2019年10月、愛知県警に逮捕された男(29)は「名簿から高齢女性らしき名前を選んで、個人情報を伝えた」と供述した。
男は名古屋市に事務所を置く会社の社長だ。NHKから受信契約や集金の業務を請け負いながら、その裏では特殊詐欺の実行役に内通。ターゲットとする高齢者の情報を伝えていた。
NHKが貸与した業務専用端末内の契約者リストには年齢のデータがなかった。そのため、男は名前から高齢者と推察できる23人を選び出し「住所」「電話番号」「口座振替用の金融機関名」を実行役に電話で伝えたとみられる。
実行役はこれらの情報をもとに「あなたの口座から現金が引き落とされている可能性がある」と高齢女性をだましたとされる。このうち名古屋市の70代女性が実際に現金約50万円を引き出される被害にあった。
委託先の男と実行役はかつて別の職場の同僚だった。捜査幹部は「住所や金融機関名が分かれば犯行がしやすい。NHKの情報に注目した詐欺グループが、実行役らを通じて男に協力を求めた可能性もある」とみる。
NHKは事件を受け「委託先への指導をさらに徹底する」と説明。全国の委託先の情報管理について緊急で点検したほか、端末に表示される情報も減らしたという。
企業の情報管理に詳しい日本大の小向太郎教授は「経済効率を考えれば、個人情報の取り扱いを含む外部委託はやむを得ない」と指摘。その上で「委託元の企業は、必要最低限の情報しか出さないよう十分に精査し、目的外利用されていないか、監督を徹底する必要がある」と話す。
詐欺グループが狙う企業の「蓄積」は個人情報に限らない。2018年10月、日本郵便の委託業者の男2人が架空請求詐欺に関わったとして、名古屋地裁で実刑判決を受けた。詐欺グループは現金の受け渡し場面で摘発されるのを避け、回収を確実にするため、集配の委託を受けた業者を取り込んだとみられる。
男の担当は東京都府中市の郵便局での集配だった。架空の請求にだまされた高齢者が「ゆうパック」で市内の特定のアパートに宛てて現金入りの荷物を発送すると、それを持ち去っていた。
男は公判で「ヤミ金業者に借金があり、現金を回収するように指示された」と明かした。
警察幹部は「詐欺グループが企業、団体が持つ個人情報や物流ネットワークに目をつけ、侵食し始めた恐れがある」として懸念を強めている。
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