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漫画作画者・いがらしゆみこが自作画の漫画『キャンディ・キャンディ』の出版・二次使用について行った国際的規模の詐欺事件。被害者は、作品の原著作者である水木杏子、商標権保持者である東映アニメーション、グッズ業者であるバンプレスト始め、いがらし側弁護士の虚偽情報によってキャラクターの二次使用契約を結び、結果として販売差し止め措置により多量の在庫を抱えることとなった50社以上に及ぶ業者。裁判で問題にされたものは、いがらし側が行った不正ビジネスのごく一部に過ぎず、事件の全貌は未だ明らかになっていない。
1974年秋、講談社の少女漫画雑誌「なかよし」の編集長・東浦彰は、かねてよりの構想である「名作もの路線」の大型連載を企画。編集会議において、原作者・名木田恵子(水木杏子)、作画者・いがらしゆみこというユニットが人選された。担当編集者・清水満郎は、名木田・いがらし両名と個別の打ち合わせを重ね、「西洋を舞台とした、孤児の少女が逆境に負けずに明るく生きていく物語」という基本的構想を決定。同年11月、名木田といがらしは、清水を交えて初めての打合せを行い、連載第一回分の筋立ての他、予告を掲載するために必要な、漫画の題名、主人公の名前、キャラクター等について各自の意見を交換した。同席上で、いがらしは持参のノートに主人公のラフスケッチを描き、原作者・担当編集者にデザインの承認を受けた。上記打ち合わせの結果を踏まえて、名木田は連載第一回分の原作原稿を執筆。いがらしは1975年1月中旬に名木田から原作原稿を受領。「なかよし」1975年4月号(同年3月3日発売)に連載漫画の第一回が掲載された。
尚、原著作者・名木田恵子は、当時「なかよし」誌上に「加津綾子」名義で『ロリアンの青い空』(1974年4月号~1975年4月号)、「名木田恵子」名義で『うたえ!ポピーちゃん』(1974年10月号~1975年9月号)を同時連載中の為、本作品では「水木杏子」のペンネームを使用した。
雑誌連載は、第一回から読者アンケートの70%を獲得する人気作品となり、連載初期の段階から、講談社・東映・ポピー三社の連携による、雑誌連載・アニメ放映・キャラクターグッズ展開が企画された。1976年、ポピーの関連会社・吉田企画の開発による人形「陽気なキャンディ」発売。1977年10月より、テレビ朝日系でアニメ放映が始まった。ポピーは番組放映初年度に360種のキャラクター商品を発売、キャンディ人形は年間200万体(約80億円)を売り上げ、「おべんきょうセット」「かんごふさんバッグ」「ミスまんが家」の販売数は、それぞれ100万個を超えた。『キャンディ・キャンディ』のキャラクター商品は、1977年から79年の三年間で、末端価格にして1000億円の売り上げがあったといわれている。
これらキャラクターグッズの版権表示は、
のいずれかであった。
講談社版権事業推進部長・新藤征夫が、98年10月、地裁に提出した陳述書の要約によると、75年から95年に著作権管理契約を解除されるまでの20年間、講談社は原作者・水木杏子を「原著作者」、作画者・いがらしゆみこを「二次的著作物(原作付漫画)の著作者」として版権処理し、漫画作品の二次利用の版権業務を行う際は、原作者と漫画家それぞれに事前許諾を得て、両者のクレジットも必ず表示するように義務づけていた(連載以降に新しく描き下ろしたキャラクター画も、漫画の複製物として原作者の権利が及ぶものとして、同じ扱いをしていた)。
また、キャラクターグッズ展開をスムーズに行う為に、アニメ製作会社の東映動画(現東映アニメーション)は講談社・原著作者・漫画家の承認の元に、多数の品目にわたって「キャンディキャンディ」の商標権を取得し、現在に至るまで保持している。
『キャンディ・キャンディ』の連載終了後、原著作者・水木杏子は「名木田恵子」名義による少女小説・児童文学へと活動の場をシフトさせた。一方いがらしゆみこは『なかよし』誌を離れ、1982年に小学館「少女コミック」誌で井沢満原作による『ジョージィ!』をヒットさせるが、後がつづかず、90年代にはレディス誌で原作付漫画を執筆。
90年代半ばに講談社と東映は、1992年春の東映まんがまつりで再アニメ化、93年には漫画版のリプリントを「るんるん」誌の別冊付録として付ける等、「キャンディ再生計画」を試みるが不発に終わり、TVアニメのリメイクは見送りとなった。この時、講談社側から、新たな作画者による漫画のリメイクという案も打診されたが、原著作者・水木の反対により廃案となった。
1993年11月に漫画家の親睦団体「マンガジャパン」の世話人となったいがらしは、同団体顧問弁護士の富岡英次より「漫画の絵のみの利用については、原作者の権利は及ばない」「連載終了後に描き下ろされたキャラクター画は、漫画家単独の著作物である」「漫画原作者に漫画の著作権があるという判例はまだない」という法律指導をうけるようになった(当時マンガジャパンは、「原作者より漫画家の労力の方が勝るので、漫画家のほうがより強い権利を持つべき」と主張、更に出版社による版権管理を外して漫画家のみでビジネスを行うことを推奨していた)。
いがらしは、講談社・東映を「キャンディ再生計画」に消極的と見て、同郷の友人である本橋浩一が取締役を務める日本アニメーション株式会社をビジネスパートナーとしてキャンディビジネスを進めることをもくろみ始めた。
いがらしは原作者・名木田恵子(水木杏子)に「講談社はキャンディは欲しいが、いがらしは要らないのよ」と、講談社からの冷遇を訴え、更に「中央公論社からいがらしの旧作を文庫化する企画があるが、講談社との契約を切らなければ他社から文庫はだせない」「日本アニメーションが『キャンディ』のリメイクを希望している。その為には東映との契約を切らなければならない」と言葉巧みに名木田をそそのかし、1995年2月にいがらしと水木は講談社及び東映との版権管理契約を解除した。
講談社・東映との契約解除の前後から、いがらしは水木に無断で株式会社フジサンケイアドワーク(フジサンケイグループ)の朝井匡人専務に『キャンディ・キャンディ』の版権を委託、偽版画(高額額装ポスター)やアミューズメント写真シール機(俗称プリクラ)、扶桑社(フジサンケイグループ)からの漫画出版、ポニーキャニオン(フジサンケイグループ)のデジタルイラスト集、香港における漫画・イラスト集・グッズ類の出版などの話を進めていた。
1995年3月と6月に、日本アニメーションの本橋浩一らと、いがらし、水木がアニメのリメイクについて話し合いをもった。しかし「キャンディキャンディ」の商標権を東映アニメーションが保持している為、日本アニメーション側は「リメイクではなく続編」の製作を打診。水木はかねてより「続編も番外編も書かない」と宣言してきた為、これを拒否。以降、日本アニメーションから水木への連絡は途絶えた。
同年7月、いがらしの元アシスタント・村中志津江(PN鈴鹿れに)が編集者をつとめていた玉皇朝出版より、イラスト集(水木のポエムの中文訳掲載)出版。ブックフェアーでのサイン会に参加する為、水木といがらしは香港へ赴いたが、現地において、イラスト集の契約が玉皇朝出版といがらし間のみで交わされていたことが発覚。
同年11月、いがらしと水木は、いがらしが世話人を務めるマンガジャパンの顧問弁護士・富岡英次の立会いの下に、二次使用契約を新たに取り交わした。この契約書は、講談社の管理時代同様に『キャンディ・キャンディ』の二次使用には水木・いがらし両名の同意が必要としたものであった。しかし、管理業者として予定されていた、富岡の同僚の窪田弁護士とは管理手数料の折り合いがつかず、この契約は管理者不在のまま中に浮くこととなった。
この頃から提訴に至るまでの間、水木はいがらしに何度も今後のキャンディの管理について話し合うべく連絡をとるが、いがらしは言を左右にして水木を避け続けた。
1996年秋、いがらしは香港にキャンディコーポレーションなる会社を設立(香港代表 石川正志、日本代表 山本昌子)。この会社に関しては、原著作者は全く関知していないにもかかわらず、いがらしらは取引先企業に対して「水木さんもキャンディコーポレーションの一員」等と説明していた。1997年3月、いがらしは香港において原著作者達に無断で『キャンディ・キャンディ』『ジョージィ!』原画展示会を開催。主催は玉皇朝出版。この香港のイベントにおいて、『キャンディ・キャンディ』のラジオドラマを原作者に無断で制作、放送。同時に多くのキャンディグッズも無断販売された。尚、いがらし自身はこの一連の商行為を「ユニセフのチャリティイベント」と宣伝しているが、正確にはユニセフ「主催」ではなく、「協賛」のイベントである(「協賛」は売上げの一部を寄付すれば簡単に出来、感謝状も個人名で寄付すれば誰でも貰える)。ちなみに、いがらしゆみこが『キャンディ』を利用して行ったチャリティは、一度も収支報告がされていない。この原画展で展示した原画(石膏ボード)を、美術梱包(保険あり)もせず、佐川急便に輸送を依頼したいがらしは、輸送中に絵が破損していたとして、1000万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した(佐川急便事件)。
同じ頃、キャンディコーポレーションとバンプレスト間の契約により、株式会社バンダイ直営のアミューズメント施設・東京ガリバー松戸店において、キャンディ・キャンディの写真シール機(俗称プリクラ)3台が料金200円で稼動開始。このプリクラの著作権表記は「(c)CANDY」のみで、原作者・水木の名前はどこにもなかった。
5月、TV、雑誌(ミリオン出版『コミックGON!』)などの報道でプリクラの無断製作が水木に発覚、更に扶桑社からの漫画単行本出版契約、香港での一連のビジネスと中文版単行本の無断出版契約が次々と発覚。水木は香港の単行本出版計画に関して、担当者である村中志津江に厳しく問いただすが、村中の泣き落としにより、キャンディコーポレーションと玉皇朝出版との契約を解除後、同年6月、新たに単行本出版契約を結んだ。
96年冬から翌年8月の間、水木はフジサンケイアドワークの朝井匡人専務に数回接見を求めたが、浅井は拒否。
同年6月26日、いがらしの代理人山崎和義弁護士より契約解除予告付き通知書到達。いがらしが無断で契約を結んだグッズ類を20%の印税配分で5日以内に追認しなければ、二人の二次使用の契約は解除するという通告だった。7月6日、山崎は水木に対し一方的契約解除通知を送付。同年8月18日、 サンケイ新聞紙上にて、「高級オリジナル現代版画」と称するオフセット印刷を3万円から14万円で販売する通販のカラー付き全面広告が掲載された(サンケイリビング経由)。水木があずかり知らぬうちに製作された商品であり、広告にも水木の原作者名表記はどこにもなかった。同年9月16日、たまりかねた水木は株式会社フジサンケイアドワーク(代表取締役・小川武夫)といがらしゆみこを相手取り、「偽版画」の出版差し止めを求めて東京地裁に提訴した。
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