青い紅玉(小説)

ページ名:青い紅玉_小説_

登録日:2021/06/11 Fri 21:09:27
更新日:2024/05/27 Mon 13:30:40NEW!
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コナン・ドイル シャーロック・ホームズ シャーロック・ホームズのエピソード項目 ジョン・h・ワトソン 小説 宝石 クリスマス 盗難事件 青い紅玉



On the contrary, Watson, you can see everything. You fail, however, to reason from what you see.

You are too timid in drawing your inferences.


その正反対だよワトソン。君には全貌が見えている。しかし、見たものから推理することをしないのがダメなんだ。

君は推論を描くことに臆病になっているのさ。




─── A.Conan Doyle「The Adventure of the Blue Carbuncle」より引用





『青い紅玉/The Adventure of the Blue Carbuncle』は、アーサー・コナン・ドイルの短編小説でシャーロック・ホームズが解決した事件の一つ。
『ストランド・マガジン』1892年1月号掲載。単行本では『シャーロック・ホームズの冒険』の7話目として収録されている。


日本語訳では古くから「青い紅玉」とされてきたが、紅玉とはルビーを意味する単語であり、作中に登場する「カーバンクル」は丸く研磨された赤い宝石やガーネットを意味しているため、適切な訳とは言えない。
そもそも紅玉が青かったらそれは蒼玉(サファイア)である。*1
このため現在では「青いガーネット」「青い柘榴石」「ブルー・カーバンクル」など原点に沿った訳への変更が行われている。


年代については作中での言及がないため不明であるが、ワトソンが結婚した後(1888年以降)の話であることは確定している。


【あらすじ】


ある年のクリスマスから2日後、時候の挨拶のためワトソンはホームズの元を訪れた。
ホームズはソファでくつろぎながら古い帽子を調査していた。
聞けば、その帽子は二人の知り合いであるピーターソンが道端で拾ってきたものらしい。
何でも、とある男がクリスマス用のガチョウを持って帰る途中、いざこざに巻き込まれた際、ガチョウと一緒に落としたものを拾ったのだという。
ホームズが得意げに帽子の調査結果を披露していると、件のピーターソンが息せき切って駆け込んで来た。


男が落としたガチョウを悪くなる前に食べようと捌いたところ、餌袋から宝石が出てきたのだ。
その宝石は5日前にコスモポリタンホテルで起きた宝石盗難事件で盗まれ、行方が分からなくなっていたブルー・カーバンクルそのものであった。
ホテルで盗まれた宝石がなぜガチョウの腹から出てきたのか?
興味をそそられたホームズは調査を開始する。



【登場人物】


シャーロック・ホームズ
ご存知名探偵。
特に依頼もなく暇を持て余しており、ピーターソンが気を利かせて*2持ってきた帽子の特徴やちょっとした染みなどから
ベイカー氏の人となりをかなり正確に言い当てた。
ワトソンと共にガチョウの出荷元を辿り、ブレッキンリッジから卸元を聞き出した直後、とある男と出会う。


・ジョン・H・ワトソン
ご存知ホームズの相棒。
帽子から丹念にベイカー氏の人となりを推理するホームズに感心しつつも事件性がないなら労力の無駄遣いではとツッコんだが、本当に事件が起きたのでホームズに逆にツッコまれた。
後にホームズ自身も事件性のなさそうな依頼内容にうんざりした際にワトソンからこの事件の例を持ち出されて宥められる事になるのはある意味皮肉ではある
今回はホームズの調査に付いて回っているだけで聞き役に徹している。


・ヘンリー・ベイカー
帽子とガチョウの落とし主。
ホームズが出した広告を見て品を引き取りに来た。昔より金回りが悪く、失せ物の広告を出すことも出来なかったらしい。
ホームズのカマかけには全く動じず、帽子と新しいガチョウを受け取って去って行ったため、事件とは無関係と判断された。
ガチョウについては、ウィンディゲートのガチョウクラブに参加し、そこから購入したと告げた。
1000ポンド貰い損ねたと考えるとちょっと可哀想ではある。


・ジョン・ホーナー
宝石盗難事件の犯人として逮捕された配管工。
窃盗の前科があったため巡回裁判に送致されたが、自分は無実だと暴れたという。
彼が逮捕された事についてはホームズも「警察としては妥当な判断」と認めている。


・ジェームズ・ライダー
ホテルの客室係。盗難事件の第一発見者。
宝石の持ち主が宿泊していた部屋の修理のためホーナーを呼び、同席していたが呼び出しがあったため一時退出した間に事件が起きた。
戻って来た時には部屋が荒らされており、ホーナーは姿を消していたという。
彼の叫び声を聞いて入って来た被害者の付き人キャサリン・キューサックの証言とも一致している。


・ウィンディゲート
ベイカー氏にガチョウを販売したガチョウクラブの主催者。
毎週数ペンスを積み立てることでクリスマスにガチョウを貰えるよう取り計らっており、ブレッキンリッジから仕入れた。


・ブレッキンリッジ
ウィンディゲートにガチョウを販売した業者。
ホームズの質問に突然怒り出したが、ホームズの挑発に乗せられてガチョウがオークショット夫人から仕入れたことを話した。
イギリスの経済紙フィナンシャルタイムズの愛読者の模様。


・オークショット夫人
ガチョウの卸元。ブリクストンロードの町中でガチョウを飼っている。


・ハドソン夫人
ご存知ベーカー街221Bの女主人。
ホームズは今回の事件の発端から彼女に「ガチョウの餌袋には注意するように」と言うつもりらしい。本当に言われたかは不明
名前だけの登場ではあるが、ある意味今回のオチ担当でもある。



【用語】

・ブルー・カーバンクル
中国南部のアモイ川*3の川岸で発見されたという貴重な宝石。
発見から20年も経っていないが、すでにこの宝石を巡って殺人事件が2件、硫酸をかける事件が1件、自殺が1件、多数の窃盗が起きたらしい。絶対呪われてるだろ
現在はモーカー伯爵夫人が所有していたが今回の盗難事件に遭い、1000ポンドの懸賞金がかけられている。



【真相】

+ ホームズの捜索と真相(ネタバレのため未読者要注意)-

・ジェームズ・ライダー
予想はできたろうが今回の事件の真犯人。
キャサリンから宝石の話を聞き、ホーナーが前科を持つことを知っていたため犯行を思いついた。
キャサリンと共謀して彼が現場に来るように仕向け、彼が帰った後に現場に細工して盗み出し、濡れ衣を着せたのである。
宝石を隠すのに手間取り、焦っている間に思いついたのが姉であるオークショット夫人がクリスマスにガチョウをくれると言っていた事。
彼は貰うガチョウを選ぶフリをして姉の家に行き、分かりやすい目印のあるガチョウを選んで宝石を飲み込ませた。
あとはシメられたガチョウの腹を開いて宝石を手にするだけ……の、はずだった。
しかし、不運なことに同じ特徴を持つガチョウは2羽いたため、オークショット夫人はガチョウを取り違えてしまい、問題のガチョウはベイカー氏のもとに渡ってしまったのだ。


いざガチョウの腹を開き、間違いに気付いた彼は慌てて姉がガチョウを売ったブレッキンリッジに会いに行ったが、彼は誰に売ったか話そうとせず追い返されてしまった。
そうして行方を聞き出そうと何度も店に通っていた時にちょうどホームズ達が居合わせ、罪を暴かれたのであった。
ホームズに全ての証拠を握っていると言われた彼は観念し、この数日で味わった恐怖、後悔で泣きながら全てを白状した。
心底反省した彼の泣く様を見たホームズは出て行くように怒鳴り、感謝しながら慌てて逃げて行った。本人の弁から国外逃亡したようである。
共犯のキャサリンはどうなったかって?知ら管


・ジョン・ホーナー
結局容疑は晴れないままだが、確固たる証拠も存在しないためホームズは公判を維持できず、釈放されるだろうと予想している。


・ブレッキンリッジ
ホームズに対して怒り出したのは数日前からライダーが通い詰めて同じ質問を繰り返していたからであった。
彼が頑なに売った先を言わなかったこともライダーを精神的に追い詰め、反省させる一助となったのだろう。


・シャーロック・ホームズ
真犯人を見逃すという重罪を犯していることは認識しているが、ライダーが心底反省していることを悟り見逃すことを決めた。
ライダーに対して悪党の素質を見出したが、裁判にかければ常習犯となるだろうと考え、ちょうど赦しの時期であること、
今回は警察等の依頼ではなく個人的興味で事件に首を突っ込んだこと、ホーナーも証拠不十分で釈放されるであろうことも考慮しての判断だった。*4
ライダーが出て行ったあと、ワトソンに次も鳥が関わる調査……すなわちハドソン夫人の手料理が待っていることを告げた。
なお、ホームズはブルー・カーバンクルの無事をホーカー伯爵夫人に知らせているが、1000ポンドいただいたかどうかは明らかになっていない。
ってか全額ホームズがいただいたらさすがに発見者のピーターソンが可哀想である。





【余談】

作中ではピーターソンはガチョウの餌袋から見つけたと言っているが、この餌袋とは鳥が一時的に食べた物を貯蔵する「素嚢」と呼ばれる消化器官の一部。
素嚢は英語ではcrop。ガチョウの糞(crap)とタイプミスしたんじゃね?という説もある。
しかしガチョウには素嚢が存在しない…と長年言われていたが、ガチョウとはハイイロガンなどの雁を掛け合わせて家禽化した鳥で
祖先のハイイロガンには普通に素嚢があり、*5家禽化することで必要性の薄れた素嚢が退化した種もあるが
ガチョウに分類される様々な鳥の中で素嚢がちゃんとある種もあれば見分けられないほど退化した種もある、というのが適切な表現で
当時の労働者階級が買えたガチョウには例外なく素嚢が無い、というツッコミの方が根拠がないため現在の海外Wikipediaの当作の記事ではこのツッコミは消されている。


追記・修正は鳥肉を食べてからお願いします。



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  • 犬ホームズで初めて知ったけど、訳ミス?が理由だから別に青いルビーという特殊な存在が伏線の話ってわけでもないんですよね、これ カーバンクルやガーネットだと一応、青くはできるみたいですけど -- 名無しさん (2021-06-11 21:32:27)
  • ゴブリンスレイヤーのボイスドラマにこの話のパロディがあったな。聞いてて驚いたよ。 -- 名無しさん (2021-06-11 21:46:09)
  • ↑2 単純に「青い薔薇」と同じで今はともかく当時は理論上あり得るけど「実在しない」架空のすごい珍しい宝石だよってレア感を出してるわけで -- 名無しさん (2021-06-11 22:21:51)
  • >青いルビー 節子、それブルーサファイアや -- 名無しさん (2021-06-11 22:49:05)
  • 拾得者のピーターソンもだけどホーナーにも見舞金としていくらか渡してやってほしい -- 名無しさん (2021-06-12 06:56:27)
  • 普通に尋ねたら大金を積んでも応えてくれそうにないが、賭けを持ちだしたら少額でも情報を開示する。子供心に上手いなぁと思った記憶がある。こういった描写がホームズが人気になった秘訣かな -- 名無しさん (2021-06-12 18:40:57)
  • 漫画版ではホームズが釈放されたばかりのホーナーに煙突を点検してもらってあえて多めの報酬を渡して台無しになったクリスマスをやり直すように計らっている。 -- 名無しさん (2021-06-20 07:48:16)
  • 「帽子がこれだけデカいってことは持ち主は頭いいんだろう」というホームズの推理には流石に「んなアホな」ってなったな。 -- 名無しさん (2021-06-20 07:53:48)
  • 良く考えると中々滅茶苦茶な話なんだけど「ガチョウに食わせる」っていう荒唐無稽なトリックがそのまま犯人の哀れな小物ぶりを表していて最後の「赦し」という情緒的なオチに繋がっているのが上手く出来ていて結構好き -- 名無しさん (2021-07-21 01:24:11)
  • これとルパンの「金髪の美女」は初めて読んだ時スゲー理不尽だなあと思った。どっちもいい話っぽく書かれてるけど依頼人が本来手に入れるはずだった幸運を探偵役が横取りしてるだけじゃね?っていう。まあルパンに比べたらこっちは倫理的には全然マシなんだけど -- 名無しさん (2021-09-06 04:49:40)

#comment(striction)

*1 ルビーもサファイアも「コランダム」なる鉱石の結晶であり、赤いものを「ルビー」、そうでないものを「サファイア」と呼んでいるのである
*2 ホームズは謎解きが好きなのでこういう帽子を持っていけば何かしら暇つぶしに使うだろうと考えた。
*3 なお、アモイという地名は存在するが川は存在しない
*4 さすがにホーナーが有罪になるようなら真相を明かすつもりだったようだが。
*5 英語版Wikipediaのcropの記事ではハイイロガンが素嚢にたくさん餌を詰め込む愛らしい動画が素嚢のサンプルとして載っている。

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コメント

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