砂糖依存症

ページ名:砂糖依存症

砂糖依存症(さとういぞんしょう、英語: Sugar Addiction)とは、砂糖の含有量が多い甘い飲料や食品の過剰摂取によって様々な疾患が発現する原因となる依存症の一種である。「砂糖中毒」とも呼ばれる。

確立された用語というわけではないが、砂糖の摂取と各種疾患との関係についてを示した複数の科学的証拠は、一定の条件下で砂糖や甘味料の消費が依存症のようになるかもしれないことを示している。

目次

甘味のメカニズム[編集]

甘味」、「スクロース」、「グルコース」、および「フルクトース」を参照

砂糖の主成分であるショ糖(Sucrose, スクロース)は、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)で構成され、果糖がおいしい甘さをもたらす。清涼飲料水に使われる「高果糖コーンシロップ」のような異性化糖は、果糖55%、ブドウ糖45%の割合で健康への影響はショ糖と同様とされる。この糖分は「果糖ブドウ糖液糖」と呼ばれる。

臨床学的根拠[編集]

砂糖に対する「依存症」という定義は合意が不足していて複雑であり、患者にとっても砂糖の過剰摂取による自覚症状がそもそも無い場合もある。1998年、キャサリン・デスメゾンズは、脳でのオピオイドμ受容体の活性により引き起こされた生理状態について砂糖依存症の概念を提唱した。デスメゾンズは、砂糖が鎮痛剤として作用しモルヒネブロッカーから遮断することができたことを示す先行研究に基づき、砂糖はDSM IVで概説されていた他の薬物依存症と同様の依存関係があると指摘した。それ以来、デスメゾンズによる仮説を確証する臨床検査が増加し、プリンストン大学のバード・ホーベルは、砂糖がほかのドラッグに対するゲートウェイドラッグ(入門薬物)として機能する可能性に注目し、砂糖の神経科学的な作用を研究した。

2008年の研究「砂糖依存症の臨床根拠:砂糖の周期的な過剰摂取に関する行動神経化学的機能」でも、砂糖が脳内ドーパミンとオピオイドに作用し、依存症となる可能性についての臨床根拠が得られており、「乱用」「離脱症状」「渇望」「交差感作」の四つの過程において行動主義的に砂糖乱用が強化因子として作用すること薬物依存との比較を通じて立証された。神経の適合は、ドーパミンとオピオイド受容体の結合、エンケファリンmRNAの発現と側坐核におけるドーパミンとアセチルコリンの放出の変化を含んでいる。

リーア・アリニエーロ( Leah Ariniello )は、砂糖依存症とラットの実験について、以下のように述べている。

近年のラット実験は、砂糖とドラッグの共通点を示している。薬物依存は一般に、薬物摂取の増大、摂取停止からの離脱症状、薬物への渇望と摂取回帰という三つの段階を経由する。砂糖を投与したラットも同様の行動をとった。実験では、餌を与えずに12時間経過してから砂糖水を与えた。周期的な過剰摂取(乱用)によって摂取は増大し、倍加した。餌の停止またはオピオイド遮断によってラットは歯ぎしりや震えといった、薬物中毒者と同様の禁断症状を発症し、再発の兆候も示した。ラットへの砂糖水投与をやめると、砂糖水の出るレバーを何度も押すようになった。

砂糖関連の企業が行った実験では、ラットに対してカロリーゼロの甘味料投与によって類似作用が報告されている。

砂糖と甘味は、脳のβエンドルフィン受容体の部位を活動させる刺激となるが、これらはヘロインとモルヒネを摂取した際に惹き起こされる反応と同じものである[要出典]。

摂食障害との関連[編集]

心理学者は、これらの研究によって過食症診断の基準を確立させることができると主張するが、それよりも砂糖を乱用薬物と同じカテゴリーとみなして用いるよう注意すべき結果といえる。彼らは、食物摂取量と依存症を支配するシステムの間になんらかの重複があると信じているが、ある特定の食物に依存性があるとはまだ明確に述べることはできていない[要出典]。もし定期的な摂取を停止したあと、乱用するようであれば、甘い食品への依存とすることができ、これは神経性大食症のような摂食障害と関連する可能性を示唆している(上記引用したラット実験)。

一般的に依存症に分類されるには、再現性のある「二重盲検」の実験によって、以下の3つの過程の観察データを提示する必要がある。

  1. 摂取量が増加する行動パターンと神経伝達物質の変化
  2. 欠乏時の神経伝達物質の変化と離脱症状の兆候
  3. 離脱症状後の再発と渇望の兆候

2003年、国際連合が委託した世界保健機関と国際連合食糧農業機関委員会の報告では、砂糖は健康的な食事では10%以上を占めるべきではないと定められた。砂糖を使った製品の生産に従事する業界団体であるアメリカ砂糖協会( en:The Sugar Association )は、「飲食品の砂糖の含有率は25%までは安全」と主張しているが、タフツ大学が発表した以下の研究結果とは矛盾する。

プリンストン大学の砂糖依存症研究では、一般に市場で人が入手している炭酸飲料水と同程度の25%の割合の砂糖水をラットに投与したところ、一ヶ月でラットは甘い飲食品への依存症状を見せるようになり、通常の餌よりも砂糖水の摂取を選ぶようになった。 - タフツ大学 Health & Nutrition Letter

「コーラ (飲料)#健康上の課題」も参照

砂糖と疾患[編集]

アメリカ人の肥満の原因は砂糖、とくに「果糖にある」とされる。コロラド大学デンバー校のリチャード・ジョンソン( Richard Johnson )によると、ブドウ糖が全身の細胞で代謝されるのに対し、果糖は肝臓が中性脂肪にして(※果糖を代謝できるのは肝臓だけ)蓄積する。これが続くと、肝機能が低下し、脂肪肝の原因となる。また、血中の中性脂肪の濃度が高い状態が続くと、高血圧や脂質異常症を発症する。血糖値を維持しようとして膵臓がインスリンの分泌量を増やすことで、インスリン抵抗性を発症、さらには糖尿病、メタボリック症候群を発症し、心臓発作のリスクが増大する。ヒトが運動不足になる原因も砂糖依存によるといわれ、「糖分の摂取は一時的に高揚感が得られるが、エネルギーを奪われる」という。

砂糖中毒[編集]

アメリカ合衆国の歯科医師ウェストン・プライス( Weston Price )は、狩猟採集生活を送っている集団の食生活についての研究をまとめた報告書『食生活と身体の退化―先住民の伝統食と近代食その身体への驚くべき影響』(1939年)の中で、「砂糖を食べるようになってから、虫歯を患ったり、栄養不足に伴う病気が増えた」と述べている。ジョン・ユドキン( John Yudkin )は、著書『Pure, White and Deadly』(1972年)の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は砂糖であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。ユドキンの主張を支持する者の1人として、カリフォルニア大学の神経内分泌学者、ロバート・ラスティグ( Robert Lustig )がおり、カリフォルニア大学が製作・公開したラスティグによる講演『Sugar: The Bitter Truth』の中で、「砂糖は毒物であり、ヒトを肥満にさせ、病気にさせる」「砂糖の含有量が多いものには課税すべきだ」と断じており、著書『Fat Chance』の中でもそのように主張している。また、「砂糖はカロリーがあるだけで栄養価は皆無であり、肥満をもたらすだけでなく、タバコやアルコールと同じように中毒性が強く、含有する成分の果糖が内分泌系に悪影響を与え、心臓病や心臓発作、2型糖尿病を発症するリスクを高める」として、「砂糖の含有量が多いものには課税すべきである」との主張を科学雑誌ネイチャー誌( 『Nature』 )に発表した。アメリカ心臓協会( The American Heart Association )は、糖分の過剰摂取について「砂糖は高カロリーで栄養がないから」として警告しているが、ジョンソンやラスティグは、「カロリーの問題ではない」と述べている。

サイエンス・ジャーナリストのゲアリー・タウブス( Gary Taubes )は、2016年に出版した著書『The Case Against Sugar』(『砂糖に対する有罪判決』)の中で、「砂糖は『中毒性の強い薬物の一種』であり、ヒトを肥満にさせるだけでなく、心疾患の原因でもあり、健康を脅かす」「肥満とは、身体がホルモン障害を惹き起こした結果であり、そのスイッチを入れるのは砂糖である」と断じている。

カナダの腎臓内科医ジェイスン・ファン( Jason Fung )も、「砂糖の摂取は、血糖値および血中のインスリン濃度を速やかに急上昇させ、その状態を長時間に亘って持続させ、さらにはインスリン抵抗性をも同時に惹き起こす」「砂糖や人工甘味料は、インスリン抵抗性を惹き起こす直接の原因となる」「『どれくらいの量なら砂糖を摂取してもいいか』というのは、『どれくらいの量ならタバコを吸ってもいいのか』という質問と同じである」「砂糖を食べると太る。この事実に異を唱える者はいないだろう」「太りたくない、体重を減らしたいのなら、真っ先にやるべきなのは、糖分を厳しく制限することである」と断じている。

その他[編集]

1996年、ミシシッピ州クラークスデールは、肥満、糖尿病、高血圧、心臓病を抱える住民の割合が全米中著しく高いという報告を受け、小学校からコーラやスナック菓子の自動販売機が撤去された。クラークスデールは奴隷貿易時代には砂糖のプランテーションがあり、黒人奴隷が砂糖生産に多数従事していた歴史がある。



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