救命胴衣

ページ名:救命胴衣

救命胴衣(きゅうめいどうい)とは、着用者を水上に浮かせ、頭部を水面上に位置させる救命用具のひとつ。主にプールや河川、湖沼、海で用いられるが、海上を飛行する航空機にも装備されている。ライフジャケット、ライフベストとも呼ばれ、その目的や用途によって様々な大きさ・デザインが存在する。

日本の競艇界や海上自衛隊等、海事関係では「カポック」と呼称されることがあるが、これは昔は樹木のカポックから採れる繊維が用いられていたことによる。


目次

概要[編集]

救命胴衣は、海難・水難事故における非常脱出用の装備に含まれる。救命ボートや救命いかだといった装備が「複数人が脱出可能なこと」を想定しその導入・維持管理に多額の費用や設置場所を必要とするのに対し、専ら個人的な生命保護を目的とする救命胴衣は比較的容易に入手・使用可能で、救命ボートを積載できない小型船舶やプレジャーボート、釣りやカヌーといった水辺のレジャー、各種救難隊などでは安全対策上欠かすことの出来ない装備となっている。

現代では多くの国で義務化されており、アメリカでは連邦規則で定められている。日本ではも2003年6月1日より「船舶職員及び小型船舶操縦者法」が施行され、国土交通省による安全基準に適合した救命胴衣の着用措置が講じられている。捜索の際に視認性の高い黄色やオレンジ色に限られ、探照灯の照射を受けて反射する再帰反射素材を一定の面積で貼付、また確実に周囲へ救助を要請出来るよう、水濡れに強い単管タイプのホイッスル装備も義務付けられている。オーストラリアでは州によっては条例で罰金が科されることもあり、マルコム・ターンブルは休暇中に船外機付きボートを操縦する姿が新聞に掲載されたが、救命胴衣を着けていなかったことがニューサウスウェールズ州条例に抵触したとして、同州より250オーストラリアドルの罰金が科せられた。

歴史[編集]

起源[編集]

救命胴衣の起源は、ノルウェーの漁師たちが使用していた木片やコルクであると考えられている。現代の形状に近い救命胴衣は、イギリスの王立国家救命艇協会(RNLI:Royal National Lifeboat Institution)の検査官だったウォード艇長によって1854年に製作されたコルク製のもので、その耐候性と浮力を目的に救命艇のクルーに着用されることとなった。

樹木のカポックの実から作られる繊維は軽量で撥水性に優れるため、救命胴衣の浮力材として用いられた。そのため、救命胴衣を指す代名詞としての“カポック”は素材にカポックの繊維が使われなくなっても用いられ続けており、21世紀になっても俗称として残っている。

メイ・ウエスト[編集]

メイ・ウエストとは、第二次世界大戦中に連合国側で使用された救命胴衣「Type B-4」の愛称である。カーキ色をした木綿製のベストで、中にゴム製の気嚢が入っていた。大きさは高さ約70cm・幅32cm・厚さ3cm。愛称は、当時の有名なアメリカ人女優の一人、メイ・ウエストに由来する(豊満な女性だったことから)。

普及[編集]

1950年代には日本の藤倉ゴム工業(現・藤倉コンポジット)、1960年代には合成繊維によるパーソナルフローテーションデバイス(PFDs:Personal Flotation Device)を開発したアメリカのスターンズ社や、日本のアポロスポーツ社、1970年代には日本アクアラング社など、各国で製造されるようになり普及が進んだ。

種類[編集]

救命胴衣は、その用途や構造、形状によっていくつかの種類に分けられるが、救助時の視認性を高めるため白色もしくはオレンジ色のものが多い。

固型式[編集]

救命胴衣の中では最も単純な構造で、浮力材には発泡スチロールなどの固形物が使用されている。訓練用として用いたり、湖などでのクルージングやアミューズメントパークで使われることが多い。

膨脹式[編集]

船舶や航空機では輸送力が限られているため、固形式のように嵩張るものは営業上の不利益が生じやすい。そのため、普段は折り畳まれた状態で保管し、使用時に気体を内部の空隙に送り込むタイプが開発された。救命胴衣の背中もしくは胸に内蔵されたガスボンベから、主に圧縮空気、二酸化炭素を注入するものが多い。紐を引いて起動させる手動式のものと、海水に触れると自動的に起動するものがある。

長期の航海や軍隊においては、公海上・外洋を漂流する可能性があるため、懐中電灯や発炎筒、応急処置用の医薬品、食料と水、サメ除けなどが入ったサバイバルキットが付属する。

SOLAS型[編集]

SOLAS条約に基づき、国際的性能基準が定められているもので、大型船舶(旅客船、フェリーなど)に装備されている。外洋での使用を前提にしているため浮力が大きく、意識不明状態に陥っても顔面が上向きになり呼吸が確保されるようになっている。

航空機で使用する際の問題[編集]

救命胴衣は海上などに航空機が不時着水した場合に備えて航空機にも装備されており、通常収納場所に制約のあることから膨張式のものが装備されている。このため、乗客は搭乗の後、安全のしおりや客室乗務員による実演などによって使用方法の説明を受ける。

展膨させた状態の救命胴衣はかなり嵩張るため、機外に脱出する前に救命胴衣を膨らませてしまうと、安全姿勢を取りづらくなったり、座席の間の狭い通路を移動する際や、非常口から外に出る際に救命胴衣が支障となり、脱出の妨げになる危険性がある。このため、安全のしおりや機内安全ビデオ等では、機外に出る直前に膨らませるよう説明したものが多い。

エチオピア航空961便ハイジャック墜落事件の際に犠牲者が多数出た原因の一つがこの問題で、着水前に機長が救命胴衣を膨らませないようアナウンスしたにもかかわらず、パニックになった乗客には機外への脱出前に救命胴衣を膨らませてしまう者が続出し、その結果スムーズに避難が行われず、乗客乗員175名のうち犯人3人を含む123名が命を落とした。



特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。


最近更新されたページ

左メニュー

左メニューサンプル左メニューはヘッダーメニューの【編集】>【左メニューを編集する】をクリックすると編集できます。ご自由に編集してください。掲示板雑談・質問・相談掲示板更新履歴最近のコメントカウン...

鼻葉

鼻葉(びよう)とは、小型のコウモリで発達している鼻のまわりの複雑なひだのこと。キクガシラコウモリ類やカグラコウモリ類でよく発達している。エコーロケーションを行うとき、超音波をコントロールするのに役に立...

黒住教

黒住教(くろずみきょう)は、岡山県岡山市にある今村宮の神官、黒住宗忠が江戸時代(文化11年11月11日・西暦1814年)に開いた教派神道で、神道十三派の一つである。同じ江戸時代末期に開かれた天理教、金...

黄疸

黄疸(おうだん、英: jaundice)とは、病気や疾患に伴う症状の1つ。身体にビリルビンが過剰にあることで眼球や皮膚といった組織や体液が黄染した(黄色く染まる)状態。目次1 黄疸の発生機序[編集]2...

黄泉

黄泉(よみ)とは、日本神話における死者の世界のこと。古事記では黄泉國(よみのくに、よもつくに)と表記される。目次1 語源[編集]2 記紀の伝承[編集]2.1 『古事記』[編集]2.2 『日本書紀』[編...

黄巾の乱

「紅巾の乱」とは異なります。黄巾の乱赤が黄巾の乱が発生した地域(184年)戦争:黄巾の乱年月日:184年場所:中国全土結果:後漢の勝利交戦勢力後漢黄巾賊指導者・指揮官何進皇甫嵩朱儁盧植董卓 他張角張宝...

麻痺性筋色素尿症

麻痺性筋色素尿症(まひせいきんしきそにょうしょう、paralytic myoglobinuria)とは数日の休養の後に激しい運動をさせた時に発生する牛や馬の疾病。蓄積されたグリコーゲンが著しい代謝によ...

鹿児島県立財部高等学校

鹿児島県立財部高等学校(かごしまけんりつ たからべこうとうがっこう, Kagoshima Prefectural Takarabe High School)は、鹿児島県曽於市財部町南俣に所在した公立の...

鳩胸

鳩胸(はとむね)は、胸部が鳩の胸のように高く突き出ていること。特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。...

魚沼丘陵

魚沼丘陵(うおぬまきゅうりょう)は、新潟県中越地方南部にある丘陵。地理[編集]魚野川流域の魚沼盆地(六日町盆地とも)と信濃川流域の十日町盆地を隔てている。行政区分では湯沢町、十日町市、南魚沼市、魚沼市...

魔虫兵ビービ

概要『天装戦隊ゴセイジャー』と言う番組における全敵組織共通の戦闘員で、ブレドランが使役するビービ虫が木偶人形に取り憑く事で生み出される。緑を基調として顔には山羊、胴体には蝙蝠と言う具合に悪魔を思わせる...

魏略

『魏略』(ぎりゃく)は、中国三国時代の魏を中心に書かれた歴史書。後に散逸したため、清代に王仁俊が逸文を集めて輯本を編したが、はなはだ疎漏であったため張鵬一が民国11年(1922年)に再び編した。著者は...

高齢者虐待

高齢者虐待(こうれいしゃぎゃくたい、Elder abuse)とは、家庭内や施設内での高齢者に対する虐待行為である。老人虐待(ろうじんぎゃくたい)とも称される。人間関係種類ボーイフレンドブロマンス同棲側...

高等工業学校

旧制教育機関 > 旧制高等教育機関 > 旧制専門学校 > 旧制実業専門学校 > 高等工業学校高等工業学校(こうとうこうぎょうがっこう)は、第二次世界大戦後の学制改革が行われるまで存在した日本の旧制高等...

高知大学教育学部附属中学校

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ナビゲーションに移動検索に移動高知大学教育学部附属中学校過去の名称高知県師範学校附属小学校高等科高知師範学校男子部附属国民学校高等科高知師...

高槻市立第九中学校

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ナビゲーションに移動検索に移動高槻市立第8中学校国公私立公立学校設置者高槻市併合学校高槻市立第五中学校設立年月日1972年4月1日創立記念...

高杉晋作が登場する大衆文化作品一覧

高杉晋作 > 高杉晋作が登場する大衆文化作品一覧高杉晋作が登場する大衆文化作品一覧(たかすぎしんさくがとうじょうするたいしゅうぶんかさくひんいちらん)目次1 小説[編集]2 映画[編集]3 テレビドラ...

高杉晋作

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2015年10月)高杉晋作高杉晋作通称東行生年天保10年8月20日(...

高月北

高月北は、大阪府泉北郡忠岡町の地名。高月北1丁目及び2丁目がある。脚注[編集][脚注の使い方]参考文献[編集]この節の加筆が望まれています。外部リンク[編集]この節の加筆が望まれています。この項目は、...

高所恐怖症

高所恐怖症分類および外部参照情報診療科・学術分野精神医学ICD-10F40.2ICD-9-CM300.29テンプレートを表示高所恐怖症(こうしょきょうふしょう)は、特定の恐怖症のひとつ。高い所(人によ...