サクラテツ対話篇

ページ名:サクラテツ対話篇

登録日:2012/11/11(日) 18:05:06
更新日:2023/10/03 Tue 13:45:55NEW!
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2001年より週刊少年ジャンプにて連載された藤崎竜による漫画。全2巻(文庫版は作品集2に収録の全1巻)。


非常識な面々の織り成すハイテンションなギャグ主体作品。本作より本格的なデジタル作画へと移行をした。
あらすじをメジャー作品で簡単に例えると、


キョンが妹と一緒に暮らしていたら、そこに前触れなく現れたみくる長門古泉が全勢力を率いて土地を奪い取りに来たから、
 それに対してキョンが一喜一憂していると、メタ視点から土地争奪戦を見ていたハルヒが不満を覚えて、
 キョンを作者の下に連れて行った」


と言った感じの話。


登場人物の名前を始めとして哲学関連から引用された点が多々あり、元ネタを踏まえた言動や人物関係も時折見えてくる。
(余談だが、これの前作である封神演義(漫画)ではしばしば心理学用語が用いられていた)


ジャンプで全2巻という状態から分かるように作品としては打ち切り
紙面においてしばしば「鬼才」と銘打たれる通り、原作なしの作品だと大衆読者を振るい落とすことに定評のあるフジリューだが、
本作では重かった過去作とはまた違った方向に独特さが滲み出ている。
というか巻末の楽屋裏漫画の異様なテンションをそのまま連載化したようなノリであるため、
作者ファンからも始終「これについていくのはキツイ」という意見さえ出てきていたほど。


とまあここまで書いたが同時に愛好層からは非常に熱心な支持も受けており、一概に評価の低いとは言い切れない作品でもある。


また、打ち切りであろうとラストは綺麗に畳むことにも定評のあるフジリュー作品であるため、まとまった物語として読むこともできる。
むしろサブタイが「十話突破おめでとう記念」だったりと打ち切りすらも念頭に置いて展開していた、
あるいはあらかじめ与えられた期間内で好き勝手やっていた疑惑も浮上している。


いずれにせよ、その年の漫画賞の審査員を任されたフジリューが新人の漫画を「独創性が無い」と扱き下ろしておいて、
それから間もなくして独創性をバリバリに発揮した(発揮してしまった)この漫画が打ち切られるという最高のギャグを生み出したことは記憶に残しておくべきだろう。


「作者の好み・性癖(正しい意味で)が出過ぎた作品は、大衆読者にはなかなか受けない」という例によく挙がる。


【あらすじ】

都内の一等地に立つ古い一軒屋。その立地条件から多額の税金を払うために主人公の桜テツは幼少より日々バイトに明け暮れていた。
しかし、ある日突然未来人と宇宙海賊がその土地を求めて侵攻に現れ、それに応じるため土地の地下に帝国を構える地底人までが戦線に出始める。
こうして己の土地を死守するため、一同に応戦するテツであったが、この三つ巴の侵略者は更なる侵略者たちの登場の皮切りに過ぎなかったのだった。


【登場人物】

◆桜家

  • 桜テツ

主人公。バイトに明け暮れた結果凄まじい身体能力と金の亡者的性質を身に付けており、その身一つで侵略者たち相手に暴れまわっていく。
実は出生になんやかんやあり、それが終盤の“漫画”を主題とした怒涛のメタ展開における鍵となってくる。
名前の由来はソクラテスより。


  • 鉄瓶(テッペイ)

テツの弟。明るくお気楽だが常識人的なツッコミもこなす。実は座敷童。


  • 久散(クサン)

テツの姉。外見からして分かりやすいほどのいかにもな病弱体質。
散財癖が酷く、テツのバイト代もほどんど彼女がこっそり使いこんでしまっている。実は地縛霊。
名前の由来はおそらく鉄瓶と併せてクサンチッペより。


  • 桜ボケ

テツたちの祖父で土地の所有者。絶賛ボケが進行中で、太平洋戦争を引きずった言動や文字の書かれたハチマキが特徴。
実は「桜ボケ」とは愛称であり本名は「佐久 羅仏化」。
つまり物語の舞台は「佐久家」で彼も家族は既に戦死して久しい独り身であり、本来「桜家」というものは存在していない。


◆井出家

  • 出井富良兎(イデイ フラト)

テツの幼なじみなご令嬢。
非日常に対する強い渇望を抱いており、その中心となりうるテツの観察録をつけつつも決定的な事件の起こらない日々に鬱屈を抱えていた。
侵略者たちが来始めてからは活き活きとし始め、彼らを煽ったり財力を駆使したりしては嬉々としてテツに厄介ごとを吹っかけてくる。
由来はソクラテスの弟子であるプラトンより。
本作タイトルも彼が記した対話篇(会話形式で記述した書物。プラトンの場合ほとんどがソクラテスを語り手としている)から来ているものと思われる。


  • 出井紀世能(イデイ キセノ)

富良兎の双子の兄。男女問わず全てを惹きつける魔性の美少年。
少し前まで中近東に留学しており、帰国後も中東系ファッションに身を包んでいる。
「好きな人が滅びようとするその一瞬に美を感じる」と謳い、その対象であるテツを妹以上に追い詰めようとしては、
トドメを刺せそうな瞬間に歓びに震える変t…もとい危険人物。
由来はプラトンの双子の兄であるキセノフォンより。


◆侵略者たち

  • アリス

未来の地球女王。宇宙の寿命が尽きかけていたため、億の時を越えて国民ロボと共に現代に現れた。
年齢は不明だが6万年先のことを近々のこととして捉える時間感覚を持つほど生きている模様。
未来では桜家の土地は彼女の本拠地のものであるために権利の主張で諍いとなるが、なんやかんやで一家に馴染んで居座っている。
由来はアリストテレスより。


  • ファイヤァーベント

宇宙海賊王。
ロン毛美形で一応は生真面目っぽいが、やることなすことダーツで決めてしかも当たるのに数年かかるノーコンぶりを見せてくれる残念な人。
ダーツの刺さった場所が桜家の土地であったため、侵略を仕掛けてくる。
宇宙船名は「プリンキピア・マテマティカ(数学原理)」。
由来はポール・K・ファイヤアーベントより。


  • ジークムント

桜家地下の帝国皇帝。本人に桜家の土地をどうこうするつもりはないが、侵略者たちが現れたために迎撃姿勢を取った。
目的が目的なだけに基本は受け身で常識人。
由来はジークムント・フロイトより。


  • ニーチェ

魔界王子。三つ巴に触発されて土地争奪戦に参加しようとするも、魔界とのゲートを破壊されてホームレスへと転落した不遇な人。
富良兎に気がある素振りを見せるも以降は空気。
由来はフリードリヒ・W・ニーチェより。


  • ゾロアスター

ニーチェのペットの魔界ラッコ。毒物を摂取すると人格が変わる。彼が出てきたせいで復活しかかっていた魔界ゲートが再度閉じてしまった。
由来はゾロアスターより。ドイツ語ではツァラウストラであり、ニーチェの代表著作『ツァラウストラはかく語りき』としても関わり深い。
ついでに作者の次回作であるWaqWaqはテーマモチーフにゾロアスター教が用いられていたりする。


  • アウグスティヌス

未来人の居住地である世界樹を食らおうとする巨大な怪物。完全に現出するのは6万2000年後であり、現在は巨大な目だけが宙に浮かんでいる。
由来はアウグスティヌスより。


  • ショーベンハウアー

桜家敷地内の遺跡より百万年の眠りから目覚め現れた尻の穴の神。頭のユルそうな女神
尻穴に関する願いなら何でも叶えられる。呪文は「アナルナルナル」でダップンの舞とか踊ったりする。これは週刊少年ジャンプです。
由来はアルトゥール・ショーペンハウアーより。


  • デューイ

NOと言える日本国大統領。明らかに日本人ではなくむしろアングロサクソン系。
富良兎に煽られて非現実の塊となりつつある桜家周辺を駆逐しようとしてくる。
由来はジョン・デューイより。


  • 羅漢(ラカン)

鏡に映ったナルシストたちの自己顕示願望が具象化した筋肉オッサン。ある意味作中屈指の脅威。
他者の視線は量より質を重視するタイプでありアウグスティヌスの視線の先にある桜家に出没するが、アレすぎる外見なため目を逸らされてしまう。
マントに最後の良心という名のパンツ一丁姿、それだけにとどまらず某夢の国のネズミを彷彿させる耳やマークがあちこちについたアウトオブアウト。
由来はジャック・ラカンより。


  • 風吼(フーコー)

夢の創造主。アリスを含む桜家の人間に共通の夢を見せ、真人間へ更生させようと試みる。
由来はミシェル・フーコーより。


  • 『読者』氏

ごく普通のジャンプ読者の学生だったが、漫画の精霊たちによりこの滅茶苦茶な漫画をさっさと終わらせるためとして、
テツの抹殺を言い渡され、作中に引きずり込まれた。
コマ割りを認識したり、空中に描いたものが作中の遠近法の縮尺を無視した形で巨大実体化をしたりとメタ的な力を持つ。


  • ハイデガー

全ての漫画の存在を支配する漫画神。
テツの主人公としてのポテンシャルを見込み、漫画内の危機が漫画界そのものに悪影響を及ぼしつつある、
『荒野の砂漠 水一滴も無し』へと一応合意で主人公として送り込んだ。
単行本では本誌掲載時には無かったテツとの詳細なやり取りを描いたエピソードが「十二.五○話」として追加されている。
由来はマルティン・ハイデガーより。




「私達はまだテツと離れるわけにはいかないよの!」
「まだテツの対話篇は未完成なのだから!!」


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  • なんか『荒野の砂漠 水一滴も無し』の詳細が本誌と単行本だと変更になってるらしいけどどう変わったんだろ? -- 名無しさん (2016-04-30 20:51:57)
  • ↑本誌「テツがハイデガーを不快にさせた罰として『荒野の~』に送り込まれる」、コミック「『荒野の~』の存在が漫画界全体を砂漠化させようとしているから、それを止めるためにテツが行かなければならなくなる」だったかな(うろ覚え) 何の意味があって変更したのかは分からん -- 名無しさん (2016-04-30 21:16:43)
  • けっこうSFしてた漫画だよなぁ。フジリューはシリアスにギャグ挟むぐらいがちょうど良くて、ストレートにギャグ描かせるとヤバいのがよく分かった作品。あとアリスはとにかく可愛いかった。銀英終わったら神林長平とか描いてみたらいいのに。「誰の息子でもない」とかピッタリな気がする。 -- 名無しさん (2016-04-30 21:33:51)
  • 最初の連載がそれなりに長く連載して次の連載は打ち切りになった作者の一人でもあるか。 -- 名無しさん (2020-09-02 00:23:42)

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