イナンナ/イシュタル(神名)

ページ名:イナンナ_イシュタル_神名_

登録日:2015/11/22 Sun 21:54:24
更新日:2024/01/16 Tue 13:05:08NEW!
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「イナンナ」は古代シュメールに起源を持つとされている女神(地母神)。
名は「天の貴婦人」等と訳されている。


愛と豊穣の女神、水と大地の女神としても信仰されたが、より原型に沿う形では金星の女神であり、翼を持つ姿がレリーフに残っている*1
また、この系統の女神は角を生やし獣を従えた姿で描かれている場合もある。
最も格上の女神ではあるが「母」のイメージは少なく、若い娘の様に奔放で気まぐれな性格の持ち主。
侵略者でありながらシュメール文明を継承、自分達の文明にも持ち込んだアッカド神話(バビロン)ではイシュタルと呼ばれている。
この女神の名と神性は古代オリエント世界で名前や細部を変えつつ伝わり、エジプトのイシスやギリシャではアフロディーテを生んだと考えられている。
ローマでは大女神ユノーと同一視された。
地中海東岸のウガリット神話では主神バアルの后アナト、アシュタルテとなっており、これらのイメージは後に同地で誕生したユダヤ教を経て世界宗教となったキリスト教聖母マリア信仰に集約、その神性の基本となっていったと考えられている一方、キリスト教世界では大悪魔の名として知られるアスタロトの起源でもあり、これは古い信仰の残るこの女神の権威を断罪する中で誕生した、悪意ある言葉の組み替えである。


※以下に神話を記すが、あくまでも翻訳と解釈の一例です。



シュメール


■イナンナ

古い時代には天神アン、もしくは、その息子とされる大気と嵐の神エンリルの娘。
時代が下ると月神ナンナ(ナン-スエン)の娘、太陽神ウトゥの双子の兄妹とされている。
配偶者は羊飼いのドゥムジだが、神と呼ぶには微妙なのか正式な夫ではなく愛人ともされる。
イナンナは生殖を司る女性原理の象徴として、他の女神の様に単なる妻の座には収まらなかったとも考えられている。
また、ドゥムジこそが元来の植物神であり、豊穣を齎す役目をイナンナに奪われていたものの、配偶者の地位のみは残されていたとの解釈も。
豊穣の女神であると同時に戦争の女神でもある。
母親の胎内から武器を携えて生まれ、獅子を象徴としている。
戦いでは誰ひとり刃向かえなかったとまで記されている。
こうした二面性は以降のイナンナ系列の女神にも引き継がれ、または別の神へと分離したと考えられている*2
こうした烈しい性格からか、エンキと主権争いをするかの様な神話も見られる。


イナンナ神話で特に有名なのは他地域にも広まった「冥界下り」の神話である。
淡水神エンキから奪った「メ」*3を纏い、姉(エレシュキガル)の支配する冥界をも支配するべく地を降るが、冥界の七つの門を通る度に「メ」を奪われ、遂には丸裸の状態で姉の前に引き出され、姉の「死の眼差し」を受けてなすすべもなく屍体となり釘にかけられた。
その後、助け舟を出したエンキの助力により復活して「誰か身代わりを立てる」事を条件に解放。
自らの留守に悲しむ素振りも見せもしなかったドゥムジを身代わりに立てて地上に戻ったと云う。
……何ともヒドい話だが、これは豊穣の女神が冥界に降る事による実りの時期が去る事を象徴していると云うのは、以降の類型神話を見ても共通している要素。
*4
……やや複雑な展開になっているのは、前述の様にシュメールの記録すらが過去の神話が形を変えて集約された結果である為であり、この時点まででも様々な神話が混ぜられた結果である可能性が高いと云う。



バビロニア(アッカド)


■イシュタル

バビロニアの地母神で、基本的な属性はイナンナを継承している。
性愛の女神として名を知られ、神殿で巫女が性を捧げる神聖娼婦の守護者としても語られている*5
生殖活動に関わる女神として、性的な機能不全がイシュタルの呪いとされたり、祭司には性同一性障害者が就いていたとの説も。*6
シュメールから継承された5日間にも及ぶ新年祭のクライマックスとなる聖婚の儀式では、イシュタル役の神聖巫女と伴侶である植物神タンムズ(ドゥムジ)役の王が交わり豊穣を祈願したとされる。


有名なイシュタル神話としてはシュメールの神話をアッカド人が翻訳、編集した「ギルガメシュ叙事詩」がある。
英雄ギルガメシュを誘惑したイシュタルだが全く相手にされず、父であるアヌ(アン)に泣きつき「天の牛」を地上に下ろして大暴れさせ、後にギルガメシュが親友エンキドゥを失う原因を作る……と、悪女の様な役回りとされている(女権社会から男権社会への転換点の顕れとの説も)。
一方、同じくシュメールから引き継がれた「冥界下り」の神話では夫であるタンムズが冥界に姿を隠され、それを助けるべくイシュタルが冥界の七つの門を通る度に衣服や装身具を剥ぎ取られ、全裸にされてしまうも無事に夫を救い出す……と明快でヒロイックな形にアレンジされている。
ストーリーとしてもハッピーエンドである事が受けたのか、カナンやギリシャに伝わった類型神話ではアッカド版の方が下敷きになっている。
尚、イシュタル(イナンナ)が地下に下った理由として『ギルガメシュ叙事詩』にてイシュタルの依頼を受けて放たれた「天の牛(グラガンナ)」が姉のエレシュキガルの夫であり、その喪に服すべく姉の下を訪れたとする説もある(大体がお前のせいやんけ)。
イシュタル(イナンナ)とエレシュキガルは金星の二面性を顕す「明けの明星」「宵の明星」に喩えられ、イシュタルがエレシュキガルの役目を代行する事もあったと云う。
この名は後の悪魔王ルシファーの属性を想起させるのは勿論、女神の二面性が姉妹に分割されると云う、多地域にも見られる信仰に共通項が見出せる。





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  • 改めて見ると、世界中の神話に凄まじい影響を与えてるね -- 名無しさん (2020-10-03 19:23:56)
  • ゼウスの女版と言えそうな暴虐ドスケベ女神(姉のエレシュキガルも)。だからこそ人気なんだろう。ダークテトラッド(ぱっと見はとても魅力的に見える)を元に古代人が物語を作ったらこうなるんだろうな。 -- 名無しさん (2023-06-13 14:19:54)

#comment

*1 シュメール=アッカドの神々は天体に準えられている
*2 ギリシャ神話のアフロディーテとアテナ等
*3 「キ」とされている場合も。力や掟と訳される。何かしらの「神の力」らしい
*4 この後、ドゥムジの消失を嘆き悲しんだ姉のゲシュティンアンナが役割の半分を担う事でドゥムジは半分だけ地上に戻る事が出来る=実りの季節となったと云う。
*5 ただし、この有名な故事については『歴史』の記述者であるヘロドトスの誤解により大袈裟に伝えられている部分もあると言われる
*6 この神の二面性を示す信仰に結びつけられていた模様。

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