古今の秘密の教え 象徴哲学の要素としての暗号術

ページ名:古今の秘密の教え 象徴哲学の要素としての暗号術

象徴哲学の要素としての暗号術


 暗号術についての章が無い限り、象徴主義を扱った論文は完全とはならないだろう。暗号の使用は、軍事と外交の世界では不可欠のものとして古くから認められているが、現代人は文学と哲学の世界でも重要な役割があったことを見逃している。解読術により暗号がより知られるようになっていたら、古代と中世の哲学者らが持っていた、それまで知られていなかった知恵がより多く発見されていただろう。また、一見しての饒舌で意味不明な言葉を述べている著者らは、実際にはそれらの中に真の言葉を隠すために用いているのも発見された事だろう。これらの暗号は最も微細な方法により隠されていた。ある場合には出版された書の紙の透かしに隠されたり、古代の書の表紙に縛られたり、不完全なページを示す数字の下に隠されたり、言葉の最初の文字や、文の最初の言葉から摘出されたり、数学の方程式や一見しての判読不能な文字の中に人工的に隠されたり、道化の意味不明な言葉から取り出したり、炙り出しインキを用いて書かれたものを熱によって明らかにしたりした。また、言葉の暗号、文字の暗号、一見して曖昧な文で、何度も慎重に読む事によってのみ意味を理解できるものもあった。また古代の書の最初の文字らに入念に隠されていたり、言葉や文字を数える事により発見されるものもあった。フリーメイソンリーの研究に興味のある者らがこの主題についてよく考えていたならば、彼らは16、17世紀の書や文書の中で、メイソンリーの歴史において存在した、古代密儀と過去3世紀のメイソンリーとのギャップを繋ぐ必要な情報を見つけていたであろう。


 古代密儀の奥義は、世俗の者には象徴の媒体を通す以外には明かされる事は無かった。象徴主義は秘儀参入をしていない者らから聖なる諸真理を隠し、象徴を理解する資格のある者らには明かす二重の機能に満ちていた。(神像の)形は形無き神的諸原理の象徴であり、象徴主義は自然の言語である。畏敬と共に賢者はヴェールを貫き、明瞭なヴィジョンと共にリアリティーを見つめる。だが愚者は象徴の宇宙を見ても、真実と偽りを見分ける事が出来ずにいた。自然――大いなる母――は、物の表面に奇妙な文字を常に描いているが、彼女の最年長で最も賢い息子にのみ、その信仰と献身の褒美として、これらの軌跡の意味を解く鍵となる暗号のアルファベットを明かすと言えるであろう。


 古代密儀の諸神殿の中では自らの聖なる言語を発達させており、これらは秘儀参入者にのみ知られ、決して聖所の外では語られる事は無かった。啓明された神官らは、永遠の自然の高次の諸世界や神的な真理を議論するために、世俗の者らが口論や意見の衝突のために用いる同じ言語を使うのは神聖冒涜であると考えた。聖なる学は聖なる言語で言い表す必要があった。また秘密のアルファベットも発明され、賢者の諸秘密を描く必要が出た時には、情報が与えられていない者には意味の無い文字が用いられた。書くためのそのような文字は、聖なるアルファベットあるいはヘルメースのアルファベットと呼ばれていた。それらの一部――例えば有名な天使の文字――は、メイソンリーの高次の位階ではなおも用いられている。


 だが秘密のアルファベットは完全に満足のいく解決法では無かった。これらは書かれたものの真の性質を読めなくしていたが、このアルファベットの存在そのものが、情報が中に隠されているのを暴露していた――神官らは、それもまた隠したかった――のである。長い忍耐と追求を通じて、これらのアルファベットの鍵はいずれは得られ、文書の中身は価値無き者らに明らかにされた。そのため、神的な諸真理を隠すために、より微細な方法が用いられる必要が出てきた。その結果、メッセージと暗号の両方の存在を隠すようデザインされた暗号体系が現れた。秘密を後世の人間に伝える方法を得た事により、イルミナティ(啓明主義者)は神秘主義と哲学の深遠な秘密が含まれた暗号を組み込んだ文書を流布するのを推奨した。これにより中世の哲学者らは、嫌疑を呼ぶ事なくヨーロッパ中に自らの理論を散布していった。なぜなら、これらの暗号が含まれた書は、厳密に検査されても隠されたメッセージの存在を明かす事は無かったからである。


 中世の時代、何人もの著者ら――政治的あるいは宗教的な秘密結社のメンバーら――は、幾つもの暗号が含まれた本を出版していた。やがてこの秘密の書法はブームとなって、あらゆるヨーロッパの宮廷では自らの外交の暗号術を持つようになり、知識人らは興味深く複雑な暗号を作り出すのを競い合った。15世紀から17世紀の文献はこれらの暗号に満ちているが、そのごく僅かのみが解読されている。この時代の偉大な科学的、哲学的な知識人らの多くは、この時代の宗教的不寛容さから、自らの発見を公にはしなかった。人類のために彼らの知的労働の果実を保つため、これらの進歩の先駆者らは、自らの発見を暗号の中に隠し、後の世代が今よりも寛容となり、彼らの発見を見つけ出し、その価値を認識するだろうと信じた。


 興味深い事に、多くの教会人もまた、彼らの科学的研究が疑われ、破門やそれよりも酷い運命となるのを恐れて、暗号術を用いていた。最近になってようやく、ロジャー ベーコンの難解な暗号が解読され、この初期の科学者は細胞の理論を良く理解していたのを明らかにした。アメリカ哲学協会の講義で、この修道士の暗号文書を解読したウィリアム ロメイン ニューボールド博士はこう述べている。「(ベーコンの書には)特定の細胞の実際の見た目の正確な絵が幾つも残されており、ベーコンが顕微鏡でこれらを見たと解釈するのを否定するのは難しい。(略)それらは精子、体細胞、精細管、卵子で、その細胞核も明確に描かれていた。本の中には9つの大きな絵があり、少なくともその1つは生殖細胞の特定の発展段階に充分に似ていた。」(「レヴューの中のレヴュー」1921年7月号を参照)もしロジャー ベーコンがこの発見を複雑な暗号の下に隠さなかったならば、異端の嫌疑のもとで迫害され、おそらくは他の初期の自由思想家らのように処刑されていたであろう。過去250年間の科学による急速な発展にも関わらず、中世の探求者らによる元の諸発見に対して現代人は無知なままである。それらの記録は出版された本に暗号によって隠されたもののみである。多くの著者らが暗号術について書いているが、その中でも特に哲学と宗教の学徒に価値があるのは、シュポンハイム修道院長トリテミウスによる「ポリグラフィア」と「ステガノグラフィア」、チェスター主教のジョン ウィルキンスの「メルクリウス、秘密で迅速なメッセンジャー」、イエズス会士アタナシウス キルヒャーの「エディプス エジプティアクス」など、グスタヴス セレヌスの「クリフトメンティケス エト クリフトグラフィアエ」などがある。


有名な暗号の表紙

セレヌスの「クリフトメンティケス エト クリフトグラフィアエ」より


 シェイクスピアの大フォリオが出版されてから1年後に、ある暗号術と暗号の優れた大著が出版された。その表紙は上記にて再現したものである。この出版年(1624年)はまた、薔薇十字論争の期間でもあった。この表紙の翻訳は以下の様になる。


「9冊によるグスタヴス セレヌスの暗号術と暗号の書。加えて尊敬すべき天才、シュポンハイムとヘルビポリス(ヴュルツブルク)修道院長のヨハネス トリテミウスのステガノグラフィアの体系の明解な解説。さらに著者と他の者らによる価値ある発明も散らばらせてある。1624年出版。」(ペンネームを用いている)この本の著者は、ブラウンシュヴァイク公アウグストであると信じられている。だが、この表紙を飾る象徴と記章は、この出版の背後に優れた薔薇十字団員らの手があった決定的な証拠である。この絵の底では、貴族(ベーコン?)が他の人物の頭に自らの帽子を乗せているのが描かれている。このパネルの頂点の長円形の部分にある光はbeacons(かがり火)であり、あるいはBaconの名前をもじっているのかもしれない。両側のパネルの絵は、シェイクスピアの顕著であり微細な仄めかしがある。左側では、貴族(ベーコンである可能性がある)が、槍を持つ別の人物に紙を渡している。右側では、先に槍を持っていた人物が、役者の扮装をして現れ、拍車を振り、ホルンを鳴らしている。このホルンを吹く役者と槍を持つ人物の仄めかしは多くの事を示唆している。特に槍はシェイクスピアの名前も最後の音節(spear)なのである。


 これらの暗号の作成と使用の基本的な違いを説明するために、ここでは様々な暗号の形式を7つに分類している。


1. 文字による暗号。文字暗号の中でも最も有名なものは、フランシス ベーコン卿が「学問の進歩について」の中で用いた2文字による暗号である。ベーコン卿はまだ若い頃にパリに住んでいた時にこの暗号術を発明している。この2文字暗号では2つの種類の印刷の字体を用意し、片方は通常のものを、もう片方は特別に少し切ったものにする。この2つの字体の違いは多くの場合ごく僅かなものにすぎず、それを見分けるには強力な拡大鏡を必要とした。元の暗号では、暗号文はイタリック体の言葉、文、文節にのみ隠されていた。なぜならイタリック文字はローマ文字よりも飾られて描かれていたので、そこに僅かだが必要な違いを隠すのに格好の機会を与えたからである。時には文字の大きさを変える事や、その飾りの濃度で示したりもした。後にはベーコン卿は2つのローマ文字の字体を用意し、それらの違いはごく僅かで、たとえエキスパートでも見分けるのは不可能だった。


 シェイクスピアの最初の4つのフォリオを慎重に調べるならば、違いはごく僅かだが区別可能な様々な字体を用いていたのを見つけられる。全てのシェイクスピアのフォリオには文の中に暗号が含まれている可能性もある。これらの暗号文はおそらくは元のフォリオに加えられたもので、元の四つ折り本よりも遥かに長いものとなり、一部では幕全体が追加されている。


 この2文字暗号はベーコンやシェイクスピアの書に限られず、ベーコンの生前とその死後のほぼ1世紀に渡っての期間に出版された多くの書にも見つけられる。この2文字暗号を表すものとして、ベーコン卿は「omnia per omina(全てによる全て)」と名付けた。この暗号は書全体の中を走り、元の文の著者の知識が無いまま出版された時にも中にあったであろう。言葉も句読点も変える必要が無いからである。17世紀の間に出版された多くの文書や本の中に、政治的な目的で暗号が挿入された可能性もある。暗号はニカイア公会議の頃(325年)から既に同様の目的で使われていたのは良く知られている。


 このベーコンの2文字暗号を現代で用いるのは難しい。字体がスタンダート化された事と、今ではごく僅かな本のみが純粋に人力で造られるからである。この暗号と共に使われたのは1640年の英訳版「学問の進歩について」の複写で最初に現れたベーコン卿の2文字アルファベットである。これには4種類のアルファベットがあり、2つは大文字で2つは小文字であった。これらの4つの違いを慎重に検討し、各アルファベットをaとbの2つの種類に分けていく。それから単語を読む中で、それらの文字かaとbの2つのグループの中のいずれかに分けられる。この2文字暗号を用いるためには、文書は隠す暗号文の5倍の数の文字が必要となる。1文字の暗号を隠すのに5文字を必要とするからである。この2文字暗号は、モールス信号と似ているが、点と線の代わりにaとbを用いる。この2文字暗号という名前は、アルファベットの全ての文字がaかbに減らされる事から来ている。この2文字暗号の例は、以下の図の1つで示そう。この暗号の例として、「Wisdom and understanding are more to be desired than riches(知恵と理解は富よりも望ましい)」の文の中に隠されているメッセージを解読してみるとしよう。


 まず最初のステップは、各アルファベットの文字を見て、それらをベーコン卿の2文字アルファベットで与えられている鍵に従って、aかbのいずれかに取り換えていく。まずwisdomの言葉では、Wはb文字であり、そのためbと取り換えられる。iの文字はaであり、そのため2つ目の場所にはaを置く。sの文字もa文字であるが、dはb文字に属する。oとmの両方はa文字に属して、aと取り換えられる。このプロセスによってWISDOMの言葉はbaabaaとなる。残りの言葉も同様に解読していくと、ANDはaba、UNDERSTANDINGはaaabaaaaaabab、AREはaba、MOREはabbb、TOはab、BEはab、DESIREDはabaabaa、THANはaaba、RICHESはaaaaaaとなる。


 次のステップは、全ての文字を合わせて1つにする。それにより、baabaaabaaaabaaaaaabababaabbbabababaabaaaabaaaaaaaとなる。ベーコンの2文字暗号では、全ての組み合わせは、それぞれ5文字からなる集まりで構成される。そのため、以下の様に文字を5つずつに分けていく。baaba aabaa aabaa aaaab ababa abbba babab aabaa aabaa aaaaa。それぞれの5文字は暗号の1文字に取り換えていく。そして実際の文字は、「学問の進歩について」で用いられていた2文字暗号の鍵、アルファベットの図の集まりと比較する事で決められる。その結果、baaba = T、aabaa = E、aabaa = E、aaaab = B、ababa = L、abbba = P、babab = X、aabaa = E、aabaa = E、aaaaa = Aとなる。だが、言葉richesの最後の5文字は、最初のrからピリオドによって相殺され、最後のaaaaaは暗号では数えない。そのため、摘出した文字を全て合わせると、結果としてTEEBLPXEEとなる。


 この時点で解読者は、解読した文字は判読可能な言葉だろうと合理的に予想だろうが、結果は失望する事になるだろう。上記の例のように、解読した文字そのものが別の暗号であり、2文字暗号を軽く知っている者らを失望させるために2重に複雑にしている。次のステップは、この9文字を輪(あるいは円盤)の暗号と一般に呼ばれるものに当てはめる事である。これは2つのアルファベットの輪があり、外側を回転させる事で無数の文字の間の転移が可能となる。この例では、内側の輪のアルファベットのAは、外側のアルファベットのHと向かい合う。そのため、暗号ではこれらの文字は交換可能である。同様に、FはMと、PはYと、WはDとなる。事実、全てのアルファベットは2つの円で示されたように変換される。そのため2文字暗号により取り出した9文字は、この輪の暗号により9つの円の文字となり、輪の内側の9文字に対応する外側の9文字へと変換する。このプロセスにより、TはAとなり、2つのEは2つのLとなり、BはIとなり、LはSとなり、PはWとなり、XはEとなり、2つのEは2つのLとなる。この結果はALLISWELLとなり、これを言葉に分割すると、「All is well.」となる。


 勿論、この輪の暗号の内側の円盤を動かすことで、上記で示した例の他にも無数の違った組み合わせが可能となる。だが1つのみが、意味のある文となるので、暗号解読者は論理的で判読可能なメッセージが現れるまで試みを繰り返す事になる。これにより暗号解読者は合理的に解読した確信を持てるだろう。ベーコン卿はこの2文字暗号を様々な違った方法で複雑なものにした。おそらくシェイクスピアのフォリオの単独で幾つかの違った体系が用いられていよう。その一部は永遠に解読の全ての試みを挫かせるほど複雑なものである。それらの解読のためには、時にはaとbを交換する必要があったり、隠されたメッセージが逆向きに書かれたり、1つおきの文字のみを数える必要があるなどがあった。


2文字暗号の例


 上記の文の各文字を慎重に検討し、ベーコン卿の「学問の進歩について」にある2文字アルファベットの2つの字体と比較していく。「wisdom」の「d」と、「and」の「d」を比較する事で、1つめのdには上に大きなループが付いているが、2つめのdには実質的に何のループも無い。同様に「wisdom」の「i」と、「understanding」の「i」を比較すると、前者のiは曲線で描かれているが、後者は角ばっている。同様の分析を「desired」の2つの「e」ですると、明らかな違いがある。「more」の「o」は、「wisdom」の「o」とは、小さな線が次の「r」に向かって伸びているので違っている。「than」の「a」は、「are」の「a」より細くて硬く書かれている。また「riches」の「r」は、「desired」のものとは、最後の刎ねが尖ってなくて円状で終わっているので違っている。これらの小さな違いは、この文を書くのに用いられた2つのアルファベットの存在を明らかにしている。


2文字暗号の鍵

ベーコンの「学問の進歩について」より


 文書が「a」と「b」の対応物に解読された後、5つの文字の集まりへと分けて、上記の図の助けを借りつつメッセージを読んでいく。


近代の暗号の輪あるいは円盤


 上記の図は輪の暗号を示している。小さな内側の輪は動かすことができ、それにより大きな外側の輪にある文字へと変換される。時には内側のアルファベットは逆向きに書かれる事もあるが、この例では両方のアルファベットは同じように読む。


2文字アルファベット

ベーコンの「学問の進歩について」より


 この図はベーコンの「学問の進歩について」にあるものを再現したもので、暗号のためにベーコンが造った2つのアルファベットを示している。ここでは大文字と小文字の両方で「a」と「b」に分類される2つの違った字体がある。2文字暗号体系では、ここで与えられている例のように違いが知覚可能な2つのアルファベットを用いるとは限らないが、2つのアルファベットは常に用いられている。時には違いはごく僅かなものであり、「a」と「b」の字体を区別するために、強力な拡大鏡が必要となる事もある。


 文字暗号には別の種類のものもあり、ここではそれぞれの文字は、事前に用意された手順に従って変換される。その最も単純なものは、2つのアルファベットを以下のように書き、


A B C D E F G H I K L M N
Z Y X W U T S R Q P O N M


O P Q R S T U W X Y Z
L K I H G F E D C B A


 文のそれぞれの文字を、ここでのアルファベットの下側の文字と関連する上側の文字へと取り替える事で、意味の無い寄せ集めの結果となり、隠されたメッセージは逆のプロセスを辿る事で解読される。また別の種類の文字暗号では、実際のメッセージは文書の本文に書かれているが、事前に決められた順序で関係のない言葉を挿入していく事で暗号化させるものもある。また折句暗号と呼ばれる文字暗号の方法もある。これでは言葉はそれぞれの行の1文字目により縦書きされる。更により複雑な折句暗号もあり、それらでは重要な文字は文節や章全体に散りばめられる。以下の2つの錬金術の暗号では、それぞれの言葉の最初の文字を用いた別の文字暗号の方法を示している。アルファベットの文字を配置したり組み合わせたりするのを基礎とした全ての暗号は文字暗号と呼ばれる。


錬金術の暗号

ブラウンの「化学の歴史」より


 ジェームズ キャンプベル ブラウンは、ここでキルヒャーの興味深い暗号を再掲載している。外側の輪の7つの言葉の大文字を時計回りに読んでいくと、SVLPHVRの文字を作り出す。2番目の輪でも同様に読む事で、FIXVMが導かれる。内側の輪の大文字を適切に配置していくと、ESTSOLと読める。これにより、以下の暗号文「Sulphur Fixum Est Sol.」が導かれ、これを訳すると「固体の硫黄は金である」となる。


別の錬金術の暗号

「薔薇十字団の秘密の図」より


 外側の輪のVISITAの言葉から始めて時計回りに読んでいき、その7つの言葉の最初の文字を集めると、VITRIOL(硫酸)と読める。これは非常に単純な錬金術の謎であるが、ヘルメース主義、薔薇十字主義、錬金術、フリーメイソンリーを学ぶ者らは、常に比喩や寓意を用いたり、数、文字、言葉の暗号配置をする事で、意味を隠すようにしていた事を忘れてはならない。


2. 絵による暗号。明らかな意味合い以外の意図での全ての絵や描いたものは、絵による暗号と考えられよう。この絵による暗号の例は、エジプトの象徴主義や初期の宗教画に多く見つけられる。錬金術師らやヘルメース主義哲学者らの書の中の諸図は、常に絵による暗号である。シンプルな絵による暗号に加えて、他にもより技巧的なものもあり、そこでは言葉や文字は、壁の幾つかの石や、空を飛ぶ鳥の翼や、水面の小波の中に隠されている。さらに、影を表す直線の長さや順番を用いるものもあり、それらは物差しを用いて解読され、線の長さによって隠された文字や言葉を見つけ出していた。さらに建物の形や比率、塔の高さ、窓にある横木の数、人の衣にある皺、人間の体の比率すらも、特定の図形を隠すために用いられ、それらは暗号を知る者により文字や言葉へと変換されていった。


 名前の頭文字は、建物のアーチや径間に隠された。この顕著な例として、モンテーニュの「エセー」の第3版の表紙にある。この絵では2つのアーチによって頭文字のBと、壊れたアーチによってFが形成されている。絵の暗号は時には、その解読に必要な鍵もまた含まれていた。人物の指が暗号のスタート地点を指さしていたり、その手に解読に重要な道具を持っていたりした。また、しばしば暗号作成者が意図的に人物の衣服を歪めたり不適切に描いている例もあった。帽子を逆さにかぶったり、剣を間違った側に付けていたり、盾を間違った腕に填めていたり、その他似たような工夫を用いていた。ラファエロの絵画「システィーナの聖母」の教皇の第5の指についてや、同画家の「聖母の結婚」のヨセフの第6の足の指については多くの議論がなされているが、これは巧みに隠された暗号である。


神と自然の正義の暗号による記述

セレヌスの「クリフトメンティケス エト クリフトグラフィアエ」より


 最も外側の第1の円は神の先行する正義を、第2の円は宇宙的規模の正義を、最も内側の第3の円は正義の人間の使用の結果を表している。これにより、第1の円は神の諸原理を、第2の円は世俗の問題を、第3の円は人の問題を扱っている。絵の上位には法を司る霊、アルテミスが座している。そして彼女の足元には3柱の他の女王、ユーノー、ミルネウァ、ウェヌスがおり、彼女らの衣は幾何学模様で飾られている。法の軸は上位の神々の正義の御座と、底辺にある人間の判断の玉座とを繋げている。下の玉座には王錫を持つ女王が座っており、その前には審判の天使、翼ある女神ネメシスが立っている。


 第2の円は2つの水平の線によって、2組の3つの部分に分割されている。上位の光の部分は至高の領域と呼ばれ、神々、善霊、英雄らの住処である。低位で闇の部分は、欲望、罪、無知の住処である。これら2つの極端な領域の間には、最も大きな部分があり、上位と低位の領域からの諸力と影響により混ぜられている。


 第3の内側の円は人、10の部分で構成される生き物のものであり、9つの部分――霊の3部分、知の3部分、魂の3部分――で構成され、1つの構造の中に閉じ込められている。セレヌスによれば、人の3つの霊的な性質は、思考、発言、行動であり、3つの知的な性質は記憶、知性、意志であり、3つの魂の性質は理解、勇気、望みである。この第3の円はさらに3つの部分に分割され、時代と呼ばれる。右上の部分には霊的真理の黄金時代が、右下の部分には霊的な闇の鉄の時代があり、この2つが混ざり合った青銅の時代は左側全体にあり、これらもまた3つに分割される。青銅の時代の低位の部分は、力により支配される無知な人間を、中央の部分は法律により支配される目覚めた人間を、上位の部分は愛により支配される霊的に啓明された人間を描いている。第2と第3の円は法の軸を中心に回転するが、法の神の源――天の正義――は雲によって隠されている。この絵に描かれている全ての象徴と像は、ここで概説した諸原理の詳細な敷衍として用いられている。


3. 口伝による暗号。世界中の宗教、哲学の書は口伝による暗号、すなわち比喩と寓意に満ちている。この口伝が含まれた文書は、暗号術の影響無しに翻訳されたり再出版されたりするユニークさがある。比喩と寓意は、遥か古代より倫理的真理を伝えるための魅力的で理解できる方法として用いられてきた。この口伝による暗号は絵による暗号を言葉として描いたものであり、その象徴主義はそのように解釈されるべきである。ユダヤ人の旧・新約聖書、プラトンとアリストテレスの書、ホメーロスの「オデュッセイア」と「イーリアス」、ウェルギリウスの「アエネーイス」、アプレイウスの「変容」、アイソーポス(イソップ)の童話は口伝による暗号の顕著な例であり、この中には古代神秘哲学の最も深遠な真理が隠されている。


 口伝による暗号は全ての暗号の中でも最も微細なものである。比喩と寓意は様々な解釈が可能だからである。聖書の研究者らは何世紀もこの困難に向き合っていた。彼らはこの寓意の倫理的な解釈のみで満足していたが、これらの比喩と寓意には7つの解釈が可能であり、その7番目――至高――の解釈は完全で全てを含んでいるが、一方で残りの6つ(で低位)の解釈は断片であり、密儀の部分のみしか明かさないのを忘れていた。世界創造の神話は口伝による暗号であり、そこでの様々な神々のパンテオンは暗号の文字にすぎず、それらが適切に理解されるならば、神のアルファベットの構成となった。僅かな秘儀参入者らのみは、このアルファベットの真の性質について理解していたが、多くの秘儀参入を受けていない者らは、これらの文字を神々として崇拝していた。


4. 数による暗号。数を様々なシークエンスにより文字、言葉、時には完全な思考にすら変換する多くの暗号が造られてきた。数による暗号を読むには、通常は特別に準備された関連の図表を持つことに掛かっている。旧約聖書にある数の暗号は非常に複雑なものであり、ラビの伝承に卓越したごく僅かな学者のみが、これらの密儀を明らかにできた。アタナシウス キルヒャーは「エディプス エジプティアクス」の中で、幾つかのアラビアのカバラの定理について記しており、ピュタゴラスの密儀の多くの部分は、ギリシアの神秘家の間で流行っていた文字と数を交換する秘密の技法により隠されていた。


 最もシンプルな数による暗号は、アルファベットの文字を順に数へと変換するものである。これにより、Aは1に、Bは2に、Cは3に、と続いていくが、IとJはどちらも9と、UとVは20と数える。「yes」の言葉は、これでは23-5-18として書かれるだろう。この暗号は逆向きにする事でより難しく出来る。ここではZは1となり、Yは2に、Xは3に、と続いていく。途中に関係のない数を挿入していくことで、暗号はさらに効果的に隠せる。先のyesの例で言えば、23-16-5-9-18となる。これでは2番目と4番目の数を取り除く事で、yesの言葉が見つかる。この23と5と8を足したら、合計は46となり、そのため46はyesの言葉と同値となる。このシンプルな数の暗号によれば、138の合計数はNote carefully(慎重に注意せよ)と同値となる。そのため、この技法を用いている本では、138行、138ページ、138文節には、隠されたメッセージが含まれているだろう。このシンプルな数の暗号に加えて、誰も鍵が無ければ解読できないような、より複雑な暗号が幾つもある。


 時には著者らは、自らの名前の数値を暗号の基にしていた。例えば、フランシス ベーコン卿は暗号数33――自らの名前の数値――を繰り返し用いていた。この数による暗号はしばしば本のページが含まれていた。不完全なページ番号は、一般的には不注意によるものとされるが、しばしば重要な秘密が隠されていた。シェイクスピアの1623年のフォリオで見つかった、間違ったページ数があるページと、同じ時期に出版されている様々な本で似たような間違いが継続して起きているのは、学者と暗号家らを考えこませる事となった。ベーコンの暗号術では、89で終わっている全てのページには、特別な意味があるように思われる。そしてシェイクスピアの1623年のフォリオにある喜劇の89ページ目には、ページの誤字があり、「9」は「8」よりもかなり小さな字で描かれていた。また、189ページは完全に欠けており、187の数のある2つのページがあった。そして188ページの2番目の「8」は最初の8の半分よりわずかに大きいものだった。289ページは正確に数が与えられており、異常な部分は無かった。だが「歴史」の89ページは欠けていた。ベーコンにより出版された幾つかの本では、似たような間違いがあり、しばしば89ページ目が関連していた。


 他にも数による暗号はあり、これらでは暗号メッセージは、あらゆる10個目、12個目、15個目の言葉を数え上げる事で取り出された。ある場合にはカウントは同等では無かった。最初の重要な言葉は100をカウントする事で見つけ、2番目のは90をカウントして見つけ、3番目のは80をカウントして見つけ、と続いていき、10のカウントまで続く。それからまたカウントは100に戻って、このプロセスは繰り返された。


5. 音楽の暗号。1641年にチェスター主教のジョン ウィルキンスは、「メルクリウス、秘密で迅速なメッセンジャー」という題名のエッセイを匿名で出版した。この小冊はトリテミウスとセレヌスのより大著から引用したものがほとんどであるが、著者が独自に編み出したものもあった。それにより音階をアルファベットの文字へと変換する事で音楽家らはお互いにやり取りできた。2人のコードを理解している音楽家らは、ピアノや他の楽器で特定の音階を演奏するのみで、暗号をやり取りできた。この音楽の暗号には、想像もつかない点を含む事ができた。特定の体系により、既に存在する譜面を用いて、実際の構成を変える事無く暗号を隠す事が可能だった。音階にある旗に暗号を隠したり、音階の実際の音を、似たような音の音節へと変換したりした。この後者の方法は効果的であるが、その範囲は少し限定されていた。フランシス ベーコン卿が作曲したものが幾つか残されているが、それらの研究は音楽の暗号を明らかにするであろう。ベーコン卿はこの構成の方法に卓越していたのは確実だからである。


6. 恣意的な暗号。ヒエログリフの文字から英文字を取り出す体系は、人気となるには容易に解読できる欠点があった。アルバート パイクはテンプル騎士団の十字の様々な部分を基にした恣意的な暗号の例を記している。これでは、それぞれの角が文字を表していた。だがこれまで考案された多くの興味深いアルファベットは、繰り返しの図により価値無きものとなった。エドガー アラン ポー、この偉大な暗号家によれば、英語で最も使われる文字はEであり、その他の文字で使われている順は、A、O、I、D、H、N、R、S、T、V、Y、C、F、Q、L、M、W、B、K、P、Q、X、Zである。他の権威は、使われている順は、E、T、A、O、N、I、R、S、H、D、L、C、W、U、M、F、Y、G、P、B、V、K、X、Q、J、Zであると述べている。単にメッセージの中にそれぞれの文字が出てくる回数を数えるのみで、繰り返しの法則によって、任意の文字が意味する英文字を露にした。さらに解読の助けとなる事実もあった。暗号が言葉に分けられるなら、3つの文字、A、I、Oのみが1文字の言葉を形成できた。そのため、文章の残りから区切られるどの単独の文字も、これら3つの文字の中の1つでなければならない。この体系のさらなる詳細については、エドガー アラン ポーの「黄金虫」を参照してほしい。


 この任意暗号の解読をより難しくするために、文字を言葉へと分割するのを僅かにし、さらに繰り返しの図を部分的に無効化させるために、2つ以上の違った文字をそれぞれの英文字と関連づけさせる。これにより、繰り返しの頻度を正確に推測するのを不可能とする。そのため、単独の英文字のために任意の文字を多く使うほど、この任意暗号の解読は難しくなった。古代人の秘密のアルファベットは比較的容易に解読され、それに必要なものは、繰り返しの図と、暗号家が元に書いた言語の知識、ある程度の忍耐力、僅かな工夫の才のみである。


7. コード暗号。暗号術の最も近代の形式はコード体系である。その最も一般に知られているものは、電信や無線通信で用いるモールス信号のコードである。文書の中のピリオドとコロンを点とし、コンマとセミコロンを線とする事で、この種の暗号をさらに複雑にもできた。また商業界で用いられるコードもあり、それらは私的なコードブックを用いる事によってのみ解読できた。秘密の情報を伝達する経済的で効果的な技法をこれらは与えるので、このようなコードの使用は一般人が想像するよりも遥かに盛んに行われているのである。


 これら7種類の暗号術に加えて、秘密の書法の雑多な体系が他にも幾つかあり、その一部は機械を用いるもので、他にも色を用いるものもある。ごく少数の者らは、様々なものを言葉に、時には思考全体を表すものとして用いていた。だが古代人や中世の哲学者や錬金術師らも、より精巧な道具は僅かしか使わずにいたので、これらは宗教や哲学とは直接関係が無かった。中世の神秘家らは、様々な術や学問から用語を借りて、暗号術を洗練させていった。そこでは、人間の魂の秘密は、化学、生物学、天文学、植物学、生理学で一般的に使われる用語の下に隠された。この種の暗号は、中世の神秘家らがその生命の理論の基にしていた深遠な哲学的諸原理に熟達している人間のみが解読できた。人の不可視の性質と関連した情報の多くは、一見しての化学実験や科学的思弁に見えるものの下に隠された。そのため、象徴主義と哲学のあらゆる学徒は、暗号術の諸原理の下にあるものに熟達すべきである。これらの術は哲学探究に良く仕える他にも、精神機能の鋭さを開発する素晴らしい技法を与える。識別と観察は知識の探求者には必要不可欠であり、これらの諸力を開発するのに暗号術に匹敵する学問は無いのである。


カバラと魔術のアルファベット

バレットの「魔術」より


 この興味深いアルファベットは古代、中世の哲学者らにより、彼らの教義を世俗の者らから隠すために発明されたものである。これらの一部は少数のフリーメイソンリーの高位階者らの間でなおも使われている。それらの中でも最も有名なのは、おそらく天使文字であり、上記の図で「マラキムと呼ばれる書法」と書かれているものである。これらの文字は星座から導かれたと考えられている。オカルト哲学の上級の学徒らは、これらの文字が用いられた多くの価値ある文書を持っている事だろう。これらの第1のアルファベットの下にあるのは、対応する英文字である。その下にある3つのアルファベットの上にあるのは、対応するヘブライ文字である。


古今の秘密の教え フリーメイソンリーの象徴主義
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