アイ_(植物)

ページ名:アイ_(植物)

アイ(あゐ、藍、学名:Persicaria tinctoria)は、タデ科イヌタデ属の一年生植物。別名は、タデアイ(蓼藍)、アイタデ(藍蓼)。中国東部、朝鮮半島、日本列島中央部において青色の染料として重用されていたが、化学合成したインディゴ染料が発明されて以降は合成インディゴが工業的にはよく用いられているため、染料用途で用いられることはあまりなくなった。なお、世界各地で同じようにインディゴを含有する様々な植物が、染料として利用されてきた。

アイ
アイ
分類(APG III)
:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 angiosperms
階級なし:真正双子葉類 eudicots
階級なし:コア真正双子葉類 core eudicots
:タデ目 Polygonales
:タデ科 Polygonaceae
:イヌタデ属 Persicaria
:アイ P. tinctoria
学名
Persicaria tinctoria (Aiton) Spach
シノニム
Polygonum tinctoria
和名
アイ、タデアイ、アイタデ
英名
indigo plant


目次

利用[編集]

染料[編集]

藍染め」、「藍摺」、「藍玉 (染料)」、「紺屋」、および「インディゴ」も参照

藍染めに利用される。

日本における藍染めは奈良時代から続く歴史があり、藍による染色を愛好する者もいる。海外では“Japan Blue”と呼ばれることもある(歌川広重や葛飾北斎などの浮世絵の藍色を指して同様に“Japan Blue”あるいは“Hiroshige Blue”と言うこともあるが、これは正確には藍ではなくベロ藍(紺青)である)[要出典]。染色には生葉染め、乾燥葉染め、すくも染めがある。生葉染めには、最も古い方法である布に生葉をそのまま叩きつけて染める叩き染めか、すり潰した汁で染める方法があるが、濃く染まらない、葉が新鮮なうちでなければ染色できない(水溶性のインディカンが不溶性のインディゴに変化して利用できなくなるため)といった欠点がある。

乾燥葉染めは、アイ葉を乾燥させたものを用いる方法。そのままでは色素が繊維に沈着しないので、還元反応を行って色素の沈着ができるようにしなければならない。生葉に比べて無駄なく染色でき、時期もあまり選ばない。

すくも染めは、乾燥したアイ葉を室のなかで数ヶ月かけて醗酵させてすくも(藍玉)を造り、更にそれを搗き固めて藍玉を作り、これを利用する方法である。生産に高度な技術と手間を必要とするため、現在では徳島県以外で日本産のすくもを見ることはほぼない。染色には、すくもを水甕で醗酵させてから行う(醗酵すると水面にできる藍色の泡を「藍の華」と呼び、これが染色可能な合図になる)ので、夏の暑い時期が最適である。すくもの利点は、いつでも醗酵させて染色できること、染料の保存が楽なこと、木綿にも濃く染められることなどが挙げられる。

藍染は、徳島平野で行われるものが有名である。

日本に存在するアイの品種は、小上粉(こじょうこ:赤花、白花があり、最も栽培されている)、小千本(こせんぼん:青茎、赤茎があり、株が真っ直ぐに育つ)、百貫(ひゃっかん:大量に収穫できることからの名だが、品質は劣ると言われる)などがある。

藍染した布は、抗菌性、消臭性に優れており、虫食いを受けにくく保存性が高い。藍染した布は耐火性が高まるため、武士が戦闘時につける甲冑の下着、江戸時代の火消し用半纏、日本国有鉄道の蒸気機関車乗員の制服などに使われた。

また、藍染した和紙である紺紙はその色合いの美しさのみならず防虫も目的として写経などに利用されている。平安時代末に書かれた国宝の『紺紙金銀字交書一切経』は紺紙の保存性により朽ちることなく現存している。ただし、紺紙の防虫性はアイの成分に由来しているのではなく、何度も水洗いして表面を貝殻で擦り平滑化するという特殊な製紙法に起因しているとも考えられている。

白髪染めには乾燥葉の粉末が利用される。ヘナでオレンジ~赤茶色に染まった後に藍で染めて青色を重ねると、暗い茶褐色となる。ヘナと藍があらかじめミックスされている商品もある。

その他[編集]

アイの葉は古来より薬用植物として解熱、解毒や抗炎症薬等に用いられており、江戸時代には蜘蛛や蛇などの毒を持つ生き物に咬まれた傷の治療に用いられていた記録が残っている。近年の研究では抗ガン作用を持つトリプタンスリンや抗菌活性を持つケンペロールなどの複数の生理活性物質がアイから単離されており、またアイの葉にはフラボノール配糖体が豊富に含まれることから、コレステロールを低減させる効果についても研究されている。その他、アイの葉を刺身のツマに使ったり、酢と混ぜてアユの臭み取りに使ったりするなど、食用に用いている地域もある。徳島県では、葉・茎を粉末にした藍粉を食品(菓子・パンや麺類)やハーブティに入れる利用法も開発されている。

歴史[編集]

日本には6世紀頃中国から伝わり、藍色の染料を採るために広く栽培された。特に江戸時代に阿波国(現・徳島県)で発達し、19世紀初めには藍玉の年産高は15 - 20万俵を誇り、阿波藍として名産品になった。しかし、明治時代に入ると藍玉がインドから輸入されて作付が激減。またドイツで人工藍の工業化が成功して1904年頃から盛んに輸入されるようになった。とはいえ現在でも国内で藍の栽培や利用は続いており、2019年5月20日には「藍のふるさと 阿波~日本中を染め上げた至高の青を訪ねて~」が文化庁により日本遺産に認定された。

ことわざ[編集]

  • 「青は藍より出て藍より青し」 - 染料の藍は黒や茶の様な色があり、青みがあまりない。しかし染め出すと非常に美しい青に染まることから、親(師匠)よりも優れることを言う。「出藍の誉れ」とも。


特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。


最近更新されたページ

左メニュー

左メニューサンプル左メニューはヘッダーメニューの【編集】>【左メニューを編集する】をクリックすると編集できます。ご自由に編集してください。掲示板雑談・質問・相談掲示板更新履歴最近のコメントカウン...

鼻葉

鼻葉(びよう)とは、小型のコウモリで発達している鼻のまわりの複雑なひだのこと。キクガシラコウモリ類やカグラコウモリ類でよく発達している。エコーロケーションを行うとき、超音波をコントロールするのに役に立...

黒住教

黒住教(くろずみきょう)は、岡山県岡山市にある今村宮の神官、黒住宗忠が江戸時代(文化11年11月11日・西暦1814年)に開いた教派神道で、神道十三派の一つである。同じ江戸時代末期に開かれた天理教、金...

黄疸

黄疸(おうだん、英: jaundice)とは、病気や疾患に伴う症状の1つ。身体にビリルビンが過剰にあることで眼球や皮膚といった組織や体液が黄染した(黄色く染まる)状態。目次1 黄疸の発生機序[編集]2...

黄泉

黄泉(よみ)とは、日本神話における死者の世界のこと。古事記では黄泉國(よみのくに、よもつくに)と表記される。目次1 語源[編集]2 記紀の伝承[編集]2.1 『古事記』[編集]2.2 『日本書紀』[編...

黄巾の乱

「紅巾の乱」とは異なります。黄巾の乱赤が黄巾の乱が発生した地域(184年)戦争:黄巾の乱年月日:184年場所:中国全土結果:後漢の勝利交戦勢力後漢黄巾賊指導者・指揮官何進皇甫嵩朱儁盧植董卓 他張角張宝...

麻痺性筋色素尿症

麻痺性筋色素尿症(まひせいきんしきそにょうしょう、paralytic myoglobinuria)とは数日の休養の後に激しい運動をさせた時に発生する牛や馬の疾病。蓄積されたグリコーゲンが著しい代謝によ...

鹿児島県立財部高等学校

鹿児島県立財部高等学校(かごしまけんりつ たからべこうとうがっこう, Kagoshima Prefectural Takarabe High School)は、鹿児島県曽於市財部町南俣に所在した公立の...

鳩胸

鳩胸(はとむね)は、胸部が鳩の胸のように高く突き出ていること。特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。...

魚沼丘陵

魚沼丘陵(うおぬまきゅうりょう)は、新潟県中越地方南部にある丘陵。地理[編集]魚野川流域の魚沼盆地(六日町盆地とも)と信濃川流域の十日町盆地を隔てている。行政区分では湯沢町、十日町市、南魚沼市、魚沼市...

魔虫兵ビービ

概要『天装戦隊ゴセイジャー』と言う番組における全敵組織共通の戦闘員で、ブレドランが使役するビービ虫が木偶人形に取り憑く事で生み出される。緑を基調として顔には山羊、胴体には蝙蝠と言う具合に悪魔を思わせる...

魏略

『魏略』(ぎりゃく)は、中国三国時代の魏を中心に書かれた歴史書。後に散逸したため、清代に王仁俊が逸文を集めて輯本を編したが、はなはだ疎漏であったため張鵬一が民国11年(1922年)に再び編した。著者は...

高齢者虐待

高齢者虐待(こうれいしゃぎゃくたい、Elder abuse)とは、家庭内や施設内での高齢者に対する虐待行為である。老人虐待(ろうじんぎゃくたい)とも称される。人間関係種類ボーイフレンドブロマンス同棲側...

高等工業学校

旧制教育機関 > 旧制高等教育機関 > 旧制専門学校 > 旧制実業専門学校 > 高等工業学校高等工業学校(こうとうこうぎょうがっこう)は、第二次世界大戦後の学制改革が行われるまで存在した日本の旧制高等...

高知大学教育学部附属中学校

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ナビゲーションに移動検索に移動高知大学教育学部附属中学校過去の名称高知県師範学校附属小学校高等科高知師範学校男子部附属国民学校高等科高知師...

高槻市立第九中学校

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ナビゲーションに移動検索に移動高槻市立第8中学校国公私立公立学校設置者高槻市併合学校高槻市立第五中学校設立年月日1972年4月1日創立記念...

高杉晋作が登場する大衆文化作品一覧

高杉晋作 > 高杉晋作が登場する大衆文化作品一覧高杉晋作が登場する大衆文化作品一覧(たかすぎしんさくがとうじょうするたいしゅうぶんかさくひんいちらん)目次1 小説[編集]2 映画[編集]3 テレビドラ...

高杉晋作

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2015年10月)高杉晋作高杉晋作通称東行生年天保10年8月20日(...

高月北

高月北は、大阪府泉北郡忠岡町の地名。高月北1丁目及び2丁目がある。脚注[編集][脚注の使い方]参考文献[編集]この節の加筆が望まれています。外部リンク[編集]この節の加筆が望まれています。この項目は、...

高所恐怖症

高所恐怖症分類および外部参照情報診療科・学術分野精神医学ICD-10F40.2ICD-9-CM300.29テンプレートを表示高所恐怖症(こうしょきょうふしょう)は、特定の恐怖症のひとつ。高い所(人によ...