わんつー、わんつー、わんつー・・・・・・ ここでターン! びしっ! びしっ! びしっ! |
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敬礼はいらないってばー | |
はっ!? 申し訳ありません、つい | |
鍛錬場を覗くと、イリーナとフランチェスカの姿があった。 | |
おや、冥王殿。 お疲れ様であります、びしっ! | |
踊りの練習中? と聞いてみる。 | |
はい。 この聖装を手に入れてから、フランチェスカ殿に踊りを習いはじめまして。 少しは上達したのですよ。この通り。 |
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ステップを踏みながら、手にしたバトンをくるくると回している。 | |
どうですか冥王殿! お望みとあれば、さらに回しましょう! くるくるくる・・・・・・ほわぁっ!? |
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つまずいて体勢を崩すイリーナ。 手を伸ばして腰を支えてやった。 |
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あ、ありがとうございます。 ・・・・・・自分の身体など、冥王殿は簡単に支えてしまうのですね。 ふふ。 冥王殿は、安心して身を任せられる指揮官であります・・・・・・びしっ |
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小さく敬礼したイリーナに熱っぽい目で見つめられた。 | |
ちょっとー、何その雰囲気ー? |
ていうかイリーナ。 もっと練習しなきゃ。 そんなんじゃ、踊りで冥王を魅了できないよ? |
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み、みみみ、魅了だなんてそんな。 確かに、冥王殿のことは魅了したいというか、自分だけを見ていただきたいというか ・・・・・・あの |
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わー、 意外と大胆。 そんなに冥王が好きなんだー♪ | |
あう、 あうぅ フ、 フランチェスカ殿だって・・・・・・いつも冥王殿のことを 考えながら踊っていると―― |
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はーい! 早く練習練習! ところでイリーナ。 踊りにおいて、技術よりも大事なものってなんだと思う? |
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ダンスシューズの手入れなどでしょうか? | |
ブブー。 じゃあ、冥王! どーんと言っちゃって! | |
技術より大事なのは・・・・・・表現力! | |
正解! さすが冥王! | |
表現力でありますか。 どのように磨けばいいのでしょう・・・・・・ | |
表現力を身につけるには、何よりも実戦経験が必要。 というわけで、踊りに行こっか |
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へ? 一体どこへ? | |
冥界の街。 けっこうお客さん集まってくれるんだよね | |
ま、待ってください! 自分の踊りはまだ、たくさんの人に見せられる練度では―― |
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大勢の前で踊るイリーナ、見たいなあ | |
了解であります、 びしっ! ・・・・・・はっ、しまった! 反射的に!? |
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行こ行こー。 冥王、イリーナ持ってきてねー | |
あうあうあう~ | |
意気揚々と鍛錬場を出るフランチェスカ。 イリーナを抱えて、俺も後に続いた。 ここは冥界の街にある広場。 |
その中心で、フランチェスカが舞っている。 周囲に集まっているのは冥界の住人たちだ。 誰もがフランチェスカの踊りに見入っている。 |
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フランチェスカ殿の踊りは、やはり美しいでありますね。 こ、この後は自分が・・・・・・ごくり |
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やがて、フランチェスカの踊りが終わった。 住人たちから大きな拍手が上がる。 |
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みんな、観てくれてありがとー♪ でも、今日はこれで終わりじゃなくって・・・・・・ほら、おいでイリーナ |
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どきどきどきどき あわわわわわ |
緊張しきって、硬直しているイリーナ | |
こ、 こういう時は敬礼体操でリラックスを・・・・・・ 右にびしっ、左にびしっ、正面にびしっ! |
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『頑張れ、イリーナ』と励ましながら、優しく背中を押してやった。 | |
冥王殿・・・・・・ 了解しました。 期待に応え、見事踊りきってみせます! |
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ぴんと背筋を伸ばしたイリーナが歩きだした。 フランチェスカと入れ替わりに、広場の中央へ立つ。 そして、人々に向けて一礼。 |
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踊り子見習い、イリーナ・ボンダルチュークであります! まだまだ未熟でありますが・・・・・・自分の踊りをご覧ください |
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頑張れイリーナ! | |
フランチェスカの応援を合図に、イリーナが踊りはじめた。 当然、フランチェスカに比べればまだ未熟。 しかし、妖精のような聖装で踊り、巧みにバトンを操る姿は人々を魅了している。 |
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(わんつー、わんつー、わんつー・・・・・・) (ここでターン! びしっ! びしっ! びしっ!) |
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あはは。 また敬礼してるし。 でも、観客にはウケてる。 やるじゃん、イリーナ。 |
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わんつー、わんつー・・・・・・ほわっ!? | |
イリーナの足がふらついた。 そのまま体勢を崩しそうになる。 |
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(冥王殿は、自分を信じて送りだしてくださった・・・・・・) (その期待を裏切るわけには、いかないであります!) |
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なんとか持ち直し、何事もなかったかのように踊るイリーナ。 俺は駆け出そうとした足を止めた。 |
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(観ていてください、冥王殿) (自分は、冥王殿への気持ちを乗せて・・・・・・踊ります) |
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イリーナの踊りが、さらに軽やかさを増した。 風に吹かれる花びらのようだ。 空高くバトンを放って、ひらひらと舞うイリーナ。 そして、片腕を突きあげたまま静止する。 天に掲げた手のひらで――落下してきたバトンをキャッチ。 |
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・・・・・・決まったであります。 | |
最後に、ぺこりと可愛らしい一礼。 冥界の住人たちから万雷の拍手が送られた。 イリーナが俺の元まで駆けてくる。 |
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め、冥王殿! フランチェスカ殿! 自分、やったであります! 自分の踊り・・・・・・いかがでしたでしょうか? |
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感動した! イリーナ、ダンスの才能あるって! 次は一緒に踊ろうよ! |
は、はい。 光栄であります。 | |
そうと決まれば予定立てなきゃ! よーし、ちょっとファウスタへ行ってくる! 劇場を押さえなきゃね! |
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ええっ!? なんだか話が大きく・・・・・・ ああ、行ってしまったであります。 なんという行動力。 ですが、劇場で踊るのも楽しそうでありますね。 人前で踊る楽しさが・・・・・・少し、理解できましたから |
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イリーナの踊り、可愛かった | |
か、かわっ!? あのう・・・・・・もっと、美しかったとか、綺麗だったとか いえ、もちろん可愛いと言っていただけるのは嬉しいでありますが 他の褒め言葉よりも、恥ずかしいであります・・・・・・うう |
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イリーナは両手でバトンを握りしめ、くすぐったそうにしている。 | |
そういえば自分、踊りの表現力を身につけられた気がします。 踊っている時に、冥王殿のことを考えたら・・・・・・一気に身体が軽くなって 自然と、踊りに感情が溢れました。 心を揺さぶられる存在を想う。 それが、表現力のコツなのですね。 冥王殿。大切なことに気づかせていただき、ありがとうございます。びしっ。 |
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小さく敬礼をしたイリーナが上目遣いに見つめてきた。 表情には幸福感が満ちている。 |
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よく考えてみれば、自分はいつも冥王殿のことを考えているであります。 戦っている時も、授業を受けている時も・・・・・・冥王殿のために、必死になって 今だって、冥王殿のためにできることはないかずっと考えていて・・・・・・ |
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一緒にいてくれるだけで嬉しいよ、とイリーナに伝える。 | |
ふえぇっ!? い、いきなりそんなことを言われると・・・・・・あう、あうぅ。 ・・・・・・はい。 自分も、共にいられるだけで幸せであります・・・・・・。 ですが、自分はもっと幸せになりたくて・・・・・・冥王殿 |
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イリーナが切なげに目を細めた。 耳の先まで赤面している。 俺はイリーナをお姫様抱っこで持ち上げた。 |
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め、冥王殿!? 突然何を!? いえ、嬉しいのですが、幸せなのですが・・・・・・皆さんが、 見ていらっしゃいます・・・・・・ |
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広場に残っている冥界の住人たちが、口々に俺たちを囃したてる。 | |
あわ、あわわわ・・・・・・! | |
羞恥に耐えられないのか、両手で顔を覆うイリーナ。 だが、決して暴れたりはしない。 |
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うう・・・・・・こんなふうに抱かれたら、もっともっと冥王殿が好きになって しまうであります。 今よりも好きになると・・・・・・自分は本当に、 冥王殿のことで頭がいっぱいに・・・・・・ |
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俺もまた、想いを通わせるたびにイリーナへの愛情が増していく。 互いのことしか考えられなくなるくらい、これからも愛し合おう―― そう囁くと、イリーナは花が咲いたように微笑んでくれた。 |
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