【ガルガンチュア】 ぐ・・・・・・見事だ・・・・・・命短き者たちよ |
|
我が力、 わかったであろう? 泣いて命乞いをしたころの我ではないのじゃ。 |
|
【ガルガンチュア】 は、 は・・・・・・貴様は何もわかっておらぬのう |
ふん、 負け惜しみか 歳のせいで、 ドラゴニアの誇りも失ったか |
|
【ガルガンチュア】 馬鹿め。 ここまで辿り着いたは、 貴様一人の力か? 我を傷付けたは、 そなたの剣だけではあるまい それを己一人の力とうぬぼれるとは、 お前も未熟よの。 |
|
ぐっ!? それは、 否定できぬ。 | |
【ガルガンチュア】 最強を志すならば、 力のみを求めるな。 そなたに手を差し伸べてくれる者の存在を忘れぬことだ。 最も強き者とは、 最も優しき者なればな。 |
|
なぜ、 今になってそんなことを言うのだ 弱き者に価値はないと・・・・・・ずっと己を鍛えてきたのに。 |
|
【ガルガンチュア】 甘いな。 親が何でも教えると思うたか? |
|
そうか・・・・・・そうじゃったな・・・・・・我は甘えておった。 | |
悄然と肩を落とすシャロンの手に、 ティセがそっと触れる。 それを見て、古竜がわずかに目を細めた。 |
|
【ガルガンチュア】 シャルロッテの墓は貴様一人には託せん。 故に、 世界樹の恩恵を受けし者たち皆にお預けしたい。 よろしいか? |
|
承ったぞ | |
【ガルガンチュア】 うむ・・・・・・我が娘を頼む、冥王。 |
|
父様・・・・・・? | |
【ガルガンチュア】 未熟な貴様にやるのは惜しいが、 奥の宝箱の中身は持ち帰るがよい。 |
|
竜が大きな翼を羽ばたかせた。 巨体がふわりと舞い上がる。 |
|
父様、 どこへ行くのじゃ!? | |
【ガルガンチュア】 行き先などどこでも同じこと。 我にたどり着けぬ場所はなく、 また見えぬ場所もない。 どこへいようとも、いつでも貴様を見ておるぞ。 怠ることなく励むことだ。 我とシャルロッテの子は最強でなくてはならぬ・・・・・・ふふふ |
|
翼が大きく空気をかき混ぜる。 土埃を残し、 竜の巨体は瞬く間に上昇していった。 |
|
・・・・・・行っちゃいましたね | |
うむ、 そうじゃな。 | |
話と違って、 いいお父様だったのでは? | |
あれは歳のせいだ。 昔は鬼のような人だったのじゃぞ。 しかし、まあ・・・・・・多少は褒めるところもできたな。 母様の墓を守っていたわけだしの |
|
立派なものだよ | |
それに、 いいことを仰っていました。 『そなたに手を差し伸べてくれる者の存在を忘れぬことだ』って。 |
|
む、 無論、 感謝しておる。 我一人では、 ここまでたどり着くことはできなかった。 |
|
それもそうですけど、 シャロンはもう少し周囲に甘えていいのではありませんか? その、 私では役者不足かもしれませんが。 |
|
まさか! もったいないくらいじゃ。 | |
なら良かった。 これからもよろしく、 シャロン。 | |
む、 むう・・・・・・こほん | |
ティセに見つめられ、 シャロンがそわそわする。 | |
そ、 そういえば、 父様の贈り物とは何であろう | |
奥に宝箱があるって言ってましたね。 開けてみましょう! | |
待て待て待て、 開けるのは我じゃっ! | |
《アイリス》たちが宝箱に駆け寄る。 | |
よし、 開けるぞ。 さて、 鬼が出るか蛇が出るか・・・・・・ | |
冥界に戻ってきて数日―― |
冥王、 どうじゃこの衣装は? 母様が着ていたものらしいぞ | |
よく似合ってるよ | |
そうであろう、 そうであろう これは世界でたった一つの、 父様と母様からの贈り物じゃ |
|
というやりとりを、 遺跡から帰ってきてから1日3回は繰り返している。 よほど嬉しかったのだろう。 |
|
しかし、 遺跡では冥王にいろいろと恥ずかしいところを見られてしまったな。 日頃は偉そうにしていても、 一皮むけばこのザマじゃ。 大いに笑ってくれ。 |
|
大人も親もみんなそう。 | |
・・・・・・であったな。 誰しも皆、 それぞれにもがいていると言うことか。 そんな親に対してアレがないコレがないと文句を言えるのも、 子供の特権。 ・・・・・・我もまだまだ子供だったということじゃな。 |
|
それでいいのだと思う。 遅かれ早かれ、 人は親に甘えられなくなるのだから。 |
|
ところで、 母様の墓についてはどうしたものか。 父様に託されてしまったが、 《アイリス》には種子の回収という責務がある。 四六時中、 見張っているわけにもいかん。 |
|
荒らされないよう気に留めておくよ。 | |
冥王がそう言ってくれるなら安心じゃ。 よろしく頼む。 |
あっ、 こんなところにいたのですね。 探しましたよ | |
ティセが駆け寄ってきた。 | |
ティセ、どうかしたのか? | |
実はお父様に手紙を書いたんです。 手紙を書くのは初めてでして、内容がおかしくないかお二人に見てもらいたいのですが |
|
かまわぬぞ。 のう、 冥王? | |
もちろん、 と頷く。 手紙には、父親に教えられた技術が非常に役立ったこと。 教育は厳しかったが、今ではそれも悪くなかったと思っていること。 次に森へ帰ったときには、成長した自分を見てほしいこと―― などなど、が書かれていた。 お父さん、喜ぶよ |
|
でしたら、良かったです。 | |
水を差すようだが、 これは本心なのか? 昨日の今日で、 ここまで急に変われるものなのか? |
|
本心ですよ。 もちろん、こんな自分になれたら・・・・・・という願望も含まれていますが。 ただ、それは嘘をついていることにはならないと思います。 |
|
ようわからんが、お前が無理をしていないのなら結構だ。 | |
心配してくれてありがとう、シャロン | |
ま、 まあ、 なんじゃ・・・・・・友達だからの・・・・・・ | |
ふふふ。 ようやく言ってくれました。 | |
なっ!? い、 今までも友だとは思っておったぞ! わ、 我のことよりお前はどうしたんじゃ? 冥王に甘えられたのか? 隊長として成果を上げて、 甘えさせてもらうと張り切っていたようじゃが。 |
|
そ、 それは・・・・・・ 冥王様、 私の隊長ぶりはいかがでしたか? |
|
十分だったよ。 | |
ならば、 存分に甘えさせてもらえるの。 | |
さあ来たまえと、 胸を空けて待つ。 | |
・・・・・・すみません、 今はそのような気分では。 | |
いきなりフラれた模様だ。 | |
ああっ! 落ち込まないでくださいっ! 父親に甘えられなかったから冥王様に、 というのは失礼かと思いまして。 次に甘えるときには・・・・・・その、 ええと・・・・・・父親の代わりということ ではなくて・・・・・・きちんと、 大人として・・・・・・にゃーーーーん、と・・ |
|
言いながら、 ティセがどんどん赤くなっていく。 | |
にゃーーーん? そういえば、 最近、 ティセの部屋から猫の鳴き声がすると噂になっていたが・・・・・・ |
|
はいいいっ!? 全然知りません! あっ! 用事を思い出したので失礼します! |
|
がばっと頭を下げ、 ティセはすごい勢いで走り去った。 | |
ははは、 相変わらず面白い奴じゃのう | |
一緒に騒げる友達ができて良かったね |
あん? まあの・・・・・・ |
|
シャロンが照れくさそうに顔をそらす。 恥ずかしがるポイントが違うだけで、 俺から見れば2人とも恥ずかしがりで面白い。 ティセをからかったけど、嫌われないといいな。 |
|
ははは。 このくらいで嫌われるわけなかろう。 ・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 し、 失礼するっ! 用事を思い出しただけじゃ! ティセの様子を見に行くのではないぞ! |
|
シャロンがティセの後を追う。 シャロンとティセ・・・・・・ともに長命の者だ。 良好な関係が続くことを願わずにはいられない。 ――いや、きっと続くだろうな。 2人の背中を見送りながら、俺はそう確信していた。 |
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧