窓の外の雨は、一向に止む気配がない。
ネガティヴモード発動中のエニシダは言う。
「わたしのおばあちゃん、すごい魔法使いだったんです・・・・・・。
ここ、ブロッサムヒルでは伝説の魔女と言われるほどでした
そのせいで、私は周りから常に期待されて育ったんです。それで人をガッカリさせちゃいけないと・・・・・・。
とにかくプレッシャーを感じる毎日でした。それで少しネガティヴになってしまったところは、正直あります・・・・・・」
祖母は祖母であって、エニシダはエニシダだろう。
その祖母にしか出来ないことも勿論あるだろうけれど、エニシダにしか出来ないこともあるはずだ。
だからもっと胸を張って生きていけばいいと、彼女を慰める。
「確かにそうですね!ありがとうございます!団長さんの言う通りです!」
・・・・・・エニシダはヘコみやすいが、同じくらい元気を取り戻すのが早い。
良いことだが。
「では、天気以外で・・・・・・団長さんが望むことってありますか?
て、天気以外なら何でもできるので!」
望むことか・・・・・・。
まず、最近睡眠時間が取れていないから、ぐっすり眠りたい。
あとは・・・・・・、
そもそもそれは仕事が終わっていないからなので、
仕事がいつの間にか片付いていることも望む。それと・・・・・・。
美少女が朝起こしてくれて、それで目を覚ますと朝ごはんができていて・・・・・・
その作ってくれた朝ごはんを一緒に食べながら、窓の外を眺めたりして・・・・・・。
今日は良い天気だね、どこへ行こうか、なんて他愛のない会話をする・・・・・・。
「ちょ、ちょっと待ってください!何か妙に多くありませんか?
しかも途中から、団長さんの妄想世界に入ってますし!
現実に戻ってきてください!」
何を望むかと言うから・・・・・・。
エニシダが、何でもできるって自ら言ったのではないか。
「そ、そうでしたね。
問題ないですよ。今の全部ひっくるめて、できますよ。
ちょっと待っててくださいね。」
そう言うとエニシダは、また窓を開ける。
そして先ほどと同じように、両手を空にかざし、何かを呟き始めた。
さっきより雨脚は強くなっている。
エニシダの蝶々は、雨が吹きこんでこない店の奥へと飛んでいった。
窓を開けっ放しにして、しばらく詠唱を続けるエニシダ。
そろそろ店に怒られるのではと心配になってきたあたりで、彼女は窓を閉めた。
「団長さん。少しは魔法が効いてきました・・・・・・?
ど、どうでしょうか?」
どうでしょうも何も、まず今は朝じゃないし、
誰も朝ごはんを作ってくれていない。
仕事もこの通り、何も片付いていないし・・・・・・。
「いくら私が魔法使いでも・・・・・・、
時間を朝にしたりとか、いつの間にか仕事が終わっているとか・・・・・・
そういうのは難しすぎます・・・・・・。
・・・・・・いや、難しいとか言ってたらダメですよね。
私の修行が足りないだけなんですから。
団長さんをガッカリさせてしまってごめんなさい・・・・・・。
生まれてきてすみません・・・・・・。
来世ではバナナオーシャンの砂浜の砂になりたいです。
海に流され、皆に踏まれ・・・・・・、私はそうやって強くなるんです。」
・・・・・・流石にちょっと無理な魔法を要求しすぎたかもしれない。
さっきも言ったように、ホウキで飛べる時点で、エニシダはもうだいぶ魔力を持っている。
だから大丈夫だよ、と励ました。
「確かにそうですよね!
団長さんが言うならそうだと思います!
ありがとうございます!元気が出てきました!」
相変わらず、元気になるのが早い。
それにしてもこの雨、どうしようか。
執務室に戻らなければいけないのだが・・・・・・。
この両手に抱えている書類を明日の朝までに終わらせないと・・・・・・。
「団長さん、この店で、傘を買うのはどうでしょう」
・・・・・・傘?
店の中を見渡すと、傘が売っていた。
・・・・・・気づかなかった・・・・・・。
「傘、私がさしますよ!
団長さん、たくさん荷物があるみたいですし、
私と一緒に執務室まで行きましょう!」
そうしてくれるなら大歓迎である。
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