薔薇十字団の真の歴史 前書き

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薔薇十字団の真の歴史


アーサー エドワード ウェイト著(1887年)


前書き


 人類史の広き大波の下には、秘密結社の密やかな海中の流れがあり、これらはしばしば水面での変化を水中から決めている。これらの秘密結社はあらゆる時代や国に存在し、自らの見せかけの様々な性質に従った、宗教的、科学的、政治的な重要な知識を保有していたという言い伝えが常にあった。これらを取り巻くミステリーはまた、秘密結社に魔術的な魅惑のヴェールをも与え、それらは古代密儀、テンプル騎士団、フリーメイソンリーで突飛も無く広がっていた伝説をある程度は説明するであろう。そして薔薇十字団はそれら全てに勝り、これらの見せかけの主張や、それらを取り囲む神秘のヴェールの中でも他に類を見ないものがある。


 ヘッケソーンはこう述べている*1。「薔薇十字団には詩的に輝く光輪が取り囲んでいる。空想的な魔法の光がこれらの優雅な白昼夢を遊び回り、一方でこれらを包むミステリーは、その歴史に別の魅力をも加える。だが、それらの輝きは、流星によるものだ。これらは単に想像力と知性の領域に瞬いた後には永遠に消え去る。その騒がしい通過の後に永続する愛らしい軌跡を残したりはしない。(略)詩とロマンスは薔薇十字団の多くの魅惑的な創造物に深く刻み込まれている。この結社自体は歴史の闇へと消えていったが、あらゆるヨーロッパの国々の文学には何百もの、この秘密結社の哲学の体系から構図を借りてきた喜ばしいフィクション作品がある。」


 薔薇十字友愛団、あるいはシグムンド リヒターが呼ぶ*2黄金と薔薇十字の友愛団に関する諸事実と文書は英語圏の読者らには絶対的に未知のものである。たとえ(オカルトについて)良く知っている人々すら、薔薇十字文献の広さと多様性には驚く事であろう。これらは元は古いドイツ語で書かれた稀なパンフレットや、後の錬金術師らのラテン語の注釈書の中に埋もれていたのである。良くある百科事典で拾えるような浅い情報の微光は、どの真の知識も運べず、一方でトマス ド クインシーの「薔薇十字団とフリーメイソンリー」のエッセイは、英国散文体構成の君主の作品としての価値はあるものの、ドイツのある陳腐な碩学の書の写しにすぎず、それらの諸事実は些か恣意的な仮説への関心に苛まれている。この国で唯一、この主題を真剣で詳細に扱っていると主張する著者は、ハーグレイヴ ジェニングスで、その著書「薔薇十字団、その儀礼と密儀」により、この団の歴史学者と称している。だがこの本は「守り続けている」*3友愛団の諸秘密を扱っていると称する諸問題への情報を与える事からかけ離れていて、男根主義、火崇拝、アイルランドの円塔、蛇の象徴主義に関する、間違った解釈の単純なごたまぜで、薔薇十字哲学の提示としての秘密の知識と称する、いかさま的断言を与えているに過ぎない*4


 現在、全ての神秘主義の分野に深い興味が持たれている。特に、学識有る者らは、錬金術の体系を基礎としたこれらの形而上学的概念へ向かっている傾向があり、単に金を造る以上の他の諸秘密が、ヘルメース的、薔薇十字的な寓意のパンドラの箱に見出せるのではという普遍的な問いかけがある*5。ヨーロッパ史のこの興味深い問題の解明のために、今や存在する薔薇十字の資料を集める時は来たのは明らかである。そして、この神秘的な兄弟団が自らについて明かした宣言と、さらに直接的、間接的にこれらの組織と繋がっていた者らの書も示そう。このような出版物は、この主題を読者の好奇心と無知で金儲けをする不適任な著者ら、闇と神秘の自称権威らの手から救い出すであろう。


 絶え間ない研究の結果、私は大英博物館付属の図書館で幾つかの雑書や文書を見つけている。これらの存在は私が知る限りにおいて、先の研究者らの誰も知らないものである。その他の中には、「総体的な改革」についての様々な版の文書や、図書館のカタログにも無かった「クリスティアン ローゼンクロイツの化学の結婚」のオリジナル版、それよりは古くは無いもので、17世紀の最初の25年に属する幾つかのドイツ語のパンフレットの長い集まりも得ている。これらと他の重要で獲得可能な諸事実と文書を私は慎重に集めて、今ここで本書としてそれらを出版するのである。これらの文書はその価値に応じて要約するか拡張しており、さらに薔薇十字団が自らについて述べる文献を初めて世に出すのである。私は自らの作業を、共感的であると同時に片寄らない方法で行い、どのような理論のバイアスも取り除き、さらに何よりも、主張者らが決して実証出来ないような超越的知識を持つフリをする事を避けてきたと主張するのである。


薔薇十字団の真の歴史 序文
↑ 薔薇十字団


*1 原注。「あらゆる時代と国の秘密結社」より。
*2 原注。"Die Warhaffte and vollkommene, Bereitung des Philosophischen Steins, der Bruderschafft aus dem Orden des Gulden-und-Rosen Creutzes." 1710.
*3 原注。「オカルト哲学の学徒は恐れる必要は無く、我らは最も慎重に守り続けて、他者に対して(いわば)歩哨として立ち、より深遠な体系は我らの主題と繋がっている。」 訳注。「名声」の中にある一節。
*4 原注。1879年に出版されたこの本の拡張版の書評で、ウェストミンスター レビュー誌はこう述べている。「この我々が得た『薔薇十字団』は、我らが書評してきたものの中でも、最も馬鹿げた本であろう。(略)非常に多くの主題について、繋がりの無い多くの情報を与えている。(略)だが、我らが特にこの本で情報を虚しく求めた主題は、「薔薇十字団の歴史」である。(略)本書全体は文とイラストの馬鹿げたたわごとであり、その多くは何の権威も無く、与えられる事も無いだろう。そして全体を通じて、非常に不健全な地下流を走っている。」
*5 原注。この点については、1850年にロンドンで匿名で出版された「ヘルメース的密儀と錬金術への示唆的な提案」と、ヒッチコックのこれも匿名で1865年にニューヨークで出版された「錬金術の所見」を参照。