北神伝綺

ページ名:北神伝綺

登録日:2017/04/08 Sat 02:37:43
更新日:2024/02/06 Tue 10:50:54NEW!
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角川書店 大塚英志 昭和 柳田國男 民俗学 オカルト 漫画 月刊ニュータイプ 森美夏 トンでも本 北神伝綺



北神伝綺ほくしんでんき


『北神伝綺』は大塚英志 原作、森美夏 作画による漫画作品。
この他、原作者による小説版も存在しているが書籍化はされていない。
「月刊コミックコンプ」94年1月増刊にパイロット版が掲載された後に「月刊ニュータイプ」誌上にて連載された。
既刊2刊。


同コンビによる、実在の文化人、人物を狂言回しに据えた昭和初期の激動の時代を描く一連のシリーズ(『北神伝綺』『木島日記』『八雲百怪』)へと続く同一コンセプトの作品の第一弾である。*1


【概要】

著名な民俗学者にして、官僚として国政にも深く関わった柳田國男を狂言回しとする暗黒の日本史。
原作者の大塚は他にも柳田を登場させた作品を書いているため、本作はそうした作品群の雛型であるとも云える。


柳田が著作に於いて言及しつつも、後に柳田民俗学より切り捨てられた口碑伝承中の“異人”である“山人”を大和民族により追われた先住民族として描き、その血の半分を引き継ぐ異端の民俗学者、拝み屋、探偵の“兵藤北神”と、その師にして近代国家樹立と万世一系の国家樹立の為に山人虐殺に手を貸した“柳田國男”の愛憎入り雑じった師弟関係を中心に、幽世かくりよに住む者共によって起きる事件に彼等が挑む姿を描いてゆく。


【主な登場人物】


■兵藤北神
破門された柳田の門下生だが、出奔前に柳田より“山人”に纏わる一切の資料を託されていた。
柳田の手引きにより抹殺されていった“山人”の血を引き継ぐ“境界”の住人であり、日本人離れした長身と非常な身体能力の持ち主でもある。
その特異な能力を使い、柳田の密命を受けて“幽世”の住人と接触……場合によっては狩ってもいく。
黒い支那服と仕込み杖がトレードマーク。
パイロット版、及び物語の開始当初は本人曰く柳田の手引きにより満州送りとなっており、以降は頻繁に両国間を往き来している様子が窺える。
経歴のモチーフは原作者の恩師だと考えられている。


■滝子
北神の腹違いの妹だが“山人”の血は引いていない。
一応は兄である筈の北神を“男”として見ており、パイロット版の時点で既に肉体関係も結んでいる。
職業は芸者だが、物語が進むうちにコミカルな面ばかりが強調されていくようになった。
北神が柳田のような男にいつまでも従っていることを快く思っていない。


■魔子
柳田が幼少の頃に出会った“山人”の少女に瓜二つの容貌を持つ。
北神が“山姥”を返したことから自由の身となった後も現世に留まり、自ら北神の庇護に入るも、北神等にとって味方とも敵とも云えない行動をとる。


■柳田國男
巷に知られる高名な学者、官僚。
後に民俗学の父として知られる。
幼少の砌より“異界”に惹かれやすい性質を持ち、学者となった後に遠野郷よりやって来た佐々木喜善との邂逅等により地方の風俗・伝承を研究対象とした後に『遠野物語』を出版。
こうした活動が日本民俗学の勃興となった。
山中異民を題材とした山人論を発表するも、後に自ら放棄。
本作では近代化を機とする大和民族の確立の為に恋い焦がれて止まない筈の“山人”を自らの知識を活かした手引きにより抹殺したことになっており、このことで作中の多くの人物に恨みを懐かれる一方で、自らの複雑な心境を吐露する場面も多い。


■緒方非水
帝国陸軍中尉。
皇道派で北一輝の門下。
思想信条と自らの幼少期の出来事の両方から“山人”を畏れ、抹殺しようとしている。
それ故に“山人”の血を引く北神とは緊張感漂う関係。


■甘粕正彦
映画国策研究会委員。満州国民政部警務指令長。
本作では満州の実権を握り、同地に自身が愛すべき“山人”の国を作ろうとしようと云う、柳田とは逆の思想の持ち主として描かれている。
その為の手段として満州映画協会を設立しようとしており、嘗て見逃した愛人でもある魔子を迎え入れようとする。


【その他の重要人物】


■神戸のおばさん
柳田が子供時代に出会った“山人”の血を引く娘達を率いて春を売らせていた山姥。
“幽世”の住人であり、数十年を経ても姿が変わっていなかった。


■宮沢賢治
岩手県を代表する詩人、童話作家。
尤も、生前は教師、百姓、石工として暮らしており、文筆で得た報酬は僅かであった。
喜善より報された著作を読み、危険と判断した柳田により北神が送り込まれる。


■竹久夢二
独特のタッチの抒情画で人気を集めた画家、詩人。
自分にユダヤ人の血が流れていると思っている。


■伊藤晴雨
扇情的な責め絵、幽霊画により人気を集めた画家。


■お葉
晴雨、夢二と対照的な作風の二人の画家の愛人としてモデルを勤めた女。
本作では“山人”の血を引く女であり、台湾に渡った後に霧社事件に巻き込まれて命を失ったとことにされている。


■北一輝
思想家。国家社会主義者。
彼の教えを受けていた、軍と政治腐敗を嘆く皇道派青年将校達が後に引き起こした二・二六事件後に、彼等の論理的指導者であったとして処刑される。
神憑りをする妻の言葉により託宣を受けているとの報告があったが……。


■斗志見
ある日、大量の金を持って困窮している満州の北神の下を訪れた自らをムー人と称する少年。
因みに“ムー大陸”の名は当時ジェームズ・チャーチワードが著作により広めて、日本でも『竹内文書』等に強い影響を与えたと言われている。


■出口王仁三郎
当時、支部総数七百一十余、信者数は国内だけでも十万と喧伝されていた『大本教』の教主。
所謂“超常”の力を持った人物として伝えられているが、本作では彼自身は何の力も持たない香具師のような人物として設定されている。
……それだけに、裏の事情にも詳しく様々な勢力の思惑の中で立ち回っている模様。


■江戸川乱歩
高名な探偵小説家。
日本に於ける推理小説と云うジャンルを根付かせることにも尽力した。
本格推理以上に猟奇的な舞台設定や異常心理を描くことに長けた作風で、本作では稚気に溢れたエキセントリックな人物として描かれている。
僅かな邂逅ながら北神と滝子をモデルに明智小五郎と小林少年の姿を空想する。


※以上の様に実在の人物が多数登場しているが、勿論史実とは大分かけ離れた設定、時系列となっている部分も多いことには注意。




追記・修正は“山”に誘われてからお願い致します。


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*1 ※ただし、明確に『多重人格探偵サイコ』等と関連付けられている『木島日記』等とは違い、最初期の作品だけあってかキャラクターの設定等が定めきれておらず、後続作品のキャラクターのプロトタイプとなったキャラクターは登場しつつも、明確に同一世界観であるとは言い難い。

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