一方その頃、落とし穴の底では―― | |
いたたたた・・・・・・冥王様、お怪我はありませんか? | |
大丈夫。 ティセは? | |
私は《アイリス》ですから、この程度平気です。 ですが・・・・・・閉じ込められてしまったようですね。 |
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穴の底は、大人二人がようやく座れる程度の広さしかない。 身体を寄せ合い、周囲を確認する。 |
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出口は・・・・・・ないか。壁もつるつるで登れそうもありません。 落ちてきた穴も塞がってしまっています。 も、もしかして・・・・・・万事休す? ・・・・・・ひゃっ!? |
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ティセが、突然声を上げた。 | |
す、すみません。 冥王様の手がお尻に当たって。 | |
すまん。 狭いもんで。 | |
あ、いえ、こちらこそ、もう少し綺麗なお尻でしたらよかったのですが。 ・・・・・・って、私、一体何を口走って・・・・・・ |
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ぷしゅーと湯気を上げ、ティセが顔を伏せる。 そのまま、無言タイムに突入した。 これは気まずい。 |
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私、隊長失格ですね。 まっさきに離脱してしまいました。 冥王様に甘える資格もありません |
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ティセに、思っていることを伝える。 ――甘えるのに資格はいらない。 ――親愛の情は報酬ではないのだ。 |
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報酬、ではないのですか? では、甘えるとは一体? |
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息をするように、にゃーんするのさ! | |
息をするように・・・・・・にゃーーん なるほど・・・・・・ わかりません。 |
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俺もわからない。 再び無言タイムに突入。 ぱらぱらと砂が落ちる音が、妙に大きく聞こえる。 |
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・・・・・・にゃーん・・・・・・ | |
背後から、かわいらしい声が聞こえた気がする。 | |
にゃーん | |
気のせいではない。 あの生真面目なティセが、上目遣いで俺の背中をつんつんしている。 |
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にゃん? にゃにゃーーん? |
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どうしたの? | |
あ、いえ、甘えるというのは、こういうことなのか・・・・・・と思いまして。 間違っていたでしょうか? |
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おそらく大丈夫。 | |
良かった。 見当違いのことをしたのかと思いました。 私、さっきのように人に触れたのは初めてだったんです。 許可も取らずに触って・・・・・・触らせてくれて・・・・・・ なんだかむずがゆいような不思議な気分でした。 きっと、普通の親子というのは、ああいうことを自然にしているのでしょうね。 どうして、私の父は厳しいばかりだったのでしょう。 私が嫌いだったのでしょうか? それとも、私が未熟だったのが悪いのでしょうか? もっともっと、狩猟の腕を磨けば、いつか甘えさせてくれるのでしょうか? |
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何かにすがるような目が向けられる。 正解はわからない。 だから、俺は俺が思うことをティセに伝える。 |
・・・・・・想像したこともない考え方です。 完全には理解できませんけど、気持ちが軽くなりました。 これからは肩肘を張らずにやっていけそうな気がします。 |
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明るい顔でティセが微笑んでくれた。 多少なりとも効果はあったらしい。 |
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あの、ところで、なのですが・・・・・・ 落ちてくる砂の量が、どんどん増えていませんか? |
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言われてみれば。 | |
これはもしや、生き埋めにされる仕掛けなのでは。 | |
いやーーーーっ! |
どーーーんと、壁に穴が空いた。 | |
ごほっ!? な、なんですか・・・・・・? | |
ふう、間に合ったようじゃの。 | |
冥王さまっ、 ご無事ですかっ!? |
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