形成の書

ページ名:形成の書

 今回紹介するのは、カバラの文献の中でも最古の部類に属するセフェル イェツィラー(Sepher Yezirah. 形成の書)である。
 この本の著者は伝説によれば父祖アブラハム自身によるものとされるが、実際には3世紀から4世紀ごろに書かれたと思われるが、正確な時代は研究者によって様々で議論が絶えない。少なくとも10世紀には知られるようになっていた。この英語版は1887年に出版された。
 この本書の目的についても議論が多く、主に哲学書と考えられているが、カバラ学者の間では宇宙創造論という説や、さらに即物的な説では、生命(例えばゴーレム)を創り出す魔術の手引書とも考えられていた(これは高名なカバラの師のラビ アリエ カプランも唱えている)。伝説ではアブラハムは人類の歴史でただ一人、魂を人工的に創り出せたとされているからである。
 本書ではヘブライ文字の22文字は神から与えられたそれ自体が聖なるものであり、さまざまな秘められた(オカルト的な)奥義があると明かされる。また、ヘブライ文字の2文字の全ての組み合わせを順に瞑想する方法も記されており、これは後の中世のアブラハム アブラフィアを通じて、カバラの瞑想行に多大な影響を与えている(さらにフランツ バードンの3作目「真のカバラの鍵」でも、この瞑想は紹介されているが、ここではドイツ文字に変えてある)。
 また10のセフィロトについての有名な記述もあるが、この時代には単に数の意味で使われており、まだ生命の樹として完成されたものではない。
 英訳者のウィリアム ウィン ウェストコットはマクレガー マサースらと共に魔術結社、黄金の夜明け団の創設メンバーであり、長らく最高位にあった人物である。いわば19世紀の魔術的カバラにおいては第一人者の1人といえる。
 なお本書はラビ アリエ カプランが詳細な解説書を出しているので、興味のある読者は一読を勧める。
 また、マンリー P. ホールの「古今の秘密の教え」のカバラの章の中にも、本書の訳がある(こちらの方が原典に近い訳のようである)。



ספר יצירה

セフェル イェツィラー

形成の書


英訳 ウィリアム ウィン ウェストコット


1887年



第1章


1. 天の主 ヤー(JAH)、イスラエルの万軍の神、永久に生きる神、慈悲深く、恵み深く、崇高で、いと高き天の座に世々限りなく住まう御方が自らの御名を刻んだ、32の最も秘められた驚異的な知恵の小路において、3人のセラフィム、すなわち数と書法と言葉により、宇宙を形成し創造した。


2. 10はセフィロトとしての数である。22は文字であり、これらは万物の基礎である。この文字のうちの3つは母であり、7つは二重であり、12は単独の子音である。


3. この10の数は手と足の指の数、5と5が対立したものと似たものではない。それらの中央は霊の声と(アブラハムがなした)肉体の割礼の儀式による契約である。


4. 10は畏れ多きセフィロトの数である。10であり9で無く、10であり11で無し。この知恵を学び、理解する賢者となれ。これらの数を熟考し、そこから知識を引き出し、純粋にし、玉座に座る創造主へと渡すのだ。


5. これらの10の数は、無限なるものより現れ、限界無き領域、限界無き初めと終わり、善と悪の深淵、限界無き高さと深み、東も西も北も南もそうであり、唯一の神にして王、その玉座に永遠に座る御方こそ、これら全てを世々限りなく支配する。


6. これらの10の畏れ多きセフィロトの姿は煌く炎のようであり、終わりなき無限である。神の御言葉はこれらが行き来する時にあり、これらは神の命に従い旋風のように進み、神の玉座にひれ伏すべく戻る。


7. これらの10の畏れ多きセフィロトは終わりと始まりが繋がり合い、炎が燃える炭と繋がり合うようである。我らが神はかの統一において最上であるゆえ、第二の者を認めない。唯一の御方の前に汝は誰を置けようか?


8. そしてこの10のセフィロトは、彼らについて語る汝が唇と汝の考えを抑える。そして汝の心がこれらについて考えるならば戻るのだ。ゆえに聖書にも「生き物は行き来していた」(エゼキエル書 第1章14節)と書かれている。そしてこの知恵は我らが結びし聖約である*1


9. 10の数の放出がある。1つは、生ける神の霊である。世々限りなく生きる神の御名に祝福の祝福あれ。聖霊は彼の御声、彼の霊、彼の御言葉。


10. 第2に神が霊より風を作り、語るために22の文字を形作った。そのうちの3つ、A、M、SHは母である。7つ、B、G、D、K、P、R、Tは二重のもので、12の、E、V、Z、CH、H、I、L、N、S、O、Tz、Qは単独のものである。だが霊はこれらのうち第1の者である。
 第3は原初の水である。神は風よりそれを形成し、虚無と形無きものより地を造り出した。それらにより城壁や壁を作り、また光条の交差としてその表面を多彩にした。第4に神は水より火を作った。それらより自らの誉れある玉座を作り、オファニム、セラフィム、聖なる獣ら、天の天使ら、さらにそれらともに自らの住居を作った。聖書にも「霊を天使らに、燃える火を僕らにする」(詩篇 第104章4節)と書かれているとおりにである。


11. 神は単独のものらから3つの文字、I H Vを選び、自らの御名を形成するものとして封印した。そして神は世界を6つの方向に封印した。


 5 ―― 神は上を見上げて、高さをI H Vにより封印した。


 6 ―― 神は下を見下ろして、深みをI V Hにより封印した。


 7 ―― 神は前を見て、東をH I Vにより封印した。


 8 ―― 神は後ろを見て、西をV H Iにより封印した。


 9 ―― 神は右を見て、南をV I Hにより封印した。


 10 ―― 神は左を見て、北をH V Iにより封印した。


12. これらが畏れ多き存在らである。生ける神の霊より放出し、風へ、水へ、火へ、高さと深みへ、東と西へ、北と南へと流れた。


第2章


1. 基礎は22の文字、3つの母の文字、7つの二重の文字、12の単独の文字である。3つの母、すなわちA、M、SHは風と水と火である。水として静かにMを唱え、火として摩擦音でSHを唱え、霊的なものとしてAの風があり、これは両者の均衡を取った発音としてある。


2. 神はこれらの22の文字により、あらゆる生き物とまだ生きていない物の魂を形作り、重みを与え、変容させ、組み合わせ、造り出した。


3. 22の文字は声により形作られ、風により押し付けられ五種の音となる。喉において喉音となり、口蓋において口蓋音となり、舌により舌音となり、歯を通り抜けて歯擦音となり、唇を震わせて唇音となった。


4. これらの22の文字、基礎により、神は球を形作り、そこに231個の門を作った。球が前へ転がれば善を意味し、後ろに転がれば悪が意図される。


5. 神は文字の組み合わせのモードを示した。アレフから始まる全ての文字と、全ての文字の後にアレフで終わる。さらに次の文字も同様にする。ゆえに、これらの2文字の組み合わせにより、知識の231の門が形成される。そしてこれらより神はあらゆる言葉と万物を創造し、空なる虚無より神は固き地を造り、存在しないものから、命を造った。


6. 神は形無き風より、無なる空間より巨大な列あるいは柱を刻んだ。そしてこれが全体の刻印であり、アレフから生まれた21の文字である。


第3章


1. 3つの母の文字、A、M、SHは全体の基礎である。そして天秤に似て、善は片方の秤に、悪はもう片方に。振動する声は両者の均衡である。


2. これらの3つの母文字には力ある神秘、最も秘められ、素晴らしいものが隠されている。6つの指輪により封印され、これらより原初の火、水、風は発せられる。これらは続いて男と女に分けられる。最初はこれらの3つの母が存在し、やがて3つの男性原理の力が起き上がった。それにより万物は生まれたのである。


3. 3つの母はA、M、SHで、始まりにおいて大宇宙として天は火より作られ、地は原始的な水より、風は霊より形作られた。これは中間に立ち、両者の仲裁をする。


4. 年においてや時間に関しては、これらの3つの母は熱と寒さと温和な気候を表す。熱は火より生まれ、寒さは水から、温和さは霊的な風からで、これはまた両者を均衡させる。


 これら3つの母はまた、小宇宙あるいは人間、男、女の形態も表し、頭、腹、胸である。頭は火より、腹は水により、胸は両者の間の風による。


5. これら3つの母により神は世界や年、男と女両者の人間を創造し、設計し、組み合わせたのである。
 神はアレフに風を支配するようにし、王冠を与え、他のものと組み合わせ、それらにより世界の風や年の温和な気候、人の胸(肺は風を呼吸する)を封印した。男はA、M、SHにより、女はSH、M、Aによる。神はメムに水を支配させ、王冠を与え、他と組み合わせて、世界の地を造り、年の寒さを、人類の子宮の果実、腹により運ばれるものを造った。
 神はシンに火を支配させ、王冠を与え、他と組み合わせて、世界の天を、年の熱を、男と女の頭をかれらに封印した。


第4章


1. そして7つの二重の文字が造られた。ベート、ギメル、ダレット、ハフ、フェー、レーシュ、タヴである。それぞれには2つの声があり、気息音と和らげた音である。これらは生命、平和、豊かさ、美あるいは評判、知恵、豊饒、力の基礎である。これらが二重と呼ばれる理由は、対立物があるからである。生命の対立は死である。平和は戦争で、豊かさは貧困で、美や評判は醜さや悪評で、知恵は愚かさで、豊穣は不毛で、力は奴隷である。


2. これらの7つの二重文字には方向があり、東、西、上、下、北、南、中央には聖なる神殿があり、これらを維持している。


3. これらの7つの二重文字により、神は宇宙の星々を、週の7日を、人の知覚機能を、形作り、計画し、創造し、組み合わせた。また、7つの天と惑星を、無より作り出し、それだけでなく神は聖なる7組を好み祝福した。


4. 2つの文字を組み合わせる事により、神は2つの住居を造った。さらに3つ(の組み合わせ。3 x 2 x 1)から6を、4つから24を、5つから120を、6つから720を、7つから5040を造った。そしてこれらの数を増やすと、もはや数えきれなくなり理解できまい。宇宙にも7つの惑星がある。太陽、金星、水星、月、土星、木星、火星である。創造も7日間で行われた。また人には7つの門があり、目が2つ、耳が2つ、鼻の孔が2つに口である。これらを通じて人は感覚を知覚する。


第4章 補遺


(ウェストコット注 これは別の版より見つけたものである。)


 神はベートを造った。その顕著なものは知恵であり、宇宙において月を、週において最初の日を、人において右目を形成した。
 ギメルは健康に顕著で、宇宙の火星を、週の二日目を、人の右耳を形成した。
 ダレットは豊穣に顕著で、宇宙の太陽を、週の三日目を、人の右鼻の孔を形成した。
 ハフは生命に顕著で、宇宙の金星を、週の四日目を、人の左目を形成した。
 フェーは力に顕著で、宇宙の水星を、週の五日目を、人の左耳を形成した。
 レーシュは平和に顕著で、宇宙の土星を、週の六日目を、人の左鼻の孔を形成した。
 タヴは美に顕著で、宇宙の木星を、週の七日目を、人の口を形成した。


 これらの7文字により、また7つの世界、7つの天、7つの地、7つの海、7つの川、7つの砂漠、7つの日(先のように)、過越祭より五旬節までの7つの週と7年ごとの記念祭が造られた。


第5章


1. 単独の文字は12である。すなわち、ヘー、ヴァウ、ザイン、ヘット、テット、ヨド、ラメッド、ヌン、サメフ、アイン、ツァディ、クフである。これらは視覚、聴覚、嗅覚、喋る、食欲、性欲、移動、怒り、陽気、考え、眠り、仕事の基本的な性質を表す。これらはまた空間の12の方向を象徴する。北東、南東、上の東、下の東、北西、南西、上の西、下の西、上の南、下の南、上の北、下の北である。これらは永遠に広がり、宇宙の腕となる。


2. これらの12の文字により、神は天の12の分割(すなわち黄道十二宮)、年の12の月、人の12の重要な器官、すなわち右と左手、右と左足、二つの腎臓、肝臓、胆嚢、脾臓、腸、食道、胃を、計画し、形成し、組み合わせ、重みを与え、変更し、創造した。


3. 3つの母文字、7つの二重文字、12の単独の文字により、22の文字がある。その中より、IHVHテトラグラマトンは、天の主であり、いと高く世々限りなく生き、その御名は聖なるものであり、三つの父、火、風、水を造り、それらを超えて発展させ、天使らの軍勢がいる7つの天と宇宙の12の限界を造った。


第5章 補遺


(ウェストコット注 これは別の版より見つけたものである。)


1. 神はヘーを造った。その顕著なものは喋ることであり、世界の白羊宮、年のニサンの月、人の右足を形成した。
2. 神はヴァウを造った。その顕著なものは精神であり、世界の金牛宮、年のイヤールの月、人の右腎臓を形成した。
3. 神はザインを造った。その顕著なものは動きであり、世界の双児宮、年のシヴァンの月、人の左足を形成した。
4. 神はヘットを造った。その顕著なものは視覚であり、世界の巨蟹宮、年のタムーズの月、人の右手を形成した。
5. 神はテットを造った。その顕著なものは聴覚であり、世界の獅子宮、年のアブの月、人の左腎臓を形成した。
6. 神はヨドを造った。その顕著なものは労働であり、世界の処女宮、年のエルールの月、人の左腎臓を形成した。
7. 神はラメッドを造った。その顕著なものは性欲であり、世界の天秤宮、年のティシュリーの月、人の胆嚢を形成した。
8. 神はヌンを造った。その顕著なものは嗅覚であり、世界の天蝎宮、年のマルヘシュバンの月、人の腸を形成した。
9. 神はサメフを造った。その顕著なものは眠りであり、世界の人馬宮、年のキスレーヴの月、人の胃を形成した。
10. 神はアインを造った。その顕著なものは怒りであり、世界の磨羯宮、年のテベットの月、人の肝臓を形成した。
11. 神はツァディを造った。その顕著なものは味覚であり、世界の宝瓶宮、年のシュバットの月、人の食道を形成した。
12. 神はクフを造った。その顕著なものは陽気であり、世界の双魚宮、年のアダルの月、人の脾臓を形成した。


第6章


1. これらの証拠と観察してきた宇宙、時の年、人自ら、小宇宙は真実である。神は3つ組、7つ組、12の組、12の星座の世界の支配者ら、世界と小宇宙たる人を取り巻く竜(テーレ)タリをこれらの証言として定めた。


 3つ組は、火、水、風で、火は上にあり水は下にあり風は中間である。その証拠は風は両方に参加しているからである。


2. 竜のタリは彼の玉座の王として宇宙の上にある。彼の国の王として年の中の圏にあり、戦争での王として人の心にある*2


 そして我らが神は対称の状態を造った。善と悪、善からの善と悪からの悪。正しい者には幸いがあり、悪しき者には災いがある。


3. そして3つ組のうちの1つは離れている。そして7つ組には2つの3つ組があり、残りの1つは離れている。12の組は戦争、友好の3つ組、対立の3つ組を象徴する。これらの3つは生命を与えるものであり、3つは死を扱うものである。そして忠実な王である神はこれら全てを聖域の玉座より統治する。


 1つは3つより上にあり、3つは7つより上にあり、7つは12より上にある。そしてこれら全てはお互いに繋がり合っている。


4. その後、我らが父祖アブラハムがこれらのものを見、熟考し、調べ、理解した。彼はこれらを計画し、彫り、組み合わせ、彼の力(手)に受け取った。すると万物の主が彼の前に現れ、彼と契約を結び、彼の額に接吻し、彼に新たな名前を与え、彼をわが友と呼んだ。そして聖書に書かれているとおり、神テトラグラマトンを信じる限り、彼と彼の子孫との永遠の契約は完成し、彼を義人としたのである。


 神は彼の足の親指の間に契約を定めた。それは割礼であった。そして彼の手の指の間に契約を結んだ。それは舌であった。彼は自らの舌に22の文字のエッセンスを繋げ、神は彼にそれらの秘密を明らかにした。神はこれらを水を通じて運び、これらを火を通じて高く保ち、これらを風の嵐によって印をつけた。神はこれらを7つの惑星に分配し、これらを12の天の星座らに当てはめた。アーメン。


形成の書 終



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*1 エゼキエルが幻視した生き物らのように、セフィロトはあまりに尊いので、考えるのも不敬というようである。
*2 占星術の竜頭(ドラゴンヘッド)、月の白道と関連しているようである。