0286 赤の場合以降の共和国と世界との関係

ページ名:0286 赤の場合以降の共和国と世界との関係

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 南米某国の塩湖。世界最大のリチウム採取施設が建ち並んでいる。輸出先はほぼ百パーセント我が国である。
 その警備は、日本共和国防衛軍が行っている。
 現地時間23時。作戦が開始された。
「改修M1A1とストライカー、大隊規模。第一次ライン超えました」
「自爆UAV発進」
「電子戦飛行隊ポイントA3に移動」
「制空部隊接敵します」
 早期警戒機の作戦室では、オペレーターの隊員がHMDを被り、グローブ型のデバイスで情報を整理している。
 施設上空には対地早期警戒機と対空早期警戒機が全てを掌握している。
 自爆型のUAVはECM下でも自律攻撃の出来る新型である。部隊を撹乱、SAMを無駄撃ちさせたところで電子戦攻撃機が対レーダーミサイルを発射し、敵の防空能力を奪い去る。
 当然、戦闘機も出てくるがそれも制空戦闘機にて対処する。
 制空権を掌握したところで、ガンシップが突入し敵の装甲化、自動車化部隊を斬獲する。
 特殊部隊の接近があるが、それはたった二人の転生者によって忽ち殺害された。
 これらの説明をすると、どうしても相手が無能で弱い連中だったと思われるだろう。だが、"被害者"や捕虜の身元を確認すると元グリンベレーだの元デルタフォースだの世界中の特殊部隊や精鋭部隊の出身者が多い。彼等は一般的にPMSCsコントラクターと呼ばれる"警備員"である。彼等をMから始まる言葉で呼ぶと忽ち起訴されてしまうと言うタイプの警備員である。
 彼等は戦闘機も戦車も攻撃ヘリも装備しているし、練度に関して言えば現役部隊に引けを取らない。事実、彼等は正規軍が解決出来ない問題を、さっと解決しクライアントに利益を齎し続けている。
 それは対テロかもしれないし、今回のような資源奪取かも知れない。

 このような状況になったのは、共和国とその企業が上手くやったからに他ならない。
 市場に支配的な立場になったA自動車は、電気自動車に使うリチウムやパワー素子、自動運転に使う半導体を手早く集め、向こう半世紀の王国を築いた。
 この状況を面白く思わないのは中国や欧米である。
 勿論、自分の国の利益が損なわれれば誰だって不機嫌になる。
 そこでアメリカ、中国、フランスと言う奇妙な連合がクライアントとなって、彼等に仕事を依頼したのだ。
 世の中には軍が出てはいけない仕事が沢山ある。或いは軍を使うとコストばかりが掛かる仕事がある。そんな時に、彼等が活躍する。
 今回は前者だろう。

 作戦が開始されると、他の転生者はPMSCsの代表を逮捕した。勿論、彼等の母国の法執行機関など知った事ではない。
 拉致同然に証拠と身柄を奪取して共和国へと帰還を果たした。
 その為の特殊輸送機や潜水空母と言った超兵器は、秘密裏に配備されている。

 彼等の情報が、作戦から参加者から筒抜けだったのは、様々な協力者がいたからである。それは利益で結びついていることもあれば、恐怖で従わせている場合もある。
 いずれにしても、共和国は作戦の責任者を脅迫する材料を揃えた。
 ただ、この証拠が日の目を見る事はない。脅迫さえ出来ればいいのだ。
「我々は僅かな兵力しか保有していない。その我が防衛軍は当該地域を守り抜くことが出来た。
 世の中のあらゆる国が、我々をその意志に反して従わせる事は出来ない。
 次、その意志を強制させるのは我々の方である事を忘れてはならない」


 我々が脅迫に使える材料は他にもある。
 例えば虎の子の核融合発電所だ。我々は先進国から途上国最貧国まで、友好的である国には喜んで建設に協力した。
 これにより環境問題や貧困撲滅の解決が大きく前進したのは言うまでもない。
 だがどうだろう。この技術は未だブラックボックスである。
 運営は我々が認めた法人のみが行い、リバースエンジニアリングなどを試みた場合、また我が国との友好が疑われる場合は、直ちに発電を停止し、再発防止を徹底できない場合は、発電所を解体すると契約してある。
 この契約は、あくまで商業的な契約であるが、国を縛る条約のようなものである。
 我々をナメない限り、格安の電力を定格出力だけ得られるのである。

 なお、我々が意図的に発電を停止した例は、日本国で一件ある。
 秘密裏にブラックボックスに手を入れようとした事が発覚したのだ。
 その直後、国の半分の電力が喪失した。

 復旧に半月かかり、輪番給電に切り換えるなど、一瞬で三等国のような電力事情となった。
 日本国は我が国からの提訴もだが、国民からの集団訴訟や、停電が原因で命を落とした人、産業界などから猛攻に曝される事になった。
 これが政権交代の直接的原因となった。
 尤も、この話にはウラがあり、某国が糸を引いていたと言う説がある。これについては私からのコメントは避けておこう。

 少なくとも、今回の件と核融合発電所の件は、我が国を容易に敵に回してはならないと言う教訓になったはずだ。
 我々は領土的野心を持たないと口を酸っぱくして言っている。
 A自動車の覇権にしても、彼等が良い自動車を作り、そしてそれが世界の多くの問題を解決出来るだろうと期待したから協力しているのだ。
 我々は世界を良くしようと努力する人への投資と協力を惜しまない。
 それは私企業であることもあるし、NGOや反政府組織の場合だってある。協力できる国とは協力する。

 ある人は、こうした"慈善活動"を「世界政府を作ろうとしている」と語る。
「世界を? 冗談じゃない!」

 そのような人たちの意見は二つに分かれる。
 転生者は救世者であり、如才なくそれをやってのけるだろうと言う人と、転生者には何らかの野心(権力の希求や歴史的名誉など)を持っていて、その実現のために善人を演じているに過ぎないと言う意見である。
 考えて欲しい。救世者たろう人間は、突然電力を止めないだろうし、軍事的な制裁を行ったりはしない。
 野心がないと言うのは勿論嘘である。我々がどのような人物であったか――それは当然、転生者の間の秘密なのだけど――それを知っていれば、答えは出ているようなものだ。
 我々の権力への意思はそれが自然であるから求めている以上の事はない。"世界"への挑戦の難しさと厳しさは誰よりも知っている筈である。
 大体、世界政府なるものが、人類の幸福にどれほど貢献するかは、また別に考えなければならない。
 仮に実現するにしても、余りにも多くの問題を抱えている。

 そうした問題を一掃できるアイデアがあるならばいくらでも金と時間、汗と血を払うだろう。
 だが、こういう問題に確信的である人は、概ね問題の細部か広範な関連かを甘く見ている節がある。
 そうしたナイーヴな人の心優しい意見は、無益であるばかりか有害である。

 我々に無垢な期待を抱く人ほど、リスキーな人である。
 我々は、共和国に、行動党に、稜邦中学校にと様々な場面で人を迎え入れるが、その誤解を解くところから関係が始まる。
 我々は世界よりも、目の前にいるその人を救う必要があるのだ。

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