こんにちは、石尾勝博です。
1958年にデンマーク・コペンハーゲンに完成した「SASロイヤルホテル」は、デンマークの建築家アルネ・ヤコブセンの手による、モダニズム建築の象徴的な存在です。
このホテルは、建築物としてだけでなく、トータルデザインという概念を世界に示した重要な作品でもあります。
本記事では、SASロイヤルホテルの歴史や特徴、現在の姿について詳しくご紹介します。
SASロイヤルホテルの歴史
1950年代、スカンジナビア航空(SAS)は、国際的な航空旅行の需要拡大に対応するため、コペンハーゲンに新しいホテルを建設する計画を立ち上げました。アルネ・ヤコブセンは、このプロジェクトの建築家に選ばれ、ホテル全体の設計を任されました。
当時のコペンハーゲンには高層ビルがなく、SASロイヤルホテルは街のスカイラインを一変させる存在となりました。20階建てのシンプルなガラス張りの建物は、インターナショナル・スタイルの象徴であり、完成当時は「北欧のニューヨーク」とも称されました。
ヤコブセンは、建物の外観から内装、家具、照明、カトラリー、さらにはドアハンドルや蛇口に至るまで、すべてのデザインを手掛けました。この一貫したデザインアプローチは「トータルデザイン」と呼ばれ、建築界に新たな視点をもたらしました。
SASロイヤルホテルの特徴
1. 建築のモダニズム
ホテルの外観は、シンプルな直線とガラス、スチールを使用したインターナショナル・スタイルが特徴です。ヤコブセンは、機能性と美しさを兼ね備えたデザインを目指し、街のランドマークとなる高層ビルを設計しました。
2. エッグチェアとスワンチェア
SASロイヤルホテルのために特別にデザインされた「エッグチェア」や「スワンチェア」は、現在もモダンデザインの象徴として広く愛されています。これらの家具は、曲線的で有機的なフォルムが特徴で、座る人に快適さと美しさを提供します。
3. ルーム606
現在、SASロイヤルホテルのほとんどの客室は現代的に改装されていますが、「ルーム606」だけはオリジナルのデザインが保存されています。この部屋では、1950年代当時のヤコブセンのデザインをそのまま体感することができ、家具や内装、テキスタイルに至るまで、すべてが当時の姿を保っています。
4. シンプルで機能的な内装
内装デザインは、北欧モダンの美学を反映しており、シンプルでありながら機能的な空間が特徴です。ヤコブセンは、快適さと効率を重視しながらも、視覚的な美しさを損なわないデザインを実現しました。
5. トータルデザインの先駆者
ヤコブセンのデザインアプローチは、単なる建築物の設計を超え、ホテル全体を一つの芸術作品として完成させました。このようなトータルデザインは、当時として非常に革新的な試みであり、現在でも多くのデザイナーや建築家に影響を与えています。
SASロイヤルホテルの意義
SASロイヤルホテルは、モダンデザインとトータルデザインの成功例として、建築史に刻まれています。ヤコブセンのアプローチは、建築家が単に建物を設計するだけでなく、空間全体をデザインすることの重要性を示しました。
このホテルは、北欧モダンデザインの象徴的存在であり、シンプルさ、機能性、美しさの調和が具現化された作品です。現在でもデザインの教科書的存在として扱われています。
ホテル内には、ヤコブセンがデザインした家具やインテリアが多く残されており、デザインファンにとっては必見のスポットです。特にルーム606は、世界中のデザイン愛好家にとっての聖地ともいえます。
現在のSASロイヤルホテル
現在、SASロイヤルホテルは Radisson Collection Royal Hotel として運営され、モダンデザインの歴史を感じられる場所として親しまれています。改装された客室は現代のニーズに応じた快適さを提供しつつ、ホテル全体にはヤコブセンのデザインが随所に残されています。
ルーム606は宿泊予約が可能で、当時のデザインをそのまま楽しむことができます。この部屋では、ヤコブセンが描いた理想の空間を体感できる貴重な機会が得られます。
終わりに
SASロイヤルホテルは、建築とデザインが一体となったトータルデザインの代表作です。アルネ・ヤコブセンが追求した「シンプルでありながら豊かさを感じる空間」は、現在でも多くの人々を魅了し続けています。
もしコペンハーゲンを訪れる機会があれば、ぜひこのホテルを訪れてみてください。ルーム606で過ごすひとときや、ヤコブセンのデザインに触れる体験は、デザインの力を改めて感じさせてくれることでしょう。