花起こしの妖精3(あいりすミスティリア)

ページ名:花起こしの妖精3(あいりすミスティリア)

 

わんつー、わんつー、わんつー・・・・・・      

ここでターン! びしっ! びしっ! びしっ!             

敬礼はいらないってばー
はっ!? 申し訳ありません、つい
  鍛錬場を覗くと、イリーナとフランチェスカの姿があった。
おや、冥王殿。 お疲れ様であります、びしっ!
  踊りの練習中? と聞いてみる。

はい。 この聖装を手に入れてから、フランチェスカ殿に踊りを習いはじめまして。

少しは上達したのですよ。この通り。

  ステップを踏みながら、手にしたバトンをくるくると回している。

どうですか冥王殿! お望みとあれば、さらに回しましょう!

くるくるくる・・・・・・ほわぁっ!?

 

つまずいて体勢を崩すイリーナ。

手を伸ばして腰を支えてやった。

あ、ありがとうございます。

・・・・・・自分の身体など、冥王殿は簡単に支えてしまうのですね。

ふふ。 冥王殿は、安心して身を任せられる指揮官であります・・・・・・びしっ

  小さく敬礼したイリーナに熱っぽい目で見つめられた。
ちょっとー、何その雰囲気ー?

ていうかイリーナ。 もっと練習しなきゃ。

そんなんじゃ、踊りで冥王を魅了できないよ?                  

み、みみみ、魅了だなんてそんな。

確かに、冥王殿のことは魅了したいというか、自分だけを見ていただきたいというか

・・・・・・あの

わー、 意外と大胆。 そんなに冥王が好きなんだー♪

あう、 あうぅ

フ、 フランチェスカ殿だって・・・・・・いつも冥王殿のことを

考えながら踊っていると――

はーい! 早く練習練習!

ところでイリーナ。 踊りにおいて、技術よりも大事なものってなんだと思う?

ダンスシューズの手入れなどでしょうか?
ブブー。 じゃあ、冥王! どーんと言っちゃって!
  技術より大事なのは・・・・・・表現力!
正解! さすが冥王!
表現力でありますか。 どのように磨けばいいのでしょう・・・・・・

表現力を身につけるには、何よりも実戦経験が必要。

というわけで、踊りに行こっか

へ? 一体どこへ?
冥界の街。 けっこうお客さん集まってくれるんだよね

ま、待ってください!

自分の踊りはまだ、たくさんの人に見せられる練度では――

  大勢の前で踊るイリーナ、見たいなあ

了解であります、 びしっ!

・・・・・・はっ、しまった! 反射的に!?

行こ行こー。 冥王、イリーナ持ってきてねー
あうあうあう~
 

意気揚々と鍛錬場を出るフランチェスカ。

イリーナを抱えて、俺も後に続いた。

ここは冥界の街にある広場。

 

その中心で、フランチェスカが舞っている。

周囲に集まっているのは冥界の住人たちだ。

誰もがフランチェスカの踊りに見入っている。

フランチェスカ殿の踊りは、やはり美しいでありますね。

こ、この後は自分が・・・・・・ごくり                        

 

やがて、フランチェスカの踊りが終わった。

住人たちから大きな拍手が上がる。

みんな、観てくれてありがとー♪

でも、今日はこれで終わりじゃなくって・・・・・・ほら、おいでイリーナ

どきどきどきどき

あわわわわわ

  緊張しきって、硬直しているイリーナ

こ、 こういう時は敬礼体操でリラックスを・・・・・・

右にびしっ、左にびしっ、正面にびしっ!

  『頑張れ、イリーナ』と励ましながら、優しく背中を押してやった。

冥王殿・・・・・・

了解しました。 期待に応え、見事踊りきってみせます!             

 

ぴんと背筋を伸ばしたイリーナが歩きだした。

フランチェスカと入れ替わりに、広場の中央へ立つ。

そして、人々に向けて一礼。

踊り子見習い、イリーナ・ボンダルチュークであります!

まだまだ未熟でありますが・・・・・・自分の踊りをご覧ください

頑張れイリーナ!
 

フランチェスカの応援を合図に、イリーナが踊りはじめた。

当然、フランチェスカに比べればまだ未熟。

しかし、妖精のような聖装で踊り、巧みにバトンを操る姿は人々を魅了している。

(わんつー、わんつー、わんつー・・・・・・)

(ここでターン! びしっ! びしっ! びしっ!)

あはは。 また敬礼してるし。

でも、観客にはウケてる。 やるじゃん、イリーナ。

わんつー、わんつー・・・・・・ほわっ!?
 

イリーナの足がふらついた。

そのまま体勢を崩しそうになる。

(冥王殿は、自分を信じて送りだしてくださった・・・・・・)

(その期待を裏切るわけには、いかないであります!)

 

なんとか持ち直し、何事もなかったかのように踊るイリーナ。

俺は駆け出そうとした足を止めた。

(観ていてください、冥王殿)

(自分は、冥王殿への気持ちを乗せて・・・・・・踊ります)

 

イリーナの踊りが、さらに軽やかさを増した。

風に吹かれる花びらのようだ。

空高くバトンを放って、ひらひらと舞うイリーナ。

そして、片腕を突きあげたまま静止する。

天に掲げた手のひらで――落下してきたバトンをキャッチ。

・・・・・・決まったであります。
 

最後に、ぺこりと可愛らしい一礼。

冥界の住人たちから万雷の拍手が送られた。

イリーナが俺の元まで駆けてくる。

め、冥王殿! フランチェスカ殿! 自分、やったであります!

自分の踊り・・・・・・いかがでしたでしょうか?

感動した!

イリーナ、ダンスの才能あるって! 次は一緒に踊ろうよ!

は、はい。 光栄であります。                        

そうと決まれば予定立てなきゃ!

よーし、ちょっとファウスタへ行ってくる! 劇場を押さえなきゃね!

ええっ!? なんだか話が大きく・・・・・・

ああ、行ってしまったであります。 なんという行動力。

ですが、劇場で踊るのも楽しそうでありますね。

人前で踊る楽しさが・・・・・・少し、理解できましたから

  イリーナの踊り、可愛かった

か、かわっ!?

あのう・・・・・・もっと、美しかったとか、綺麗だったとか

いえ、もちろん可愛いと言っていただけるのは嬉しいでありますが

他の褒め言葉よりも、恥ずかしいであります・・・・・・うう

  イリーナは両手でバトンを握りしめ、くすぐったそうにしている。

そういえば自分、踊りの表現力を身につけられた気がします。

踊っている時に、冥王殿のことを考えたら・・・・・・一気に身体が軽くなって

自然と、踊りに感情が溢れました。

心を揺さぶられる存在を想う。 それが、表現力のコツなのですね。

冥王殿。大切なことに気づかせていただき、ありがとうございます。びしっ。

 

小さく敬礼をしたイリーナが上目遣いに見つめてきた。

表情には幸福感が満ちている。

よく考えてみれば、自分はいつも冥王殿のことを考えているであります。

戦っている時も、授業を受けている時も・・・・・・冥王殿のために、必死になって

今だって、冥王殿のためにできることはないかずっと考えていて・・・・・・

  一緒にいてくれるだけで嬉しいよ、とイリーナに伝える。

ふえぇっ!? い、いきなりそんなことを言われると・・・・・・あう、あうぅ。

・・・・・・はい。 自分も、共にいられるだけで幸せであります・・・・・・。

ですが、自分はもっと幸せになりたくて・・・・・・冥王殿

 

イリーナが切なげに目を細めた。

耳の先まで赤面している。

俺はイリーナをお姫様抱っこで持ち上げた。

め、冥王殿!? 突然何を!?

いえ、嬉しいのですが、幸せなのですが・・・・・・皆さんが、

見ていらっしゃいます・・・・・・

  広場に残っている冥界の住人たちが、口々に俺たちを囃したてる。
あわ、あわわわ・・・・・・!
 

羞恥に耐えられないのか、両手で顔を覆うイリーナ。

だが、決して暴れたりはしない。

うう・・・・・・こんなふうに抱かれたら、もっともっと冥王殿が好きになって

しまうであります。 今よりも好きになると・・・・・・自分は本当に、

冥王殿のことで頭がいっぱいに・・・・・・

 

俺もまた、想いを通わせるたびにイリーナへの愛情が増していく。

互いのことしか考えられなくなるくらい、これからも愛し合おう――

そう囁くと、イリーナは花が咲いたように微笑んでくれた。

 

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