皆生温泉(かいけおんせん)という温泉地をご存じでしょうか?鳥取県米子市に位置し、日本海に面したこの温泉街は、古くから湯治場として親しまれ、多くの観光客に愛されてきました。
そんな温泉地に、まるで神社の鳥居のような独特の形をしたホテルが建っています。建築好きの間では知られた存在、それが「東光園(とうこうえん)」です。
今回の記事では、建築に詳しくない方でもわかりやすく、そして旅好き・建築巡りが趣味という方にも興味を持っていただけるように、東光園の魅力をじっくりとご紹介していきます。
一度見たら忘れられない外観
東光園を初めて目にした人がまず驚くのは、その“形”です。
巨大な柱が両側に立ち、その間に宙に浮くように建物が配置された構造は、まるで神社の鳥居を思わせます。しかし、それは宗教的な意味をもつ建築ではなく、実はこの建物を設計した建築家の独自の発想によるものなのです。
このユニークな建築を手がけたのは、昭和を代表する建築家菊竹清訓(きくたけ きよのり)。東光園は、彼が1964年に設計したホテルであり、実は彼の代表作のひとつとされています。
なぜ鳥居のような形にしたのか?
「なぜホテルをわざわざこんな構造に?」と疑問に思う方もいるかもしれません。実はそこには、菊竹の「自然と建築の共存」という深い思想が込められています。
東光園は、建物の下に広がる日本庭園の風景を大切にし、その景観を邪魔しないように、建物を持ち上げて“宙に浮かせる”ような形で設計されました。つまり、庭と建物が調和し、両方を最大限に活かすための工夫だったのです。
これにより、宿泊者は上階の客室から素晴らしい庭の眺めを楽しめる一方で、庭そのものも空間としてきちんと確保されています。機能性と美しさ、どちらも妥協しない菊竹の設計哲学がよく表れています。
建物の中に入ってみよう
東光園の内部も、外観に負けない魅力を持っています。
館内は1960年代のモダン建築を感じさせるレトロかつ洗練されたデザイン。木や石といった日本の自然素材がふんだんに使われており、温泉宿としての落ち着きと、現代建築の力強さが見事に同居しています。
ロビーに入ると高い天井と大きなガラス窓が印象的で、そこからは庭を一望できます。この“外とのつながり”を感じさせる設計も、菊竹建築の大きな特徴のひとつです。
温泉との相性も抜群!
もちろん、東光園は温泉宿としての魅力もたっぷり。皆生温泉の名湯を楽しみながら、同時に名建築の中に滞在するという、ちょっと贅沢な体験ができます。
内湯・露天風呂ともに開放感があり、建築的な視点から見ると「空間の広がり」や「素材の使い方」にも注目です。建物の一部に使われている打ち放しコンクリートや木材が、温泉の湯気と相まって独特の温もりを醸し出しています。
宿泊することで、ただ建築を見るだけでなく“体験する”ことができるのも、東光園の大きな魅力です。
建築初心者にもおすすめの理由
「建築って難しそう」「何を見たらいいかわからない」と感じる方でも、東光園はとてもわかりやすく楽しめる建築です。
- まず見た目のインパクトが強くて印象に残る
- 中に入って泊まることができ、空間の心地よさを体で感じられる
- 自然との調和や、光・風・素材の工夫などが素直に伝わってくる
そんな理由から、建築巡り初心者にもぴったりなスポットと言えるでしょう。
最後に
東光園は、単なる宿泊施設ではありません。それは、自然と建築が対話するような空間であり、人の暮らしに寄り添うデザインが施された“生きた建築”です。
建築に詳しくなくても、「この空間、なんか落ち着くな」「この眺め、気持ちいいな」といった感覚は、誰でも感じ取れるもの。それが、菊竹清訓の建築の大きな魅力なのです。
もし皆生温泉を訪れることがあれば、ぜひ東光園に立ち寄ってみてください。泊まるもよし、外観を眺めるもよし。そこにはきっと、建築というものが少し身近に感じられる瞬間が待っています。