穴の底にて2(あいりすミスティリア)

ページ名:穴の底にて2(あいりすミスティリア)

 

  一方その頃、落とし穴の底では――
いたたたた・・・・・・冥王様、お怪我はありませんか?
  大丈夫。 ティセは?

私は《アイリス》ですから、この程度平気です。

ですが・・・・・・閉じ込められてしまったようですね。

 

穴の底は、大人二人がようやく座れる程度の広さしかない。

身体を寄せ合い、周囲を確認する。

出口は・・・・・・ないか。壁もつるつるで登れそうもありません。

落ちてきた穴も塞がってしまっています。

も、もしかして・・・・・・万事休す?

・・・・・・ひゃっ!?

  ティセが、突然声を上げた。
す、すみません。 冥王様の手がお尻に当たって。
  すまん。 狭いもんで。

あ、いえ、こちらこそ、もう少し綺麗なお尻でしたらよかったのですが。

・・・・・・って、私、一体何を口走って・・・・・・

 

ぷしゅーと湯気を上げ、ティセが顔を伏せる。

そのまま、無言タイムに突入した。

これは気まずい。

私、隊長失格ですね。 まっさきに離脱してしまいました。

冥王様に甘える資格もありません

 

ティセに、思っていることを伝える。

――甘えるのに資格はいらない。

――親愛の情は報酬ではないのだ。

報酬、ではないのですか?

では、甘えるとは一体?

  息をするように、にゃーんするのさ!

息をするように・・・・・・にゃーーん

なるほど・・・・・・

わかりません。

 

俺もわからない。

再び無言タイムに突入。

ぱらぱらと砂が落ちる音が、妙に大きく聞こえる。

・・・・・・にゃーん・・・・・・
  背後から、かわいらしい声が聞こえた気がする。
にゃーん
 

気のせいではない。

あの生真面目なティセが、上目遣いで俺の背中をつんつんしている。

にゃん?

にゃにゃーーん?

  どうしたの?

あ、いえ、甘えるというのは、こういうことなのか・・・・・・と思いまして。

間違っていたでしょうか?

  おそらく大丈夫。

良かった。 見当違いのことをしたのかと思いました。

私、さっきのように人に触れたのは初めてだったんです。

許可も取らずに触って・・・・・・触らせてくれて・・・・・・

なんだかむずがゆいような不思議な気分でした。

きっと、普通の親子というのは、ああいうことを自然にしているのでしょうね。

どうして、私の父は厳しいばかりだったのでしょう。

私が嫌いだったのでしょうか?

それとも、私が未熟だったのが悪いのでしょうか?

もっともっと、狩猟の腕を磨けば、いつか甘えさせてくれるのでしょうか?

 

何かにすがるような目が向けられる。

正解はわからない。

だから、俺は俺が思うことをティセに伝える。

・・・・・・想像したこともない考え方です。

完全には理解できませんけど、気持ちが軽くなりました。

これからは肩肘を張らずにやっていけそうな気がします。

 

明るい顔でティセが微笑んでくれた。

多少なりとも効果はあったらしい。

あの、ところで、なのですが・・・・・・

落ちてくる砂の量が、どんどん増えていませんか?

  言われてみれば。
これはもしや、生き埋めにされる仕掛けなのでは。
  いやーーーーっ!

  どーーーんと、壁に穴が空いた。
ごほっ!? な、なんですか・・・・・・?
ふう、間に合ったようじゃの。
冥王さまっ、 ご無事ですかっ!?

 

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