場から脱出する。能力を取り戻したいが、命の方が大切だ。途中、機関員に見つかるが戦闘員ではなく研究員だったため、難なく撃破。一人と一匹は無我夢中で走り抜ける。
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- 気がついたら、岩と砂が溢れる世界であった。だが、紫狼の出身世界ではない。
紫狼「……助かった……俺達助かったんだ!!」
この世界で見つけた病院の屋上で、歓喜の声をあげる。空には星が広がっている。紫狼も猫も助かったのだ。
紫狼「サンキューなマジで助かったよ。あんたがいなけりゃ、俺は今頃……とにかく、助かったよ猫。って、いつまでも猫ってのも駄目だよな。よし!お前は今日からマウだ!」
マウは嬉しそうに紫狼に擦り寄る。紫狼がマウに感謝しているのと同じように、マウも紫狼に感謝しているのだ。
紫狼「……なあ、一緒に機関と戦ってくれないか?俺は無能力者になっちまったから、戦う術が無いんだ。お前もまた機関に狙われるかもしれないし、悪い話じゃねぇと思うんだけど……もちろん、無理にとは言わねぇ。」
当たり前だ、とでも言うかのようにマウは紫狼の肩に飛び乗った。
紫狼「……サンキューマウ。そして、よろしくな俺の相棒。」
こうして、二人と一匹の物語は始まったのであった。
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