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テンプレート:文学稲むらの火(いなむらのひ)は、1854年(安政元年)の安政南海地震津波に際して紀伊国広村(現在の和歌山県広川町)で起きた故事をもとにした物語。地震後の津波への警戒と早期避難の重要性、人命救助のための犠牲的精神の発揮を説く。小泉八雲の英語による作品を中井常蔵が翻訳・再話し、かつて国定国語教科書に掲載されていた。主人公・五兵衛のモデルは濱口儀兵衛(梧陵)である。
「稲むら」(稲叢)とは積み重ねられた稲の束のこと。稲は刈り取りのあと天日で干してから脱穀するが、上のように稲架(はさ)に架けられた状態を「稲むら」と呼ぶ。ただし脱穀後の藁の山も「稲むら」と言うことがある。
村の高台に住む庄屋の五兵衛は、地震の揺れを感じたあと、海水が沖合へ退いていくのを見て津波の来襲に気付く。祭りの準備に心奪われている村人たちに危険を知らせるため、五兵衛は自分の田にある刈り取ったばかりの稲の束(稲むら)に松明で火をつけた。火事と見て、消火のために高台に集まった村人たちの眼下で、津波は猛威を振るう。五兵衛の機転と犠牲的精神によって村人たちはみな津波から守られたのだ。
広川町役場前の「稲むらの火広場」にある浜口梧陵の銅像
1896年、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、英語によって "A Living God " を著した。西洋と日本との「神」の考え方の違いについて触れた文章であり、この中で人並はずれた偉業を行ったことによって「生き神様」として慕われている紀州有田の農村の長「浜口五兵衛」の物語を紹介した。
小泉八雲は作中にも触れられている明治三陸地震津波の情報を聞き、この作品を記したと推測されている。ただし地震の揺れ方や津波の襲来回数など、史実と異なる部分も多い。また「地震から復興を遂げたのち、五兵衛が存命中にもかかわらず神社が建てられた」とする点は誤りである。
小泉八雲の作品を読んで感銘を受けた地元湯浅町出身の小学校教員中井常蔵(1907 - 1994年)は、1934年(昭和9年)に文部省国定国語教科書の教材公募が行われると、 "A Living God " を児童向けに翻訳・再構成し、「燃ゆる稲むら」として応募した。この作品は入選して国語教材としてそのまま採用され、1937年(昭和12年)から1947年(昭和22年)まで、国定教科書である尋常小学校5年生用「小学国語読本巻十」と「初等科国語六」に「稲むらの火」と題されて掲載された。
「稲むらの火」では、具体的な年代や場所などの記述が省かれ、普遍的な物語として構成されている。
小泉八雲の著作によって、この物語は海外にも知られている。濱口儀兵衛(梧陵)の末子・濱口担が1903年(明治36年)にロンドンのThe Japan Societyで講演した際に、"A Living God "を通じて「五兵衛」の偉業に感銘を受けていた婦人と出会った逸話がある[1]。
1993年頃アメリカ合衆国コロラド州の小学校では、「稲むらの火」を英訳した "The Burning of The rice Field "が副読本として使われていた[2]。
詳細は「浜口梧陵」を参照
「稲むらの火」は濱口儀兵衛(梧陵)の史実に基づいてはいるものの、実際とは異なる部分がある。これは小泉八雲の誤解にもとづくものであるが、翻訳・再話をおこなった中井常蔵(地元出身であり、濱口儀兵衛らが創設した耐久中学校を卒業している)もあえて踏襲した。史実と物語の違いは国定教科書採用時にも認識されていたが、五兵衛の犠牲的精神という主題と、小泉・中井による文章表現の美しさから、安政南海地震津波の記録としての正確性よりも教材としての感銘が優先された。
農村の高台に住む年老いた村長とされている五兵衛に対して、史実の儀兵衛は指導的な商人であったがまだ30代で、その家は町中にあった。また、儀兵衛が燃やしたのは稲穂のついた稲の束ではなく、脱穀を終えた藁の山(これも「稲むら」と呼ぶことがある)であった(津波の発生日が12月24日〈新暦換算〉で、真冬であることに注意)。また、儀兵衛が火を付けたのは津波を予知してではなく、津波が来襲してからであり、暗闇の中で村人に安全な避難路を示すためであった。
「稲むらの火」には描かれていないが、儀兵衛の偉業は災害に際して迅速な避難に貢献したことばかりではなく、被災後も将来再び同様の災害が起こることを慮り、私財を投じて防潮堤を築造した点にもある。これにより広川町の中心部では、昭和の東南海地震・南海地震による津波に際して被害を免れた。
日本において、津波に関する物語のうち広く知られた作品である。発生が予測される東南海地震・南海地震などでの津波災害に対する防災意識を喚起する物語として注目されている。2003年3月に和歌山県で開催された「西太平洋地震・津波防災シンポジウム」に際して気象庁が「稲むらの火」に関するパンフレットを作成しており、インターネット上で公開されている(外部リンク参照)。
なお、物語が説くような形で津波の襲来前に海水が退くとは必ずしも限らないため、注意が喚起されている。
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